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vol 37: 弱み
帰っても頭痛は治らん。
まるで頭に棒が刺さったみたいな想像の感覚。
もう、頭を切り離してくれって思うくらい辛い。
ベッドにうつ伏せに寝る。
横向き、仰向け。
痛みは変わらん。
痛い・・・。
泣きそうになった。
その時、
(グフフ。)
含み笑の様な声が聞こえた。
それに気付くと、痛みは増して奥深くでズキンズキンする。
「なんや!誰やねん!」
声を出して荒く聞くも返事なし。
ムカつく。
「闇の奴やろ!返事くらいせーや!。」
無言でなんや傷めつけられてるような気がして余計に腹立つ。
「あぁ、そうか。闇っちゅーのは陰気臭いもんなぁ。」
俺の発言に食いついてきた。
(お前は痛みに弱い。苦しいだろ?。人間め。)
「こんなやり方しか出来んのか?。姿見せたらえぇやん。」
痛みの中、会話する。
(このやり方がお前、苦しいんだろう?。)
お見通し。
「なぁ。頭痛止めてぇや。」
(止めて欲しいか?。)
「うん。」
(辛いものなぁ。お前の力で噴き飛ばせば?。)
そうか。そのやり方もある。
(噴き飛ばしたらどうなる?。俺は違う人間に同じ事をして、
病に落とし、命を奪う。)
「なっ!。」
(グフフ。・・・これもお前の弱み。)
完全に俺の性格読まれてる。
こんなんどないすれば・・・。
考えれば考える程、頭痛の痛みは増す。
痛い。
涙がポロポロ溢れ出る。
(仲間になれ。)
「・・・。」
(我らの仲間になったら、こんな苦しみはもう無いぞ?。)
甘い言葉。
(神は試練のみで、お前に何もしてくれないだろ?。
俺達は違う。
お前がして欲しい時に直ぐにしてやる。
嫌な事があっても、直ぐに俺達が無くしてやる。)
「・・・くっ。」
その綴られる言葉に心底怒りが込み上げてくる。
こうやって、弱い人間に囁いて誘惑するんや。
俺は感情を抑えられんかった。
カッと目を見開くと体中から光を放つ。
(グエェエエ!。)
闇は光に弱い。俺の光で俺の中に入れなくなり、
唸り声を上げて消えた。
「ハァハァ・・・。」
頭痛は一瞬に消えたも、体はとてつもなく怠るく、
動かない。
そのまま眠る。
朝になり、制服に着替えて完全に治らない体で家を出る。
オカンはなんでか無言。
自転車に跨って通学路を走る。
思考回路停止中。
いつもの時間にいつもの道。
ゴウン。
自転車の後輪が持ち上がった。
「ギャ!。」
慌てて止まって後を振り向く。
小さな子猫が横たわってた。
辺りを見渡しても人もおらん。
俺が・・・轢いた?。
まさか・・・自転車で・・・。
走ってた時、前には何もなかったやん。
急に飛び出して来たんか?。
自転車から降りて、猫に近付くと猫は舌を出して目を開き死んでいる。
初めての事で頭が回らへん。
俺が・・・轢いた?。
(殺した。赤ん坊を殺した。可哀想に。)
俺は目を見開き左右を見る。誰もいない。
(人殺し!。猫殺し!。命をお前は奪った。)
う・・るさい。
(殺した。殺した。)
やめろや・・・。
(殺した。我々の仲間だ。)
「うるさいっ!。」
大声で叫ぶ。
俺が殺した?。猫を・・・殺した?。
(だから言っただろう。噴き飛ばしたら違うところに行くって。)
「っ!。」
俺のせい。
子猫を抱いたまま自転車を走らせた。
学校に行く道にある公園に入り、緑の草のある隅っこに穴を掘って埋めた。
泥だらけの手のまま学校に向かい、もう授業は始っている。
鞄を持ったまま、屋上に行って蹲った。
昼休みのチャイムが鳴ると屋上のドアが開く。
俺は隅っこで蹲ったまま。
「カン・・・?。」
弁当を持った大樹が現れ隅っこの俺に気づき近づいて来た。
鞄を見、俺の泥だらけの手の見た大樹は正面でしゃがみ、問い掛ける。
「・・・何かあった?。」
俺は蹲った膝に額を乗せたまま答える。
「猫・・・殺してしもうた。」
「猫?。」
大樹はまだ何も理解していないまま俺の丸く小さくなった体を抱き締め、
「・・・一から話して。」
俺は重い口をゆっくり開けながら起こった出来事を順に話す。
「カン。それは殺したんじゃないよ。不可抗力。
意図的にやったんじゃない。君が殺したんじゃない。」
事故。
解っているはずなのに、気持ちがついていかない。
悔しくてシクシク泣いた。
「事故だよ。猫もちゃんと注意して出てこなかったんだろうから。
きっと、カンが轢いてなくても、何かで猫は死んださ。
その猫の寿命だったんだよ。」
優しい言葉を言われれば言われる程、自分に腹が立つ。
そして、闇に対しても。
「俺が自分が痛いからって祓ったから・・・アカンかってん。
猫に何の罪もないのに・・・俺のせいで巻き添えに・・・。」
(罪人。)
俺はその言葉に目を見開き顔を上げた。
「・・・何かいるね。なんて言われた?。」
大樹が目を細めて辺りを見渡す。
「ざ・・・いにんって。」
「っく!。」
大樹の顔色が変わり俺の少し上を睨みつけた。
大樹には何かが見えるらしい。
「黒い影がカンの後ろに見える。」
そう言うと大樹は優しい笑みで俺を再び抱きしめた。
「カン、君は罪人なんかじゃない。
そんな事、言わなくても解ってる事だよね。
愛しい人。俺はカンが大好きでとても愛してるよ。」
「たい・・・じゅ?。」
大樹はなぜか、愛してると言葉を並べる。
背中を優しく撫でて耳やコメカミに唇を時折触れさせながら、
「君程、優しい子はいないよ。ニコニコさんも、阿弥陀様も、弥勒も、
釈迦如来も、お父さんやお兄さんも、みんなみんなカンを愛してる。」
(お前は命を奪った。罪人。俺達の仲間だ。
神もお前には失望している。その蛇もお前なんかより、綺麗な女を選ぶ。
知らないのか?。そいつの浮気。)
「カン・・・カン・・・大好きだ。」
(同じ教師の女といい雰囲気だ。お前を捨てるぞ?。)
俺の耳に左右から声が聞こえる。
大樹の声と闇の声。
闇の声は俺に嫉妬や怒り、絶望を仄めかす。
大樹はいつもよりも優しく愛情を囁く。
「カン、お弁当にね、カンの好きな明太子オニギリが入ってるんだ。
一緒に食べようよ。ね?。」
(グヌゥゥゥ。)
闇の声が唸りを上げる。
苛立ち始めているような唸り声。
「学校が終わったら、一緒にお花買って猫の埋めたところに行こう?。
俺もお参りする。ううん・・・したいんだ。」
その言葉に俺は大樹を目を丸くして見つめた。
「大樹・・・お前・・・。」
大樹は優しく微笑んで見つめ返す。
俺は嬉しさと安堵感に気持ちが楽になった。
「・・・うん。一緒に行こう。」
大樹の背中に手を触れさせて抱きついた。
闇の言葉が聞こえない。
「影が消えたよ。」
大樹が俺の背中を撫でて言う。
顔を上げて後ろを見るも、ただ空が見えるだけ。
「大樹・・・ありがとう。」
心から思った。
大樹はニパっと笑み、俺の両手を掴むと、
「泥だらけだよ。これじゃ食べれないから、俺が食べさせてあげる。」
「は?・・・ええよ、恥ずかしい。」
頬を赤らめて目線を逸らす俺に大樹は笑って弁当を広げ、
ラップに包まれたオニギリを掴んでラップを半分剥がし、俺の口に運ぶ。
「はい、あ~ん。」
「ちょ~、ラップやねんから自分で持つって。」
「駄目!。食べさせたいんだ・・・いいでしょ?。」
ウルウルと強請る目をして見つめる大樹が可笑しくて。
「・・・はは。わかった。」
俺は笑ってオニギリを口に含んで食べた。
大樹は優しく笑み、箸を取り出してオカズを見つめ、
「悪魔はね・・・愛に弱いんだ。」
「ん?。」
「気持ちの無い愛にはなんの効果もないんだけど、
本当に愛している気持ちには勝てない。
君のお兄さんも全ての人を愛してた。阿弥陀様も釈迦如来様も。」
「・・・どういうこと。なんで阿弥陀とかも出てくるん。」
「あの方々も、まだ人だった頃に闇と闘ってるんだ。
闇は無視される事と愛情に酷く苦痛を感じる。
中途半端な愛情は逆に恰好の獲物になってしまうけど。
俺のカンへの愛情はとてつもないからね。
闇になんかに負けない。」
「大樹。」
「愛情にも、家族愛、友人愛、恋人愛、様々な愛がある。
愛って何かを、ちゃんと知っていたら闇になんて負けないよ。
負けないけど、貫くって事も必要不可欠。」
「お前、いつの間にそんなん覚えたん?。」
「闇に対して調べたって言ったろ?。
カンみたいに狙われる事は俺はなかったけど。
俺はそれだけとは思いたくはないけど、カンの護衛役でもあるんだ。」
もう少し頼りにしてよと言う大樹はヘタレじゃなく、凛々しく見えた。
大樹も頑張ってくれてるんや。
「うん。俺も頑張らな。」
学校が終わり、いったん家に帰ってオカンに今日の事を話した。
オカンは大樹の言う通りやって大樹を褒めてた。
夜の7時になり、大樹から電話。
家の前まで車で迎えに来た大樹の車に乗って花屋に向かい、
俺は白い菊の花を買って大樹と一緒に公園に向かった。
「どの辺?。」
「ん?・・・あそこ。」
大樹を案内するかのように、埋めた場所に向かい菊の花を地面に置いた。
大樹は鞄から線香とライターを取り出して火をつけ、
花の横に置いてくれた。
二人でしゃがんで手を合わせる。
巻き添えにしてごめん。
もう2度とこんな事が起きんように俺も頑張る。
阿弥陀・・・どうかこの猫をよろしく頼む。
(・・・勿論ですよ。カン。)
手を合わせたところが温かくなってオレンジ色の光が灯る。
阿弥陀如来に伝わった。
「よし!。帰ろっか。カン。」
「うん。」
二人で車に乗り込み、大樹が運転する。
「頑張ろうね。カン。まだまだ序ノ口。」
「うん・・・そうやな。」
「大丈夫。俺とカンなら出来るよ。」
「うん。」
大樹の提案でパスタを食いに行き、車でイチャイチャして帰宅。
闇。
次はどの手使って来るんかしらんけど、俺も負けへんからな。
過ちは繰り返さへん。
弱い人間にも、弱い人間らしく学ぶ事もあるんや。
人間としての力で闘ったるで!。
3日後。
また頭痛。
クソっ。
頑張れ俺!。
無視・無視・無視。
くぁ~。
痛い~。
弱みは難関です。難関は簡単には突破できそうもない。
諦めるのは簡単。
でも、頑張る!。
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