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震災と心のケア


 2011年3月、東北の沿岸地方を中心とした大地震が発生し、津波による死者・行方不明者は2万人を超えると言われています。お悔やみ申し上げます。それまで住んでいた街が跡形もなく消え去り、残されたのはがれきの山ばかりのところも少なくありません。加えて、福島の原子力発電所が放射能漏れを起こし、周辺住民は退去を余儀なくされました。

 数十万人に上る多くの日本人が、住み慣れた住居を失い、避難所生活を送ったり、見知らぬ土地へと「疎開」しつつあります。「疎開」なる言葉は、われわれにとって戦時中のものでしたが、まさかこのような大規模の災害がやってくるとは、誰が予想したでしょうか。復興に向けて、日本全国の人間が協力し合いたいものです。

 さて、震災後の被災者たちに起こり得る心の変化と、心のケアについて触れます。

 まずは、身体を温めましょう。身体が冷えると心も冷え込んできます。これは単なる譬えではありません。暖かいものをすすり、暖かい風呂やシャワーを利用する。しかし、避難所生活では、この一番大切なことがままならないのが残念です。毛布も十分ではなく、夜もかなり冷え込むようですから、できることであれば、誰かと背中をくっつけて眠るのが暖かくてよいのですが、見ず知らずの人となるとなかなか出来ないことかもしれません。物資が行き届くまで、何とか寒さをしのいでください。

 未曾有の災害を生き延びた後に、さまざまなストレスに見舞われるでしょう。生活する上でのストレスです。衣・食・住の質が一変するわけですから、心身にいろいろな反応が出てくるでしょう。頭痛、肩こり、吐き気、不眠、イライラ、その他もろもろです。安静にしたり、軽いストレッチを行う等して、できるかぎり気分転換を図りたいものです。

 また、「地震酔い」の現象が多くの人に見られることが報道されていました。揺れていないはずなのに、何だか揺れているような感じがして、なかには気分が悪くなる人がいる現象のことです。神戸の震災のときにも、あったようです。これは、振動感覚あるいは体性感覚レベルのフラッシュバックのような気がします。地震の記憶が体の記憶としてよみがえるものです。この症状があっても心配無用です。多くの方は、じきに収まるはずです。

 では、PTSD心的外傷後ストレス障害や、それに類似する反応について触れます。

 震災を生き延びた方がたは、地震と津波が発生したときに、それぞれの体験をしたはずです。たとえば、自分は安全な高台に避難していたが、人や車が次々と津波に飲み込まれて行くのをなすすべもなく見ているより仕方が無かった。必死に手を引っ張って救おうとしたが、その人は結局波にさらわれてしまった。いったん波に飲み込まれたが、流れてきた板につかまって漂流し、助かった。たくさんの遺体を眼にした。等です。

 恐ろしい体験をして九死に一生を得た人も、恐ろしい場面を目撃した人も、それがトラウマ(心的外傷)となってストレス性の反応に見舞われることがあります。すぐに反応が出てくる人もいれば、しばらく時間が経過してから出てくる人もいます。たとえば、こんなことがおこるかもしれません。

・何だか感覚がマヒしたかのようで、何も感じない。
・自分で何かをしている感じがしない、機械が自動的に動いているような感じ。
・自分には大変なことが起こっているのに、何だか他人事のよう。
・些細なことで、あるいは訳もなく突然涙があふれる。
・気分がさえず、ふさぎこむ。
・怒りや恐怖や不安等、感情が不安定で、自分ではどうすることもできない。
・必要以上に気が張り詰めいていて、疲れやすい。あるいは、自分が疲れているのかも分からない。
・気が張って眠れない。悪夢を見て飛び起きる。
・生き残った自分を責める。他の人たちが死んで自分が生きていることに罪悪感を感じる。
・ショックだった場面を突然思い出して、ギクッとし、しばらく固まったようになる。

 もっと、いろいろな症状がありますが、これくらいにしておきましょう。

 おそらく多くの避難所には、災害支援を専門とする精神科医や臨床心理士等、心のケアを行う人たちはまだ入っていないはずです。それまでどうすればよいのか、少し書かせてください。

 求められるのは、人として自然な振る舞いです。悲しみに沈む人がいれば、声をかけたり、「大丈夫だよ」と言って慰めたり、抱きしめたり、肩を寄せ合ったり、互いに被災した同じ立場の人間として触れ合うのです。互いに語り合い、耳を傾け合い、話す、聞くを、交代で行うような感じです。

 誰かが苦痛な場面を思い出して、感情がコントロールできずに嗚咽する場合には、少し待ってから一緒に深呼吸して、その人が平静を取り戻すように導いてあげましょう。呼吸のリズムが大切です。

 話をして涙を流すのは、人として自然なことです。語る、聞く、を交代するなかで、互いに涙がこぼれるかもしれません。それは、心が癒されるとてもよいことです。けれども、それが行き過ぎた場合には、たとえて言えば傷口が広がるばかりです。周囲から見て、ちょっと不安定になっている人がいれば、苦痛な体験を言葉にして話してもらうと、もっとつらくなることがあります。そんな場合には、言葉よりも、たとえば一杯の飲み物を差し出すことで人としての暖かみが伝わり、さしあたり落ち着きを取り戻すことがあります。

 それから、特に子どもたちは、不安等を大人に訴えることが難しいかもしれません。見守ること、触れ合うこと、声をかけること、大人たちができるかぎり注意を払うことが大切です。悲しいのは大人だけではありません。子どもたちは、もっと、もっと、悲しいのです。

 今は気丈に振る舞っていたとしても、少し時間がたってホッと一息ついたときに、上記のような症状がやってくる場合もあります。いずれにせよ、大変なときですから、どうすることもできない状態になったら(あるいはその前に)、医師の診察を受けて、軽い精神安定剤や睡眠薬を飲むこともぜひ考えてください。神経が本当にダウンする前に、予防しておくのです。

 おそらく、もうそろそろ、それぞれの被災地に、精神科医や、臨床心理士たちが向かうはずです。けれども、すべての避難所に人員が届くかと言えば、これだけの規模ですから、困難かもしれません。大切なのは自助的なケアの部分になると思います。

 私たちのようなこころの専門家が世に登場する前には、心のケアは地域で行われていました。御近所同士の触れ合いのなかで。互いに思いやること、労わること、そのようなかかわりがあれば、多くの方々の痛みが、互いに、眼に見えないところで少し軽減されるはずです。

(追記)

 震災から二週間がたちました。現地の人たちだけでなく、災害の場面をテレビで繰り返し見ていた人たち、悲惨な場面を繰り返し見て編集作業を行わなければならないテレビ局のスタッフ等にも、ストレス性の障害が起こっていると言う報道が流れています。あるロック・バンドのヴォーカリストもそのために体調を崩し、ツアーをキャンセルしたと報じられました。このような現象は、アメリカでもあったことです。例のテロのときです。

 気持ちが悪い、あの場面を思い出して眠れない、心臓がドキドキする、などの症状がある人は、心療内科クリニック等を受診して、しばらく適切な薬を服薬するとよいかもしれません。おそらく、服薬して安静にしていれば、多くの方は回復するはずです。

 もしも、それでも駄目であれば、心理療法の世界には脱感作と呼ばれる技法があります。行動療法の領域です。怖い場面の記憶と、恐ろしいと言う情動が結びついているわけですが、情動の方を少しずつ抜いて行くわけです。脱感作の他にも、EMDRとか、TFTと呼ばれる特殊な技法もあります。科学的根拠はまだ確立されていませんが、効く人にはよく効く技法のようです(私もかつてTFTを行うことがありました)。

 災害を生き延びた人だけでなく、遺体を捜索して安置所に移動しなければならない自衛隊員、テレビで映像を見た人等、いろいろな人たちが一時的に精神的な失調をきたすかもしれません。アメリカでは、ベトナム戦争の帰還兵、湾岸戦争の帰還兵に、深刻なストレス性障害が発生しています。

 私はカウンセラーですが、まずは精神科医のいる精神科や心療内科のクリニックを受診して、様子を見ることをお勧めします。大丈夫、すぐによくなるはずです。


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