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離人症という解離症状


 離人症(りじんしょう)と呼ばれる聞きなれない症状があります。一種の解離症状です。これまで、さまざまな精神病理学者たちが研究を重ねてきました。とても興味深い、そしていまだに重要な症状であるだけに、ここで少し解説しておきましょう。

 離人症とは、depersonalizationの日本語訳です。目の前の世界が生き生きと感じられないとすれば、それは外界意識面に現われる非現実感ですが、これは自己意識面に強く現われるものです。たとえば、自分が自分であるという感じがしない、体が自動的に動いていて自分はそれをただ傍観しているだけのような感じがする、といった不快な感覚です。このような疎隔感は、実際には外界意識面にも、自己意識面にも、同時に現われるようです。

 もう少し、具体的に説明しましょう。あなたはいま札幌でカウンセリング(以下、精神療法と表記します)を受けているとします。カウンセラーと二人で同じ空間を共有して、窓の外に見下ろす札幌の大通公園を見ながら話し合っています。周囲の人にとって、あなたには何の異常もありません。しかし、主観的には大変な症状があって、内的な違和感を口にすると周りの人たちは驚きの表情を浮かべます。それで、カウンセラーのところへ助けを求めてやってきたわけです。

 あなたは、カウンセラーに向けてこんなことを口にします。「現実味がありません。外を見ても、まるで演劇の舞台で使う書き割を見ているようです。頭では分かります。私が見ているのは札幌の街です。でも、以前のように札幌という感じがしません。奥行きが無くなってしまいました。住み慣れた札幌の風景が平面のようです。街を歩く人たちも、生きているという感じがありません。自動機械のようです。それだけではありません。自分も変わってしまいました。私はいまここに居て、札幌にある相談室の一室に座っているのですが、自分がいまここにいるという感じがしませんし、自分は札幌に居るのだという実感が消えてしまいました。何か行っても、自分がしている感じがありません。体が自動的に動くのを、他人のように少し離れて見ているような感じです。・・・・」。

 認知症の症状であれば、自分がいま札幌のどこにいるのか定かではなくなります。病状が進めば、札幌にいることさえ忘れてしまうかもしれません。オリエンテーションを失うわけです。さらには、自分が誰なのか、目の前にいる相手の顔さえ忘れてしまうのです。けれども、離人症は違います。自分がいまどこにいるのか、目の前にいるのが誰なのか、自分は誰なのか、はっきりと分かっています。しかし、いま自分が札幌にいるという実感、自分であるという実感、目の前にいる相手が○○さんであるという実感が失われてしまうのです。

 このようにして不可思議な症状、離人症の原因は何なのでしょうか。

 古い精神分析の文献を読むと、精神的な葛藤が原因で、何らかの葛藤から生じるのだとしているものもあります。原因を内的な心理に求めようとすれば、このように理解されるのかもしれません。

 けれども、私にはそのようには考えられません。離人症は、はたして精神的な葛藤が原因なのでしょうか。

 離人症に関してわずかばかりの経験しかありませんが、彼らの話に真摯に耳を傾ければ傾けるほど、この症状は何らかの生理的破綻に起因するのではないかと考えざるを得ません。もっぱら心理学的に原因を特定しようとする理論には、無理があるような気がしています。

 では、この症状に対する特効薬はあるのか。少し古い文献ですが、ある薬物によって一時的にこの症状が消失することが書かれています。しかし、残念ながら、それを常用することはできないようです。おそらく、できることは、この症状からくる苦痛を緩和するための薬物療法や、精神療法でしょう。症状そのものをターゲットにした治療法は、あまり期待できないかもしれません。

 このような症状が慢性化した場合、それを離人神経症とか離人病と呼ぶことがあります。わずかばかりの私の経験では、このような人たちには、数年かかって自然治癒に至る人も、快方にも悪化にも向かわずに症状が固定化する人もいます。けれども、なかには、それよりも重い病気に発展する可能性も否定できない場合もありますから、まずは札幌の心療内科や精神科のクリニックを受診して、専門医の診察を受けるようにしましょう。

 非現実感に襲われることは、誰にでもあるのかもしれません。しかし、それが慢性化すると、本人にとっては非常に苦痛です。札幌に居るのに札幌という感じがしない、自分という感じがしない、そのようなことを口にすると、周囲の人たちは心配するでしょう。はっきりとした原因がいまだに特定されない病ですが(精神疾患には少なくありません)、まず医療の助けを求め、薬物療法や精神療法を補助的に使いながら、治癒するときを待つことがよいと思います。回復への希望を失わずに、その日一日を生きて行きましょう。


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