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サリヴァンとその周辺
-ネオ・フロイディアンたち-



 札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」です。このページは、俗にネオ・フロイディアン(新フロイト派)と呼ばれる臨床家を紹介します。ハリー・スタック・サリヴァン、エーリッヒ・フロム、カレン・ホーナイ、クララ・トムソンです。フリーダ・フロム・ライヒマンやハロルド・サールズも入れたいところですが、黄道十二星座グループの一員に含めることが出来ないので除外しました。
 黄道十二星座グループとは、サリヴァンを中心とする私的なサークルのことです。禁酒法の時代に、一杯やりながら定期的に会合をもったようです。そのメンバーが後にネオ・フロイディアンと呼ばれるようになったらしいのです。
 彼らの特徴を大雑把にいえば、精神分析・精神医学を社会科学と融合させようとしたこと、パーソナリティに及ぼす文化の影響を重視したことであるのかもしれません。社会・文化的なアプローチです。おそらく、エリク・エリクソンにも多大な影響を及ぼしたに違いありません。彼らの著書はいまだに読み継がれており、カウンセリングを超えた周辺領域にも重視される古典であると思います。若い人たちにとってはすでに過去の臨床家であるのかもしれません。けれども、いま読んでも全く古さを感じないでしょう。



[ハリー・スタック・サリヴァン Harry Stack Sullivan]

 高名なサリヴァンです。まず、中井久夫先生らの日本語訳があることに感謝です。原書を読むと一目瞭然ですが、彼の英語は理解するのにとても難儀します。サリヴァンの研究者でもないかぎり、読みやすい訳書で十分であると思います。
 多声性・ポリフォニーの心理療法に引き付けて理解しますが、まず彼は社会心理のミードの理論も取り入れており(おそらく)、必然としてジャネやヴィゴツキーにも類似するところがあります。お勧めは、発達論である「精神医学は対人関係論である」です。パーソニフィケーション(擬人存在)と言う概念がカギとなります。そこには心の世界が発生して行く道筋が描かれています。外的対人関係と内的対象関係といいますか、精神間と精神内が絡み合いながら発生して行く、心の形成過程が描写されているのです。それに、彼の「パラタクシス的体験様式」の世界は、まるでバフチンのポテンシャル・サードの世界です。複数人によるパラタクシス的歪曲とは、多声性そのものです。

 サリヴァン (1983) 精神医学の臨床研究. 中井久夫ほか訳、みすず書房
 サリヴァン (1986) 精神医学的面接. 中井久夫ほか、みすず書房
 サリヴァン (1986) 現代精神医学の概念. 中井久夫ほか、みすず書房
 サリヴァン (1990) 精神医学は対人関係論である. 中井久夫ほか、みすず書房
 サリヴァン (1995) 分裂病は人間的過程である.中井久夫、みすず書房
 Personal Psychopathology : Early Formulations. W W Norton & Co Inc
 Conceptions of Modern Psychiatry : The First William Alanson White Memorial Lectures. Kessinger Pub Co
 The Interpersonal Theory of Psychiatry. Routledge
 Clinical Studies in Psychiatry. W W Norton & Co Inc
 Schizophrenia as a Human Process. W W Norton & Co Inc
 The Psychiatric Interview. W W Norton & Co Inc

 ペリー,ヘレン・スウィック (2002) サリヴァンの生涯〈1〉. 中井久夫ほか訳、みすず書房
 ペリー,ヘレン・スウィック (1988) サリヴァンの生涯〈2〉. 中井久夫ほか、みすず書房
 加藤澄 (2009) サイコセラピー面接テクスト分析―サリヴァンの面接トランスクリプトに基づいて. ひつじ書房
 クヴァーニス,ロバート・G.(2006) サリヴァンの精神科セミナー. 中井久夫ほか、みすず書房
 ア−サ−・ハリ・チャップマン ミリアム・C.M.S.チャップマン (1994) サリヴァン入門 ― その人格発達理論と疾病論. 岩崎学術出版社



[クララ・トムソン(トンプソン) Clara Tompson]

 彼女の著書は一冊だけ日本語で読めます。しかし、その他の著書は外国でもいまや入手困難で、彼女の全貌が捉えられません。ネオ・フロイディアンのその他の三人の陰に隠れたままです。

クララ・トンプソン「人間関係の精神分析 クララ・M・トンプソン論文集」誠信書房



[カレン・ホーナイ(ホルネイ) Karen Horney]

 カレン・ホーナイの著作は、ほとんど日本語で読むことができます。フロムとともに、日本でも早くから注目されました。ただ、訳書はもう絶版で、古書も入手困難なものがあります。
 彼女の臨床面を知りたければ、とても具体的な心理療法論として"The Therapeutic Process"をお勧めします。これは、雑誌に散在する文章(未発表のものを含む)を編集したエッセイ・講演集で、古典的なフロイト派であった頃から、精神分析と決別して独自の思想を打ち立て、もはや人間性心理学と呼んでもよい晩年に至るまでの変遷を見て取ることができます。いまとなっては当たり前のことですが、彼女は技法と言うよりも、むしろセラピストのパーソナリティをとても重視します。
 彼女の不安にかかわる記述や、プライド・システムの概念などは、来談者中心療法のロジャーズのパーソナリティ理論に多大な影響を及ぼしたはずです。ロジャーズは、オットー・ランクの影響にかぎられないようです。
 女性の立場から発言し続けたホーナイは、フロイトとは異なって、フェミニストたちにも評判がよいような気がします。ただ、「真の自己」、「理想の自己」へ向かう「自己実現」の考え方は、やはりどことなくキリスト教的?な匂いがします。真の自己、偽りの自己の二分法が、そこにはあるのです。自己とは、虚実入り混じったこの私のことではあるまいか。


「ホーナイの最終講義―精神分析療法を学ぶ人へ」近藤章久訳、岩崎学術出版社
「ホ−ナイ全集〈第1巻〉 女性の心理」安田一郎、誠信書房
「ホ−ナイ全集〈第2巻〉 現代の神経症的人格」我妻洋、誠信書房
「ホ−ナイ全集〈第3巻〉 精神分析の新しい道」安田一郎
「ホーナイ全集〈第4巻〉自己分析」霜田静志、国分康孝、誠信書房
「ホ−ナイ全集〈第5巻〉 心の葛藤」我妻洋、誠信書房
「ホーナイ全集〈第6巻〉神経症と人間の成長」榎本譲、丹治竜郎、誠信書房
「ホ−ナイ全集〈第7巻〉 精神分析とは何か」我妻洋、誠信書房
 Horney, Karen (1999) The Therapeutic Process : Essays and Lectures. Yale Univ Pr
 Horney, Karen (2000) The Unknown Karen Horney : Essays on Gender, Culture, and Psychoanalysis. Yale Univ Pr

 Bernard J. Paris (1996) Karen Horney: A Psychoanalyst's Search for Self-Understanding. Yale University Press



[エーリッヒ・フロム Erich Fromm]

 エーリッヒ・フロムについては、文献|人間性心理学のコーナーで詳しく論じております。そちらを参照してください。




以下、更新予定。




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