|
vol 33: 霊の想い
何も変わらへん日常と思う?
そうかな?
少しずつ、起こってきてるよ確実に。
居間でテレビを畳で寝ながら見る。
もう18時やのに電気もつけんと、テレビを見る。
この時刻は、どのチャンネルもたいがいはニュース。
『昨夜都内のマンションで、生後1ヶ月の乳児の遺体が見つかりました。』
『今朝、幼児殺害容疑で父親が逮捕。』
『・・・母親が恋人の男の指示に従って、
陽介ちゃんの首を絞めたと話しているようです。』
『昨日からの山火事は今もなお燃え続いているようで・・・。』
『大雨による土砂崩れで被害が出ています。』
『内戦はまだ続いているらしく・・・。』
ほら?着々と進んでる闇の計画。
せやけど、今、日本でもシングルマザーや、母子家庭は増えてるらしい。
母親は子供の母親でもあるけど、一人の女でもある。
一生懸命、子どもに向き合ってる母親こそ、
甘えてチヤホヤされたいものなんちゃうかなって、
テレビを見つつ感じた。
男は?
男は若い時は学歴の世界。
年行くと、仕事仕事仕事。休みは家族がおる。
一人になりたい時間がない。
俺、何やってんねやろ・・・って気分になるんやろな。
俺にも家庭が出来るんやろか?
嫁さんもうて、子ども出来て、仕事して。
一人の時間が欲しいからって身の回り全て無くなる事望むんやろか。
ボーっとしながら考える。何気なく考える。
そしたら、なんか気怠るくなって・・・。
「コンビニでも行こ。」
外に出ることにした。
夕方は5月半ばは肌寒い。
年々、やたら暑くなったり急に寒くなったり、
地球もガタがきてるんやなって身で感じる。
フラフラ歩いてたら、電信柱に黒い影が見えた。
影は突っ立ってる人間の形しとる。
立ち止まって目を凝らして見る。
普通やったら、気付いた生きてる人間は珍しいから言うて話かけてくるのに、
この霊は、その場所から動かへん。
話かけてみようか。
考える。
(そこで何しとるん?)
(・・・)
返事なし。
せっかく、話聞いたろ思たのに、何やねん。
(なぁ?聞こえんの?)
(・・・)
「・・はぁ。」
溜息吐いて、もうええわって俺は放ってコンビニに向かった。
雑誌立ち読みして、コーラとポテチ購入。
またフラフラと同じ道を通って帰る。
電信柱。
影が何も変わらん状態。
無視して通り過ぎるも、気になって立ち止まった。
(なぁ、お前ずーっとそこにおる気か?)
(・・・)
返答なし。
「だる~。」
一言呟いて家に帰った。
「なんやねん、ホンマ。」
話されても、俺には解決できへんものの、
そいつがそこにおる理由も解るし、
話たことによって、そいつも気が楽になるかもしれん。
そう思うのに。
誰もおらん暗い居間に行ってテレビをつけて、テーブルに袋を置いて座った。
テレビは電源をつけたのに、プッと消える。
「は?」
また電源つけるけど、消える。
「なん?壊れてしもたん?」
リモコンを指で何回も押してたら、気配に気づいた。
後を咄嗟に振り返るけど、誰もおらん。
怖いくらいに静かで、外の音も止まってる。
「誰や!・・・おるんやったら姿見せろや!」
声を荒げて言うた。
すると、窓ガラスや扉がガシャンガシャンと割れんばかりの音をたてる。
床はドンドン鳴って、ガタガタと家中が地震みたいに揺れてる。
「なんや!地震か?!」
地震と錯覚を起こすも電気を見たら揺れてない。
空気はあきらかにおかしい。
一人やし暗いし、段々恐怖心が湧いてきた。
「・・・。」
(カン!)
部屋にニコニコさんが姿を見せた。
俺は一気に安心する。
「ニコニコさん!」
(静まれ、地神よ。何を怒っておる。)
怒ってる?
ニコニコさんが話しかけると、テーブルに大きな足がドンっと乗っかった。
その圧力でコーラーの缶は潰れて吹き出し、
ポテチの袋も音をたてて張り裂けた。
(落ち着かれよ、地神。)
(ムゥゥゥ・・。)
低い唸り声が響く。
(カン、お前何をした?)
「はぁ?俺は何もしてない!」
(この方は、この家から少し離れた場所の地神様だ。
何か失礼なことはしてないのか?)
「そんなんして・・・離れたって、そこの電信柱?」
ニコニコさんは小さく頷いた。
(申し訳ない。この人間はワシの友人。どうか無礼をお許しいただきたい。)
(ムゥゥゥ・・。)
ちょい待ち。俺別に声かけただけやん。
「ニコニコさん、俺ただ影でおるから声かけただけやで?」
(この人間にはきちんと道理を話しておく為。)
ニコニコさんは足にむかって頭を下げた。
気にくわん。
話しかけただけやのに、何が悪いねん。
(人間ヨ。我ガ影デアッタノハ、今ハ昔、此処デ大キナ火事ガアリ、
何人モノ生き物ガ焼ケ死ンダ。
焼キ焦ゲ墨ニナル程ニ。オ前ニ話シテ何ガ解ルカ。)
火事?そんなん聞いたことない。
(お前の生まれるもっと昔の話だ。この方はその時、犠牲になられた。
その場所をとても大事にしていらっしゃる上、地の神として、
あの場所を見守っていらっしゃる。)
「・・・そんなら・・。」
(カン!)
ニコニコさんは俺の言葉を遮るように名前を呼んだ。
ニコニコさんが話しをつけると、巨大なテーブルの足は消えていく。
「なんなん。俺、ただ電信柱におるから話かけただけやのに。」
ニコニコさんが眉尻下げて座り俺にも座れと指で畳を指した。
(のうカン。今までの霊はお前から話しかけたか?)
「ん?・・・ンー。」
(お前が感じて、そして話しかけた。感じずに霊を見たからといって、
声をかけんかっただろ?。
お前の体に異変を起こして初めて声をかけただろ。)
「そう言われたら・・・うん。」
(霊の中にはな、姿は力のない霊に見えても、皆姿を変える事が出来る。
カンのように初めから親しく話されて喜ぶ者もいれば、
礼儀としてみれば、礼儀がなってない、と思われる。)
「なん?さっきの足の奴は俺が馴れ馴れしく話しかけたから怒ってたん?」
(皆それぞれ何故そこに居るか理由があるもの。
カンに聞いて欲しいと思ったら自分からカンに憑くだろ?
だが、今回はそうではなかった。)
「なんでそこにおるねんって聞いたらアカンのか?」
(初対面でその言い方はどうか。
その場所に居る理由を本当に聞きたいのであれば、
コンニチワから始まるんではないか?)
それやったら人同士の会話やん。
(そう。霊も人も同じ。礼儀を弁えなければならん。
それとも・・カンは霊よりも上の目線か?)
「ちがっ!」
(だったら、親しき仲にも礼儀有り。霊にも神にも悪にも同じ。
それをきちんとしておけば、お前に話そうという気にもなる。)
ニコニコさんが言いたい事はこうや。
話をしたい者は自らやって来る。
やって来た相手には「どないしたん?」って初めから聞いても道理。
「こんにちわ」でも、道理。
でも、自分から話しかける時は生きてる人間で初めての人に対してやったら、
「すんません」とか、「こんにちわ」とかから始まる。
その道理は霊に対しても同じ。
人と霊にも礼儀あり。
どちらが上とかはないんや。
神さんやったとして、自分が尊敬できる神さんやったら、
おのずと低姿勢になるんと同じ。
今日の俺の態度は、俺のお節介で、尚且つ、生意気な態度やった。
なんも返事せんから苛立ちもした。自分勝手な失礼な行い。
ホンマに相手を心配してたら、同じ言葉でも、もっと違ったやろう。
ただ、俺が気になっただけで声をかけたんや。
挨拶もせんと。
(カン、相手が話して来ないという事は、
話したくないという事。それを無理に聞いても、
何もやってあげられんだろう?)
「・・・うん。」
(さっきの地神は苦しんで命を落とし、もう2度とそんな事が起こらぬよう、
あの場所を守ってるおる。
カンをどのような人間かも解っていないのに、
自分の過去を話たいとは思わんだろ。)
「うん。ごめん・・・理解した。」
ニコニコさんは優しい笑みで俺の頭を撫でた。
(ワシは知ってるがの。カンがどんなに優しい子か。)
その笑みに俺もつられて情けなく笑む。
「ただいまー。」
オカンが帰って来た。
「おかえリンゴー。」
ニコニコさんは姿を消す。
別に消さんでもオカンやのに。
「ちょ!・・・アンタ!なんやこれ!」
「へ?」
テーブルの上と畳にはポテチの粉々になった粉末と、
コーラーでびしょ濡れになっている。
「あぁ!」
「あぁ、ちゃうやろ!アンタはホンマにぃいいいいい!」
「ち、違うんや!これにはいろいろとー。」
「いろいろもヘチマもないわっ!」
オカンに頭を叩かれた。
ニコニコさぁん・・・おってくれたら説明も信憑性があるのにぃー。
数日が経ち、その道をたまたま歩いていたら、
やっぱり電信柱に影が居た。
俺は立ち止まり、じっと影を見つめる。
ゆっくり足を進ませて電信柱の真横にさしあたった時、
俺は陰に向いて何も言わず深くお辞儀をした。
すると影が電柱の付け根を指差した。
そこにはコンクリートから小さな花が芽を出している。
「ちっさ!」
電柱に近付きしゃがみ込んで花を見つめた。
「スゲー。コンクリートのほっそい隙間から花咲いとる。
もしかして・・・咲かせはったんですか?」
俺は陰に問い掛けた。
すると影は小さく頷く。
「うへ~。」
そのとき、以前、弥勒から教わった真言がある。
その真言は地蔵菩薩の真言で、地蔵菩薩の大慈悲で花をも咲かせるという。
両手を合わせて目を閉じる。
「・・地蔵菩薩様。どうかこの小さな花にも強い生命を。
オンカカカビサンマエイソワカ・・・。」
俺は両手を少し開けて小さな花にかざした。
暖かいエネルギーが花に注がれる。
俺は陰に目を向けると、目の前には大きな足。
ゆっくり上を向いたら、
とても大きな赤い肌の鬼が優しい笑みで俺を見ていた。
33 
|