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vol 55:壺
大日如来のふっくらした手のひらが、俺の痣のある首筋を撫でる。
「強い怨念の様な力がこの痣に残っている。」
「怨念?。ただ、私が母親じゃ~って想いが残ってるだけ違うん?。」
「いいや、そんな単純な想いでもない。」
大日如来=ばあちゃんに連れられて、大日如来の国、
金剛界とか言う場所に位置する智の国にいる。
ここは黄泉の国の中でも一番小さくて限られた神しかいないらしい。
「なぁ、ばあちゃん?。」
「カン、おを付けなさい。」
そこかいっ!。
「おばあちゃん?。」
「なんです?。」
ばあちゃんは奇麗な庭みたいな場所で、
一緒に座って俺の痣に手を触れさしてる。
「なんでここの国にはあんま誰もおらんの?。
入れる人、決まってるん?。」
ばあちゃんはあんまり表情を変えん。
冷静って感じ。冷たいとは思わんけど。
「この国は誰でも出入り自由。
ただ・・・皆が誤解しているだけです。」
「誤解?。」
「私を含む金剛界の如来は、なぜか後の者達に位をつけられている。
私は宇宙の神だから最高神になるそうです。」
「違うん?。」
「私は宇宙の神ですが、最高神ではない。
皆と同じ神。
この場所は私や如来達がいる為、
修行中の者達はおそれおおいと中に入って来ない。」
「・・・誘ったらええやん。」
「誘っても、自分はまだその様な身分ではないと言う。」
少し、寂しそうな顔になった。
「大日如来。」
背が高くガッチリした体格のオヤジが声をかけた。
「どうしました?不動明王。」
俺は驚いた。
「ふ、不動明王?!このオッサンがか?!。」
驚きの言葉を発した瞬間、首に触れていない手で頭を叩かれた。
「いったぁ!。」
「その言葉遣い!。」
俺の言葉に目が点になっている不動明王が、ばあちゃんの叩きを見て、
「っ、ハハハハ!オッサンと言われたのは初めてだ!。」
不動明王は声も見た目も貫録がある。
「あはは、褒められた。」
「いや、褒めたわけではないぞ?。」
ノリはOK。
「駄目ですね。これ程、皆の力を与えても、消えない。」
どうやら鱗の痣は消えへんみたいや。
大日如来の手が首から離れた。
「どれ、見せてみろ。」
不動明王が俺の横にしゃがみ俺の首筋に手を触れさす。
ぶっとい手ぇや。
「ほう・・・これはまた強い。」
俺は痣が痛いわけでもないし、違和感もないから解らんねんけど、
周りはえらい深刻そうや。
「私の業火で焼くか?。」
ばあちゃんに問う不動明王の言葉は、ひたすら俺をビビらす。
「まぁ、手や足ならそれも良いが・・・、
場所が首なだけに無茶は出来ないでしょう。」
「そこは加減してだなぁ。」
俺は下唇噛みしめて立ち上がった。
だって・・・何を怖い話をしとるんや、この人達。
立ち上がった俺を二人で見上げる。
「そ、そないなことせんでも大丈夫!。
全然痛ないし、違和感もないしなっ!。」
ハハっと引き攣った笑いをして、サッサとこの場から逃げたかった。
「なぁ、カン。少しお前に見せたいものがあるんだが・・・、
お孫さんをお借りしてもよろしいか?大日如来。」
ばあちゃんはゆっくり頷いた。
俺は不動明王に連れられて、金剛界の中を歩く。
「しかし、お前が大日如来の孫とは。」
ククっと笑って歩く不動明王の言いたい事は解る気がする。
「どーせ、アタシには品はございません。」
ばあちゃんは見た目からして品の持ち主や。
「だが、気の強いところはそっくりだ。
洋子よりも似ているかもしれんな。」
「オカンのこと、知ってるん?。」
「勿論。あの子は人間に生れてからも、たまに此処に戻ってくる。」
「へー。」
「着いたぞ。」
立ち止まった場所は、大きな壺が1つ砂の上に置いてある。
周りは草木もない円上に砂場の様な場所。
「なん?ここ。」
「うむ。その壺を覗いて見なさい。」
ゆっくり壺に近付いて縁を両手で掴んで中に顔をつっこんだ。
真っ暗な壺の中。
底が見えん。
「なんや、何もないやん。」
「よく見るんだ。」
目を凝らして中を見た。
(熱いよぉ・・・。)
(オギャーオギャー。)
(おかーさぁーん、おかぁさーん。)
(熱いよぉ・・・水・・・水・・・。)
「っひ!。」
「目を逸らすな!カン。」
壺の中の光景を俺は見たくなかった。
そこには、皮膚の垂れ下がった小さな女の子や、
真っ黒に焼け焦げた赤ん坊、
地面を這って水を欲しがる幼い子がいる。
なんで・・・ここにこんな・・・。
「それは戦争で犠牲になった水子の記憶だ。」
「せん・・そ・・う?。」
「そうだ、この子達の魂はもう黄泉の国で家族と共に暮らしていたり、
家族が生きている子は仏と共に楽しく暮らしている。
だが、それはその水子達の記憶を取り除いてやったからだ。
戦争で亡くなった水子の記憶は、この壺の中に入れている。」
俺は壺から顔を出して不動明王に振り向いた。
「この記憶は壺から消えんの?。」
「消そうと思えば消せる。
だが、消しはしない。」
「な、なんで!。」
「消してはならないからだ。
金剛界の神は、毎日ここに来て壺の中を覗く。
そして、この様な苦しみを2度とさせないと胸に強く誓い、
人間を導く為にそれぞれが役目に取りかかる。
大人の勝手な争いの無垢な犠牲者の痛みを我々も感じなければならん。」
俺は言葉に詰まった。
俺も、直にその大人の仲間入りになるからや。
20歳になれば大人やから。
「カンよ、お前のしようとしている事は我々も尊敬している。
我々には出来ない事だからだ。
どうか、どうか・・・この壺を忘れないで欲しい。」
俺は俯いた。
「この壺の事、弥勒は知ってるん?。」
「この壺を知っているのは、金剛界に居る者のみ。
我々の役目は癒す事ではないからな。
悔い止める事だ。」
「弥勒にも見せときたい。」
「誰が見ても同じ気持ちになれるとは限りません。」
ばあちゃん。
じいちゃんも。
「カン、不動明王がお前に何故見せたか心で感じなさい。」
「心で・・・。」
「そうだ、カン。お前がやりたい事に必要不可欠なんだ。」
じいちゃん。
「カン・・・勢力は強まっている。
我々に出来る事とお前にしか出来ない事がある。
だが、気持ちの枝別れを無くしたいのだ。
気持ちは我々もお前も一つでなければ力は大きくはなれない。」
不動明王。
「カン、戻りなさい。
肉体に戻り、皆に伝えるのです。」
ばあちゃん。
「で、でも・・・俺何してええか・・・っ!。」
「時は自然と来る。その時に合わせられるよう、
仲間を増やしなさい。
人や動物、そして霊達ともっと関わりなさい。」
人や・・・動物・・・霊・・・達と関わる・・・。
「行きなさい。カン。いつも、お前達を応援しています。
何かあれば、我々を心で呼びなさい。」
気付けば病院のベッドの上。
うっすら目を開けるとオカンがテレビ見てた。
「・・・芸能人・・・麻薬で捕まったんや?。」
俺の小さな呟きにオカンが俺を見て目を見開くも、直ぐに笑み、
「おかえり、柑。」
「・・・泣いてもええで?。」
「・・・アホ。」
母と子の感動の再会。
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