12.ピアノの嫁入り


アップライトピアノの重量はニ百数十kgあるが、木がピアノ全体に占める重量の割合は54~57パーセントである。そのピアノに使われる主な木材はスプルース(松)と楓である。なぜ、スプルースかというと、スプルースは、楽器部材の中で一番比重が小さく、音響伝播速度が速いからだという。比重が小さいということは音波を増幅するのにロスがないということである。楓はスプルースと比べると伝播速度はわずかに劣るが、伸縮率が小さいので響板のように湿度対策のためにニスを塗れない駒に適している。また、ピアノには柾目材が使われる。木材は生木の状態で含水率が60%以上あり、柾目に切り出された木材は約10年かけて天然乾燥され18~20%まで含水率を下げる。まったく、木の特性を生かした使い方である。

 我が家にアップライトピアノが来たのは、娘が10歳(小学校4年生)のときだった。型式はKAWAI KS-1A、製造販売は1985年以降、製造番号M1150029。品質保証書をみると、「1985年(昭和55年)3月26日、川越のYさんに納入」となっている。その後上福岡のHさんに引き取られ、1995年(平成7年)5月10日に我が家が引き取られた。ピアノを習い始めた娘が、教室だけでは練習時間が足らず、たまたま市の広報に載っていた「ピアノ譲ります」をみて頂いたものである。娘が就職してアパート住まいになると、家ではピアノを弾く人がいなくなり、そのピアノは音を出さなくなった。もう随分我が家でピアノの音を聞いていない。あれから19年、弾く人のいないピアノは娘の成長そのままに、部屋にあった。

 平成25年暮、押入れにしまいこんでいたVHSテープを出し、DVDにダビングを始めた。VHSテープの保管状態が悪くカビが生えていたが、女房とVHSテープをばらし、アルコールでカビを拭きながらダビングして、娘の4,5,6年生のときのピアノ発表会も見ることができた。

 小学校等に無償で寄付したい気もあったが、搬出、運送、調律を考えると譲り受けるほうも安くはない。ひとつの区切りかと思い、ネットで4つのピアノ回収業者に当たった。引き取り価格は、16,000円、18,000円、25,000円、33,000円。結局一番高かった33,000円の業者に引き取ってもらった。2014年(平成26年)1月16日、運送業者に引き取られていった。ピアノが置いてあった空いた部屋のスペースを見ていると、今まであったものがなくなった感じがしんみりと湧き上がってくる。今年娘も嫁入りすることになった。春はまだ先の晴天の日、一足先に娘のピアノが出て行った。