ヤマさんの ここに注目!('06)
とさ・ピクかわら版掲載
[発行:とさりゅうピクチャーズ


さよなら みどりちゃん
 『まぶだち』で眼をみはった古厩智之監督の作品だ。『ロボコン』で成功も収め、「今回初めて中高生ではなく成人を描いた作品を撮った」というのが一番の注目どころ。
 これまでの作品で、思春期の中高生の心の襞と綾を、言葉を拒んだ肌触りとして実に的確に捉え、巧みに描出していた古厩監督が、成人男女のそれをどのように綴るのか、とても楽しみだ。
 また先般の「県民の選ぶ映画ベストテン」で『ALWAYS 三丁目の夕日』に続き、邦画第2位に選出されていた『MAZE』で小学校の先生を演じていた星野真里が、本作でフランスの「ナント3大陸映画祭」の主演女優賞に輝き、映画作品も準グランプリを受賞しており、ますます期待が募ってくる。原作は近頃の流行でもあるように漫画で、南Q太の同名作品。飲み屋で働くユタカ(西島秀俊)と付き合っているOLゆうこが、心の内を態度や行動では示せないまま彼との関係に流されつつあるなかでの心の襞と綾を描いているようで、まさしく古厩監督に打ってつけの作品だ。('06. 1.27.号)


欲望
 R18指定だけれど、映画に描かれる人と人の心の通いに素敵に反応する県外の映画愛好家の女性たち幾人もから薦められた作品だ。直木賞受賞の女性作家の原作を、デリカシーに富んだ抒情性の描出に定評のある男性監督が映画化していて、脚本も男女二人で書いている。この「男女共同参画で制作したコラボレーションの具合」が一番の注目どころだ。
 事故で性的不能に陥っている青年を深く愛した女性の物語。二人の直面する切なく狂おしい心模様を透明感のあるリリカルな“欲望”として見事に描き出していると、薦めてくれた女性たちが口を揃えていた。タイトル名や成人指定ということで、多くの人が観損ねていることを推進委員を自称する女性がとても残念がってもいた。また、高知では自主上映という形で上映されるから、よその映画館上映のように作品と観客のミスマッチが起こらないのではないかと言ってくれる女性もおいでた。熱演の板谷由夏が素敵に瑞々しいとのこと。女性たちの共感と涙を誘って止まない作品だそうだ。('06. 3. 3.号)


狼少女
 『ALWAYS 三丁目の夕日』で脚光を浴びた“昭和の香り”を対照的にもCGをいっさい使わずに見事に封じ込めているとの「ロケハンぶりと画面」が一番の注目どころ。
 商業製作の場からはかなり遠い地点で芽生え“映画への想いの強さ”が生み出したとも言える作品なのだが、そのせいか、東京でもレイトショーやモーニングショーといった枠でしか上映されなかったようだ。でも、そんな作品が、高知のような地方都市なのに、きちんと目に留まって上映されるのだから、ちょっとたいしたものだ。都会に住む映画愛好者の知人たちでも見逃している人が多いなかで、からくも観た人が「あー、観逃がさなくって良かった!と心底思える、もー、久々に心打たれまくる作品なのだった。」などと書いているのを読むと、高知で上映されることががぜん誇らしくもなってくる。
 小学4年生の男の子が、美少女転校生やいじめられっ子の女子との出会いや関わりのなかで、何かを獲得していく姿を描いた作品。大人たちから「危ないから近づかないこと」と言われる、巡回興行の見せ物小屋を通り抜けることで果たしていく成長を描いているようだ。そして、子供たちの生き生きとした表情を絶妙の味で捉え、切ない涙を気持ちよく誘ってくれるそうだ。('06. 4.29.号)


『あおげば尊し』
 TVのバラエティ番組のイメージが強いテリー伊藤が、真摯に悩みながら手探りで答えを探す教師を演じ、『レイクサイドマーダーケース』や『ALWAYS 三丁目の夕日』で、質の異なる中年主婦を演じて女優としての存在感を印象づけてくれた薬師丸ひろ子が、その妻を演じている作品だ。この二人の共演が一番の注目どころ。
 生涯一教師だった父親の最期を在宅介護で看取ることに決めた小学校教師が、五十歳を過ぎた自分にも分からないでいる“死”や“教えること”“教師という職”などについて、改めて問い掛け、問い直し、“生”を見つめていく物語のようだ。ドラマチックな演出とは対極にある淡々とした筆致に個性と定評のある市川準監督の語り口に見合った物語が綴られていて、最後には感慨と余韻の残る映画になっているような気がする。
 とりわけ、家族の中で誰よりもまっすぐに義父の死を見つめている妻として、重要な存在を担っていたとの薬師丸ひろ子の役どころは、多くの女性に観てほしいものだし、教育関係者は無論のこと、教師のみならず“教えること”に携わっている全ての人すなわち子を持つ親には、ぜひとも観てほしい映画だ。「この映画に出会えて、良かった。」と書いている知人の鑑賞日誌をみて、なおさらそう思った。('06. 5.19/20.号)


『帰郷』
 五月に上映された『狼少女』は、作り手たちの映画への想いの強さが滲み出ているところが素敵な作品だったが、『帰郷』もまたそのような映画のようで、「想いを込めて作られた手作り感」のほどが一番の注目どころ。
 再婚する母親の結婚式に出席するために帰郷した三十路男が、昔の恋人から思わぬ難儀を振りかけられる。彼女の連れた小学生の少女が、自分の娘であるかもしれない可能性を仄めかされたまま、置き去りにされてしまうのだ。突然姿を消した彼女を捜す二人の小さな旅が綴られ、縁があるのかないのか不思議な行き掛かりの大人と子どもが、かけがえのない絆で結ばれていくらしい。そんな三日間が描かれて、心に沁みる映画のようだ。
 市民による手作り映画祭として有名な「高崎映画祭」では、若手監督グランプリ 萩生田宏治、最優秀主演男優賞 西島秀俊、最優秀助演女優賞 片岡礼子と、三部門選出という高い支持を得ている。前回の『狼少女』が、当日アンケート意見にもあった「宝物になる映画」だとすれば、『帰郷』は、観終えた後、ほんのり幸せな気持ちになれる「ささやかなお土産をもらったような映画」なのだそうだ。('06. 6.2/3.号)


三年身籠る
 何かの昔話で聞いたことのある想定のようにも思うけれど、「三年間身籠ることで夫婦間に何が起こると創造しているのか」が一番の注目どころ。
 原作・脚本・監督を一人で担った三十代女性 唯野未歩子に結婚・妊娠・出産の経験があるのかどうかは知らないけれども、女性ならではの視点が盛り込まれているようだ。通常ならあり得ない設定だからこそ描ける場面というのがありそうなところが楽しみだ。妻の側にしても夫の側にしても、何かと心が揺れ動きやすい妊娠期間が三倍になることで、負うリスクも得る成長も大きくなっているはずだ。妊娠期間というのは、赤ん坊が出産に耐えられる状態にまで育まれるのに必要な期間であると同時に、親が親になる準備を整えるためにも必要な期間なのだろう。『三年身籠る』という着想には、必ずやそのような視点があるはずだ。同世代女性の手による映画として、三十代女性にとっては必見の作品だと思う。だが、それ以上に必見なのは、そんな女性をパートナーとしている男たちなのだろう。('06. 9.15/16.号)


『雪に願うこと』
 12月にシネコンで上映される『ゆれる』は、とても観応えのある佳作なのだが、それと同じく、土地と歴史に根を張る田舎に残った兄と東京に出て華やかさのなかに虚ろさを見て帰省した弟との「兄弟間の葛藤をどう描いているか」が一番の注目どころ。
 兄を演じる佐藤浩市は、若い時は『魚影の群れ』、最近では『海猫』の海の男役が僕は好きなのだが、今回は帯広の“ばんえい競馬”の調教師役。本作で東京国際映画祭の最優秀男優賞を受賞したとの男らしい存在感が楽しみだ。弟役の伊勢谷友介は、あまり好きな役者ではなかったのだが、つい最近の『ハチミツとクローバー』での好演が印象深い。サラブレッドのスマートさとは異なるゴツゴツとした力強さが魅力とおぼしき輓馬による障害レースに、おそらくは男の生き様を重ねているのであろうドラマへの期待が募る。北海道の大自然と、東京国際映画祭ではグランプリ・監督賞のみならず、観客賞も受賞したという語り口のよさを楽しみたい作品だと思う。('06.10.13/14.号)


ヨコハマメリー
 今春、都会で公開された際に、日頃からドキュメンタリー映画に関心を寄せているわけでもなさそうな多くの映画ファンたちの心を捉え、際立った賞賛の声を集めていた作品だが、この映画を観た人を、この映画のなかでメリーについて語る人を、かくも捉えて離さなかった「伝説の娼婦の人物像」というのが一番の注目どころ。
 昨今、劇映画の世界では昭和レトロが大流行。この作品では、ちょうどそれと符合するかのように、戦後復興期から高度成長期にかけての昭和の香りも、鮮やかに浮かび上がって来ているような気がする。“ヨコハマ”の示すハイカラというのは、その当時の日本人の憧れや願望の集大成的なイメージだったように思う。『ヨコハマメリー』は、そのハイカラのなかに潜む人生の深みと厳しさを温かく見つめた映画のようで、ラストに待っている驚きとカタルシスのドラマチックな効果には、劇映画以上のものがあるらしい。これまでに「とさピク」が上映してきた作品のなかでも、高知での公開が最も嬉しく、楽しみな作品だ。('06.11.2/3.号)


『青春☆金属バット』
 近頃流行の漫画原作ものだが、大阪芸大の卒業制作作品『鬼畜大宴会('97)』が気になりながらも、高知ではまだ上映されたことのなかった「熊切和嘉監督作品の初見参」というのが一番の注目どころ。
 監督作第5作で「はじめて“普通”の青春を描いている」とプレスには紹介されているから、『鬼畜大宴会』のようなインパクトはないのかもしれないのが心配だけど、PG−12とはいえ、しっかり指定作品だし、予告編やチラシのショットを観ても、フツーな作品ではなさそうだ。原作漫画も読んだことがないけれども、映画鑑賞後の反応としては、おそらく賛否が大きく分かれ、嫌いな人からは、ひたすら気分が悪かったなどと酷評されそうな気がする。逆に言えば、それだけインパクトがあるとも言えるわけだけど。('06.11.22/23.号)


『幸せのスイッチ』
 大阪で予告編を観たときに目を引いた沢田研二の演じる「町の電器屋の頑固親父の醸し出す味わい」が一番の注目どころ。
 スクリーンで僕が観るのは『大阪物語』以来になるけど、若い時分の華の延長にあるダンディなどとは相反する役柄を巧みに演じる彼の存在感が気に入ってる。今回はまた、今乗りに乗っている上野樹里が、頑固親父と対抗する次女を演じていて、さらに楽しみだ。沢田研二は、自身がお笑い好きなのか、若い時分に結構巧みにコントをこなしていたが、上野樹里もコメディ色には意欲的な女優だから、二人の絡みに期待が持てる。予告編の印象では、真っ向から笑いを取りに来てはなさそうなところが、軽妙なユーモアとして二人の演技の味となっている気がする。
 原案・脚本・監督をこなした安田真奈は、約十年間勤務した家電メーカーのOLを四年前に退職した後3年かけて電器屋や関係者の取材を繰り返し、店で短期間働いたりもして、改稿を重ね、映画化企画の頓挫も数回くぐり抜けて劇場映画デビュー作に漕ぎ着けたようだが、新人の思いの籠もった作品という点でも楽しみな作品だ。('06.12. 9.号)
by ヤマ

'06年. とさ・ピクかわら版「ヤマさんの ここに注目!」



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