vol 47:愛のかたち




「ヘラよ、そなたは誰よりも美しい。」



私が下界へ人々を助ける為に降りると決まり、
父はとても悲しんでおられた。

神もまた人と同じ、心や感情がある。

神を真似て人間が創られたのだから当然だ。

ある日、私が神殿の廊下を歩いていると窓から声が聞こえた。

窓から外の庭を見ると、そこには父と、
女神のヘラが二人で話をしている。
立ち聞きするつもりもなかった為、そのまま行こうとすると、
子供の話が聞こえてきた。

「息子が下界に降りる間、私は寂しく、
また、息子の苦しみを感じなければならない。
それはとても悲しいのだ、ヘラよ。」

「あぁ、神よ。貴方の悲しみなど私が癒せれば・・・。」

父もヘラもとても切ない表情をしていた。
ヘラは、女神の一人で、その美貌は女神一とされている程。
少々気が強いとの話も聞くが、父の前では心優しい女であった。

「主よ。」

背後からガブリエルに声を掛けられ、振り向いた。

「貴方を宿す女が決まりました。」

「えぇ・・・直ぐ行きます。」

ガブリエルの話を聞く為に、その場を後にする。
それから時間も過ぎ、私は庭から聞いたことをすっかり忘れ、
部屋で書き物をしているところに父が現れた。

「息子よ。」

私は手を止めて入口に立つ父に顔を向けて微笑んだ。

「如何なされましたか。」

すると父は笑みを浮かべて私に近付き、私の両手を掴み、

「お前に妹が出来たのだ!。」

それはそれは嬉しそうな顔をし、私の手を引き立たせ、

「最高の美貌の女神が創った私の子。お前の妹。」

父が入り口を見ると、ヘラが白い布に包まれた赤ん坊を抱いて現れた。

「主よ。貴方の妹ですよ。」

ヘラが笑んで私に告げる。
私は父の手を離してヘラに近付き赤ん坊を見た。
真白い肌にふくよかな頬。
小さな唇で金色のクルクルとした髪。
それはまさに天使のよう。

「なんて可愛い。父よ、私は嬉しくて堪りません。
抱いてもよろしいでしょうか?。」

そう言って赤ん坊をそっと抱いた。
創られたばかりの赤ん坊はスヤスヤと眠り、
この私でさえ、今から下界に行きたくないとさえ思わせる。

「この子の名は?。」

「天の子だ。私の娘、お前の妹の天の子。」

そしてヘラが言う。

「そして・・・私の子。」

父は言う。

「天の子は、そなたの子ではない。ヘラよ。」

父ははっきりとそう告げた。

「なにを申します!この子は私と貴方との子供ではありませんか!。」

その張り上げた声に驚いたのか、天の子がシクシク泣きだした。

「おぉ、可愛や娘。・・・ヘラ、部屋を出て行くがよい。
我が娘を泣かせる事は許さん。」

「お父様・・・。」

私は妹を抱きながら、父の名を呼んだ。

「神よ!。」

その言葉に納得のいかないヘラは再び声を上げる。

「ふぇ・・・ふぁふぁ~!。」

妹は私の腕の中で涙をポロポロと溢れさせながら泣き、
父は憤怒の形相をヘラに向け、

「ヘラ!神の言いつけが聞けぬというのかっ!。」

「聞けませぬ!その娘は私の子。」

「お前の娘では決してない。出て行けっ!。」

父の怒りに神殿は揺れ、ヘラも神の怒りの恐ろしさに、
部屋を出て行ったのだ。

「天の子よ、怖かったのか?大丈夫、お前の兄とお前の父はここにおる。」

そう優しく妹に告げると妹は泣きやみ目を開けて私を見つめる。
ヘラと父の言い合いに私の心はザワつくも、
妹の無垢な瞳を見れば可愛さが溢れ妹に微笑んだ。

「息子よ、苦行は辛く悲しく痛みも伴う。
彷徨う者たちの誘惑もあるだろう。
だが、お前は一人ではない。
父も妹もお前を見ていることを忘れるな?。」

「・・・お父様。」

「・・・うむ。」

私は、自分の仕事の大きさに不安で堪らない気持ちを、
冷静に落ち着かせていた。
しかし、父の言葉は私を弱くさせ、また、強くさせたのだ。
父と妹と抱き合い、父のはからいで今夜は妹と一緒に寝る事となった。





(その後、ヘラは天の子は自分と神の子だと言い張るも、
神に認めてもらえず、神の怒りをかい、天界から追放されたのです。)

「けど、それって・・・神が悪いんちゃうん?。」

だって、ヘラが創った事は事実や。

(そうですね。神も言い方が・・・。
あの方は誤解されやすい性格ですから。)

主は眉尻を下げて目を閉じた。

(ヘラは父を愛していた。父は娘をただ、女神一の美貌を娘に与えたかった。
その違いなのだと思います。)

「・・・俺は、ヘラが可哀想って思います。」

大樹が切なそうな表情で口を開いた。

「神は理由を言って創らせたんじゃないんでしょう?。
美しいとか言われたら、口説かれたと思ってもしかたないよ。」

純粋で優しい大樹ならではの思い。

「カンはどう思う?。」

大樹は俺に話を振ってきた。

「・・・人間みたいに性的な行為があって、
ヘラの腹から生まれたんやったら母親やって思うよ。
でも、血が繋がってるんはパパの血だけや。
兄ちゃんの体にもパパの血が流れとる。せやから実の兄やと思う。」

俺は汗ばんだ手を布団に擦りつけ、顔を顰め、

「ただ・・・このままやったらヘラは惨めや。
誤解を解いて女神として天界に・・・。」

(それは出来ない。)

主は賺さず答えた。

(彼女の罪は重い。)

罪?。

「罪?罪ってなん?ただ、自分の子や言うただけやん。」

(その後が問題なのです。
サタンと共謀し、多くの人間に手を掛け地獄を創り、
神に反逆した罪は大きい。)

「そんな・・・それじゃヘラが。」

(大樹の気持ちもカンも気持ちも解ります。
ですが、天界は甘くはないのです。)

サタンの顔が浮かぶ。
あいつが誘ったんやったら、あいつが悪い。

「俺、地獄に行ってくる。」

主は悲しく俺を見つめ、大樹は目を見開いた。

「駄目だ!地獄になんて行かせない。」

「俺と会ったらヘラの気も治まるかもしれん。」

(いいえ。ヘラはお前を自分の元におきたがるでしょう。
サタンもまた、お前が欲しいはず。)

この話は尽きへんって俺は感じた。

主は今、闇の力の犠牲者で天界が忙しいって言うて、
俺にくれぐれも無茶と早まった行動はすんな言うて消えた。

部屋には大樹と俺。

大樹は立ち上がってベッドに座る俺の横に座って俺の手を掴んできた。

「カン・・・俺はヘラの気持ちが解るよ。」

「は?。」

「愛しい人にあんな事言われたら、誰だって誤解もするよ。
愛しい人と土を捏ね、愛しい気持ちで子供の形を創る。
カンはヘラにとって自分と神との子供なんだ。」

確かに、大樹の言うことも解る。
解るんやけど・・・。

「俺はヘラのこと、母親なんか思われへん。」

大樹は俺の手を離した。

「カンは・・・本当に愛した事がないから解らないんだ。」

その言葉と低く呟く声に俺は無性に寂しさと腹立たしさに襲われ、

「それってなんやねん!。」

大樹は俺を見て叫ぶ。

「だってそうじゃないか!俺はカンを愛してる、
でもカンはどうなの?本気で俺の事愛してるの?!。」

この・・・アホぉ・・・。

「俺が男のお前に抱かれてんのに、ようそんな事言えるなぁ!。」

俺はそんだけお前の事を愛してるのに。

「抱かれてるって何?。
ほら・・・俺が抱く事につき合ってるだけじゃないか。
俺はカンが本気で俺を愛してくれてるのかいつも不安なんだ。」

以前、学校の屋上でパパが俺達を見て雷を落とした事があった。

痛いくらいに雨が打ちつけて、俺は大樹を濡れないようにって・・・。

「なんやねんそれ・・・。お前の気持ち、よう解ったわ。」

俺はベッドから立ち上がり、顎を上げて目を細め大樹を見下ろした。

「もう、2度とお前に抱かれへんし、お前に会わへん。
大樹・・・出ていけや。」

大樹は俯き、

「・・・君もやっぱり神の子だね。
自分勝手で・・・我儘で・・・。」

「・・・喧嘩うっとんのか、大樹。」

怒りに身も心も任せた俺に、
大樹は立ち上がってそのまま部屋を出て行った。















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