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『死に花』 | |||||
監督 天童一心 | |||||
僕はまだ四十代だから、六〜七十代の心境というのは測りかねるが、入居一時金として9千万〜2億円払えないと入れないうえに月々25万払わないといけない超高級老人ホームに入居している有閑マダムならぬ有閑老人の気晴らしみたいな銀行強盗に向けてのやりたい放題を観て、当の同世代が本当に楽しめるのか、ちょっと解せない感じが残った。何の不足もないように見えても…ということを示すうえで、あんなバブリーでリッチな境遇を無頓着に提示できる感覚自体が、作り手が金満病にとことん冒されている証のような気がしたが、入居老人たちを揶揄していたわけではない。むしろこの作品は、和子(星野真里)が「年寄りって凄ぇや」という台詞を発する場面の演出に端的に窺われたように“老人を見下さないシンパの僕たち”をある種のおもねりとともに表出しているに過ぎない作品だったような印象が僕にはある。 計画魔との源田金蔵[80歳](藤岡琢也)がセルフ・プロデュースした葬儀や「死に花」計画は、夢や願望に留まってこそのもので、葬儀はまだしも、派手なビルの倒壊ともども17億円の強奪を実際に金に飽かせてやってのけられても、その過程に切実なる苦難や危機の乗り越えがなければ、観る側にさしたるカタルシスを生じさせられないように思う。だが、明るく楽しい老人映画を作るのが狙いだったように見受けられる作り手に、苦難や危機を切実に描くことは、それ自体が不本意だったはずだ。だからこそ、取って付けたような“真の目的”を準備することでかわそうとしていたのだろうが、所詮はそれも源田の末期の思いつきみたいなもので、結局のところ庄司勝平[73歳](谷啓)がぼやいたように「最初からこれが目的だって知ってたら誰もやらなかったよな」ということであって、この作品が、菊島真[73歳](山崎努)の発する「面白かったよな〜」との台詞で必要且つ充分なのが人生だとする立場なら、言い訳がましく“真の目的”を構えるべきではなかったような気がする。 穴池好男[78歳](青島幸男)の存在のみならず、源田を追って棺桶に入り焼身心中を果たす婦人(加藤治子)や菊島を外泊に誘う明日香鈴子[64歳](松原智恵子)など、老いてからの性の問題や恋愛問題をやたら積極的に取り込む意欲が目立ったけれど、それもタブー視しない作り手の姿勢を顕示している印象のほうが強く、先頃観たばかりの『恋愛適齢期』のような味わいには大いに欠けていたし、アルツハイマー病に見舞われる姿を敢えて持ち込んだ点も、言ってみれば、ある種のほろ苦さを作品に仕込むための道具立てのような印象があって感心できなかった。子供返りとして見守る視線を添えてよしとする持ち込み方には抵抗感がある。ポジティヴな側面を見出すことにおいて、例えば『折り梅』の政子の絵画の才に感じたような想いを生じさせてくれるに至らないのは、作品の性質上当然のことながら、いかにも道具立てのような使い方にはいささか疑問が残る。この病が老いつつある人たちにおける潜在的不安なり恐怖のタネとして随一のものであることを身近に知らないわけではないだけに、こういう持ち込み方をするところに“老人シンパ”を表出しているかのような作り手の底が透けて見えるようで、イヤな感じが残った。 だが、そういった作品の品性の面ではなくて、面白く見せようとした結果としての技術的な面では、かなり洒落た小気味のよいテンポが達者さを感じさせてくれたように思う。ちょっと垢抜けた感じの軽やかさがあるところがいい。 推薦テクスト:「神宮寺表参道映画館」より http://www.j-kinema.com/rs200405.htm#shinibana | |||||
by ヤマ '04. 5. 6. 高知東映 | |||||
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