第56回高知市文化祭への参加映画を選定して
『文化高知 2005年1月 No.123』('05. 1. 1.)掲載
[発行:財団法人高知市文化振興事業団]

 半世紀を越える高知市文化祭の歴史のなかで、映像専門部を置いて参加映画の選考を行うようになったのがいつからなのかはともかく、文化行政の枠組みのなかに、興行館で上映される商業映画に関する部門を長らく設けているのは全国的にも珍しいのではないか。国レベルでは、2001年末に制定された「文化芸術振興基本法」において、ようやく映画の振興も“メディア芸術”として文化芸術に位置づけられたわけだが、先駆けること数十年、高知市文化祭が劇場公開映画に門戸を開き、参加映画の優秀作品の選考を重ねてきたことの意義は大きい。
 今春の文化祭にエントリーのあった作品は、外国映画が『ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還』『イン・ザ・カット』『コールド・マウンテン』『トロイ』『21グラム』『デイ・アフター・トゥモロー』の6作品、日本映画が『クイール』『死に花』『世界の中心で、愛をさけぶ』『海猿』の4作品だった。これらの10作品を概観すると、この時期の劇場公開作としては、外国映画では『オアシス』『殺人の追憶』『死ぬまでにしたい10のこと』『恋愛適齢期』、日本映画では『下妻物語』『深呼吸の必要』『天国の本屋〜恋火〜』のエントリーがなかったのが残念に思われる。特に、日本映画については、今秋『誰も知らない』や『東京原発』などの傑作が公開され、『隠し剣 鬼の爪』『血と骨』といった秀作・力作の印象が新しいだけに、文化祭参加作品の4作品に少々見劣りの感が湧いてくる。
 そのようななかで、外国映画では『コールド・マウンテン』が早々に見解の一致をみて優秀賞に選出され、奨励賞には『21グラム』と『デイ・アフター・トゥモロー』とで協議を加えるなかで、後者が選出された。日本映画では、まずエントリー作品のラインナップへの不満が漏れるなか、『クイール』『世界の中心で、愛をさけぶ』『海猿』での綱引きとなり、兎にも角にも多大なる観客の支持を受けて破格のロングランを達成したことを考慮して『世界の中心で、愛をさけぶ』が優秀賞、『クイール』が、高知の興行館での初のバリア・フリー上映を試みたことを加味して奨励賞に選出された。受賞作品の概要は、以下のとおりである。

 ★優秀賞外国映画:『コールド・マウンテン』(高知東宝上映)
 アメリカ南北戦争時の美男美女(ジュード・ロウ&ニコール・キッドマン)による運命の恋を貫いた純愛ロマンの形式を採りながら、戦争というものが引き起こす過酷な状況とそれが露呈させる人間の諸相というものを、エイダとの再会を求めてさすらうインマンの巡礼のごとき旅と待ち続けるエイダの耐乏生活のなかに描き込んだ秀作。過酷な状況を生き延びるうえで必要なものが幽かではあっても“希望の光”であることを感慨深く伝え、戦う男の論理と武器の不毛を訴えるルビー(レニー・ゼルウィガー)の言葉が印象に残る。
 選考会では、台詞や映像にW.ワイラーの『嵐が丘』へのオマージュもみられて面白いとの指摘も得ていた。

 ★優秀賞日本映画:『世界の中心で、愛をさけぶ』(高知東宝上映)
 同名の純愛ベストセラー小説の映画化作品で、原作に描かれた十七歳の恋をちょうど折り返す年齢とも言うべき三十四歳からの回想物語として描き、再び高松空港に足留めされながらもアキ(長澤まさみ)の想い出の“後片づけ”をすることを確かめ合う朔太郎(大沢たかお)と律子(柴咲コウ)の姿を加えることで、原作に見合った意匠のアンサームービーとした作品。
 選考会では、回想とすることで、とことん美化された物語であることの不自然さを補った映画の作り手のアイデアへの評価とアキとサクを演じた長澤まさみと森山未來の存在感への賞賛の声が寄せられた。

 ☆奨励賞外国映画:『デイ・アフター・トゥモロー』(高知東宝上映)
 地球温暖化という今日的課題を題材に、最新のCG技術を駆使して氷河期の到来を映像化しつつ、古典的スタイルのスペクタクル映画としてのドラマツルギーを再評価させる視線も促し得た娯楽快作。ハリウッド作品ながら、アメリカが批准しないことで発効しない京都議定書のことに言及したり、チェイニー副大統領そっくりのキャスティングをして揶揄しているところが目を惹いた。
 選考会では、映画という表現の持つ“同時代性”という特長と意味を重視する観点から、敢えて『21グラム』を排しての授賞となった。

 ☆奨励賞日本映画:『クイール』(松竹ピカデリー上映)
 実在した盲導犬を偲ぶ形で、その生い立ちから死去までの一生を丹念に描いた作品。類型的な啓発映画を避けようとした作り手の思いは充分達成されていたように思われるが、犬好きでもない者には少々違和感を与えるような作りでもあった。
 選考会では、聴覚障害者向け日本語字幕付き上映を三日間、視覚障害者向け副音声ガイダンス付きの特別版上映を二日間おこなったことが劇場の試みとして大いに評価されたが、実際には周知が行き届かず、あまり利用されずに終わっているのが残念なところで、今後の意欲喚起と試みへの注視の促しもあっての奨励賞選出となった。
by ヤマ

'05. 1. 1. 『文化高知 2005年1月 No.123』



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