vol 48:気付くという事




カンと喧嘩した。

授業にも身が入らない。

「ねぇ、今日の織田ちゃん、何か変じゃない?。」

「言えてる。珍しく機嫌悪いよね。」

「そこっ!私語は慎みなさい。」



昼休みに少し躊躇うも屋上にお弁当を持って向かう。
屋上にはカンの姿はなかった。

「はぁ・・・。」

コンクリートの地面に腰を下ろすと空気が変わったのが良く解る。

(喧嘩かい?。)

目の前に金色の長い髪を首に巻き付けてサイドの横髪を指で弄っている、
とても中性的な男が俺の前にしゃがんでいる。
霊だと解っているのに不思議だ。
声が聞こえる。

(そりゃぁーね。僕は君に声を聞かせるくらい出来るよ。)

「貴方は何者?。」

見た目や雰囲気からして害は無さ気だ。

(それはどうだろうか。
・・・見た目や雰囲気で判断するのはどうかと思うよ。
チビ神。)

俺を知ってる。

(勿論。あの甘ったるい砂糖のような大神の息子。
すぐに解る。)

大神を馬鹿にされたようで俺は顔を顰めた。

「何の用。貴方が誰なのか知らないけど。」

(あぁ、そうだね。僕とは初めてかな。
僕はサタン。)

その名前に俺は目を見開いた。

「さ、サタンっ!。」

警戒する俺にサタンは眉尻下げ、

(この反応。みんな同じだねぇ。まぁ、慣れてるけど。)

サタンの表情は悲しみを浮かばせる程、弱弱しく笑んだ。

(あの人に、ヘラの話を聞いてカンと喧嘩したみたいだね。)

「・・・なぜその事を。」

(僕の耳は地獄耳だからね、興味ある事はなんだって聞こえるのさ。)

これは俺を騙そうとしているのか、
それとも、自分たちへの誤解を解きに来たのか・・・。

「俺に何の用なの。ただ会いに来ただけ?。」

(クフフ。せっかちなんだね、大樹。
僕が君に会いに来た理由・・・それはね、)

サタンが理由を述べようとした時、屋上の扉が勢い良く開いた。

「大樹っ!。」

振り向くとカンが睨みながら近づいて来る。

「カン・・・。」

カンは俺の目の前に立ち、両手を水平に広げて背を向ける。

(カン・・・君は呼んでないよ。)

サタンが呆れた顔で呟いた。

「お前、大樹に何の用や。」

冷ややかなカンの声に小さな背中。
まるで俺を庇うように両手を広げている。

(ん~。自己紹介まだだしね。)

「自己紹介やと?。」

ふとカンの足元を見るとシロが同じように俺に背中を向けていた。

「シロ・・・。」

「大樹に指1本でも触れてみぃ・・・俺はお前を許さん。」

サタンが目を丸くして、直ぐに声を上げて笑った。

(ふ・・あははは!。)

「何がおもろいんじゃっ!。」

サタンは立ち上がり、自分の腹を撫で、

(ゴメンゴメン。君の性格を踏まえて今なら大樹をと思ったんだけど、
・・・甘くはないか。)

そう言って俺を見た目は、鋭くて綺麗な容姿からは想像もつかない、
黒くて重い嫌な空気が溢れ出ている。
シロが大蛇に姿を変えた。
真白の大きな体をうねらせている。

(クフフ。白蛇神、無理だよ。お前じゃ、僕に傷ひとつつけられやしない。
・・・この、人の子め。)

そう言って氷のような眼差しで見下げるサタンに俺は、

「俺の・・・俺の弟を侮辱するのは許さない。」

我を忘れ、気付けば体から無数の蛇が溢れ出、立っていた。

「大樹・・・。」

振り返って見つめるカン。
俺は何を思い考えていたんだろう。
事実を自分の目で見たわけでもないのに、
ただ話を聞いて自分の想像で判断していた。
そんな俺を、一番辛いカンが守ろうとしている。

(あらら。チビ神、僕には蛇達は効果ないよ。残念。)

いつもなら、体から出た蛇は、直ぐに相手に向かって行くはずなのに、
蛇達は足元に群がる。怯えているように。

(理由は、僕もまた蛇に変えられたから。)

そう言ってサタンが目を細めると足元の蛇がカンに向かって飛び付き、

「う、うわぁっ!。」

カンの腕や足を噛み、首に巻きついて絞める蛇。

「か、カンっ!。」

シロがサタンに大きな口を開けて牙を光らせて飛びかかった。

(だから・・・無駄。)

サタンは自分の体から黒い煙を漂わせ、まるで手のように、
大きなシロの首を絞める。

「シロっ!。」

俺の感情で体からは無数の蛇達が溢れ出るも、
全てカンに襲いかかる。

「こ、このままじゃ・・・カンっ!。」

蛇だらけの体のカンの蛇を掴み、地面に投げては繰り返し、
次第にカンの体は傾いて地面へと倒れた。
シロも暴れていたが、動きが止まり、サタンの煙が消えると、
シロは地面に倒れた。

「カンっ!カンっ!。」

群がる蛇を剥がし、カンの顔が露になると、
青褪めぐったりしている。

(こりゃヤバい。蛇の毒で死んでしまう。)

自分が情けない。
自分が・・・情けない。

(そう、君は弱くて感情に流されるのが欠点な、
甘ったるい砂糖の大神の子。)

カンが死んでしまう。

(毒を吸い出しなさい。)

はっきりと女性の声が聞こえる。

(我が子よ、早く毒を体から吸い出すのです。
お前は蛇。お前には何の害も有りません。)

俺は言われるがまま、カンの唇に唇を重ねて毒を吸い込んだ。

(これは過保護なんじゃないのかい?大神。)

大神・・・母様・・・。

シロの体が小さくなっていく。
そのシロを手のみが見え、シロを抱き上げた。

(サタンよ。この子達は貴方が思っているような人間ではない。
貴方の誘惑にも乗りません。
滅びの子よ。立ち去りなさい。)

(・・・滅びの子。久々に言われたよ、大神。
君は僕を怒らせたいのかい?。君の先祖の僕を。)

サタンの目が見開くと、表情は怒りを剥き出しにしている。

(そう。貴方は私の先祖。始まりの蛇。
ですが、貴方と私は違う。)

(グヌゥ・・・。)

「っ、はぁはぁ。」

唇を離してカンを見ると、顔色に赤みがさしている。

「カン?カン?。」

カンの体を揺すって何度も名前を呼んだ。

「・・・たい・・じゅ・・。」

カンの目がゆっくり開くと、カンは俺に笑んだ。

「ごめん・・な?。」

その言葉に俺はカンを強く抱きしめた。

「カン・・・。」

空から光が柱の様に数本射す。

(っ!神かっ!。)

サタンは眩しさに苦しそうな顔をし、怯えたようにも見えた。

(天界の神は我が子を守っておられます。
人間達も同様に守っておられる。
お前には自分の手で人間の命を奪うことはまだ出来ない。
そして、我が子を誘惑することも、また出来ない。
地獄に帰りなさい、サタンよ。)

(生意気な蛇め!お前も地獄に・・・グァアアアアア!。)

光の柱がサタンの体を突き射した。
サタンの体は悲鳴を上げて消えていく。

「・・・終わった・・ん?。」

俺の腕の中でぐったりしたカンが呟いた。

(いいえ。彼は地獄に戻されただけですよ、カン。)

シロを抱く手がシロを咥える蛇の口に変わり、
大きな大きな真白の赤い目の大蛇が姿を現した。

「・・・おお・・がみ。」

カンはニッコリと微笑んだ。

「母・・様・・・。」

(チビ神、白蛇神は大丈夫です。心配しないで。)

「母様・・・俺は・・・。」

自分の不甲斐無さと自分の力の無さに・・・、

(いいえ。貴方は素晴らしい蛇神です。
もっと自信を持って。)

「でも、でも俺はサタンに騙されました!。」

(ええ、騙されました。真実を自分の目で見ず、
心を迷わせた。)

「・・・。」

(ですが、良かったではありませんか。)

良かった?。

(そうです。今その事に気づいた。
それは大きな出来事で、幸せなことです。
その事すらも気付かずにいる者は数多くいます。
そなたは、今気付けたではありませんか。)

優しい優しい声。

「ほ・・んまやっ。・・・死んでも気付かん奴いっぱいおるし。
歳とっても人の話で左右されてる奴もいっぱいおる。」

「カン・・・。」

(そうですよ、チビ神。
・・・具合はどうです?カン。)

「・・・サイコーや。」

(ふふ、そうですか。もう少し毒が残っているようなので、
チビ神、全て吸い出してそなたのエネルギーを分けてあげなさい。)

「はい。解りました。」

(この子は蛇の国に連れて帰れば、また元気になるでしょう。)

「母様・・・ありがとう。」

(たまには、美輪に来なさい。皆も喜びます。)

そう言ってシロを咥えながら空を這って去って行った。
俺はカンを抱き上げて、屋上の出っ張りのある裏に連れて行き、
日陰になっている所に自分の上着を枕にさせてカンを寝かせる。
上に覆いかぶさってカンを見つめ、

「謝らないといけないのは俺だよ、カン。」

「・・・はよう・・抱いてぇや。大樹不足で死んでまうで?俺。」

笑んで俺のネクタイを両手で外すカン。
愛しい。

「愛してる・・・カン。」

「うん・・・俺も。」

毒を吸い出しながらも体を重ね可愛く喘ぐカンに、
外だというのも忘れて体を重ねた。






「サタン、如何なされた!。」

服は破れ、顔は墨だらけで自慢の髪もボサボサ。

「いやぁ~、想定外でね。神からプレゼント貰っちゃって。」

ヘラヘラと笑って任務に出掛けていたダンタリオンに笑む。

「ダンタリオン、サボりかい?。」

その言葉にダンタリオンは滅相もないと言い、

「勢いを増して若者が性病に感染しております。
報告にと戻って参りました。」

「へぇ、早かったんだねぇ。」

「はい。近頃の人間は容易い。学ぶ脳もない。」

「あははは。いい事だ。
もう少し、流行らせて・・・そうだな、悪魔崇拝者も増やそうか。」

「御意。」

ダンタリオンが消えると石で造られた風呂に入る。
僕の体は男でも女でもない。
乳房もなければ、性器もない。
初期の神使いはこんなものだ。
ただの神が創った人形。
ま、男になりたければ姿はいくらでも変えられる。
その気がないだけでね。

地獄の水は濁っている。
この時は、流石に綺麗な水を浴びたいって感じるよ。

水に全身を浸す。

腹の立つ。

全て血の海にしたい。

神の泣く姿を早く見たい。

僕の怒りが水を湯に変える。

ボコボコと沸騰する。

僕は感情を周りに見せやしない。

怒りは特に。

判断を鈍らせるからねぇ。

さっきの僕みたいに。

怒りで戦争には勝てない。



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