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vol 75:新たな時代
時間は必ず流れていく。
けして待ってはくれないし、止める事も出来ない。
時間が過ぎる事で何かが失われ、
何かが生まれ・・・。
俺、戌尾 柑は20歳の冬を迎えようとしてる。
高校は途中で辞めたんや。
霊の依頼やら自分を磨く為に弥勒の寺で修行したり。
おかげさんで、筋肉もそこそこついた。
煙草も酒も飲める年。
実家から出て、
今は大樹と弥勒とシロとマンションで暮らしてる。
大樹は33歳になって髪型もイメチェンしよった。
基本ヘタレなせいか、33には見えん。
前の髪型を真ん中分けにして後髪を跳ねさせてる感じ。
弥勒は何歳か不明で聞いた事もないけど、
体は人間らしくて伸びたあの長髪をバッサリ切りよった。
後は刈上げてる感じで右分け左前髪顎までで、右前髪は耳に掛け、
モミアゲは刈上げ。
シロは全く変わらん。
ちょっと、雰囲気柔らかなった感じはするなぁ。
霊は変わらんよ。
好きな姿になれるから。
俺?。
俺はー、16ん時の髪型に後髪が伸びた。
鎖骨んとこまで後髪がヒョロンと垂れてる。
顔は大人になったと自分では思っとるよ。
大樹は相変わらず高校で古文教えとる。
弥勒は寺を出てあの世に行ったり戻って来ては調べ物の毎日。
シロも同じ。
俺は、適当に書いた携帯小説が売れてプチ芸能人。
生活のやりくりは大樹の給料と俺の収入でやりくり。
たまに千代さんやオカンが食糧を持って来てくれるんや。
家で出来る仕事が殆どやから、
俺は家にいる事が多い。
その間、弥勒を手伝ったり、シロと情報集めたり。
そんな大人な日々を送ってます。
「ただいまぁ~。」
大樹が帰って来た。
「あれ、カンひとり?。」
「おう。飯出来とるで。」
シロのリクエストで置いたコタツに座って煙草を吸っている俺。
大樹が鞄に詰めた手紙を机に置き、
「はい、またファンレター。すごいね、毎日。」
その表情と言葉の音に不服そうにみえた。
ファンレターが来るのは、以前テレビに出たからや。
今はラジオの仕事の話も出てる。
「ハイハイ、ドーモ。」
淡々と答えた俺に大樹は後から抱きしめ、
「カンが遠くにいっちゃいそうだよ・・・。」
(それは無理な話だ。)
コタツからニョロリとシロが顔を出した。
「シロ。ただいま。」
ニッコリと笑んで大樹がシロの頭を撫でる。
俺にも出来んのか、それ。
「なんやねん、シロ。」
(お前の定めは決まっている。
それに、兄様から離れるなど、我が許さん。)
「し、シロ~。」
出た!このブラコンめっ!。
「そうだ。今日、見たんだ。」
大樹はシロを抱いてコタツに入り真顔で話始めた。
「見たって何をやねん。」
「うん。うちの学生がイジメられてるとこに遭遇しちゃって。
そしてら、イジメられてる方に霊が憑いてたんだ。」
「イジメられてる方にか?。」
「うん。耳元で何か言ってるようだった。
俺が止めに入ったら霊はすごく嫌な笑方したんだよね。
でも、あれって・・・霊って言うより・・・。」
霊と悪魔は違う。
「闇か。」
「うん、たぶん。」
その話をしている最中に大樹の携帯が鳴りだした。
携帯に出た大樹は驚いてる。
解りましたと返事をして電話を切った大樹は眉間に皺を寄せて、
「カン・・・今言ってた子、
父親を刺したって。」
「はぁっ?!。」
「父親は亡くなったらしく、本人は直ぐに警察に捕まったらしい。
マスコミに何か聞かれても知らないで通せって校長からの電話だった。」
「クソっ!。」
俺は悔しさで机を両手で叩く。
「やっぱり、強い者より弱い者を対象にしてる。」
そうや。
強い者に何を言ってもなかなか心に入り込め無い。
でも、弱く世の中を怨んでる者なら、その感情を倍増させる事は、
かんたんに出来る。
俺が腹立つんは、子供を巻き込んだことや。
高校生なんか、まだ未来ある子供やろーが。
昔の子供の犯罪は知らん。
けど、今の時代の犯罪の傾向は弱い者が殺人や自殺、
命を奪うことをしとる事。
それは、闇の住人の手によってされてるのが、
見える俺らにすればよう解る。
大樹・・・。
「俺があの時。」
遭遇した奴やったら、みんなが思うやろう。
自分が止めれたかもしれんのにって。
大樹はその気持ちが人一倍強い。
心優しい蛇。
「こいつを止めても、その分また、他の奴が犠牲者になる。
大樹・・・。」
俺は体を乗り出して大樹を抱きしめた。
「カン。」
大樹はそれに答え俺の背中に触れ、
俺は大樹の唇に唇を重ねた。
この事で大樹が自分を見失わんように。
解ってる俺らが感情にコントロール出来んかったら、
変えたい事も救う事も出来ん。
神は言う。
時が来るまでは動くなと。
その現実から目を離さずに、待てと。
時が来た時に備えよと。
俺と大樹は二人の寝室に行って体を重ねた。
その時が近い事、
歯を食い縛って見たくない現実を見なければいけない事、
これから俺達はどう動くか、
そして俺達の今愛し合っているこの感情が相手を守る事、
それらを感じながら優しく激しく抱き合う。
「大樹、今夜天界に行って来るわ。」
体を起こして慣れて止められない煙草に火をつける。
止めようとも思わんけど。
「じゃあ、俺は黄泉の国に。」
「あぁ、そうして。神々の行動を見て学ぶんや。
俺らもどない動くか。」
遅い晩飯を済ませて、風呂に入り、
今日は帰って来なさそうな弥勒に連絡して寝る準備。
寝ると言っても、体は睡眠に入るが、
魂は抜け、あの世に向かう。
俺達の一日は夜からも始まる。
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