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vol 70:忘れてはいけない
サンの一件は終わった。
まだ、気持ちの中でスッキリせんけど。
過去の問題がこの2009年に解決やなんて。
サンの一件が終わったのに、寝られへん。
明日は学校は休みや。
「はぁ・・・。」
出るんは溜息と、寝返り。
(カン。)
名前を呼ばれて体を起こした。
「小角様・・・。」
小角様がベッド横に立っている。
(頼みがある。)
「頼み?・・・小角様から?。」
(そうだ。松尾という山がある。
そこに寺がある故、向ってくれぬか。)
「松尾・・・山。
ここから近いん?。」
(車を使えばそう遠くもない。
蛇の子には伝えてある。)
「わかった。」
大樹にも言うてあるんや。
小角様はすぐに姿を消した。
俺は眠れぬまま。
朝になって大樹が迎えに来た。
大樹の車に乗ったら、
「おぅ!。」
「み、弥勒。なんでお前がおんねん。」
後部座席に弥勒が座ってる。
「今日は予定がなかったもんだから遊びに来た。」
「へぇ~・・・坊主も暇か。」
皮肉を言うてシートベルトを着用。
「馬鹿、坊主が暇って事は良い事なんだ。」
「ハイハイ、松尾山に行くよ?。」
大樹が車を走らせる。
窓の外を見つめる。あいにくの雨。
「しかし、役行者とはビックリだな。」
「弥勒、知っとるん?。」
「そりゃ知ってるさ。人間で密教をあそこまで習得したんだ。
あの世で1度見かけたが・・・、
あの世でも修行していた。
人間で菩薩の地位を授けられたのが役小角だ。」
やっぱり、すごい人なんや。
「松尾寺には何があるのかな。」
大樹の問いかけに弥勒は詳しく、
「あそこは千手観音が本尊。後は大黒天。
あぁ、行者堂もあったはず。」
「行者堂?。」
聞き覚えのある名前や。
「カン、信貴の山の小角様の祠にも行者堂って。」
そや。書いてあった。
「俺は今回参加してなくて良かった。」
後で弥勒が呟く。
「なんでや。」
「俺の性格じゃ、順序踏んで解決なんて出来ないと思うからだ。
人間になってとくに自分自身を感じる。
感情を抑える難しさ。」
あの時、土蜘蛛と俺だけやったら、
俺はすぐに封印を解いてた。
土蜘蛛の復讐の手助けをしてた。
弥勒の言いたい事はよう解る。
多分、阿弥陀や小角様がおらんかったら俺も弥勒も同じ事してた。
「着いたよ。」
駐車場に車が止まり、傘をさして外に出る。
松尾寺の門があり、上に登って行くようや。
3人で本堂に向かって歩くと、
本堂の前に女の人が立っていた。
服装からして人間やないことが解る。
レースのような透き通ったピンク色の布を白い着物の上に羽織っていて、
「カン・・・千手観音だ。」
弥勒が呟き俺達の方を見た千手観音に弥勒は頭を深く下げた。
大樹も頭を下げる。
俺は下げない。
「カン!。」
でも、弥勒に後頭部を押さえつけられ頭を下げた。
(カン。いらっしゃい。
待っていましたよ。)
俺の事、知っとる。
(弥勒、久しぶりです。)
「はい、千手観音。」
(お前は蛇の御子息。私が見た頃はまだ子供でした。)
大樹の事も知ってるみたいや。
俺はすぐ疑問をぶつけた。
「なんで・・・なんで呼んだんですか。」
千手観音はニッコリ微笑み、
(小角よりお前達の事は聞きました。
是非、私も力を貸したい。)
小角様は俺の役目に力を貸そうとしてた。
その一つとして、自分の知ってる神に俺に力を貸すように言うたんや。
小角様は俺が初めて人間で尊敬する人。
胸が温かい。
弥勒が千手観音と話をしてる間に、
境内を大樹と見回った。
「カン、あれ。」
大樹が目を向けた場所は行者堂。
その行者堂の前に小角様が座ってた。
俺は傘を地面に落として駆け寄って、
「小角様っ。」
小角様は少し憂鬱そうな表情をしてたけど、
俺を見て眉尻下げて笑んだ。
(来たか。千手には会ったか?。)
「うん。弥勒と話してる。」
「こんにちは。」
大樹の挨拶に小角様は大樹に微笑んだ。
大樹は俺の傘を俺に翳し、
「カン、風邪ひくから。」
なんでやろう。
涙がこぼれて・・・、
(カン・・・お前はワシの想いと唯一同じ人間だ。
何故、生きてるうちに会えなかったのか。
お前には大樹や弥勒という理解者がいる。
ワシは・・・生きてる人間では一人だった。)
小角様の表情には、寂しさと切なさ悲しさが見てとれた。
俺は小角様の隣に腰掛け、
「でも、今は小角様には俺がおる。
大樹も弥勒もおる。
大樹と弥勒は頼んないけど、俺はめっちゃ頼りがいあんで?。」
泣き声で話す俺に、小角様は俺の頭に手を置き、
(ガハハ、ほうかほうか!。
この想い忘れてはならんなぁ。)
大樹は俺と小角様を見て笑んだ。
(カン、大樹よ。お前達に見せたいものがある。)
小角様は立ち上がって行者堂の裏にある道を歩きだした。
大樹から傘を受け取って、小角様に着いて行った。
弥勒と千手も俺達に気づいて後から着いてくる。
細い道を歩く。
歩くっちゅーか登る。
そこはホンマの山道で、二人並んで歩くには少し狭い。
木々が壁になり、舗装されてへんのに道だけは草は生えてへん。
「ハァハァ・・。」
大樹が息を切らす。
「はぁ、はぁ・・・。」
俺も息を切らす。
「随分登るなぁ。」
弥勒だけは余裕。
随分登って、俺も大樹も重い足を止める。
俺はしゃがみ込み、
「はぁっはぁ!もぅ、無理・・・。」
「ハァハァ・・・まだまだ続いてるよ。
もう一山の頂上くらいだよね、ここ。」
(この先、もう一山を越えれば地蔵菩薩の寺に続いている。)
「も、もう、。」
「一山・・・。」
俺と大樹が青ざめた。
(ハッハッハ!此処までで構わん。)
小角様は木々や地面を見つめ笑み、
(此処は我々が作った神の道。)
「神の・・・道?。」
(そうだ。車なんぞない時代。
寺と寺を行き来しやすく作った神の道なんだ。
ワシも使い、神も使った道よのぉ。)
俺はこの道に草が生えていない事に納得した。
木々や草が、道やって知ってるから生えへんねや。
(だが・・・もうここを歩く人間はいない。
忘れて欲しくない昔の道。)
小角様はこの道を教えたかった。
唯一、同じ想いの俺達に。
俺達やったら自分の想いを解ってくれるから。
「はぁっはぁっはぁ、織田ちゃ~ん、もう無理~。」
「まだまだ先だー!歩けよぉ。」
1年の古文校外授業。
古文教師、織田 大樹。
場所は松尾寺の神の道。
男女生徒、全員死にそうな顔をして歩く。
「いいかぁ。ここは昔の人が作った道だ。
車もない時代に信仰深い人々が寺と寺を行き来しやすくする為に、
作った道だ。」
俺は一番後ろを歩いた。
小角様と。
「ようやるわ、大樹のやつ。」
(今の若い者に教えてくれるとは。
やはり、お前達と出会えた事はワシにとって幸せだ。)
小角様は喜んだ。
小角様が良く言う言葉がある。
忘れてはならん。
どんな事でも、忘れてはいけない。

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