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vol 50:人の死
「おとうさん!おとうさんっ!。」
ピー。
「10時45分。ご臨終です。」
救急車で運ばれたまでは覚えてる。
気付けば今病室で家内がベッドで寝ている俺に、
抱きつきながら泣いているのを家内の隣で見ている。
ベッドに俺は寝ているのに、
俺は家内の横に立っているのだ。
(死んだんだな。)
状況からして疑う余地もない。
家内に、娘2人が泣いている姿には胸が詰まる。
これから俺の葬儀で金もかかるし、大変だろうに。
葬儀には親類が俺の話をしているのが良く聞こえる。
「タカちゃんは頑固だったわね。」
「あいつ、裏でバクチしてたって噂だぞ。」
言いたい放題い言いやがって。
死んだ俺が何を言っても聞こえるわけないしな。
(タカちゃん?。)
俺を呼ぶ声がする。
俺を呼ぶ声は仏前の方から聞こえた。
(洋子ちゃん・・・。)
(タカちゃん、ホンマに急な事やったねぇ。)
俺の言葉が解るのか?。
いや、そんなはずはない。
(聞こえとるよ。)
(俺死んでるのに聞こえるのか!。)
(私は霊の言葉聞こえるんよ。姿は見えへんけどな。)
俺は嬉しかった。また、一人になった気分だったからだ。
(そうか。知らなかったな。)
(こんな話は他には言えんよ。)
洋子の隣に座って自分の慰霊の写真を見る。
(おかしな気分だ。俺はここにいるのに、
そこにも俺がいる。)
(安心したわ。もっと取り乱してるか思ってたさかい。
死んでるん受け入れへん人が多いからなぁ。)
洋子は笑んで話す。
俺は死んだからどうとかはない。
今まで必死に働いて、娘にも嫌われて会話もなく生きてきた。
俺が死んであんなに娘が泣いてくれるとは思ってなかった。
(タカちゃん、光は見えるか?。)
光?。
そう言えば一ヶ所から光が射している。
(あぁ、見える。)
(そこに行けばあの世の世界に行ける。)
あの世。俺が極楽に行けるのか。
(隆雄。)
光の中から声がする。
(カタちゃん、戻って来たかったら、いつでも戻って来られるんやから、
1回行って来てみ?。みんな待ってるわ。)
俺の名前を呼ぶ声が何度も聞こえる。
行けと言われてもどうやって?。
(光に集中するんよ。)
光に・・・集中・・・。
すると俺の体は光に吸い込まれるように光に向かって歩きだした。
(隆雄!。)
光の中は山々に囲まれ川が1本緩やかに流れている。
(隆雄。)
目の前にいる人に驚いた。
(おふくろ・・・。)
(隆雄、やっと会えたねぇ。)
俺のおふくろは、俺が幼い頃に死んだ。
(ずっと、ずっとあんたを見てたんだ。
この日をどんなに待ち侘びたか。)
幼い頃に見た年をとっていないおふくろを見つめていると、
俺は涙が溢れ出た。
(か・・・かぁちゃん。)
60歳の体は俺の気持ちに従順なまでも、体は昔の、
幼い頃に戻っていく。
坊主頭で鼻水垂らしてたあの頃に気持ちも姿も。
(あらまぁ。この子ったら。)
(ふぇっ・・かぁちゃん。)
(おいで?かぁちゃんがおんぶしてやるから。)
俺はおふくろにおぶられた。
幼い頃、夢にまで見た光景。
おふくろは病弱だったから、おぶられた事がなかったからだ。
(隆雄、お父ちゃんもいるんだよ?。)
(おとうちゃん?。)
(そう。隆雄には寂しい思いをさせてしまってたから、
おとうちゃん、またここで3人で暮らそうって。)
おふくろは俺をおぶりながら川の船に乗る。
(かぁちゃん、俺・・・。)
(今は、今はなんも考えんで?。
隆雄の夢をかぁちゃん、叶えたいんよ。)
「ただいまぁ。柑、ご飯食べたん?。」
「んぉー、おかえり。食ったで。」
「そうか。お寿司貰ったから食べ。」
オカンの方の親戚のオジサンの葬式からオカンが帰って来た。
俺も行かなあかんかってんけど、
熱だしてもうたから欠席。
「葬式どないやったん。おっちゃんいとった?。」
「いろんな人来てたわ。おっちゃんのお母さん迎えに来とった。」
「ふ~ん。おっちゃんと話したん。」
「したで。全然混乱もしてなかったわ。
タカちゃんは一人っ子でちっさい時にお母さん亡くしてるから、
今頃・・・甘えとるんちゃうか。」
俺は寿司を食べてテレビ見ながらオカンの話聞いてた。
「やっぱりあれやろ?向こうに行きたないって人多いんちゃうん?。」
「普通はなぁ。けど、タカちゃんはお母さんがおるし、
お母さんに会いたがってたから。」
「そっか。ほんなら安心やな。」
「せや。安心や。
あんた・・・熱下がったんか?。」
オカンが俺のデコに手のひらをあてる。
「測ってへん。」
「ひえピタしとかなアカンやろ。まだ熱いわ。」
ガラガラと戸が開く音が聞こえる。
「こんばんわ~。」
「はぁーい。」
他所行きの声出して玄関に行くオカン。
「あらあら、先生。」
「どうも。カンの具合はどうですか?。」
「まだ熱いですけど、体調はマシになったみたいです。
あがって下さい。」
「お言葉に甘えて。お邪魔します。」
大樹が居間に来た。
学校帰りやからスーツや。
「カン。具合どう?。」
「もー。会いに来たらうつる言うたやん。」
「大丈夫だよ。」
オカンもおるし、部屋に行くことにした。
「おばさん葬儀から今帰ったの?。」
礼服を着てたから。
「うん。」
ベッドに座って大樹を見つめる。
「大樹が先死んだら、俺んこと待っててくれる?。」
いきなりの質問に大樹は目を見開き、
「何言ってるの!って言うか、なんで俺が先。」
「例えばの話やん。なぁ?待っててくれる?。」
大樹は顔を顰めて考えたくないと言いつつ、
俺の問いかけに頷き、
「想像も今はしたくないけど。
カンは・・・先に死んでも俺を待ってなさそう。」
大樹の言葉に俺はニッコリ笑い、
「うん。当たり前やん。」
「うわっ!それ酷いよ!。」
「あははは、嘘や嘘。ちゃんと待ってるって。」
「絶対だよ!絶対!。」
人が死ねばどうなるのかは、
死んでみないと解らない。
それが解るのは、死んだ人と話が出来る人。
そして、俺らみたいに向こうに住んでて、この世界に来てる人。
死の不安。
寂しく感じる人もいれば、死にたくないという人。
死んだら楽になれるとか言うけど、
それは間違いや。
寿命で死んだ人は楽になれる。
自分で命を絶った人は生きてる時以上の苦しみが待ってる。
死。
生物が必ず通る出来事。
あの世があるって知ってても、少し不安になる出来事。
それが人の死。
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