vol 31: 言葉に出来ない言葉




俺の記憶が戻った。せやからいうて特に変わりもない日常。
俺は何か今出来る事をって考えるんやけど、
なんも思いつかん。

大樹の家に行ったら、なんや部屋に二人になるんも俺的には引くし。
でもやること見つからんから松吉に会いに行こかな。

「まーつきちぃー?」

玄関から中に入って名前を呼ぶ。

「おぉ~!庭におる~!」

まぁーた、盆栽チョキチョキかいな。
俺は廊下を歩いて縁側に出ると松吉が笑顔で向き、

「どうした?久々だな。」

そう言って縁側に歩き腰かけた。

「べーつに、なんもないんやけどな。」

何気なくそのまま後ろに倒れて寝ころぶと、
和室の仏間が見え、壁には兵隊の服を着たおっさんの写真が飾られてる。
俺はその写真の目と目が合うと、目を離すことが出来んようになった。

「なぁ・・・あれ、誰なん?」

俺は写真のおっさんが誰なんか気になり問い掛けた。

「写真?あぁ、仏壇の上のか?」

「そや・・・。」

「あれは俺の祖父だ。織田大松。」

「兵隊さんやったん?」

「あぁ。戦死でな。遺品も骨もない。ハガキ1枚。」

「ハガキ?」

「どこどこで戦死しましたって内容のハガキ1枚だけだ。」

「戦争か。なんや学校でも詳しくやらんから解らん。
歴史の授業で出てくるぐらいやもん。」

その言葉には、松吉の表情は曇りを見せた。

「まだまだ、戦争は無くなってないのに。
戦争体験者も話さない人も増えて来たらしいしな。」

「なんで話せんの?」

「思い出したくもない、同情されたくもない事実の話だからだろ。」

松吉も俺と同じように後ろに倒れて寝ころんだ。

俺はニュースも見ない、新聞も読まない。
世界情勢なんか全然解らん。
今の戦争を知らん子や。
昔の事は記憶にはあるけど。
天界から下界を覗いてた時に見た光景。
戦争言うても、馬に弓、槍の時代や。

「じいちゃんの戦争って何ていう戦争の名前なん?」

「第二次世界大戦。」

「世界大戦て原爆の時に死んだん?」

「いいや。その前の硫黄島でらしいな。」

硫黄島か。そう言いながら眠くなって俺は寝てもうた。

俺の瞑った目には、穴が見える。
壁は土。丸い穴の中や。
洞窟?
いきなり音が頭に響く。
大きな爆音。ドーン!バリバリ!。鼓膜が破れそうなくらい。
ふと、隣を見ると日本人と違う女の人が赤ちゃんを抱いて震えてる。
大きな爆音に悲鳴のような声。
俺はそっと穴を四つん這いで進み出口から顔を出す。
目の前に広がるのは木々が炎に包まれ、
人がたくさん倒れてる。土は黒い。
後に人の気配がした。

「おい!お前何してるっ。我ら陸軍も応戦だ!」

そう言って後ろから体を押され、外に出た。
空は暗く、戦闘機が飛ぶ。
戦闘機から赤い小さな光が沢山地面に打つ。
それに人が打たれて、どんどん地面に倒れていく。
俺は目を見開いて固まった。

な、なんや・・・ここ。
地獄にでも来たんか。

「B29が来たぞ!」

ドスンドスンと大型の爆弾が落ちて地面が揺れる。
俺は怖くて怖くて・・・せやけど足が動かん。
目の前にさっき穴の中で隣にいた女の人が赤ちゃんを抱いて出てきた。
俺になんか言うてる。
必死で言うてるけど、日本語ちゃうから解らん。

なん?なにを言いたいん?

俺も必死で聞こうとする。
横から白人の外国人の兵士が銃を構えて近づいてきた。
女の人は赤ちゃんを俺に差し出して泣いてる。
俺に赤ちゃんを助けろ言うんか?
俺が両手を赤ちゃんに伸ばしたら、パンっ!と音がする。
目の前の女の人の右こめかみから左に向かって血が吹き出して、
白目になって横に倒れていく。
俺は赤ん坊を掴んだつもりやったのに、
赤ん坊は地面に落ちた。ギャーギャー泣き叫ぶ。

俺は慌てて赤ん坊を抱き上げようとするけど、
白人の銃が俺のこめかみに銃口を触れさせた。
俺はガタガタ震える。
赤ん坊の泣き声。悲鳴。爆弾の音。
再びパンっと俺の耳元で音がした。
俺の体はゆっくり真横に倒れていく。
赤ちゃんは白人の兵士に抱かれて連れて行かれた
背中を見ながら思う。
赤ちゃん・・・殺されるん?
どこに連れて行くん?
なぁ・・・?


「カーン?風邪引くよ?」

柔らかい声で目が覚める。
目を開けると見慣れた大樹の顔。

「大樹・・・。」

そして目に入ってくるんは、仏間の写真の目。

俺の体には毛布が掛けられてて、松吉の姿はない。
慌てて起き上がって仏間に行き、写真を見上げた。

「なぁ!あれがじいさんなん?!」

仏間で叫びだした俺に大樹が近付き、

「カン?」

不思議そうに名前を呼ぶ。

「赤ちゃん・・・気になるんか?」

俺は小さく呟いて俯き握り拳を作る。
俺の体が無重力みたいに感じる。
俺は畳に崩れ座り、畳を叩き、

「助けられんかった!わし、助けられんかった!」

体、憑られた。

「カンっ!」

大樹が俺の肩に触れてから写真を見上げる。

「おじいちゃん?」

俺の体は元に戻った。
顔を上げて眉尻下げ大樹を見つめる。

「大樹・・・じいちゃんな・・・。」

俺は孫の大樹に見た事を告げた。
大樹は目を閉じ、暫くしてからゆっくり目を開けて笑む。

「カン、お線香・・焚こうか。」

仏壇の前に座って蝋燭を灯し、線香に火をつける。
俺は大樹の隣に座って両手を合わせた。

「じいちゃん・・・俺・・。」

言葉が出ん。
あんな光景見て、体験したら大丈夫やら心配ないやら、
そんな言葉言われへん。
大樹が俺の肩に触れた。

「カン、きっとおじいちゃんも解ってるんだと思うよ。
ただ、カンにこんな思いだっていうのを伝えたかっただけだと。
そして・・・俺らには霊の希望を叶える事は困難なんだ。
おじいちゃん・・・。」

大樹は仏壇に向かって申し訳なさげに笑んでみせた。

「俺に、赤ちゃんを探す事は出来ん。
でも、じいちゃんの気持ちは解った。死に方も解った。
松吉に伝えた方がええ?」

俺が問い掛けると、俺の近くにうっすらと写真の人物が浮かび上がる。

「じいちゃん・・・。」

俺は涙が溢れた。体験してないもんしか解らん気持ち。
じいちゃんは眉尻下げて笑みコクコクと頷いた。

「松吉に言うん?」

俺の問いかけに、じいちゃんは首を左右に振る。

「なんで!知っといてもらいたないん?」

(何も変わらん。何も。)

じいちゃんは消えた。

「カン・・・?」

下唇噛みしめ、悔しい気持ちでいっぱいで、
顔をくしゃっと顰めたまま、涙をポタポタ落とす。
畳の色が落ちた場所だけ変わり、大樹は俺を抱きしめた。

「たいじゅ・・・なん?俺・・・なん?」

自分は救う為に下界に来たはずが、戦争を知らない。
こんな犠牲者を助けなアカンのに。
俺は何なん?

「カン、これからだよ。これから、また起こる。」

その言葉が悲しゅうて・・・悲しゅうて。

「ふぇ・・うわ~!」

大声出して泣いてしもうた。

その声に松吉と千代さんが慌てて仏間に来る。

「か・・・カン!どうした!」

「カンちゃん?大樹!あなた何かしたの?!」

千代さんは大樹を顔を顰めて見、
大樹はアワアワと慌てて体を離し、

「ち、違うよ!ちょっと、いろいろ・・あって。」

「いろいろって何ですか?!」

松吉は俺の肩を掴み俺を抱きしめた。
ブニブニしてて気持ちええ。
パパを思い出す。

「カン、どうした?大樹にいじめられたか?」

「と、父さんまで・・。」

大樹は苦笑する。

「じいちゃんがな、じいちゃんがな・・・」

俺が言った名前で松吉は写真に目を向けた。
そして眉尻下げて笑み、俺の体を強く強く抱きしめる。

「祖父さん、父さんや母さんをよろしくなぁ。
骨は無いが、俺の心には祖父さんがおるから。」

松吉は俺の体質を理解してるから、
すぐにじいちゃんの霊が関係してるって、気付いたんやろ。
千代さんは松吉の背中に手のひらを当てて微笑む。

「まつきち~。」

涙は止まらん。
戦争の光景も消えん。
あの母親の顔が消えん。
きっと、じいちゃんも同じや。

この日は織田家に泊まった。

「なぁ、カン~。なんで俺の部屋で寝ないの?」

パジャマ姿の大樹が唇尖らして正座して拗ねてる。

「当たり前やろ!なんで、お前と寝なアカンねん!」

「だって!それは・・・それは・・・俺とカンは・・・。」

ポッと赤らめてモジモジしだす大樹。

「アホか。」

千代さんと松吉の間に布団を敷き布団の上に座り、

「カン~。」

「そないな甘えた声出してもアカン。
俺はここでは男やの!。」

「解ってるよ。でも、そんなの関係ない。俺はカンが好きなんだ。
昔から同じ気持ち。」

「あのなぁ~。」

困った。
後頭部をガシガシ掻いてどうしたもんかと考える。
大樹が俺の両肩を掴んだ。

「な、なんや・・・?」

ジッと見つめる大樹に生唾飲み込み、

「おやすみのキスくらい・・・。」

襖がシャッと開いたとたん、俺は大樹の顎めがけて、
頭で頭突きし大樹は後ろに転がった。

許せ大樹。

松吉と千代さんは遊んでないで、と言って笑ってる。

俺も笑う。

大樹は?

「ひ、ひどいよぉ~。」

シクシク泣いてる。



皆知ってる?
戦争って何やってきたか。
ただ、人殺しただけ違うねん。
殺し殺され、拷問、実験。
戦争は今もある。
ネットでも調べられる世の中。
目を背けたい。
でも、背けても背けても事実で、
繰り返したらアカンけど、人間の思考は昔と変わらんとこもあるんよ。

戦争について、調べてください。
何を感じる?
憎しみ?悲しみ?憐れみ?怒り?

俺が感じて欲しい事。

戦争の無意味さと、犠牲者の事。
そして、人間以外の生き物の事。

3度目は地球が無くなってしまう事。





              31        次のページ


30話に戻る
戻る

花手毬