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vol 45:闇の理由
「サタン、あのお方がお呼びだ。」
「そう。行くよ。」
僕と同じ、堕天使になったアザゼルが呼びに来た。
アザゼルは、神の命令で下界に降りたが人間に恋をしてしまい、
神の知恵を人間に教え、その為に人間の男は戦いを学び、
人間の女は着飾り男を誘惑することを覚えた。
神は怒り、天界から追放し堕天使となった奴だ。
人間界で奥さんも死に、神次第の命の僕達は簡単に死ねる事も出来ない。
アザゼルは彷徨ってたところを、僕が地獄へと誘った。
彼は迷いながらもついて来た。
「なんの用だい?。僕も忙しいんだけど。」
決まった奴しか入れない部屋に行き、別に忙しいわけでもなかったけど、
忙しいと嘘をついた。
「サタン・・・嘘はつかないでちょうだい?。」
柔らかい音色でベッドに横たわっている女がいる。
人間の容姿だけど、肌は鱗で覆われていて両足は無く尻尾になっている。
彼女は嫉妬に狂った女。
人間の女の象徴。
今はこんな姿だけど、昔は女神一の美女だった。
僕よりも位は高く、神の一人。
僕がサタンになったのは彼女と共謀するため。
憎しみや嫉妬が似てたから。
「サタン、天の子と話がしたいの。」
僕は柱に背中を預けて自分の髪を指で弄る。
「それはまだ無理だね。」
「どうして?。」
「貴女は自分では下界に行けないでしょ。
僕の体に入られるのも、僕が疲れる。」
彼女の体は嫉妬と怨みが支配している。
自分でもコントロール出来ない厄介な体。
僕は力があるから、まだ体内にとり憑かせても気力の消耗で済む。
力のそんなに無い悪魔に憑かせたら、憑かれた悪魔の体は彼女に支配され、
無になってしまう。
元は神。心優しい女神だから、その時に深く傷ついてしまうんだ。
「では、天の子を見ていたい。」
「・・・見てどうする気だい?。あの子は誰の子か解ってるんでしょ。」
「だからこそ、見ていたいの。」
彼女の声は震えている。
「あの子は私が作った子なの。私が母親。
じ・・・自分の子を見て、な、何が悪い・・・の?。」
始まった。
ベッドがガタガタと揺れだし、彼女の長い白い髪が舞う。
両手で顔を覆ってはいるも興奮して目が大きくなっている。
僕はベッドに近付いて腰かけた。
「必ずまた逢わせてあげる。あの子も貴女に会いたくなるはず。
この場所に連れて来てあげるから・・・もう少し待ってください。」
彼女の尻尾になってしまった足に触れると、僕の指先から腕まで鱗が生える。
まるで呪のように。
「うぅ・・サタン・・・憎い、あの人が憎い。」
鱗は僕の顔まで感染していく。
「落ち着いて。だから、今から憎いあの人に悲しみを。
そしたら、あの人も気付くはず。貴女がどれ程あの人を愛しているか。」
彼女はこの言葉に弱い。
愛されたいから。
「・・・そう、ね。・・・そう。」
彼女の髪がバサッと垂れ、興奮も治まった。
僕は尻尾から手を離し、立ちあがる。
「天の子が貴女に会いに来るように、既に機会は与えてある。
引きずって連れて来ることは僕もしたくないからね。」
彼女は乱れた髪を指で梳きながら笑みを浮かべた。
「えぇ。そうね。楽しみだわ。」
「誰か、話相手でも呼ぼうか?。」
「いいえ。少し寝るわ。あの子が来た時にこんな姿見せたくないもの。」
「わかった。」
僕は部屋を出る。
肌はすっかり鱗まみれになっているも、少し力を入れれば、
体の鱗はボロボロと床に落ちていく。
「結構キてるな。」
彼女に暴れられると厄介だし、どうするか。
「どうだった?。」
アザゼルが問い掛ける。
アザゼルは僕も認める程、良い奴だ。
柔らかな物腰で相手を安心させる。
「どうもこうも。限界に近いみたいだねぇ。」
「・・・どうする気なんだ。」
「どうしようかな。とりあえず、
ここで暴れられたら大惨事になることは確か。
下界に行ってくる。後の事は任せたよ、アザゼル。」
「・・・あぁ。」
アザゼルに任せて僕は下界に向かう。
天の子にはこの前、風を吹かせてはおいたけど、
必死で気持ちを押し殺している。
「さ、サタン!。」
「いやぁ、悪いね、こんな遅くに。
まだ、起きてるのかい?。」
夜中の2時にカンの部屋に姿を現せた。
「な、なんの用や!。」
飛び起きて両手をボクサーのような構えをして僕を威嚇する。
「アハハ、何も。ただねぇ・・・この前の話。」
「この前?。なんやねん。」
「ほら、君のママの話。」
僕は床に座り込んだ。片膝を立てて座って自分の髪を弄る。
落ち着くんだよねぇ、これ。
「ま、ママって、そんなん知らんわっ!。」
「君は天の子。天界の子。父親は天界の神。
だったら・・・母親も存在する。」
天の子はベッドの上で僕に惑わさせないように必死でいる。
「君は土で作られた。天界のとても清められた聖域の土で。
命の水を与えられ、神が自分の血を土に流して君が創られた。
チビ神だっけ?。あの蛇の子は滅多に現れない存在。」
「ち、チビ神は違うんか?。」
話にくいついてきた。
「天界やあの世で神々が実際に腹から子供を授かるのは、
滅多にないことなんだ。
あの蛇は、大神が神と交わり産んだ子。」
「し、白蛇神はっ?。」
「しろ?。」
「チビ神の後に生まれた白蛇や。」
「あぁ・・・彼は違う。元は人間の水子を引き取っただけ。」
天の子は複雑そうな顔をしている。
「主も、君と同様に創られた。僕等、神使いは土と水で創られた。
人間は埃で。その埃が今は自分たちで繁殖してるってわけ。」
「そ、そんなら・・・俺はパパに創られたんやから、母親なんかっ。」
「その時にね、神は同じ神の女性に恋をした。
その女性は君の顔や髪を作り、君は彼女の手で創られたんだ。
母親以外、なんでもない。」
天の子は顔を顰めたまま伏せ目がちになった。
面白いねぇ。まぁ、事実の話。
「彼女は今病に侵されていて・・・我が子に会いたがっている。」
「・・・。」
「体を病に蝕まれ必死に闘ってるんだ。」
「・・・。」
「会ってあげなよ。母親に。」
「っ!。」
天の子は俺に枕を投げてきた。
その枕を受け止め天の子に投げ返す。
「何?。枕投げかい?。」
クスクス笑う僕に睨む目はやめない。
「そんなんで、騙そうとしたって騙されへん!。
帰れやっ!。」
「これは嘘じゃないよ?。嘘だと思うなら確かめなよ?。
君の母親は地獄にいる。」
「な、なんで地獄やねん!。」
「地獄を作ったのが君の母親だから。」
僕はそれだけを言って姿を消した。
ふふ・・怒りよりも僕に対しての恐怖がすごいね。
可愛いなぁ。
人間界の世界の乱れの裏に、
愛情を取り巻く裏筋があるなんて人間達は全く知らない。
僕たち悪魔は愛に弱い。
それは何故だか解るかい?。
僕たちはそれで辛く悲しい想いをしてきて悪魔になったから。
また、そんな想いになるのが怖いから。
僕たち悪魔程、か弱い生き物はいないんだよねぇ。
ただ、それは上級の堕天使たちの話で、
下級の悪魔達は根っからの悪の持ち主。
愛を知らず、愛を妬み、愛を必要としない。
僕たちの地位を奪いたい奴らばかりになってきた。
地獄でも、いつ反乱が起こるか解らない。
僕はただ、神に思い知らせたいだけ。
結果、地獄がどうなろうとも構やしない。
人間まがり悪魔など、僕たち堕天使には勝てはしない。
堕天使は神に近い力を持っているから。
神も神使いも人間も悪魔も、馬鹿だねぇ。
さて、天の子が地獄に来るのもそう時間はかからないだろう。
一人で来るとは思えない。
蛇の子も連れて来るに違いない。
まぁ、蛇の子は力は悩ましいものの、あの性格じゃ、
簡単に僕らの仲間になるだろう。
クフフ・・・高みの見物といこうじゃないか。
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