vol 51:想像と真実の違い




ゴロゴロゴロ、ドン!ザー。

「今日はもの凄い雨やなぁ・・・。」

激しい雷と雨の音。
教室の窓を大きな雨粒が流れていく。
ただの雷と雨に感じられず、
まるで誰かが激しく・・・。




「サタンっ!。」

「・・・解ってるよ。煩いな。」

地獄が激しく揺れる。
大きな声に黒い雨が降る。

「ねぇ、ヘラ。煩いんだけど。」

部屋の壁はへこみ、ベッドは壊れまるで怪獣が暴れたようだ。
大きな尻尾を振り回して髪を乱し眼は大きく開いている。

「グヌゥゥゥ。」

「ヘラ、地獄のみんなが混乱するからやめてくれない?。」

「我が子に逢わせよサタンっ!。」

またか。

「だから・・・何度言わせる気だい?。
いい加減にしてくれないと、僕も怒るよ?。」

「お前が怒りを露にしようと私は何も怖くない。
私は女神。お前のような神使いなどの力に怯えぬ。」

だから神は嫌い。

「そう。言わせたいんだねぇ?。
貴女の子なんて、簡単に殺せるって。」

ヘラの表情は逆に笑み、

「そうなれば・・・我が子はここに来る。」

あぁ・・・もう心も完全に闇に支配されてしまった神。

「正気?。あの子が死ねば、天界に行くに決まってる。
馬鹿でも解るよ。」

「ウゥ・・・グァアアアアア!。」

大きく振り上げられた尻尾は壁を叩きつけ、
ひび割れた天井から小石が落ちてくる。
どうするべきか。
僕は部屋を出て鏡を持って戻りヘラに見せた。

「ヘラ・・・これが美しい女神の今。」

鱗まみれの顔に見開いた目。
乱れた髪にボロボロになった肌。

「ひぁあっつ!。」

ヘラは両手で顔を覆い隅に小さく身を丸くして震える。

「あの子が見たら、怯えるよ?。」

「うぅぅ・・・悲しや・・・悲しやぁ。」

鏡を置いて蹲るヘラに近付いて床に膝をついた。

「ごめんねヘラ。貴女を落ち着かせないと。
怒りや欲望に支配されたら会話じゃどうにも出来やしないからね。」

ヘラの髪に触れる。
僕の指先から鱗がボコボコと生えていく。彼女の呪。

「見てごらん?。貴女の呪。
あの子を抱きしめるだけで、あの子は鱗になり塵になってしまう。」

「うぅぅ・・・。」

ヘラはシクシクと泣く。

可哀想な女。

可哀想な神。

「可哀想なヘラ・・・。」

ヘラの体を抱きしめた。
ヘラは応えて抱きついてくる。

僕の体は鱗まみれに染まっていく。
気が遠くなる前に体をそっと離した。

「お腹は減らない世界だけど、スープを飲めば気持ちは和らぐよ。」

思えば形になる世界は便利だ。
わざわざ野菜を切り茹でスープにしなくても、
直ぐにテーブルが存在し暖かい湯気の出たスープを用意できる。

当たり前のように思えば、崩れた部屋も元の部屋に出来る。

「サタン様っ!天の子が地獄に!。」

「はい?。」

ドアの向こうで叫ぶ悪魔の言葉に拍子抜けな返事をした。










「なっなんやここっ!。」

教室で授業を受けながら外の嵐を見てた。
気がつけば、赤黒い場所。

臭いはくさい。腐ったような臭いで鼻がおかしくなりそうや。
辺りを見回す。

ボロボロになった建物やら、車。
草木は全く生えてへん。
初めて見る世界に言葉も出ん。

「グゥゥゥ・・・。」

唸り声が背後で聞こえた。
振り返ると、四つん這いで皮膚は見るからに硬そうで、
目は無く大きく裂けた口からは唾液を流しで俺を見てる。

「グゥゥゥ・・・。」

「グゥゥゥ・・・。」

気味の悪い生き物が何匹も出てくると俺の周りを囲み、
俺は何が起こってるんか解らん。

「おやおや、迷子かい?。」

聞きなれた声。

「お前は・・・サタン。」

気持ち悪い生き物の頭を撫でて現れたのは、知っている奴。

「なんやねんここ!。」

サタンを睨みつけて問い掛ける。

「ここ?。ここは地獄の町だよ。」

「じ、地獄ぅ!?。」

サタンは前に見た容姿やけど、顔の頬の一部と片足が鱗になってる。
じっと顔や足を見る俺の視線に気づいた。

「あぁ、コレ?。
今回は取れるのに時間がかかりそうなんだよねぇ。」

眉尻下げて自分の足を見ている。

「な、なんで俺が地獄におるねん・・・。」

気持ち悪い・・・息したくない。

「僕は呼んでないよぉ?。
多分、君があの人を感じたから波動が合ってしまったんじゃない?。」

「あのひ・・・グァっ!。」

我慢出来ずに地面に吐いた。

「カハッ!ゲホゲホ・・・。」

「あー、気にしなくていいよ。みんな吐くから。
硫黄の臭いのせい。時期に慣れる。」

サタンはニッコリ笑う。
気持ち悪い生き物達は俺が吐いたゲロに群がってピチャピチャと舐め始めた。

「彼等は元は人。生前の罪多き人。
ヘタレは地獄に来るとみんなこの姿になる。
ずっと空腹なんだ。僕が来てなかったら、君も食べられてたよ。」

俺が来たのを聞きつけてか、
漫画に出てきそうな牛の頭の奴とか、怪物みたいな、
妖怪みたいな奴等が集まってきた。

「人間だ!。」

「生きた人間だ。」

「においが違うぞ!。」

ボソボソと話声。

「みんなに紹介するよ。
この人間は僕達の敵の子、天の子だ!。」

「グォオオオオオオ!。」

周りの奴等が雄叫びみたいな声を上げる。
どいつも眼は血走ってて、襲いかかって来そうや。

「でもねぇ、今回は客人。」

「客人?。」

「客人だと?。」

「今すぐ血祭りにして食う!。」

「食う!。」

「そしたら、我らは神になる!。」

「そうだ、食う!食う!。」

汚い牙を向け、涎を垂らして鋭そうな爪を剥き出しにして、
1匹の声に周りも興奮しだし、

「だから、客人だと言っているだろう?。
煩いよ・・・。」

キッとサタンが一番興奮している奴を睨んだ。
するとそいつは蛇に睨まれた蛙のように動きが止まり、
ビクビクと怯えた表情に変わる。

「カン、地獄を案内するよ。
せっかく来たんだし、ゆっくりすればいい。」

再び笑みを向けて俺の手を掴み歩きだした。
後で群れてこっちを睨む闇の奴等。

「サタンめ・・・。」

「クソっ・・・いつか殺してやる。」

ボソボソと言う言葉は聞こえてる。

「お前・・・あいつ等、ほんまに仲間なん?。」

サタンは手を引きながら笑み、

「そうだよ?。ある意味大事で、ある意味どうでもいい仲間。
地獄に居る全ての奴等は僕を憎んでる。」

「なんで?。」

「だって、僕はここのボスだよ?。
地獄の奴等は妬み・欲望・嫉妬・不幸の塊。
僕の地位に立って、地獄を支配したい奴等こそ、地獄の悪魔。
そいつ等しか悪魔にはなれやしない。」

俺が考えてたよりも深い悲しい世界が地獄やった。

悪魔は俗に言われてる悪魔。

サタンは、俗に言われてるサタンとは違い、

悪魔とは違う不思議さを持ってて、

悪魔から感じられへん悲しみを持ってるみたいに感じた。

口調は淡々と言うてるけど、

言葉は丁寧で、言葉に重みも感じる。

重みと一緒にサタン事態を感じたんや。

サタンの繋がれた手は暖かくて、大樹やマツキチと変わらん手の温度。

ただ、細い指。細い手。






サタンの心にいるサタンは中学生くらい。

僕は何のために創られたの?。

僕はなんなんの?。

ただの土の人形。

ただの・・・土の・・・。






「っ!。」

サタンの手が俺の手を離して、俺を顔を顰めて見つめる。

「・・・。」

俺も見つめ返した。

「何、その顔。」

「べ、別に。」

「人の心を見るなんて、信じられないよ。
僕に同情でもするかのような顔だねぇ、カン。」

サタンは気にくわない様な表情で俺を目を細めて見る。

「だ、誰も、誰も見たくて見たんちゃうわボケっ!。」

同情。

同情したのかもしれん。

サタンも俺らと変わらん感情を持ってて・・・

俺には無い悲しみの中に・・・

「き、君・・・?。」

「・・・。」

サタンの腰に両手回して抱きしめた。
サタンは驚いてる。
こんな事、された事ないからや。

「ほっそい腰やな。ちゃんと飯食ってるか?。」

「・・・ぷっ!。」

キョトンと目を丸くしていたサタンが吹き出して笑い、

「あはは、君、可笑しいねぇ。」






「な、何をされるんですか神様。」

「いやぁ、細い腰だなと思ってな。
ちゃんと気力を蓄えてるか?ルシファ。」

「こ、腰を突かないでください!。
ちょ、あははは、くすぐったい!。」

「おお、元気元気。」







「なんで可笑しいん?。」

「いやぁね、血は争えないって。」

「?。」

「君は神の子だって事さ。」

その時のサタンは、根っから笑ってた。
笑みを見せてた。

「けど・・・チビ神の気持ちが解った。離したがらない気持ち。」

サタンは俺の体を抱きしめた。
サタンが背が高く感じる。
気付けば俺は女になってたから。

「この僕が、自ら触れたいって思ったのは初めてだよ?。
すごいね、君。」

抱きしめられても嫌やない。
サタンが可愛く見えた。

俺が顔を上げたらサタンの頬の鱗が気になって、
鱗に触れようと指近づけたら、サタンは俺の指を掴み、

「触ったら駄目。君は鱗になってしまう。」

「鱗に?なんで?。」

「僕の鱗も時期に取れる。
好奇心多盛なのはいい事だけど、気をつけないと。
取り返しのつかない事になってしまうよ?。」

そう言って俺の額に唇を軽く触れさせた。

その頃、教室で机に突っ伏したままの俺の肉体は、
寝てると思った先生が起こしにくるも目を覚まさず、
異変を感じて先生が救急車を呼ぶ事態になっていた。

「戌尾君!。・・・カンっ!。」

救急車に乗った大樹が俺に必死に呼びかける。

「意識不明。脈拍正常。」

救急隊員が様子を見て病院に向かう。

サタンの包容で大樹の声が聞こえんようになってる事も、
俺には全く解らんかった。







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