vol 38: 阿修羅




俺にはとても親しいあの世の友人がいる。
この世で今は仏教で火の神・太陽の神として祀られるようになったが、
古代インドでは魔神アスラとされていた。

阿修羅は男で元々は天部の神。
阿修羅は正義を司る神といわれ、帝釈天は力を司る神といわれる。
阿修羅の一族は、帝釈天が主である国に住んでいた。
また阿修羅にはシャチ-という娘がいて、
いずれ帝釈天に嫁がせたいと思っていた。
しかし、その帝釈天はシャチーを力ずくで奪った。
それを怒った阿修羅が帝釈天に戦いを挑むことになった。
帝釈天は配下の四天王などや三十三天の軍勢も遣わせて応戦した。
戦いは常に帝釈天側が優勢であったが、ある時、阿修羅の軍が優勢となり、
帝釈天が後退していたところへ蟻の行列にさしかかり、
蟻を踏み殺してしまわないようにという帝釈天の慈悲心から軍を止めた。
それを見た阿修羅は驚いて、
帝釈天の計略があるかもしれないという疑念を抱き、撤退したという。

と、まぁこんな感じでこの世には言い伝えられている。

でも、この言い伝えは違う。
阿修羅は女の子や。
俺が天界におった頃はチビでミルクティーベージュ色でクリンクリンの髪型。
阿修羅もチビでストレートの髪の長い黒髪の女の子。
俺らの出会いは、俺が黄泉の国にお忍びで遊びに行ってた頃。
下界の下にある六道という国の中の1つ、
修羅道という終始戦い、争うとされる、
苦しみや怒りが絶えないが地獄のような場所ではなく、
苦しみは自らに帰結するところが大きい世界に居た。

居たというよりは閉じ込められてた。

幼い女の子とは言え、元々の持つ力は地獄の炎を操ることが出来、
下界に出ると下界へと通じる魔界の門の鍵とも言われていて、
神々が誰もコンタクトが出来ないように修羅道を作って閉じ込めた。
俗に言う、戦いの鬼神の存在でもあったんや。

阿修羅は修羅道の中で一人。
誰とも話すことも許されない。修羅道の門には大きな鍵がついていて、
それを開けられるのは、力を司る神、帝釈天のみとされていた。



「なんや、変ぴな場所に来てもうた・・・。」

天の子の俺は歩き回ってるうちに下界の下の世界にまで足を運んでた。
薄気味悪い空気、灰色の景色。
キョロキョロしてたら目の前に大きな錠前のついた門が現れた。

「な、なんやコレ・・・でっかい門や。」

遥かに高く聳え立つ門を見上げる。
あの頃の俺は純粋過ぎて好奇心も半端やない。
門の中が見とうて堪らんかった。
俺は人の形を光に変えて門の隙間から中に入ろうとしたけど、
大きな力の気が門全体に張り廻らされてて中に入る事が出来ん。

「ふんぬぬぬ!。」

それでもあきらめる俺ではなくて、この世で言う3日間、
ずっと光の姿で気の壁を貫こうと必死やった。
俺の全エネルギーを振り絞って体当たり。
錠前はそのままやけど、3日間の強いエネルギーにとうとう気の壁は、
張り裂けた。

「うわぁっ!。」

隙間から光で中に落ちると人の形になり地面に転げ落ちる。
気の壁のせいで顔や腕、膝は傷だらけ。
エネルギーも使い過ぎて体が若干透明化しとる。
辺りを見渡すと驚いた。
外からはあんなに大きい門やったのに、中は暗くて穴の中みたいや。
狭いなんもない穴ん中。
俺はその光景にハテナと顔を顰めた。

「あなた・・・誰?。」

後の方から声がしたから振り向くと、俺と変わらんくらいの、
女の子が蹲ってた。
顔は泥だらけで、両手首両足首に鎖を巻かれてて。

「お、お前・・・どないしたん?。」

幼い女の子の、異常なぐらいの哀れな状態に驚きを隠せない。

「あたしは阿修羅。あなたは誰?。」

「・・・天の子。天界の国の神の子や。」

「天界・・・。ねぇ?どうやって中に入れたの?。」

女の子は不思議そうに問い掛ける。

「結構な時間かけて気の壁破ってんけど・・・罪人か?お前。」

その言葉に阿修羅は顔を曇らせた。

「あたしはここから出たらダメなんだって。
災いを起こしてしまうから。」

「ふーん。災い起こすん?。」

阿修羅の前に座り込んで傷ついた腕を舐めながら話す。

「あたし・・・わからない。」

「・・・わからんて、自分の力わからんの?。」

「うん。生まれた時からここに居るの。」

その言葉に目を見開いた。

「は?生まれた時からって・・・なんそれ?。」

「・・・。」

「この穴ん中に一人でずーっとおったん?。なんで出られへんの?。」

「知らないの。話をしたのは、あなたが初めてよ?。」

阿修羅は眉尻下げて嬉しそうに笑んだ。
俺は阿修羅の鎖に手を伸ばして指を触れさせた。

「重そうやなぁ、これ。外れんのか?。」

「うん。帝釈天様の力で封印されてるから。」

「帝釈天?。」

「ここを守ってる人。」

「守るって何から?。」

「悪魔や人間から。」

俺には、さっぱり理解出来んかった。
なんで、こんな女の子がこんな扱いされてるんか。

少し悩んでみたし考えてみたけど、どう見ても、どう考えても、
どう悩んでも、この子が災いってのが気にくわん。

「・・・なにしているの?。」

俺は入口の壁に向かって突進する。
突進する度に跳ね返される。

「っつ~。」

エネルギー不足で体力が無さ過ぎ。

「ねぇ、天ちゃん?。」

「て、天ちゃん?。」

「うん。天の子だから。」

恥ずかしそうに笑みながら俺にあだ名を付けて呼ぶ阿修羅。
俺は嬉しくなった。

「なん?。」

「うん。そんなことしても・・・開かないよ?。」

そうか、この子も試してみたんやな。

「う~ん。せやけど、あきらめたないねん。
阿修羅ちゃん、外のな、黄泉の国って国、めっちゃ綺麗ねん。」

「黄泉の国?。綺麗?。」

「うん。せやから・・・阿修羅ちゃんに見せたいねん。」

俺は何度も何度も突進した。

「天ちゃん・・・体が・・・。」

俺の体は半透明から殆ど透明になってしもうた。
倒れそうなくらいにしんどい。

「はは・・・エネルギーが無くなってきた。」

辛そうに笑うと座っていた阿修羅が立ちあがり、ジャラジャラと、
音を鳴らしながら近付いて来て、

「えいっ!。」

掛け声を上げながら不自由な体で壁に突進しだした。

「阿修羅ちゃん・・・。」

「天ちゃんと一緒にお外に出たい。綺麗・・・見たい!。」

何度も突進し、鎖の手足は痛々しいくらいに傷ついている。

「阿修羅ちゃん・・・待って。」

「はぁはぁ・・・え?。」

俺は両手を胸の前で組み両膝を地面につけた。

「パパ・・・兄さん・・・天界のみんな・・・助けて。
お願い!。」

最後の力を使って最後の光を放った。

「きゃ!。」

眩しい白い光は天井を突き抜け上へ上へと射す。

「天ちゃん!。」

俺の体は小さな小さな弱い光の粒になった。

「天ちゃん!天ちゃん!。」

阿修羅が俺を小さな両手の上に置き名を呼ぶ。
天ちゃんか・・・初めてのあだ名。
力が無くなって話すことすら出来んようになった。

どれくらい経ったやろうか・・・。

ガチャガチャと錠前の開く音がする。

阿修羅は俺を両手のひらに置いたまま隅で蹲る。

ギィィィーっと重い音がして入口が開くと、
ちょっとゴツめの若い男が中に入ってきた。

その後ろから俺の兄、主の姿。

「天の子よ・・・。」

主は阿修羅に近付こうとした時、阿修羅はキッと鋭く睨みつけ、
体全体から真赤な炎が噴き出た。
これが阿修羅の力。

「阿修羅っ!。」

ごっつい男が怒りを込めて名を呼び、武器のような物を阿修羅に向ける。

「天ちゃんを傷つけさせない!。」

阿修羅の眼球は赤く染まり、俺にも伝わる怒りと悲しみ。

主は阿修羅の前にしゃがみ優しく微笑んだ。

「阿修羅、その子は私の妹なのです。
早くエネルギーを与えてやらないと、無になってしまいます。」

「・・・。」

「無とは死。・・・死んでしまうのです。」

主は笑みから悲しみの表情に変わり炎の中に手を入れた。
阿修羅は死の言葉に眉尻下げて怯えている。

「大丈夫。怖がらないで。貴女に何もしません。」

主が俺の上に手のひらを翳して目を閉じた。
すると、手のひらから光の筋が俺に向かって放たれ、俺の小さな光は、
どんどん大きくなっていった。

俺のエネルギーは蓄積されて大きな元の光になり、

「兄ちゃん!ありがとー!。」

俺は阿修羅から移動して人に姿を変えると主に抱きついた。

「はぁ・・・本当に世話のやける妹だ。」

主は笑みながら俺を抱きしめた。

「天界の神。この問題は大きいですぞ。」

ごっつい男が後ろからドスの効いた声で言う。

「帝釈天よ、ご迷惑をお掛けしましたね。」

帝釈天!。

主から体を離して帝釈天の睨みつけた。

「お前・・・お前が阿修羅を閉じ込めた奴か。」

「お、お前?。」

帝釈天は俺の言葉に顔を顰めた。

「天ちゃん・・・。」

俺を止めようと阿修羅が立ちあがろうとしたところを、
主が笑んで阿修羅の手に触れて止まらせる。

「女の子をこんな場所に閉じ込めて・・・それでも神か!。」

「何を無礼な!。阿修羅は禁断の子。魔神だ!。
閉じ込めておかなければ、災いを呼び起こす子なるぞ!。」

「はっ!。笑わせるな!。魔神の前にこいつは女の子や!。
閉じ込めるんやったら、閉じ込め方っちゅーもんがあるやろが!。
お前も一回、赤ん坊の頃から閉じ込めたろか!。」

「ぬぅぅぅぅ!言わせておけばっ!六牙白!。」

入口から白い牙の生えた大きな象が中に入って来た。

「天ちゃん!気をつけて!。」

俺は近付いて来た象に目を見開いた。

「グヌゥゥゥ・・・。」

象が唸り声を上げる。

「ぞ・・・ぞ・・・。」

「自分の無礼さを身で感じるがよい!。」

帝釈天の言葉に象が両足を上げて長い鼻を振り回す。
俺は象に向かって走り、

「天ちゃんっ!。」

「象やぁああ~!。」

「え?・・・。」

象に向かって走り像の鼻に跳び付いた。

「なっ!。」

帝釈天は目が点。

「おやまぁ。」

主は笑顔。

「あはは!めっちゃ可愛い~!。象や!象やぁ!。」

俺は超笑顔で象の鼻に抱きついたまま硬い皮膚に頬擦り。

暴れる象の目を見つめた。

「なんで暴れてるん?。敵なんかどこにもおらんやないか。
お前の目で確かめてみ?。」

暴れる象の目をジッと見つめる。

「そんな・・・まさか・・・。」

象は動きをゆっくり止めると鼻を俺の腰に巻き付け、
自分の首に俺を乗せた。

「あはは。お前、飼い主より賢いやん。」

象の頭をポンポンと叩き阿修羅に目を向けた。

「阿修羅ちゃん、象やで。」

「・・・うん。」

阿修羅は眉尻下げて笑みを向ける。

主が鎖に触れてから重い封印された鎖をスルスルと外しはじめた。

「何をするか!天界の神!。」

「まぁまぁ。ほら、阿修羅、象に乗せてもらいなさい。」

「・・・。」

阿修羅はどうしていいのか解らない顔をして主を見つめた。

「ほら。」

主はニッコリと笑む。

「・・・うん!。」

「あ、阿修羅!。」

阿修羅は象の鼻に抱きついた。
すると象は阿修羅の腰に鼻を巻き付けて頭上に持ち上げる。

「来た来た!。」

「うわぁ~。高いね、天ちゃん。」

「うん!。」

怒りに身震いしている帝釈天に主が近付き、

「見なさい。あんなに笑って。あの子もまた神の子なのです。」

「その様な事は許されない!。」

「ですが、貴方の象は許したじゃありませんか。」

「・・・。」

「ふふ・・・楽しそうですよ?象も。
象もまた戦の為の生き物ではありません。」

呆れたのか帝釈天の怒りも沈下し、自分の象が楽しそうに、
自分以外の者を背中に乗せている姿に眉尻が下がりうっすら笑みを浮かべた。

「だが・・・この事は問題にさせていただく。」

「ええ。構いません。こちらの戒律を破ってしまった事には、
罰を受けましょう。
ただし、阿修羅の件も問題にさせていただきます。
黄泉の国の神々は幼い子を穴に閉じ込めていた・・・。
これは大きな問題ですから。」

主はニッコリ笑み帝釈天を見つめた。
帝釈天は主の笑みに恐怖すら感じたという。




これが俺と阿修羅の出会い。
この後も、いろいろあったけど、今は阿修羅は自由の身で黄泉の国におる。

(天ちゃん。)

「あんまゴロゴロすんなよ?。」

(ベッドってフカフカだね。)

俺のベッドの上でゴロゴロする阿修羅は、俺と同じ歳格好の女の子に成長。
巫女のような服を着て、俺に会いたくなったらしい。

(天ちゃん、男の子になってるんだもん。驚いちゃった。)

「せやなぁ。人間になってから会ってへんしな。」

(複雑な気分。おんなじ女の子だったのに・・・。)

今じゃ、出会った時の怯えた顔もない可愛い女の子。

「帝釈天は元気にしとう?。」

(相変わらずよ?。六牙白も天ちゃんに会いたがってたわ。)

「そっか。」

(でも、天ちゃんのお仕事の時は帝釈天様も準備してるみたい。
天ちゃんの力になる為にね。)

「俺の?。」

(うん。あたしも。)

ニッコリ笑む表情は可愛くて・・・男の俺としては、ムラムラと・・・。

「阿修羅・・・。」

(天ちゃん?。)

ベッドに可愛い女。
この状況を逃すわけないやん。
俺がベッドに片膝ついて、上ろうとした時、
ガラッと部屋のドアが開いて、

「カ~ン~?。」

ヒクヒクと口端を上げながら大樹登場。

「あ、あは・・あはは・・・いらっしゃい。」


複雑。









              38        次のページ


37話に戻る
戻る

花手毬