【北川 】 画家でいらっしゃいまして、小柳さんと共同詩画展を開かれたこともある星野勝成さん、 よろしくお願いいたします。

星野と申します。絵を描いております。
  たまたま僕の前の前、庄司さんがお話しされましたけど、僕今朝奮発して早く起きて、新幹線に乗って、名古屋市美術館に来ましたら、庄司さんの作品のとってもいいのが特別室に展示されてあって、あーと思いましたね。で、昔二三十年前ですか、まだ若かったときに庄司さんの作品を、銀座の画廊で見たことがあって、僕もそこで展覧会というかグループ展をやったことがあるんですけど、人間っていろんなところで繋がるものだなあと思います。
  たまたま僕は小柳さんの関係で、黒部さんを存じ上げたわけなんですけど、そこで坐ってたら、髭の人が傍に坐って、あれっと思ったら、画廊で見かけたことのある庄司さんだったんですね。ああ、人間は随分不思議な繋がり方してるなあと思いました。
  さっき北川さんがちらっと見せてくれたチラシを持ってきたのは僕なので、とってもいい、ふわーっと詩のような作品ですので、もしご近所の方は名古屋市美術館に行かれると、7月4日までさっきお話しされた庄司さんの作品が観られます。部屋自体が夢のようなふわーっとした雰囲気のところです。

 僕は一つだけお話し申し上げたいと思います。
黒部さんを教えてくださったのは小柳さんでした。一方、その前後――非常に微妙なんですが、黒部晃一君と知り合いました。
  そのきっかけは、碧南にいらっしゃる 永島卓 さんが、どういうわけかその経緯もわからないんですが、僕の70年代前半の作品をまとめて貸してくれと言って、碧南の「アトリエ」という画廊喫茶で 特別展示(1976/7/1〜31) をしばらくしてくれたんですが、それを黒部君がお母さんに言って、電車を乗り継ぎながら、碧南の新町に行って――当時黒部晃一君は、浪人中だったかもうすでに芸大に入っていたかという頃だったそうですが――お二人で僕の絵を観てくださったということでした。
  その後、僕は小柳さんがとってもいい詩集だよということで、注意してくださったかいただいたかして、詩集を読みました。また黒部君が表紙をした 『まぼろし戸』 も、これは黒部君からいただいたかと思います。
そんな関係で、黒部さんの詩を、まあ僕は新潟の生れで、今は東京にいますが、全然知り合う筋のない人間だったんですけど、いろんな人の関係とか自分の作品の関係で、黒部さんの詩を知ったということです。

  今回も、しばらく自分の持っている詩集をずっと読み返してきました。また、絵を描いている横で、詩集を朗読してくれる家族もおりましたんで、ちょっと今絵に追い込まれてるんで、耳からも聞くような機会を持ってきました。僕のとっておきの思い出は、詩については皆さん詳しいと思いますが、僕は一度だけ、83年 『空の皿』 が出来る前後だと思いますけれど、日本橋にあった 小柳さんの画廊(ときわ画廊) から東京駅まで、ちょうど居合わせた黒部節子さんが帰られるというので、東京駅に行くということで、ちょうど僕も席を立たなくちゃと思っていた頃で、
というか半分心の中で志願しまして、東京駅まで一緒に歩いた、ご同行をさせていただいたことがあります。
これが何ともいえない、僕の中の思い出として、
ややゆっくりと歩く、
日本橋から東京駅まではそんなに遠いとも言えませんけれど
近いとも言えない距離ですけれども、その距離をゆっくり歩いた。
何となく私は、この方には普通のただのおしゃべりは全然通用しない人だなあという感じがあったんで、あんまりしゃべることもなく、
ただゆっくりと歩いた。

  とにかく歩くという非常に基本的な動作なんですけど、それの思い出がとっても今でも、そこだけが非常に、こういうことがなくても僕はときどき思い出しておったわけですけれども。

 そのことがあったもんですから、黒部晃一君から、20年ぶりくらいに葉書が来て(笑)、それも割合に後になって来て、皆さんもっと早くこの会を知ったと思うんですけど、そのまた葉書に書いてある黒部君の電話番号が間違ってて、こっちからいくら電話しても黒部君には通じないわけでしたけれども(笑)。
  とにかくそのことは関係なく、僕は彼と逆に問い合わせることも何にもなく、ああこの会には参加したいなと思ったのは、さきほどの
日本橋から東京駅まで、僕は黒部節子さんと歩いたことがあるんだということ。
この不思議な花道をずーっと歩いた感じ、
音もなく歩いたような感じだけを僕の大切な思い出を、これも間際になって星野さんスピーチあるよっていう電話を二三日前に受けましたけれど、じゃあこれがあるから大丈夫かな(笑)と思ってお話ししたわけなんです。
どうも長くなってすみませんでした。
  そういう「歩いた」という思い出です。

























永島 卓
詩人、碧南市長。詩集に、『碧南偏執的複合的私言+暴徒甘受』など。

特別展示
そのときに展示された作品「破片」(1976)
星野さんのWebサイトは、こちら

●詩集『まぼろし戸』(86年)
87年日本詩人クラブ賞

詩集『空の皿』(82年)

ときわ画廊(1964-1998)
小柳玲子さんが経営していた現代美術専門の画廊。

黒部節子さんを偲ぶ会