『七年目の浮気』(The Seven Year Itch)['55]
『カサブランカ』(Casablanca)['42]
監督 ビリー・ワイルダー
監督 マイケル・カーティス

 先ごろクレオパトラを観て、エリザベス・テイラーに観惚れたことに触発されて、ちょうど同じような年ごろのマリリン・モンローを観たくなり、三十六年ぶりに『七年目の浮気』を再見したところ、マリリンとともに自室にジグソーパズルを組んで架けてあるもう一人の女優イングリッド・バーグマンの同じ年ごろの作品『カサブランカ』をやおら観たくなって再見した。

 先に観た『七年目の浮気』は、マリリン・モンローにスクリーンで初めて出会った作品だ。当時の映画日誌に「この時、マリリン・モンローは、一体いくつなのだろう」と記してあるが、'55年作品だと、28歳ということになりそうだ。『クレオパトラ』のエリザベス・テイラーとの対照が、なかなか興味深かった。両者とも実に溢れんばかりの性的魅力を放射していたが、相互の配役替えはあり得ないと思える映画の出来栄えが感慨深かった。

 「時代が変わっても変わらないのが人間」とのナレーションで始まる本作に、なぜ「Seventh Year」ではないのだろう、などと思いながら再見を楽しんでいたのだが、マリリン・モンローに対する印象に全く変わりはないながらも、かつて「この三十年前の喜劇の何と上品で軽やかなことだろう」と記した部分については、リチャード・シャーマン(トム・イーウェル)の妄想部分が些かくどくて、鬱陶しく感じられるようなところがあった。

 それにしても、既に六十六年前にマンハッタンでは、健康メニューとして、大豆ハンバーグ・大豆フライ・大豆シャーベットほかからなる特別食が1ドル27セントで市中の食堂で提供されていたのか、とその先端ぶりに驚いた。さすが後にパークアヴェニューの妻たちウェンズデー・マーティン 著)が住んだ街だけのことはあると思った。


 八十年前となる第二次世界大戦中の映画『カサブランカ』を最初にスクリーン観賞したのは、僕が二十歳だった'78年の早稲田松竹なのだが、五十路に入って程ない'09年にもスクリーン観賞の機会を得て、大喜びで観に行ったお気に入りの映画だ。三十代の時分にもETVでの放映を観たような覚えがあるが、記録には残っていない。

 運命の悪戯により二人の男を愛し、心揺れるイルザ(イングリッド・バーグマン)。浪漫を断ち現実主義に徹していたリックことリチャード(ハンフリー・ボガート)。ヴィシー政権下で己が立ち位置を模索していたルノー警察署長(クロード・レインズ)。五回も死亡の噂が流れたというレジスタンス活動家ラズロ(ポール・ヘンリード)。彼ら四者四様の本心と変心の揺らめきが味わい深い名作を観ながら、サム(ドーリー・ウィルソン)の歌う♪As Time Goes By♪に瞳を潤ませるイルザに魅了されつつ、「君の瞳に乾杯(Here's looking at you, kid.)」の名訳を噛み締めていた。

 この台詞は、パリで二度、カサブランカで二度、出てくるように思うが、やはりカサブランカでの二度が印象深く、最後の空港での別れの場面での決め台詞もさることながら、夜間外出禁止となっているカサブランカでのイルザ二度目の訪問場面でのこの台詞が実に味わい深い。

 とさ・ピクかわら版号外「あたご劇場 水田兼美さんを偲ぶ」への十二年前の寄稿に、思い出深い一作として挙げた『メイク・ラブ』(Take Off)['78]に描かれていた割愛シーンがあってこそ、封印していたパリ時代を象徴するこの台詞が現われるとしたものだろうが、ドイツ占領下のブルガリアから逃げてきた若夫婦が通行ビザを入手できないなか、内密でルノー署長に身を任せれば手に入れられる約束が果される保証を若妻がリックに確かめに来るエピソードが重要で、大いに効いている。己が賭博場のルーレットでの22番への連投によって稼がせることで難を逃れさせ、女好きのルノー署長からは咎められていたリックではあったけれども、イルザとの間で交わしたものは、そういう身売りとは断じて違うものだったとの確信を得て、パリを取り戻せたと思ったからこそ「俺たちにはパリがある」と告げ、イルザをラズロとともに送り出す選択をしたのだろう。

 そして、リックのその選択のうえでは、彼に拳銃まで差し向けたイルザがおそらく自身の内でも予期していなかったと思しき己が変心によって、今度はラズロではなくリチャードとともに生きることのほうを選ぶ意思を持ったことに加えて、かつては自分も与したレジスタンス活動を今なお果敢に信念を持って続けているラズロの姿を目の当たりにしたことが大きく作用していたような気がする。人伝に聞くことなど些かもあてにはならないが、直接、人物と相対し、目の当たりにすることは蔑ろにできないとしたものだ。リックの店「カフェ・アメリカン」でシュトラッサー少佐(コンラート・ファイト)率いる独軍兵士たちが高らかに歌っていたドイツの愛国歌♪ラインの守り♪に抗して、ラズロが指揮を執りフランス国歌♪ラ・マルセイエーズ♪を演奏させ圧倒する場面が、活動家ラズロの姿勢を象徴的に表していた。映画の表現というものは、かくありたいものだと随所で思う本作でも屈指の場面で、その昂揚が大いに利いているように感じた。リックから「覚えていない…先のことはわからない」と袖にされていたイヴォンヌを演じたマデリーン・ルボーの流す涙がイングリッド・バーグマンに引けを取らぬ美しさで印象に残る。

 ルノー署長の変心というか、選択を引き出したものにも、このラズロの姿が影響していたように思われるが、それ以上にルノーに作用したのは、リックの変貌というか宗旨替えだったような気がする。リックからの「これが俺たちの美しい友情の始まりだな」の意味するところは、そのことを彼がよく承知しているということであり、そういうリックだからこそ、サムはパリからずっと付いてきていてフェラーリからの高額ギャラでの引抜きも断るし、ウガーテが通行許可証を預けたりもするということだ。

 そのようなリックの端倪すべからざる人物としての存在感をハンフリー・ボガートは、よく醸し出していたように思う。そして、それほどの人物たるリックを「女のことで世界に仕返しするの」と咎められるほどに女々しく情けない心持にさせてしまうような手ひどい失恋ダメージを与えるだけの女性がイルザだったわけだが、バーグマンは、確かにそれに足るだけの魅力をその瞳のみならず全身で放射していたような気がする。何度観ても、実に大した映画だと改めて思った。




*『七年目の浮気』
参照テクスト:『パークアヴェニューの妻たち』読書感想

*『カサブランカ』
推薦テクスト:「やっぱり映画がえいがねぇ!」より
https://www.facebook.com/groups/826339410798977/posts/1306855269414053/
推薦テクスト:「映画ありき」より
https://yurikoariki.web.fc2.com/casablanca.html
推薦テクスト:「お楽しみは映画 から」より
http://takatonbinosu.cocolog-nifty.com/blog/2021/07/post-f737b6.html
by ヤマ

'21. 6.29. BSプレミアム録画
'21. 7. 9. BSプレミアム録画



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