江別など札幌圏のカウンセリング

札幌|のっぽろカウンセリング研究室
トップページへ

トップページ >> 文献ガイド


ロールシャッハ・テスト



 札幌・江別の「のっぽろカウンセリング研究室」です。インク・ブロットに魅せられて、もうかれこれ20年のあいだロールシャッハ・テストを学んできました。けれども、治療的アセスメント(MMPIを含む)に興味が移り、ロールシャッハ・テスト自体は研究の対象から外れてしまいました。このページは、私がロールシャッハ・テストを研究するに際して、これまでためになった著書を少しだけ紹介したいと思います。
 ロールシャッハ・テストは、紆余曲折を経てエクスナーの包括システムが世界的な主流となりました。信頼性や妥当性といったテストとしての基準と言う意味で風前の灯であったロールシャッハ・テストが、彼の力で息を吹き返した歴史があります。そんなエクスナーもすでに鬼籍に入り、これからどうなって行くのか、このテストはまたしても不確実な状態におかれたような気がします。アメリカでは、大学教育からこのテストを外す動きが強くなってきたようです。
 ロールシャッハ・テストの内部にいるわれわれにとって時代は包括システムですが、これからロールシャッハ・テストを研修して学ぶ人たちにはこの分野の歴史も学んでほしいと思います。すでに消え去ってしまったロールシャッハ・システムもあるのですが、できるかぎり、その一つ一つに目を通してほしいと思うのです。ここにはリストしませんが、学会誌に移行する前の「ロールシャッハ研究」もできるかぎり揃えて目を通して下さい(古書でかなり出回る)。国際学会の雑誌"Rorschaciana"も、古書で入手可能です。いずれも興味深い論文が、たくさん詰まった雑誌です。
 何分にもウェブ上ですから、あまり詳しいことは書けません。あるサイトには鮮明なインクブロットの画像がアップされ、抗議にもかかわらずまだ未削除のようですが、ここは専門家以外が目にしても問題のない範囲にかぎることにします。また、このテストにまつわる方法論上の諸問題に関しては、こちらで詳細に検討していますから、一度ご覧になってください。




[ヘルマン・ロールシャッハ Herman Rorschach]

 このテストは、ヘルマンから始まりました。彼の著書は必ず読みましょう。きっと難しいと思います。正確なコーディングと言うことばかりに追われては、そもそもの出発点も、背景にある理論も分からないまま、実務的なレベルでロールシャッハテストが終わってしまいます。
 ヘルマンは、師である精神科医のオイゲン・ブロイラーがそうであったように、当時の連合心理のブントの影響を受けています(もちろん、それだけではありませんが)。背景にあるブントの思想が、現代に至るまで(無批判に)受け継がれたのが、ロ・テであると思います。
 哲学者が心理学を講じた時代から、科学的な研究方法をうたうことによって、哲学から心理学が独立しようと試みた時代です。どことなく哲学的な匂いのする難解な心理学が嫌いな方は、ヘルマンを読んでも理解できないかもしれません。彼の言うことが何となく分かったとき、あなたはきっとロールシャッハテストの素晴らしい使い手になって、いるはずです。


Hermann Rorschach (1921) Psychodiagnostik: Methodik und Ergebnisse eines wahrnehmungsdiagnostischen Experiments (Deutenlassen von Zufallsformen) / Mit den zugehörigen Tests bestehend aus zehn Teils mehrfarbigen Tafeln. H. Huber.
英語訳
Psychodiagnostics; a diagnostic test based on perception. Including Rorschach's paper, The application of the form interpretation test. Translation and English ed. by Paul Lemkau and Bernard Kronenberg. Grune & Stratton.1942
日本語訳
1.「新・完訳精神診断ガク―付 形態解釈実験の活用」鈴木睦夫訳、金子書房、1999     2.「精神診断ガク―-知覚診断的実験の方法と結果」片口安史訳、金子書房、1976

Gesammelte Aufsatze. Zusammengestellt u. hrsg. von K. W. Bash Bern : H. Huber, 1965. (ロールシャッハ 精神医学研究. 空井健三、鈴木睦夫、みすず書房、1986)




[デイヴィッド・ラパポート ロイ・シェーファー David Rapaport & Roy Schafer]


 ラバポート-シェーファー・システムです。ホルトによって半分の分量に削除された短縮版もありますが、やはりオリジナルの"Diagnostic psychological testing"の二巻は必読です。古書で入手しやすいですから、ぜひ手元においてください。本書の役割分担は、精神科医のギルが診断を担当し、シェーファーがデータを取り、ラバポートが執筆するスタイルであったようです。有名な「逸脱言語表現」の章を含め、歴史に残る著作であると思います。各種検査について論じており、ロールシャッハ・テストに関する記述は第二巻の300ページほどです。
 精神分析を志すまえ、ラバポートはもともと哲学を学んだ人間です。語学にも堪能で、非英語圏の重要な精神医学・心理系論文を英語圏に紹介した人でもあります。"Diagnostic psychological testing"は、ロールシャッハ・テストのマニュアル本、経験的専門書であるだけでなく、理論の書でもあります。彼の背景にある哲学的・心理学的知識によって裏打ちされたロールシャッハ理論を学ぶことができます。私は駆け出しの頃、本書を抄訳して、身近な人たちに配った思い出があります。
 シェーファーの単独の著書は、よりいっそう精神分析の色彩を強めたものです。ロールシャッハ・テストにおけるクライエントのナラティヴを詳細に分析して、当時の自我心理的な解釈を行いました。彼はいまや精神分析領域のナラティヴで著名になりましたが、なるほどと思います。
 私の手元にある1944年の"Manual of diagnostic psychological testing"には、彼ら三人の直筆サインが入っており、おまけにロバート・ナイトのパンチ入りです。これは三人がナイトに献本したものなのか、あるいはすべてがこのような体裁であったのか気にかかっています。ナイトへの献本なら、ちょっと価値があるかもしれません。
 ロールシャッハ・テストとは無関係のことですが、ラバポートは、自分の弟子たちに対して、とても厳しい人であったようです。それにもかかわらず、門下からは優れた臨床家が多数輩出しており、彼の指導法の奥義についても知りたいところです。


David Rapaport, Roy Schafer, Merton Max Gill (1944) Manual of diagnostic psychological testing. Josiah Macy, Jr. Foundation.

David Rapaport, Roy Schafer, Merton Max Gill (1945) Diagnostic psychological testing: The theory, statistical evaluation, and diagnostic application of a battery of tests Vol. 1. Yearbook.

David Rapaport, Roy Schafer, Merton Max Gill (1946) Diagnostic psychological testing: The theory, statistical evaluation, and diagnostic application of a battery of tests Vol. 2. Yearbook.

Robert R. Holt ed (1968) Diagnostic psychological testing. International Universities Press.

David Rapaport (1967) Collected papers. Basic Books.

Roy Schafer (1948) The clinical application of psychological tests: Diagnostic summaries and case studies. International Universities Press.

Roy Schafer (1966) Psychoanalytic interpretation in Rorschach testing: theory and application. Grune & Stratton.

Roy Schafer (1967) Projective testing and psychoanalysis: selected papers. International Universities Press.




[ブルーノ・クロッパー Bruno Klopfer]

 クロッパー・システムです。日本の片口法の原型といってもよいでしょう。一冊だけ日本語で読めるのですが、古書も極めて入手困難です。原書であれば廉価ですし、比較的入手しやすいです。
 クロッパーはユング派の心理学者ですが、現象学的であることも重視しており、やはりヨーロッパ的な匂いがします。陰影に関する分類、それから形態水準の評定が細やかであることが特徴であると思います。
 クロッパー法のマニュアル本やワークブックもよいですが、クロッパー学派が総力を結集した三巻の"Developments in the Rorschach Technique"をぜひ読んでください。ロールシャッハ・テストのあらゆる領域が研究し尽くされた感があります。


Klopfer, B. (1946) The Rorschach Technique: A Manual for a Projective Method of Personality Diagnosis, World Book Co.

Klopfer, B., Ainsworth, M.D., Klopfer, W.G. & Holt, R.R. (1954) Developments in the Rorschach Technique: Vol.1, Technique and Theory, World Book Co.

Klopfer, B., Ainsworth, M.D., Klopfer, W.G. & Holt, R.R.(eds.),(1956) Developments in the Rorschach Technique: Vol.2, Fields of Application, World Book Co.

Klopfer, B. & Davidson, H.H.(1962) The Rorschach Technique; an Introductory Manual, Harcourt, Brace & World. (河合隼雄 (1964) ロールシャッハ・テクニック入門. ダイヤモンド社)

Klopfer, B., Meyer, M., Brawer, F. & Klopfer, W.G.(eds.),(1970) Developments in the Rorschach Technique: Vol.3, Aspects of Personality Structure, Harcourt Brace Jovanovich.

Lucille Hollander Blum, Helen H. Davidson, Nina D. Fieldsteel ; with the assistance of Louis Getoff (1962) A Rorschach workbook. foreword by Bruno Klopfer. International Universities Press.

Lucille Hollander Blum, Helen H. Davidson, Nina D. Fieldsteel (1975) A Rorschach workbook 2d ed. foreword by Bruno Klopfer. International Universities Press.




[サムエル・J・ベック Samuel J.Beck]

 ベック・システムです。ベックは最初期にアメリカにロールシャッハ・テストを導入し、その研究に生涯を捧げました。ヘルマンに忠実であることをよしとし、クロッパーのようなコードの複雑化や、主観的な解釈を戒めました。彼の陰影系のコードはとても洗練されており、エクスナーの包括システムや日本の阪大法にも受け継がれました。
 1937年のいわゆる「ベックのマニュアル」から読み、「ロールシャッハのテスト」全三巻に進むことをお勧めします(古書でよく見かけます)。たくさんの指標が作り出された現代のロ・テと比較してとてもシンプルで、分かりやすいと思います。それから、「ロールシャッハ・テスト: 古典文学の人物像診断」もぜひ読んでください。ロ・テ言語で文学を読み解く、ユニークな試みです。ここまでロールシャッハ・テストにとりつかれた人が、他にいるだろうか。


Beck, S.J. (1932) The Rorschach test as applied to a feeble-minded group. Columbia University.

Beck, S.J. (1937) Introduction to the Rorschach method: a manual of personality study. American Orthopsychiatric Association.

Beck, S.J. (1938) Personality structure in schizophrenia: a Rorschach investigation in 81 patients and 64 controls. Nervous and Mental Disease Monographs.

Beck, S.J. (1944) Rorschach's Test 1: Basic processes. Grune & Stratton.

Beck, S.J. (1945) Rorschach's test 2: A variety of personality pictures. Grune & Stratton.

Beck, S.J. (1952) Rorschach's Test 3: Advancec in Interpretation. Grune & Stratton.

Beck, S.J. (1954) The six schizophrenias: reaction patterns in children and adults. American Orthopsychiatric Association.

Beck, S.J. (1960) The Rorschach experiment: ventures in blind diagnosis. Grune & Stratton.

Beck, S.J. (1965) Psychological processes in the schizophrenic adaptation. Grune & Stratton.

Beck, S.J. (1976) The Rorschach test exemplified in classics of drama and fiction. Stratton Intercontinental Medical Book Corp. (秋谷たつ子、柳朋子 (1984) ロールシャッハ・テスト: 古典文学の人物像診断. みすず)




[マルグリート・R・ハーツ Marguerite R. Hertz]

 ロールシャッハ・テストの反応頻度表を作成し、更新し続けたハーツです。その考えは包括システムにも取り入れられ、主観的なコード化を極力なくすために役立っています。彼女の反応リストを一度は目にしておきましょう。一体どれだけの時間を注いだのか、気が遠くなるような作業であったに違いありません。

Marguerite R. Hertz (1936) Frequency tables to be used in scoring the Rorschach ink-blot test. Brush Foundation.

Marguerite R. Hertz (1961) Frequency tables for scoring Rorschach responses. Fifth Edition, revised and enlarged. Press of Western Reserve University.




[ジグムント・A・ピオトロフスキー Zygmunt A. Piotrowski]

 ピオトロフスキー・システムです。Cpなど魅力的な独自のコードがあります。残念ながら、古書でも入手不能なものがあります。彼の「知覚分析」の原題は"perceptanalysis"です。「パーセプト」を分析すると言うことです。このパーセブトは、実はいわゆる「知覚」のことではありません。大雑把に言えば、外的な何かを見ることによって内的に形成されるイメージのことです。彼は、この手法を夢の分析にも取り入れて、観念論的かつ主知主義的な色彩を強くして行ったような気がします。客観的な物の知覚を分析すると言う意味合いでピオトロフスキーを読むと、ちょっと違うのかもしれません。クルト・ゴールドシュタインと一緒に仕事をしたこともあるらしく、思想としてどことなく類似性があるような気がします。

James Arnold Brussel, Zygmunt A. Piotrowski (1947) An introduction to Rorschach psychodiagnostics in military and civilian psychiatry: with color illustrations of the Rorschach cards. State Hospitals Press.

James Arnold Brussel, Kenneth S. Hitch, Zygmunt A. Piotrowski (1950) A Rorschach training manual. State Hospitals Press.

Zygmunt A. Piotrowski (1957) Perceptanalysis: a fundamentally reworked, expanded, and systematized Rorschach method. Macmillan.(上芝功博 (1980) 知覚分析―ロールシャッハ法の体系的展開. 新曜社)

Zygmunt A. Piotrowski and Milton L. Rock (1963) The perceptanalytic executive scale: a tool for the selection of top managers. Grune & Stratton.

Clifford M.DeCato, John V.Ciocca, Garry S.Del Conte, and Zygmunt A.Piotrowski (1984) Rorschach scoring: a workbook for the perceptanalytic system. Brunner/Mazel.

Clifford M. DeCato, Zygmunt A. Piotrowski (1987) Concise Manual for Rorschach Interpretation. Lawrence Erlbaum Associates.




[ジョン・E・エクスナー John E. Exner]

 エクスナーの包括システムです。日本への紹介は、中村紀子先生、野田昌道先生などが積極的に行っています。ロールシャッハ・テストは紆余曲折を経て、瀕死の重傷を負って居ました。そこに現われたのが、上記の複数のシステムを統合したとされる、この包括システムでした。まさに、起死回生であったと思います。包括システムと、それからカーンバーグがボーダーラインの診断に投影法検査が不可欠であることに言及したおかげで、生きながらえてきた感があります。
 エクスナーの人格理論は、基本的に情報処理理論、あるいは認知理論です。ギブソンのアフォーダンスを彷彿とさせるようなことも言ってはいますが、実証主義的な感覚与件論が背景にあるようです。この点については、ヘルマンがブントの要素主義を取り込んでいたためか、これまでのロールシャッハ・システムのほとんどすべてに言えることではあります。コーディングの勉強に明け暮れたままだと、背景にある人間観までは見えません。
 私は基本的に論理実証主義に対して批判的なスタンスを取っており、この包括システムに対しても同じような捉え方をします。けれども、治療的アセスメントとの関連でお付き合いして頂いている方々は、みなさん包括システム使用です。私はもうコーディングすら放棄した人間ですが、我ながら愉快な矛盾であると思います。そういえば、学部の卒論は包括システムの「自己中心性指標」で書きました。まだ翻訳もなく、四苦八苦して書きあげた思い出があります。


Exner, John E., Jr. (2003) The Rorschach Vol.1 : A Comprehensive System : Basic Foundations and Principles of Interpretation(4TH). Wiley.(中村紀子、野田昌道監訳 (2009) ロールシャッハ・テスト―包括システムの基礎と解釈の原理. 金剛出版)

Exner, John E., Jr. Erdberg, Philip (2005) The Rorschach : A Comprehensive System, Vol. 2 : Advanced Interpretation(3RD). Wiley.

Exner, J.E., and Weiner I.B. (1982) The Rorschach : A Comprehensive System Vol. 3 : Assessment of Children and Adolescents. Wiley.

John E. Exner (2006) A primer for Rorschach interpretation. Rorschach Workshops. (中村紀子、野田昌道監訳 (2002) ロールシャッハの解釈. 金剛出版)

John E. Exner (2001) A rorschach workbook for the comprehensive system. Rorschach Workshops.(中村紀子、西尾博行、津川律子監訳 (2003) ロールシャッハ・テストワークブック (第5版). 金剛出版)




[マーティン・ライヒトマン Martin Leichtman]

 本書は実に素晴らしいです。時間を忘れて読み耽ったことがあります。たんなる発達の本ではありません。ロールシャッハ・テストを非投影法の視点から捉え、描画なども含めて理解できる画像知覚の理論を展開たものです。私が一番感銘を受けたのは、ハインツ・ウェルナーのシンボル状況の考えを取り入れて、ロールシャッハ・テストの場の理論を展開したことでした。おかげで、ロールシャッハ状況をシンボル形式の哲学(カッシーラー)へとつなぐ視点を与えられたのは、私にとって大きな財産です。
 「ロールシャッハ解釈の諸原則」のなかで、ワイナーが彼の理論を批判する箇所があります。ワイナーをじっくり読んでその部分を探して下さい。どちらが正しいと言うわけでなく、立場が異なると、こんなにも意見が対立してしまうのです。ワイナーの実証主義者としての側面と、本書のライヒトマンは、まるで水と油のようです。ライヒトマンを読んで面白いと思った方は、少し古いですが、ぜひマーガレット・ハーゲン編集の「画像の知覚1, 2」を読んでください。アフォーダンスのギブソン派の論文集です。驚きですが、ギブソンとルドルフ・アルンハイムが序文を書いています。ギブソン自身が書いたロールシャッハ論文も必読です(不親切ですが、探してたどり着いてください!)。


Martin Leichtman (1996) The Rorschach: a developmental perspective. The Analytic Press.

Margaret A.Hagen eds.(1980) The Perception of Pictures Volume 1: Alberti's Window: The Projective Model of Pictorial Information: with a foreword by James J.Gibson. Academic Press.

Margaret A.Hagen eds.(1980) The Perception of Pictures Volume 2: Durer's Devices: Beyond the Projective Model of Pictureswith a foreword by Rudolph Arnheim. Academic Press.




[アーネスト(orアーンスト)・G・シャハテル Ernest G. Schachtel]

 版元は変わりましたが、シャハテルの著書はいまも新品で入手可能です。社会学的な志向をもち、現象学、現存在分析、実存哲学など、博覧強記のロ・テ学者です。精神分析と現象学が調和しており、独特の彩になって、います。「ロールシャッハ・テストの体験的基礎」は必読ですが、「メタモルフォーゼ」はどうかといえば、これもまた必読です。後者を読まなければ、前者の理解はあくまでロ・テの世界に閉じ込められてしまいます。「メタモルフォーゼ」で主として論じられたのは、「体験的基礎」で重要な役割を演じる知覚モードの発達的変遷です。ところどころに顔を出すゲーテの引用も、私としてはしびれます。
 ロールシャッハ・テストの色彩理論に関して、シャハテルはデイヴィッド・シャピロの色彩論を意識したようです。私はシャピロのロールシャッハ理論や心理療法論の方が肌に合うので、そちらを思い切って訳出してみました。知覚の理論としてどちらに惹かれるか、ぜひ読み比べて頂きたいと思います。


Ernest G. Schachtel (1959) Metamorphosis : On the Developmentof Affect, Perception, Attention, and Memory. Basic Boks.

Ernest G. Schachtel (1966) Experiential Foundations of Rorschach's Test. Basic Books.(空井健三、上芝功博 (1975) ロールシャッハ・テストの体験的基礎. みすず書房)




[辻 悟]

 阪大法の辻悟先生です。私は辻先生の著書の影響を強く受けました。「時間とロールシャッハ・テスト: 辻悟著『ロールシャッハ検査法』との対話」と言う論文を書いたほどです。これは、辻先生の著作を時間の視点から私なりに読み解いたものです。辻先生の著書は、ロールシャッハ・テストのこと、あるいは個々の具体的な反応を自分の頭で考えようとする人たちに、流派は異なっても、必ず読んでいただけたらと思います。ロールシャッハ・テストをなぜ行うのかと言う目的、その結果を解釈することの意味、いろいろなことを考える上でも、辻先生は必読であると思います。。

堀見太郎、辻悟、長坂五郎、浜中薫香 (1958) 阪大スケール. In 心理診断法双書 ロールシャッハ・テスト1. 中山書店, pp.144-196.

辻悟、藤岡喜愛、河合隼雄、氏原寛 (1987)これからのロールシャッハ―臨床実践の歴史と展望. 創元社

辻悟 (1997) ロールシャッハ検査法―形式・構造解析に基づく解釈の理論と実際. 金子書房

辻悟、福永知子 (1999) ロールシャッハ・スコアリング―阪大法マニュアル. 金子書房

辻悟 (2003) こころへの途―精神・心理臨床とロールシャッハ学. 金子書房




[ルイーズ・B・エイムス Louise Bates Ames]

 ロールシャッハ・テストの発達研究で著名なエイムスです。彼女のように、人間の生涯発達を追った研究は、あまりありません。一読をお勧めします。

Louise Bates Ames, Ruth W.Metraux, Janet Learned Rodell, and Richard N.Walker (1974) Child Rorschach responses (rev.ed.): developmental trends from two to ten years. Brunner/Mazel.

Louise Bates Ames, Ruth W.Metraux, and Richard N.Walker (1971) Adolescent Rorschach responses (rev.ed.): developmental trends from ten to sixteen years. Brunner/Mazel.

Louise Bates Ames, Ruth W.Metraux, Janet Learned Rodell, and Richard N.Walker (1973) Rorschach responses in old age (rev.ed.). Brunner/Mazel.(黒田健次、日比裕泰、大島晴子 (1993) 高齢者の心理臨床ガク: ロールシャッハ・テストによる. ナカニシヤ出版)




[馬場 礼子]

 精神分析によるロールシャッハ・テスト研究の第一人者、馬場礼子先生です。私にとって馬場先生とは「精神力動論」でした。また、古い「ロールシャッハ研究」に収められたラパポートの距離を扱った論文には、とても触発されました。
 随分前のことですが、まだ駆け出しの頃やっと論文が受理されて、その別刷を馬場先生に謹呈したことがあります。そのとき、馬場先生からお礼の手紙が届きました。何も特別なことは書かれておりませんでしたが、当時の私にとっては大きな力となるものでした。あの頃の初心を忘れずにいたいと思います。


馬場礼子 (1979) 心の断面図―芸術家の深層意識. 青土社

馬場礼子 (1981) こころの管制―退行のダイナミズム. 朝日出版社

小此木啓吾, 馬場礼子 (1972) 精神力動論―ロールシャッハ解釈と自我心理ガクの統合. 医学書院

馬場礼子編集 (1983) 境界例―ロールシャッハテストと精神療法. 岩崎学術出版社

馬場礼子 (1995) ロールシャッハ法と精神分析―継起分析入門. 岩崎学術出版社





[フランソワーズ・ミンコフスカ Françoise Minkowska]

 現象学的精神病理学者ミンコフスキーの奥方でもある、ミンコフスカです。古い「ロールシャッハ研究」に彼女が紹介されており、日本でも「リエン」などの概念はよく知られているようです。彼女の方法は、いまでいう質的研究なのかもしれません。既存のコード化に頼らずに、言葉を分析して行くのです。彼女はフッサールの発生的現象学には志向性がなかったのでしょうが、分割と結合によってかたちが発生する場を見事に捉えます。フランス語の勉強のためにも、一度はチャレンジしたい本です。夫のミンコフスキーの著書でも彼女のことが触れられており、こちらも一読をお勧めします。

Minkowska, F.(1956) Le Rorschach: A la recherche du monde des formes. Desclee de Brouwer.


ユージェーヌ・ミンコフスキー

「精神分裂病―分裂性性格者及び精神分裂病者の精神病理ガク」村上仁訳、みすず書房

「生きられる時間〈1〉現象ガク的・精神病理ガク的研究」中江育生、清水誠、みすず

「生きられる時間〈2〉現象ガク的・精神病理ガク的研究」中江育生、清水誠、大橋博司、みすず




[片口 安史]

 片口法の片口安史先生です。クロッパー・システムをシンプルにしたような、それでいて独自のロールシャッハ・システムです。日本はこれまで片口法が優位であったと思いますが、世界的な趨勢もあり、包括システムがますます浸透しつつあるような印象を受けます。片口法を学ぶ場合、まず古書で「心理診断法詳説」を入手してください。それから、クロッパーと併読すれば、両者の微妙な異同が分かってためになると思います。

片口安史 (1960) 心理診断法詳説 : ロ―ルシャッハ・テスト. 牧書店.

片口安史、星野命(1970)ロ-ルシャッハ法による事例研究. 誠信書房

片口安史(1982)作家の診断 ― ロ-ルシャッハ・テストから創作心理の秘密をさぐる. 新曜社

片口安史(1987)新・心理診断法 ― ロ-ルシャッハ・テストの解説と研究. 金子書房


藤岡新治、松岡正明(1993)ロ-ルシャッハ・テストの学習 ― 片口法スコアリング入門. 金子書房




[エドワード・アロナウ Edward Aronow]

 とてもユニークなロールシャッハ研究者です。個性記述的方法を重んじているのかと思いきや、法則定立的方法を重んじたり、その反対もまたしかりです。矛盾の中で生きている、まさに私好みの研究者です。包括システムに代表される実証的な方法であれば、方法論的に言って、量的分析の後にはじめてクライエント理解が始まる(あるいは質的分析を行う)のが定石です。と言うのは、それが実証的であることの建前といいますか、方法論的な約束事なのですから。しかし、彼は異を唱えます。つまり、ロールシャッハ状況からすでにクライエント理解は始まるのだと。自分は包括システムだが、クライエント理解はすでにテストを取っているときから始まると言う方は、自分が(方法論的な意味で)不可思議なことを行っているのだと気がつくことはできないでしょう。彼を読んで、まずそのことに気づくことが肝心です。

Aronow, Edward Reznikoff, Marvin (1976) Rorschach Content Interpretation. Allyn & Bacon.

Aronow, Edward Reznikoff, Marvin (1983) A Rorschach Introduction : Content and Perceptual Approaches. Allyn & Bacon.

Aronow, Edward Reznikoff, Marvin Moreland, Kevin (1994) The Rorschach Technique : Perceptual Basics, Content Interpretation, and Applications. Allyn & Bacon.




[セイモア・フィッシャー Seymour Fisher]

 ボディ・イメージで著名なフィッシャーです。ロールシャッハ・テストを身体性の視点から考えるとき、「ボディ・イメージとパーソナリティ」は必読です。また、名著「からだの意識」も興味深い本です。フィッシャーに興味を持った方は、ディディエ・アンジュー「皮膚-自我」(言叢社)に進んでください。

Fisher, Seymour (1973) Body Consciousness. Marion Boyars Publishers. (村山久美子 (1979) からだの意識. 誠信書房)

Fisher, Seymour and Cleveland, Sidney E. (1968) Body Image and Personality (2ND rev.ed.)Dover Pubns




[ジェームズ・H・クレーガー James H.Kleiger]

 クレーガーのこの著書は、この分野における思考障害の研究を集大成するもので、とても重要であると思います。基本的には精神分析の立場にありますが、実証的な方法論と解釈学的な方法論が彼のうちで溶け合っているかのようです。大変な理論家でもあり、かつて雑誌の誌上で包括システムのエクスナーと論争を繰り広げたことは記憶に新しいと思います(私はクレーガーに軍配を上げます)。馬場先生の監訳で、やっと日本語で読めるようになりました。特に精神医療領域の方は必読です。

Kleiger, James H. (1999) Disordered Thinking and the Rorschach : Theory, Research, and Differential Diagnosis. Analytic Pr (馬場禮子監訳 (2010) 思考活動の障害とロールシャッハ法―理論・研究・鑑別診断の実際. 創元社)

Kleiger, J.H. (1992a) A Conceptual Critique of the EA:es Comparison in the Comprehensive Rorschach System. Psychological Assessment, 4(3), 288-296.

Kleiger, J.H. (1992b) A Response to Exner’s comments on “A Conceptual Critique of the EA:es Comparison in the Comprehensive Rorschach System.” Psychological Assessment, 4(3), 301-302.




[ロバート・S・マッカリー Robert S.McCully]

 クロッパーを読んでまったくユングの匂いがしないと不満をお持ちの方は、このマッカリーを読んでください。正真正銘の、ユング心理学によるロールシャッハ解釈です。読みこなすには、ロールシャッハ・テストを超えた幅広い素養が必要です。

Robert S.McCully (1971) Rorschach Theory and Symbolism: A Jungian Approach to Clinical Matarial. William & Wilkins. (片口安史、金城朋子、沢見茂春 (1977) ロールシャッハ象徴ガク―ユング心理ガクによる解釈. 新曜社)




[セイモア・B・サラソン Seymour B.Sarason]

 テスターの示す態度によって数量的に解釈される各種変数に変化が及ぶことを、実証的に検証した著書です。サラソンは、このテストを批判するために書いたのでしょうか。私にはそうは思えません。ロールシャッハ・テストを批判したり否定したりする研究者たちからは、よく引用されるような気がします。ほら見たことか、サイコメトリーとしては通用しないのだ、と言うわけです。だからこそ、標準化された実施法に忠実に行わなければならないのだ、と言う根拠にされる場合もあるでしょう。このテストを否定する人も、肯定する人も、まだ古書で入手可能ですから、ぜひ読んでください。半世紀を経てなお素晴らしい著書であると思います。

Seymour B. Sarason (1954) The Clinical Interaction: Withe Special Reference to the Rorschach. Harper & Brothers.




[エーヴァルト・ボーム(ベーム) Ewald Bohm]

 これほど包括的で、なおかつ分かりやすいテキストは他にないかもしれません。ボームの「精神診断学テキストブック」です。ベックがいち早く英訳したのもうなづけます。実施法から解釈、各種精神病理の解説、児童のロールシャッハ・テストなど、流麗に書かれたものです。また、ビンダーの陰影コードに関してかなり詳しい記述があり、他では読めないであろうと思います。

Bohm, E. (1951) Lehrbuch der Rorschach-Psychodiagnostik: für Psychologen, Ärzte, und Pädagogen. Huber. (Anne G.Beck, and Samuel J.Beck trans. (1958) A Textbook in Rorschach Test Diagnosis: For Psychologists, Physicians and Teachers. Grune & Stratton.)




[村上宣寛 村上千恵子]

 ロールシャッハ・テストのコンピューター解釈に早くから取り組んでいた、村上先生です。クロッパー-片口法に沿った記述ですが、全体として捉えると、やはり村上法と呼ぶべき個性がこのシステムにはあるような気がします。収録された反応例は、クロッパーのそれを訳したものであろうかと思わせるところがあり、クロッパーらの"Developments in the Rorschach Technique Vol.1"と照らし合わせつつ読めば勉強になります。片口法でロールシャッハ・テストを実施する人のなかには、村上先生のソフト愛用者がかなりいるはずです。「ロールシャッハ・テスト―自動診断システムへの招待」は、手元に置いておきたい一冊です。

村上宣寛 村上千恵子 (2001) なぞときロ-ルシャッハ ― ロ-ルシャッハ・システムの案内と展望. 学芸図書

村上宣寛 村上千恵子 (1991) ロールシャッハ・テスト―自動診断システムへの招待. 日本文化科学社

村上宣寛 村上千恵子 (1986) パーソナルコンピュータによるロールシャッハ採点システム. インフォメーションサイエンス








[I.U.P.1980年代三部作]

 三部作といっても、私が勝手に付けた命名です。IUPから1980年代に出版された、主としてボーダーライン系のロールシャッハ・テスト編集本です。有名なラーナー・スケールが①に、クーパー・スケールが②に収録。③はさらに重篤な病理や、当時話題になりつつあった解離にまで範囲が拡張されました。当時はまだDSMの分類にしたがってパーソナリティ障害をリサーチするのが一般的にはなっておらず、いわゆる病態レベルや人格構造のレベルによる論述が多かったような気がします。

①Jay S.Kwawer., Howard D.Lerner., Paul M.Lerner., and Alan Sugarman eds. (1980) Borderline Phenomena and the Rorschach Test. International Universities Press.

②Morton Kissen eds. (1986) Assessing Object Relations Phenomena. International Universities Press.

③Howard D.Lerner and Paul M.Lerner eds. (1988) Primitive Mental States and the Rorschach. International Universities Press.




[ロールシャッハ法を学ぶ]

 興味深い論文がたくさん収められました。ひとつだけ、小沢牧子先生の「ことばとしてのロールシャッハ記号」を取り上げたいと思います。小沢先生はもうすでにロールシャッハ・テストからは離れたようですが、この論文の中には「10枚のカードから10人の援助へ」「日常的なことば」などの表現があります。私は小沢先生の文章を読んで、人間性心理のピーター・ローマスを思い出しました。私もこのテストからある意味離れた一人です(従来的なやり方から)。小沢先生のことは、社会構成主義や脱構築の文脈の中で理解できるような気がします(勘違いかもしれないが)。いま現在ロールシャッハ・テストを駆使する臨床家には、必ず読んで頂きたい論文です。

秋谷たつ子監修、順天堂大学心理学グループ編 (1988) ロールシャッハ法を学ぶ. 金剛出版.




[ロールシャッハ心理学]

 リッカース=オブシャンキナ編集の一冊です。初版は500ページに満たない分量でしたが、改訂第二版は600ページを超える内容です。そのまま残った論文、新たに加わった論文で構成。第二版の執筆陣は以下の通りです。エーヴァルト・ボーム、セリーナ=リン・ブラウン、チャールズ・フォンダ、ローレンス・ヘメンディンガー、マルガリート・ハーツ、ロバート・ホルト、ジュレス・ホルツバーグ、シェルドン・コーチン、ローランド・クーン、デール・ラーソン、マーティン・メイマン、ロバート・マッカリー、フローレンス・ミエール、ガードナー・マーフィー、ルイス・マーフィー、ジグムント・ピオトロフスキー、デイヴィッド・シュルツ、デイヴィッド・シャピロ、ジェローム・シンガー、マーガレット・サラ・シンガー、ローラ・トゥーミー、アーヴィン・ワイナー、以上です。
 初版からもう半世紀も経ちましたが、たんなる古典と言うよりも、フレッシュなアイデアを提供してくれる名著として、今後も読み継がれてほしい一書です。私はこの中から、シャピロ先生の論文を訳出して出版しました(品切れで、おそらくもう再販はありません)。シャピロ先生にロールシャッハ・テストの本を一冊書いてほしいとお願いしたことがありますが、もう興味が心理療法・精神病理学に移ったので、残念ながら・・と言うお返事でした。


Maria A. Rickers-Ovsiankina eds. (1960) Rorschach Psychology. Wiley.

Maria A. Rickers-Ovsiankina eds. (1977) Rorschach Psychology (second edition). Krieger.




[ロールシャッハ読本]

 上記の「ロールシャッハ心理学」と同年に出版された論文集です。執筆陣は、たとえばセイモア・フィッシャー、デイヴィッド・シャピロ、ジェローム・シンガー、ジョージ・クライン、ハーバート・シュレジンガー、ジグムント・ピオトロフスキー、アーネスト・シャッハテル、ロイ・シェーファーなどです。精神病理、職業、文化、実験、理論など、さまざまな領域の研究がぎっしりと収まりました。当時の水準の高さを知るためにも、上記著作との併読をお勧めします。

Murray H. Sherman eds. (1960) A Rorschach Reader. International Universities Press.




[心理テストの修正技法]

 各種心理検査の修正技法・変法について論じた編集本です。私は特に、高名なスティーヴン・アッペルバウムの雰囲気を変える手法が参考になりました。ロールシャッハ・テストたるもの標準化されたやり方で行わねばならないという方々は、本書を読まないほうがよいでしょう。それ以外の方々には、何とか手に入れて、一度は読んで頂きたい、知恵の詰まった著作です。

Milton Kornrich eds. (1965) Psychological Test Modifications. Charles C Thomas.




[現代のロールシャッハ解釈]

 事例研究が詰まった編集本です。精神病的人格構造、境界性人格構造、神経症的人格構造、その他の特殊領域の、四部構成です。私は本書の中に、ブルース・スミス(Bruce L.Smith)を発見して、彼のロールシャッハ論文を追って読み耽りました。彼はとてもヒューマニスティックな臨床を展開しており、心理テストの使い手としては、スティーヴン・フィンと同じくらい好みの方です。皆さんもこの事例集を読んで、これはと思う臨床家を見つけてください。

J.Reid Meloy, Marvin W.Acklin, Carl B.Gacono, James F.Murray, and Charles A. Peterson eds. (1997) Contemporary Rorschach Interpretation. Lawrence Erlbaum Associates.


Smith, B.L. (1991) Theoretical Matrix of Interpretation. Rorschachiana, 17, 73-77.

Smith, B.L. (1993) Psychological Tests Don’t Think:An Appreciation of Schafer’s Psychoanalytic Interpretation In Rorschach Testing. Journal of Personality Assessment, 61(3), 596-606.

Smith, B.L. (1994) Object Relations Theory and the Integration of Empirical and Psychoanalytic Approaches to Rorschach Interpretation. Rorschachiana, Volume 19, pp.61-77.

Smith, B.L. (1997) White Bird: Flight from the Terror of Empty Space. In Meloy, J.R., Acklin, M.W., Gacono, C.B., Murray, J.F., and Peterson, C.A. (eds.) Contemporary Rorschach Interpretation, Lawrence Erlbaum Associates, Inc., Mahwah, pp.191-215.

Smith, B.L. (2005) The Observer Observed:Discussion of Articles by Evans, Finn, Handler, and Lerner. Journal of Personality Assessment, 84(1), 33-36.




[投影法入門]

 各種投影法のための入門書です。ロールシャッハ・テストに関しては、ベックとラビンが執筆しました。ラビンは実証的にこのテストの問題点を指摘して、批判することによって将来の投影法に寄与しようとします。古いこの編集本には、キャッテルの貴重な論文が収められました。それは投影法を「ミス-パーセプション」として理解する、極めてユニークな視点です。一時期、エクスナーは、このミスパーセプションの考えを取り入れて自分の理論を構築しました。しかし、キャッテルのミスパーセプションについては、生態学的視覚(知覚)論のギブソンによる批判があります。興味のある方は、ギブソンの書いたロールシャッハ論文を探して下さい。

Harold H.Anderson, and Gladys L.Anderson (1951) An Introduction to Projective Techniques: And Other Device for Understanding the Dynamics of Human Behavior. Prentice-Hall.

Gibson, J.J. (1956) The non-projective aspects of the Rorschach experiment: Ⅳ. The Rorschach blots considered as pictures. Journal of Social Psychology, 44, 203-206.




[ロールシャッハ・サイエンス]

 ロールシャッハ・テストを科学の視点から検証した編集本です。フランクの有名な投影法に関する論文(1939年)も収録され、クロンバッハ(クロクバック)、サーストン、ミール、ハーツなどが寄稿しました。サイコメトリーとしてのロールシャッハ・テストは可能か、この問題に真剣に取り組んだ必読の著書です。

Michael Hirt eds. (1962) Rorschach Science: Readings in Theory & Method. The Free Press of Glencoe.




[投影法への実験的アプローチ]

 ロールシャッハ・テストとTATについて、さまざまな視点から科学的な目で検証した重厚な著作です。投影法の研究で著名であったレヴィに捧げられた本です。知覚をパーソナリティと結びつけることの是非やら、理論やら、実施法やら、信頼性・妥当性やら、ありとあらゆることが言及されています。ロールシャッハ・テスト否定の書として毛嫌いすると、学ぶべきことも学べないまま終わってしまうでしょう。ぜひ一度読んでいただきたい著書です。

Joseph Zubin, Leonard D.Eron, and Florence Schumer (1965) An Experimental Approach to Projective Techniques. Wiley.




[ロールシャッハテストはまちがっている]

 ウッドらの問題作です。1990年代、あるいは2000年前後は、彼らのロールシャッハ・テストに対する批判と、それに抗弁するエクスナーやワイナーの論争が激化したときでした。ロールシャッハ・テスト内部でも、方法論に関する論議が深まった時期でもあります(日本のことではありません)。本書は、実証的な視点から見たロールシャッハやその歴史が書かれており、とても参考になると思います。解釈学的な立場に立つロールシャッハ法でなく(論外のことにされている)、実証的な立場で作られたエクスナーの包括システムが、実証主義者によって批判されるのです。上記の「ロールシャッハ・サイエンス」「投影法への実験的アプローチ」とともに読みたい本です。

James M.Wood, M.Teresa Nezworski, Scott O. Lilienfeld, and Howard N.Garb (2003) What's Wrong With the Rorschach? Science Confronts the Controversial Inkblot Test. Wiley. (宮崎謙一 (2006) ロールシャッハテストはまちがっている. 北大路書房)




[司法領域でのロールシャッハ・アセスメント ハンドブック]

 ワイナーも執筆陣に加わり、ロールシャッハ・テストには科学的根拠があることを慎重に論述してからスタートします。ハンドブックだけに、この領域のありとあらゆることが論じられており、ボリューム満点です。面白いと思ったのは、付録として、上記の「ロールシャッハテストはまちがっている」に対する三つのコメントが付されたことでした。「科学的批判か、それとも確証バイアスか」「興味深い読み物ではある。けれども科学ではない」「ロールシャッハテストは間違っているに対する考え」と言う三篇です。ちょっとお値段は張りますが、司法・矯正領域の方はぜひ手元においてください。

Carl B.Gacono, and F.Barton Evans eds. (2008) The Handbook of Forensic Rorschach Assessment. Routledge.




[ロールシャッハ・スケール]

 ロールシャッハ・テストのスケール集です。テストの基準を満たす、優れたスケールが網羅されました。こういうスケール集が、日本でも標準化されて出版されることを祈ります。④はロールシャッハ・テストを実証的に研究するための方法と問題点が書かれたものです。具体的にどのようなデザインにすればよいか、どのような検定を使用すればよいか、日本でも早くこのような具体的な研究方法の書が出版されるとよいのですが。

①Marvin R.Goldfried, George Stricker, and Irving B.Weiner (1971) Rorschach Handbook and Research Applications. Prentice-Hall.

②Paul M.Lerner eds.(1975) Handbook of Rorschach Scales. International Universities Press.

③Robert F.Bornstein, and Joseph M..Masling eds. (2005) Scoring the Rorschach: Seven Validated Systems. Lawrence Erlbaum Associates.

④John E.Exner eds. (1995) Issues and Methods in Rorschach Research. Lawrence Erlbaum Associates.




[児童(こども)のロールシャッハ・テスト]

 クイズです。ロールシャッハ・テストは何歳から可能でしょうか。とてもバカバカしい問いをしてごめんなさい。目的によって年齢など変わるのに、問いにならない問いでした。
 さて、いかなる目的であれ、ロールシャッハ・テストが可能であるには、シンボル機能が一定の水準まで発達していることが不可欠です。つまり、インク・ブロットをそれ以外の何か「として」見たてる能力が必要なわけです。厳密に言えば、インクブロットと言った時点で、名状しがたいXをそう命名したわけでして、「インクのシミ」と言う反応も、本当は立派な反応なのです。箒を股に挟んで、お馬パッパカと遊ぶことができれば、一応はOKです(こんな譬えはもう通用しない時代かもしれない)。
 ところで、皆さんも一度考えてみてください。子供にロールシャッハ・テストを実施して、何か意味があるのだろうかと。こんなことはもうあってはなりませんが、たとえば急性期の精神病者に実施すると思考障害の所見ばかり出てきて、その人の個別性を読み取りがたいようです。同じように、児童に実施したとしても、紋切り型の反応(いわゆる子供に固有の反応)ばかりで、なかなか個別性など読み取ることが出来ないのかもしれません。かりに読み取れたとしても、主知主義的な、臨床家側のモノローグ的理解に終始する可能性もあります。
 児童にロールシャッハ・テストは必要なのか、そんな私の問いは浅はかかもしれません。けれども、一度立ち止まって考えてみると、あなたは素晴らしいロールシャッハ・テストの使い手に成長できるかもしれません。なぜ児童に行うのか、その理由を考え続けてほしいのです。さらには、自分がなぜロールシャッハなるテストを使うのかも。相談者のことがよく理解できるから? それとも・・・。
 以下に掲載する著書は、たとえばこのような本があると言う紹介を超えるものではありません。各自が一読の上、良書かいなかの判断をしてください。ただ、私の好みとしては、小沢牧子先生とフローレンス・ホルパーン(ハルパーン)は、やはりお勧めです。


 小沢牧子 (1970) 子どものロールシャッハ反応. 日本文化科学社.. 片口安史監修

 Florence Halpern (1953) A Clinical Approach to Children's Rorschachs. Grune & Stratton. (富田正利、松本忠久 (1971) 児童臨床のためのロールシャッハ診断. 実務教育出版)

 Jessie Francis-Williams (1968) Rorschach with Children. Pergamon Press.

 Mary Ford (1946) The Application of the Rorschach Test to Young Children. The University of Minnesota Press.

 Nettie H. Ledwith (1960) A Rorschach Study of the Child Development. University of Pittsburgh Press.

 小川俊樹、松本真理子編著 (2005) 子どものロールシャッハ法. 金子書房.






以下、更新予定。




関連記事


G+



札幌・江別など札幌圏の対人援助