vol 71:小さな希望



「ちょっとぉ~、あのお坊さん見て見て。」

「銀髪!しかもロン毛じゃん!。」

「なんか、かっこい~かもぉ。」


女子高生の会話が耳に入る。
女子高生、俺から見れば赤ん坊並の若さだ。
でも、発育の良い赤ん坊の言葉は気になり、

「でーもぉ・・・アイスクリームって似合わねぇ~。」

「だよねぇ~。あははは!。」

駅前でバニラアイスクリームを噴水前で腰掛けながら食べている。
この甘く濃厚で冷たいアイスクリームが好きだ。
それの何が悪い・・・女子高生よ。

「ま~ま~。」

「よっちゃん、こっちよ?。」

やっと歩けたくらいの幼児が両手を前に出して、
バランスを取りながら母親を追いかける。
下は硬いコンクリートで、おまけにベンチの近くだ。
危ないと思わないのか母親よ。

「よっちゃん、早く。」

「ま~ま~・・・まっ。」

「よっちゃん!。」

案の定、不安定な足取りの幼児は前に傾き、
重い頭からコンクリート目掛けて倒れていく。
このままだとベンチの角に頭は擦れるな。
俺が立ち上がるも間に合うわけもなく。
ただ、幼児は倒れたが、

「うぇえええ~!。」

「よっちゃん!・・・ほら、大丈夫よ?。
痛かったね~。」

母親が幼児を抱き上げた。
膝に擦り傷もない。
おもいっきり倒れたにも関わらず、ベンチに頭も掠めなかった。
俺はそのままベンチに近付きアイスを持ってベンチの角を見つめる。

「へぇ・・・良い事するな、お前。」

ベンチの角に背を預け、コンクリートに座り込む肌の黒い、
チリチリ頭の子供。黒人の子供だ。

勿論、霊。

あの、よっちゃんが倒れた瞬間、
こいつがクッションになるようにベンチの角に自分の背中をつけ、
よっちゃんを守った。
俺にしか見えない出来事。

(ボクが・・・見えるの?。)

「あぁ。はっきりとな。」

人を助けたというのに、寂しげな顔。
大きな瞳は元気が感じられない。
俺がベンチに腰掛けると黒人の子供はゆっくり立ち上がって、
立ち去ろうとする。

「まぁ、急ぐなよ。少し話そうぜ?。」

俺の言葉に足を止め、俺に近付くも地面に腰かけた。

「おいおい、なんでそんなとこに座るんだ。
隣に座れよ。」

子供は左右に首を振る。

「ここは日本だが・・・お前は日本で生まれたのか?。」

子供は左右に首を振る。

「名前は?。」

(・・・トレオ。)

俺を警戒しているのか、俯いたままだ。

(おにいさん、カトリックじゃないね。)

そうか。
宗教上の問題か。

「いや、俺はキリストもエホバもマリアも知ってる。
黄泉の国って知ってるか?。」

トレオはマリアの名に笑みを浮かべるも、
黄泉の国の問いかけには首を左右に振った。
天界に上がってないのか?。

「なぁ、トレオ。お前の母国はどこだ?。」

何気に探りを入れる。

(・・・ブラジル。)

「ブラジルかぁ。」

質問する度に元気をなくす。
俺は話題を変えた。

「マリア様には会ったのか。」

トレオはやはり反応を示す。

(うん!ボクを助けてくれた。)

「助ける?今みたいに・・・トレオが女の子助けたみたいにか?。」

(もっと大きい。)

「大きい?。」

トレオは話始めた。

それは大昔、まだ黒人奴隷が居た頃。

奴隷だったトレオは主人の家畜を逃がしてしまった。

それに怒った主人は、トレオを大きな蟻塚に縛りつけて、

大蟻の餌食にしようとした。

そこにマリア様が現れ、トレオを助けたと本人は言う。

だが、トレオは霊だ。

多分、トレオはなんらかの状態で死んでしまい、

そこにマリア様が現れたんだろう。

トレオにその記憶がないのか隠しているのか。

(マリア様は助けるということを教えてくれた。
助ければ、ボクのような子供を救えるって。)

「そうか。だが、どうして日本に?。」

(・・・天の子の話を聞いたんだ。
天の子は助けてる。会いたい。)

天の子・・・カンにか。

「俺と会えて良かったじゃねぇーか。」

すっかりアイスを食べ終わりベンチから立ち上がると、
トレオに笑み、

「その天の子は俺の知り合いだ。
会わせてやるよ。」

(本当に!。)

トレオは満面の笑みを浮かべて立ち上がった。

電車を乗りカンや大樹の町へ。

駅から歩いてカンの家に向かう。

電話で内容は話してある。

「もうすぐ着くぞ。」

トレオは緊張しているようだ。

あのアホに会うのに、その緊張は勿体ない。

家の前まで行くとカンが外で待っていた。

「おぅ、弥勒。」

「よぉ。」

カンの側まで行くと、
トレオが勢い良くカンの腰に両手巻きつかせ抱きついた。

「おっとぉ。お前がトレオか。」

優しい口調。
俺にもそんな口調使えよコラ。

(うん!会いたかった。)

「長旅ご苦労さん。ゆっくりしていき。」

カンはトレオの背中を優しく撫でてやりトリオを歓迎した。







トレオの話はこうだ。

子供達が世界各国で苦しんでいる。

大人の争い、大人の事情で孤児も増え、

飢えで死に、暴動に巻き添えになり、

銃を持たされ、殺すことを教えられている。

エイズであるにも関わらず、子供を産む親。

生まれた時から時期に死を宣告された子。

そんな中、平和ボケしている国の恵まれた子供。

トレオは様々な子供を見て来た。

倒れた子供の下敷きになって助けることは出来ても、

殆どが助けられないと泣いている。

自分が救われたように、

自分も救いたい気持ちと願いで小さな心はいっぱいで。

そんな悩むトレオの話を聞くと、

俺は自分が情けなく感じた。

カンは静かに話を聞いて、

わかった、俺もなんとか頑張るから、お前も俺の力になれるよう、

天界で技を身につけてくれとトレオに頼んだ。

トレオは大きく頷いて、

あの大きな瞳は希望とやる気に満ちていた。

世界中の子供たち。

待っていて欲しい。

微力になるかもしれないが、

必ず、必ずお前達の希望を取り戻す。









               71       次のページ



70話に戻る
戻る

花手毬