晩酌であれ、居酒屋であれ、男の一日を締めくくるにはどうしても欠かせないのが酒。 男の料理もそれに合った酒があれぱ、さらに真価を発揮するというものです。 ここでは私の行きつけで、埼玉県蓮田市にある「今宮酒店」のラインナップを中心に、 男の夜を演出するにふさわしい、私お勧めの厳選地酒銘柄を紹介します。


十四代

十四代

醸造元

高木酒造梶@山形県村山市

杜氏

高木 顕統

お勧めの1本

本丸

コメント

 「酒ってこんなに麹の風味がするものか」というのが、私が十四代を最初に飲んだ時の 印象でした。今でこそ多様な味わいの酒が市場を賑わしていますが、地酒の世界で端麗辛口が 主流だったその当時にはまさに衝撃的な味だったと思います。 甘い香り、フルーティー、後味がすっきりなど飲む人により色々な切り口から評される酒 ですが、もし「十四代らしさとは何か」と問われれば「この麹の風味が十四代らしさだ」と、 私は答えたいと思います。 幻の酒などと騒がれすぎ、センセーショナリズム先行のきらいもありましたが、やはりその 実力は確かであり、端麗辛口偏重の日本酒界を軌道修正させた功績は、賞賛されてしかるべき ものがあります。
 同様の造りで酒米を代えながら、味わいの異なる酒をシリーズで商品化したのも 十四代が先駆けでした。一般ユーザーに酒米の知識を普及させ、酒米の違いが味わいに果たす 重要性を認識させたのもこの蔵の大きな功績であり、21世紀以降、日本酒界のトレンドリーダー として果たした役割は、誰もが否定できないところです。
 龍泉や龍月などの特別なお酒もありますが、私がお勧めする一本は「本丸」、やはりこれが 十四代の原点でしょう。芳醇さとすっきりした飲み口を両立し、日本酒におけるの一つの スタイルを確立したお酒ではないでしょうか。
 今でも十四代をおいていることがステータスといった雰囲気が居酒屋業界には存在します、 それだけのスター性を持った酒であることには間違いありません。

大七

大七

醸造元

大七酒造梶@福島県二本松市

杜氏

佐藤 孝信

お勧めの1本

純米生もと

コメント

 生もとづくりのトップランナーとして日本酒界にゆるぎない地位を確立している大七ですが、 近年その名声はますます高まっています。大七の酒造りがかわったのではなく、端麗辛口の 酒や、香りの華やかな吟醸酒がもてはやされる中で、脇目も振らずに生もとづくりで力強い 酒質を貫いてきた大七に、時代の方が追いついたと解釈したほうが良いでしょう。神亀の 小河原専務は「家は800石だから全量純米なんてことができた」といっておられましたが、 5,000石という当世の地酒蔵としては決して小蔵ではない大七が「全量生もとづくり」 というのは並大抵の苦労ではないと思います。
 2004BYの「妙花闌曲」が洞爺湖サミットの 乾杯酒として使われたというセレブな一面も持っていますが、大七の看板といえばやはり 「純米生もと」でしょう。
 燗上がりの酒というのは、私なりに大別すれば温めたとき膨らみが でてくるタイプと、酸がたってキレがでるタイプになるのではと思っているのですが、 「大七純米生もと」は後者だと思います。鰤かまや地鶏の焙りを併せ、脂との相性を楽しみたい ところですね。個人的には、常温のミルキーな感じも結構好みです。クリームコロッケやグラタンなど と併せると表情が一変しますよ。

飛露喜

飛露喜

醸造元

(資)廣木酒造 福島県会津坂下町

杜氏

廣木 健司

お勧めの1本

特別純米無濾過生原酒

コメント

 居酒屋で品書きを見たとき名前を見つけると、注文せずにはいられない銘柄がこの「飛露喜」 です。「神亀」は飲む前にちょっと心の準備が必要ですし、「十四代」も毎回飲みたい わけではありません。「黒龍」や「磯自慢」もつまみや気分によってはあまり飲みたくない ときもあります。しかし「飛露喜」だけはあれば毎回でも飲みたいのです。非常に常用性が 強く、依存に陥りやすい麻薬のような酒です。
 「飛露喜」を一躍スターダムへと押し上げたのは 「特別純米無濾過生原酒」、フレッシュなタッチと口いっぱいに広がり鼻腔へと抜ける 芳醇さは、日本酒ファンを瞬く間にとりこにしてしまいました。その後、無濾過生原ブームの 牽引役も果たし、今では押しも押されもせぬビックネームです。
 「経営不振の蔵を倅が立ち直らせた」というサクセスストーリーは十四代と同じですが、 廣木さんがさらにすごいのは、大学の醸造学科出身でも何でもなく 東京の会社でサラーリーマンをしていた、本当の意味でずぶの素人だったことです。想像しがたい苦労は あったのでしょうが、そんなことをみじんも感じさせない、鮮烈で元気いっぱいのお酒には 手放しで拍手したくなる魅力を感じます。

神亀(ひこ孫)

神亀ひやおろし

醸造元

神亀酒造梶@埼玉県蓮田市

杜氏

原 昭二

お勧めの1本

純米上槽中汲み酒

コメント

 神亀の味を一言で評するとすれば風格でしょう。純米酒なんて多くの蔵が見向きもしない 時代から全量純米造りで取組んできた「純米原理主義者」としての信念がなせる業だと 思います。
 神亀の功績は「純米酒の普及」、「いい酒は燗しないという誤った考えを糾したこと」、 「食中酒という角度から日本酒本来の役割に光を与えたこと」 「日本酒に熟成という概念を定着させたこと」等、誠に偉大なものです。 これらの思想(あえて思想という言葉を使わせていただきます。)には追随者も多く、 多くの日本酒関係者からは教祖として崇められているのも分かる気がします。 私の愛する今宮酒店のご主人も信徒の一人です。
 この蔵の酒は総じてこってりとしたクリームソース系の料理や中華料理で真価を発揮します。 牡蠣のグラタンや酢豚などを想像していただければいいでしょう。 淡白な料理にしか合わない腰の弱い酒質とは一線を画した重厚な味わいです。
 神亀らしい酒というのは、やはり「手造り純米酒」のお燗だと思いますが、神亀入門者には 生酒から入ることをお勧めします。お燗しなくても神亀の良さを理解できる酒だと考えるからです。 さああなたも是非、神亀ワールドを体験してみてください。

〔1〕 〔2〕 〔3〕 〔4〕 〔5〕 〔6〕 next