1.なぜ樹木を見分ける(名前を知る)ことが難しいか

 これはあくまで私個人の考えなので、ほかの方々とは意見が異なるかも知れない。この春から樹木に関心を持ち、樹木の名前を知りたいと思ったとき、樹木図鑑とも言うべき参考文献を購入したにもかかわらず、どんなことで困ったか、そして楽しみを維持していったかを話してみたい。
 樹木を見分けることを目的とした本には、樹形、樹皮、枝振り、葉、花、実の写真や解説があるが、ページ数の制約でそれほど同一の樹木にたくさんページを割くわけではない。花が咲いたり実がついたりすれば比較的断定しやすいし、ユリノキのように葉を見ればそれだけで断定できるものもある。しかし、一般的に同一の樹木でも一様ではないことである。
 「これは何の木」と断定的に言えるのは、その樹木の特徴が数点合致してはじめてできることで、それでもうっかりすると間違うこともある。最近は街路樹や公園の樹木に名札が付けられることが増えてきた。日本人は活字に弱いから信じやすいかもしれないが、これとても必ずしも正しいとは言えず、時折間違った名札がある。

08.10.29銀座

樹木札はヒイラギモクセイだが、葉っぱが四角でこれはシナヒイラギの葉っぱの形。ヒイラギのように葉が突起する樹木には、ヒイラギ、ヒイラギナンテン、ヒイラギモクセイ、アメリカヒイラギなどがあるので、単にヒイラギとも言えない。

08.10.29五反田

これがヒイラギモクセイで、ヒイラギとモクセイの雑種。ヒイラギはモクセイ科に属し葉は対生であるのに対し、シナヒイラギはモチノキ科に属し互生である。

 樹木の見分け方で一番大切なことは何か言えば、当然樹木の知識は必要であるが、なによりも「観察力」であると思う。私は少々目が悪い(近視だったが最近は遠視も入ってきた)ので、これがカメラのピンボケの原因とは言いたくないが、高木だと葉の細かいところまで見ることができないし、葉を手に入れることもできない。せめて落ち葉でもあれば思うときれいに掃除をされていたり。ともかく、じっくり観察し、その特徴から本やインターネット(結構樹木事典的なサイトはたくさんある)で確認して「ああ、やっぱりこれだ」という繰り返しである。人間だって自分の名前を間違って呼ばれるといい気はしませんよね。

(注)参考文献からの説明は『』で表記し引用を示す。

(1)木は育っているということ


09.01.11成田 よく街でみかけるスダジイの場合、本によると『大木、老木の樹皮は縦に深いひび割れが入る』と説明がある。街で見かけるスダジイが、ひび割れが入るほど成長したスダジイなら大木の部類であるが、多くは若木であり樹皮にひび割れはない。また、あの硬いギザギザの葉を持つヒイラギも、『若木の葉縁には先のとがった歯牙が2から5対あるが、成木の葉縁は全縁(ギザギザがない)』となる。横道にそれるが、このヒイラギの話は人間に似て面白い。こうした人間に通じる点はほかにもいくつか出てくる。幹が両手でつかめるくらいの木と、両腕でも抱えきれない大木では樹皮も違ってくるものもある。当然樹木は長い年月をかけて育っている。育つということは変化しているということで、人間でも同じだが、若木と成木、老木の違いがあるということである。

(2)木には四季があるということ

 木には落葉樹と常緑樹がある。当然のことながら、落葉樹は、春若葉が出て、夏に生茂り、秋に紅葉し、冬には落葉する。写真に収めるのは、ある瞬間の季節の姿でしかない。ケヤキはあの箒をひっくり返した樹形から、葉がすっかり落ちた樹木でも分かり易いが、落ち葉さえないと葉のない樹形、樹皮、枝振りからだけで樹木名を推測するしかない。
 また、花が咲く時期、実がなる時期だと分かりやすくなる。ただし、これは比較的短い時期である。写真を撮る時期が樹木のある一瞬の時期なので、写真には撮影年月日が欲しいのはこのあたりだろう。

(3)木には仲間がいること


 ふじみ野市の保存樹で「シイ」という名札があり、これにはうなったことがあった。また、昔から「カシ」もよく聞く。どちらもブナ科で、ブナ科の樹木はどんぐり(堅果という)を作る。「シイ」とつく樹木には、スダジイ、マテバシイ、ツブラジイ、オキナワジイ、「カシ」がつく樹木には、ウバメガシ、アカガシ、イチイガシ、アラカシ、ウラジロガシ、シラカシ、シリブカガシ、ツクバネガシ、ハナガガシ、オキナワウラジロガシとある。こんなの聞くと絶叫ですが、あせらずゆっくり特徴を区別していくしかない。やっぱり市の保存樹くらいになれば「XXXXシイ」と書いて欲しいと思うのは私だけだろうか。
 また、違う木だがマテバシイとタブノキのように、区別しにくい木もある。先日も「これはタブノキかな」と思ってよく見るとどんぐりがついていて、マテバシイと分かった。話は違うが、プラタナスという名前は一般的で、これを和名はスズカケであるが。日本の街路樹でよく見る木は「モミジバスズカケノキ(別名でカエデバスズカケノキ)」で、これはスズカケノキとアメリカスズカケノキの交配種、葉っぱの切れ込みもそれらの中間である。小石川植物園に行くと、このスズカケ、モミジバスズカケ、アメリカスズカケが同じ場所で一緒に見られる。

(4)木は切られてしまうこと

 これは街路樹や垣根で見られることだが、育つままにできずにある周期で剪定される。よく街路樹で使われるプラタナスは剪定されてもあのまだらな幹からそれと分かるが、剪定によって、まず遠くから見た樹形が違ってくる。また、剪定によって本来実を結ぶべき実がつかないことがある。この木はどうみてもシラカシのはずだがどんぐりがつかないと悩んだり、剪定によってその樹木が持つ特徴が出てこないことがある。反対に小石川植物園のように育つままにしてあると、よく街で見かける木と違った感じがするだろうと思う。

08.11.02上福岡

街路樹は樹木の葉が伸びすぎても邪魔になるので剪定が行われる。剪定はかなり思い切った形で行われ、樹形の元の形さえ残さない。プラタナスは葉が切られても樹皮のまだらで比較的見分けやすいが。

08.10.21品川

ここまで剪定されるとあとは樹皮から推測するしかないが、樹皮からするとクスノキだろうか。

(5)木には園芸種(品種改良種)があること

 桜、つつじ、梅、モミジ(かえで)等々特に美しい花を咲かせる樹木には、いろいろな園芸種(品種改良種)がある。いまでこそ多くの日本人は桜といえば「ソメイヨシノ」だが、これとても江戸末期から明治初期に、江戸の染井村、現在の東京都豊島区駒込の植木職人達によって作った品種改良種(コマツオトメとオオシマザクラの交配)である。園芸品種は里桜と言われ、数限りなくあるので名前さえ覚え切れない。また、花が咲かないと区別は難しい。当分は「ああこれは桜の園芸種でしょう」とお茶を濁すしかないであろう。
 坂東33ヶ所札所の第九番慈光寺には、わずか3kmの参道に20種類の桜がある。あのときはカメラを持たずに行ったので、来春にももう一度行ってみようかと思っている。

(6)木は地域差、環境差、個体差があること

 同じ樹木でも育つ地域、環境によって葉の大きさなどに違いがある。また、個々の樹木ごとに多少の個体差が見られる。やはり、樹木は一様ではない。

08.10.29品川

典型的な街路樹のケヤキ、すっと伸びて逆さ箒のように幹分かれする。

08.10.29品川

木の途中から枝分かれと思っていると、同じケヤキでも根元からすぐ幹分かれもある。