vol 59:傷



婆ちゃんについて歩く。

山の中、補正されてない場所を登っていく。

「ハァハァ・・・弥勒、道わかっとるん?。」

「あ?。」

「帰る道やんけっ!。」

剥き出しの枝にハーフパンツの足は切り傷が絶えず、
蚊にも刺されて最悪な状況。

「あー!かゆっ!痛っ!。」

そんな俺に弥勒は前を歩き、

「そんな格好してるからだろ。」

息を切らしてるんは俺だけ。

「そんなん言うたかて、そんな格好出来るか!。」

ブーブー後で言うてたら弥勒が止まって背中にぶつかった。

「ちょー、なん?。」

「婆さんが止まった。」

前を見ると、婆さんが立ち止まってる。

「おい、弥勒。」

弥勒は婆さんの所に歩いて行き、婆さんの横に立った。

(チリン。)

鈴の音。

(チリン。)

「此処に何かあるのか?。」

弥勒が婆さんに話しかけた。

婆さんは自分の目の前の大きな石に指を指した。

「この岩か。」

結構な大きさの岩。
弥勒が岩を掴んで持ち上げるもビクともしない。

「カンっ、手伝え!。」

「お、おぅ。」

慌てて弥勒に駆け寄って弥勒と反対側を持って、

「せーのっ!。」

岩を持ち上げる。
全く動かない。

「もう一度。」

「せーのっ!。」

「ふぬぬ・・・。」

二人で唸り声を上げて必死で持ち上げた。
岩は土だらけの底を見せた。

「よし、横にずらして置くぞ?。」

「わ、かった!。」

ゆっくりと横にずらして地面に離そうとした。

「カン!ゆっくり置くんだ!。」

「は?もう離したらええやん!。」

「駄目だ!岩にも慈悲を!。」

何言うとんねん。

このまま離したら弥勒は指つめる。
仕方なく弥勒に合わせてゆっくり地面に置いた。

「はぁっはぁっ・・・。」

お互い息が切れる。

「弥勒、何やねん。意味解らんわ。ただの岩やんけっ。」

両膝を少し曲げて、そこに両手を置いて俯いて息を乱す。
弥勒は立ったまま垂れ落ちてきた前髪を掻き上げ、

「阿弥陀如来の教えだ。全てのモノに平等な慈悲を。」

「はぁー?そんなん言うてたら蚊も殺せへんやん!。」

弥勒は眉尻下げて笑み、

「そうだ。だから難しいんだよ、バーカ。」

(チリンチリン。)

鈴の音に俺達は婆ちゃんに顔を向けた。

(ありがたや、ありがたや。)

婆ちゃんは両手を合わせて俺達に拝む。

岩があった場所に目を向けた。

「・・・トカゲ。」

そこには潰れて干からびたトカゲの死体。

「婆ちゃん、トカゲ死んで・・・。」

俺が声を掛けようとしたら、婆ちゃんの体はトカゲに吸い込まれるように、
干からびたトカゲの体に消えた。
すると、干からびてた死体が鮮やかな黄緑になって、
ふっくらした体になって大きな目を開け四つん這いに立ちあがった。

「トカゲが・・・。」

トカゲは両手足を動かして移動を始める。

「婆さん、トカゲだったのか。」

弥勒は普通に言うけど、俺は信じられんかった。
死んでたトカゲが生き返ったんやから。

トカゲが右に走って行くも、立ち止まって俺達の方を向く。
俺は呆然とただ、そのトカゲを見てた。
弥勒がトカゲの方に歩くと、トカゲは進む。
止まると、トカゲも止まる。

「カン、まだ何かあるみたいだ。行くぞ。」

そう言って弥勒は歩きだした。
俺は納得出来んまま、ついて行くしかなくて・・・。

トカゲは俺達に合わせながら進む。
また山道を横に歩いたり登ったりが暫く続いて、
俺の足も限界が近い。

「カン、見ろよ。」

弥勒の声に必死で地面を見ていた俺も顔を上げた。
そこには、何かが崩された木々の残骸。

弥勒がしゃがんで何かを手に取って俺に見せた。

「ロウソク。」

「あぁ。」

木を退けると割れた白い破片に枯れた花。

「ここは龍神の祠だ。」

トカゲは俺達の向うはずだった祠に案内してたんや。
トカゲが俺の足元をウロウロする。
ハ虫類は苦手やけど、ここまできたら婆ちゃんにしか見えん。

「婆ちゃん、連れて来てくれたん?。」

トカゲに手を伸ばすと、トカゲは俺の腕を這って肩に上った。

(チリン。)

まるで返事をしているかの様に鈴の音を鳴らす。

「しっかし、崩れたまんまってのはどうよ。」

弥勒の言葉に俺も頷き、

「ほんまやな。普通は直ぐ建て直すんちゃうん。」

俺はしゃがんで、祠の木を掴んだ。

(龍神様の祟りが来るぞ!。)

(祟りが来る!。)

(触りたくない・・・触り。)

俺の中に聞こえてくる声。

「弥勒・・・なんか聞こえる。」

そう言って聞こえてくる言葉を弥勒に告げる。

「そりゃ、人間の声だな。
全く・・・守り神を怖いとは、さすが人間だ。」

呆れたような言葉にも、少し怒りがこもってるようにも聞こえた弥勒の発言。

「どうするん?。」

弥勒はロウソクを地面に置いて、

「まずは、龍神を呼んで話を聞く。」

数珠を懐から取り出して、経を言い始めた。
俺は婆ちゃんを肩に乗せたまま立ち上がって事が起こるのを待つ。

「来るぞ、カン。」

弥勒が経を止めて俺に話しかけると、地面がグラグラと揺れだした。
立っていられない。

「うわっ!地震や!。」

「いや、違う。」

空は曇るも俺らの場所だけが曇り、俺は揺れに耐えられずに尻もちをついて、
後ろに尻をついた。
両手がついた地面はひび割れ、ゴゴゴと地響きが鳴り響く。

「龍神よ!話しがしたい!。」

弥勒が声を大きく上げる。

(ヌゥゥゥゥ。人間よ、立ち去れい・・・。)

太く重い声。

「私は人に生れし神。弥勒菩薩と申す。
姿を見せよ。」

(グヌゥゥゥゥ。)

地面から顔を出して現れた龍。

「っ!。」

俺は現れた龍神の顔を見て絶句した。

龍神の片目は潰れて瞼が腫れて閉じ、顔中が傷だらけになっている。
俺は身を乗り出して、

「お、お前・・・お前その顔どないしたんや!。」

「カンっ!。」

(グヌゥゥゥゥ。貴様、龍神に向かいお前などと・・・グォオオオ!。)

龍神は俺に大きな口を開けて鋭い牙を剥き出しにしてきた。
弥勒が慌てて俺の前に立ち、

「この馬鹿が!礼儀をしらんのか!。
龍神は誇り高い神だ。怒らせるなっ!。」

そんなん俺には関係ない。
立ち上がって弥勒の前に出て、龍神に近付き、

「カンっ!。」

「なぁ、その傷・・・どないしたん?。
誰にやられてん?。」

俺が話しかけると龍神は地面から手を出して俺の体を爪で掴み、

「ぐぁっ!。」

「カンっ!。」

弥勒が咄嗟に懐から独鈷杵を取り出したんが見えたから、

「みろ、くっ・・・手ぇ出す、なっ!。」

「カンっ!。」

(礼儀知らずの人間共め・・・神を侮辱し足りぬのかぁ。)

大きな爪が俺の腹に食い込んでいく。

「ぐ、ぁぁ・・・。」

俺が痛みに苦痛な声をあげてたら、トカゲの婆ちゃんが肩から龍神の腕に。

「あ、かん・・・婆ちゃん!。」

婆ちゃんは腕を登り龍神の鼻先まで行くと、
龍神は大きな鋭い目をトカゲに向け、

(グゥヌウウウウ。我が子よ。)

(龍神様、龍神様。この者は岩の下敷きで死んでおった、
わしを助けてくれました。
この者達は人間と我々の仲介人。どうか手をお放しください。)

婆ちゃんの言葉に暫く龍神は動きを止め、
俺から手を離した。
俺は地面に蹲って体中の締め付けられた痛みに悶絶。

「カンっ!。」

弥勒は俺に近付き、俺の背中に触れ、

「大丈夫か!。」

大丈夫ちゃうけど、そんなんどうでもええ。

「なんでや!なんで、そんな傷つくんや!。
お前は神やろ!人間にやられても傷なんかどうにでも出来るはずや!。」

俺は龍神に叫んだ。
婆ちゃんは俺達に体を向け、

(この祠は龍神様の体。
この祠は龍神様の皮や骨が埋め込まれて創られた。)

「龍神の骨?。
・・・そんなはずはないだろう。龍神はこの世に生をもってはいないはず。
黄泉の国で生れし神。」

弥勒が顔を顰めて話をする。

(人間がトカゲを村の守り神の龍神様に生まれ変わるようにと、
この祠に皮や骨、肉を埋めて作った。)

「て事は・・・元はトカゲであの世で龍神に。」

(そうだ・・・。我は人間の思いを叶えようとこの姿に代わり、
龍神の元で修行し雨を操る事を学んだ。
しかし、人間は時が移るにつれ我の事を言い伝えにし、
形式で祀るようになったのだ。)

「でも、その傷・・・。」

弥勒が俺の肩を掴んだ。

「カン、祠は龍神自身の肉体なんだ。
だから、この祠を元に戻すか焼いて成仏させない限り、
傷は治らない。」

そんな・・・。









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