札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」です。カウンセリング駆け出しの頃は、トラウマ関連の研究ばかりしていたような気がします。しかし、気がつくとトラウマ系の研究があふれ、世の中の人々も日常生活の中でこの言葉をよく口にするようになっておりました。もはや私の役割からはずれたと悟り、すっかり研究としての興味から外れ、いまはもうこの領域の論文は書いておりません。
心的外傷と名づけられたこの概念は、もともと精神分析のフロイトが使ったものです。いわゆるヒステリー患者が呈する症状の原因として、トラウマを発見したのです。時がたつと彼はこの概念を捨ててしまいました。次にこの概念が脚光を浴びたのは、戦争当時のシェル・ショックとの絡みです。戦場の兵士が行動の異常を呈する現象です。そして、PTSD (心的外傷後ストレス障害)と言う概念が、1980年代に作成されたDSM(精神疾患診断のマニュアルです)に登場しました。それによって、女性に対する性的虐待、児童虐待、拷問など、トラウマと言う概念がさまざまな領域に波及して行ったのです。
歴史については、もうよいでしょう。日本は、中井久夫先生や斎藤学先生が、ハーマンの著書を訳出してから、この分野の知識が急速に広がったように思います。以前は、自分はアダルト・チルドレンだと宣言して来談するクライエントが少なくありませんでしたが、いまはトラウマを口にする方々がそれにとってかわったような印象を受けます。
トラウマとは心の傷のことです。それには想像を絶する痛みが伴います。忘れたくても忘れられない苦しみです(反対に、忘却や感覚のマヒもあります)。トラウマを抱えたクライエントと向き合うカウンセラーは、おそらく、とても心が揺さぶられるでしょう。精神の底と言うよりも、底の底に触れることになると思います。自分の脛の傷も、疼きだすはずです。回復するまで、とても長い道のりになります。クライエントも、カウンセラーも、長いおつきあいになることを覚悟して会う必要があります。
トラウマとなり得る出来事は一回のこともあります。それから、長期にわたって何度も繰り返されることもあります。回数にかかわらず、その出来事の記憶によって、精神は徐々に蝕まれて行きます。不安、抑うつ、パニック、不眠など、さまざまな苦痛な症状を伴いがちです。
このような方々にとってのよきカウンセラーとは、人生の同士のような色彩を帯びるはずです。もはや、カウンセラーとクライエントの形式的な関係を超えるに違いありません。すでに誰も使わなくなった言葉かもしれませんが、「出会い」のカウンセリングが不可欠になるような気がします。
私は、女性たちのお話にも耳を傾けると同時に、男性の性的虐待経験者にも耳を傾けてきました(加害者が私と同じ男性と言うことです)。しかしながら、カウンセラー、あるいはソーシャル・ワーカーといった対人援助職の中には、特に性的虐待経験のある女性のトラウマ・セラピーは、同性のカウンセラーの方がよいという意見が根強くあります。男性カウンセラーだと話しにくいという方は、いまは女性のためのクリニックや相談所がありますから、そのような機関を利用されるとよいでしょう。以上、札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」でした。
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