あたご劇場と水田さん
とさ・ピクかわら版号外「あたご劇場 水田兼美さんを偲ぶ」掲載
[発行:とさりゅうピクチャーズ]


 手元にある鑑賞記録を紐解くと、僕が愛宕劇場(当時)で最初に観た映画は、大学を卒業して帰郷した'80年の『動乱』と『堕靡泥の星 美少女狩り』の二本立てだった。翌年は『ナオミ』『青春の門』や『荒野の七人 真昼の決闘』などを観ているが、中学高校時分は行ったことのない映画館だった。
 ここで観た映画として記憶に残る作品となると、多くの人が'85年に上映された『アマデウス』を挙げると思うが、僕は、'81年上映のアーマンド・ウェストンがAFAA(The Adult Film Association of America)の最優秀監督賞を獲得した『メイクラブ』('78)を挙げたい。
 この作品は、オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』を原案にしたポルノ映画だが、フィルムのなかの自分が歳をとり、生身は若いままの主人公がかつて重ねた恋愛遍歴を回想する物語で、カサブランカや『理由なき反抗』といった不朽の名画のなかでシーンとしては割愛されているセックスシーンをアネット・ヘヴンやジョージナ・スペルヴィンといったトップ女優によって繰り広げる作品だ。映画の持つ時代性というものを喚起しつつ元作を偲ばせるパロディとしての才気とユーモアに溢れていて、大いに感心させられた覚えがある。
 亡くなった水田さんと僕が親しく話すようになったきっかけは、後に『高知の自主上映から~「映画と話す」回路を求めて~として本になった高知新聞への連載稿だったように思う。「あれを書いてるのはアンタかね?」と声を掛けていただき、以来、街で出会うと決まって「コーヒー飲みに行こう」と誘ってくれ、映画興行の昔話を聞かせてくださったものだ。そうしたなかで、あたご劇場で観賞した作品について日誌を綴った際には、お届けしてもいたのだが、'03年の刑務所の中』の拙日誌を大層ほめてくれ、配給にも送ったと仰っていたことが懐かしく思い出される。シネコンが出来てさっぱりだとぼやきつつ、ここはもう諦めて中村(現四万十市)に映画館を出してみたいが、どう思うかなどと老いてなお意気軒昂なところを見せておいでたけれども、実現は無理だろうと思いながら伺っていた。最晩年に至るまで現役の映画興行師を全うされたのは大したことだと今更ながらに感心している。
 最後に、僕が水田さんに見せていただいた数々の作品から、ベスト・テンならぬモスト・インプレッシヴ・テンを邦洋、観た年次順に並べて、ご冥福を祈りつつ感謝の意を捧げたい。

★日本映画:
日本の拷問('82)、天城越え('83)、麻雀放浪記('85)、無能の人('91)、害虫('02)、刑務所の中('03)、花とアリス('04)、東京原発('04)、大日本帝国('06)、武士道残酷物語('08)

★外国映画:
メイクラブ('81)、アマデウス('85)、イマージュ('86)、ショーシャンクの空に('96)、ビフォア・ザ・レイン('97)、グッド・ウィル・ハンティング('98)、ライフ・イズ・ビューティフル('99)、不思議惑星キン・ザ・ザ('02)、オアシス('04)、太陽('07)
by ヤマ

'09. 2.27. とさ・ピクかわら版号外「あたご劇場 水田兼美さんを偲ぶ」



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