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臨床心理学の教育と統計解析ソフト




 札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」です。教員であるかぎり、カウンセリングの教育内容に無頓着でいられるわけがありません。大学によって異なりますが、皆さんはおそらく学部で、そして大学院で、方法論あるいは研究法と称する授業科目で、統計解析について学んだはずです。

 学生時代にせっかく学んだにもかかわらず、現場に出てからそれが直接的に役に立ったと言う方は、ほとんど、いないのかもしれません。ただ卒業のために必要な単位を取っただけの方が、多いことと思います。

 ほとんどの大学で統計解析について教えるのは、おそらく臨床心理の教員以外の、いわゆる心理学の教員でしょう。実験計画ないしデザインと、それにふさわしい統計法について教え込まれるわけです。最近では質的研究法の授業を組み込む大学も散見されますから、変化の兆しがみられるのですが、多くの学生はまるで統計解析が臨床心理固有の研究法であるかのような思い違いをする可能性もあります。

 臨床心理の方法論は多様です。統計解析を利用する実証的な方法は、あくまで、あまたあるもののなかのひとつであることを忘れないようにしましょう。

 私が学生の頃は、まだ電卓を使った授業が主流でした。多変量解析といってもせいぜい分散分析までです。因子分析はガラガラポンです(これが笑えるのは、かなりお年を召した方かもしれません)。いまは、お手軽な統計解析ソフトを使って教わることが主流となり、電卓による手計算によっては困難な解析も、容易にできる時代となりました。

 いま皆さんは、統計解析が必要な実践研究を行ってますか? おそらくほとんど無理であると思います。大規模なリサーチに携わる方は、一握りにとどまるでしょう。可能であっても、サンプル数の問題があり、ノンパラがやっとのことであると思います。

 統計ソフトは高価です。テクストデータ解析ソフトであれ、量的データ解析ソフトであれ、皆さんが個人で所有するとなると、なかなか手が出せない値段なのです。学生時代は自由に利用できても、それだと受けた教育が現場に出てから生かすことが出来ないことになります。エクセルや、フリーソフトでできる範囲内に、解析手法が限定されてしまうわけです。ここに、大学教育の問題点が見え隠れするような気がします。

 クリニカル・サイコロジストの教育に、リサーチ・サイコロジストの教育が妙なかたちで組み込まれたものが日本の現状であると思います。いわゆる科学者-実践家モデルです。これについては、機会を改めてつぶやきたいと思います。

 私たちが実証的な方法論を学ぶ意義はどこにあるのでしょう。実証主義者になるのであれば何の矛盾もありませんが、皆さんにとっては、おそらくたんなる回り道に過ぎないように思われるかもしれません。そうです、回り道です。とても大切な。実証主義が何を意味するのか知るには、それについて学んでおく必要があるのです。

 私は論理実証主義には批判的ですが、実証的な方法についてはワン・オブ・ゼムとして認めております。生きた出来事がパソコン上の数値となり、統計ソフトがゲームソフトのようになってしまうことは避けなければなりませんが、それに一定の価値があることは認めております。

 最後に、統計解析の背後には、大文字の方法論、さらには人間観が控えます。できることであれば、哲学の本、特に科学哲学の本を読んで頂きたいものです。科学的であるとはどんなことを言うのか、そこにある人間観・世界観・宇宙観はどんなものであるのか、本当は知っておく必要があります。そうすれば、あなたが大学時代に学んだことの「ウソ」と「マコト」が見えてくるはずです。自分の頭で考えて、判断してください。札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」でした。


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