鎌倉 昔工藝

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和時計の研究

江戸期の和時計

和時計の復元

和時計の精度

和時計の動作

和時計とは、江戸時代に国内で製作された時計です。元々は欧州の時計が原型でした。戦国時代に輸入された時計を日本の時刻制度(不定時法)に合うよう改良が重ねられてきました。

各種形態の時計がありますが、代表的なのは櫓時計・台時計・掛時計・尺時計・枕時計です。
大名時計(特に枕時計がそう呼ばれている)などとも呼ばれていますが、一般庶民などには手が届きませんでした。時計職人が一台製作するのに一年ほどもかかるなど高価であったためだけでなく、24節気(約半月)ごとに専門職(御時計役御坊主)が調整をしなければ狂ってくるためです。

それでも裕福な商人などは、比較的安価な尺時計を使用していたようです。庶民は寺や町辻に建つ鐘楼の鐘の音「時の鐘」で時刻を知りました。

今日、和時計を目にする機会は滅多にありません。甲冑や火縄銃など江戸期の骨董・古美術品に比べ、現存する数が少ないためです。さらに、実際に動作している様子を見たり、時打ちの鐘の音を聞いたりする事は希です。たまに骨董店や骨董市で見かけることもありますが、高価ですので触るときは店主に一声掛けてからにしてください。

昔工藝では、修理や復元製作を通じ独学ではありますが和時計の構造・調整法などを解明してきました(主に棒天符式の櫓時計・台時計・掛時計)。雑な造りの時計は少なく、非常に丁寧で正確な手仕事が行われています。特に歯車の製作には頭が下がる思いです。江戸時代の職人は精密工作機械や高度な測定器無しで作ってきたわけですね。昔の和時計師に笑われないよう、頑張って修理・復元を行っていますがまだまだです。


和時計の種類

櫓時計 掛時計 台時計 枕時計 尺時計 釣鐘時計 重力時計 卓上時計 置時計 印籠時計 懐中時計 硯屏時計 卦算時計(圭算時計) 太鼓時計 燈前時計 御駕籠時計 須彌山儀 和前時計(欧米の時計を日本式文字盤に改造した物) オルゴール付き 万年時計など

一挺天符時計 二挺天符時計 円天符時計 振り子時計


和時計の呼び方

大名時計 時計 斗景 土景 土圭 土計 図景 斗鶏 自鳴鐘 時鳴鐘 時規 時辰表 時辰儀


不定時法

江戸時代の時刻表示は、今と異なり太陽の運行を元にした不定時法でした。つまり、季節により昼間の一刻(いっとき 一時 約2時間)と夜間の一刻の長さが異なっています。

下の表は江戸における各季節の時刻を現代時刻(定時法)に換算したものです。

文字盤の時刻は干支(子丑寅・・・)と数字(九〜四)で表されます。数字の使い方が特殊ですね。

現代時計は文字盤を見て時刻を知りますが、和時計では主に鐘の音で知りました。一刻ごとに各時刻の数字の数だけ鐘が鳴ります。さらに半刻ごとに1打または2打の鐘が鳴ります(時計により異なります)。

現在も使われている「正午」や「お八つ」などの言葉は江戸時代の時刻制度から来ています。

江戸時代は日が昇れば活動を始め、沈めば寝てしまうという、自然のリズムに沿った生活でした。「お江戸日本橋七ツ起ち・・・」の歌がありますが、朝の早い時刻です。

注、明治維新前の時刻制度は現代時刻制度と異なり色々な種類がありました。上表は一日を十二辰刻に分けている代表的な例です。例えば午の刻とは12:00ぴったりを指すので無く、約11:00〜13:00の間の一刻(いっとき)を指します。一刻はさらに三分割や四分割などに分けられます。午の刻の真ん中を正午と呼びましたが今も使われている言葉ですね。各正刻(正午など)に鐘が鳴ります。


和時計の構造的な分類

数多くの修理を通じ、重錘を動力源とする櫓時計・掛時計・台時計を、その構造面から分類してみました。

分類和時計は一般的に、櫓時計・掛時計・台時計・枕時計・尺時計・その他と分類されていますが、この分け方は主に設置形態によるもので、時計本体から見ると様々な分け方が出来、全ての時計を同一基準で分類するのは困難です。

昔工藝では時計本体の構造で「袴腰時計」、「掛時計・台時計」、「円天符時計・振り子時計」、「枕時計」、「尺時計」、「その他」に分類しています。

現在の一般的な価格:枕時計>袴腰櫓時計>台時計・掛時計≫尺時計。枕時計は時代が下がり機械加工した部品も多いので、手作業による職人技とは離れます。尺時計は他の形式の半値以下。オリジナル性・希少性・意匠・大きさなどにより価格は異なりますが概して高価です。

各種和時計の中で二挺天符袴腰櫓時計が最も洗練された意匠とバランスを持ち、高い評価を受けています。袴腰時計は袴腰形または袴腰型とも呼ばれます。


設置形態

@櫓時計:木製の櫓の上に乗っています。時計本体に袴がある袴腰が多い。時計本体は鞘をかぶっているが失われていることが多い。袴が無い時計が櫓に載っていることも有ります。紐と重錘は櫓の中に隠れている。最も見栄えのする和時計。重錘の降下量が大きく取れません。

A掛時計(柱時計):掛け台を柱に掛けてその上に置きます。本来は鞘があるが失われていることが多い。掛け台を使わず時計本体を直接柱に掛ける吊り輪が付いているものもあります。紐と重錘はむき出し。紐は櫓時計・台時計より長いものが多い。

B台時計:一般には四つ足の台に乗っています。本来は鞘があるが失われていることが多い。紐と重錘はむき出し。

C枕時計(置時計):枕形の小型の時計。重錘でなくゼンマイ+鎖引き装置で動きます。大名時計とも呼ばれ、真鍮製で金メッキが掛けられたものもあります。唐木等のガラス窓付きケースに入っている。

D尺時計(掛け形):柱に掛けて使う機構の簡単な時計。ただし時打付は機構が複雑。文字板は割駒式・節板式・波板式の三種類が使われていますが割駒式が多い。少数だがスタンドに載せた置き時計式もあります。割駒は上から六・五・四・九・・・・・。一番上の六は「建」の場合も有ります。

時代の変遷で櫓・台・掛け台と乗り変わることがあります。袴腰は櫓に載ることが多いが、台や掛け台に載っているものもあります。台時計と掛時計のほとんどは袴が有りません。

櫓時計・台時計・掛時計は針を見て時刻を知るのでなく、鐘の音(回数)で知ります。従って鐘は必ず付いています。尺時計はほとんどが針の位置で時刻を知りますが、時打ち機構が付いている高級機種も有ります。

櫓時計・台時計・掛時計の多くは目覚機構が付きます。暦日機構付きは多くありません。

時計本体

袴腰形:櫓時計に多い。鐘の留金具は初期は蕨手だったが梔子形が多い。

無袴形:最も一般的な和時計。

調速装置

和時計では冠形脱進機(ガンギ車)がほとんどです。西欧の時計史においては数々の脱進機が発明・改良されてきましたが日本では取り入れられて来ませんでした。

冠型脱進機→退却型脱進機→直進型脱進機→シリンダー脱進機→分離式レバー脱進機→デテント脱進機→二重脱進機→ピンレバー脱進機

一挺天符:モデルは西洋から入ってきました。 

二挺天符:不定時法に対応させるため日本独自の改良から生まれました。 

円天符:ヒゲゼンマイを使う後期の方式で、台時計・枕時計・尺時計に多い。

振り子式:後期の方式で、数は少ない。

割駒式:日本独自の方式で、運針速度は一定、一挺天符か円天符式。

なお、割駒式にも二挺天符式が存在しますが、昼夜の長さ調節機能が重複しています。

時盤交換式:7枚(裏表で13種類)を交換します。運針速度は一定、一挺天符か円天符式。

動力

重錘駆動:ほとんどの和時計。一日一回重錘を引き上げます。まれに二回のものもある。

ゼンマイ駆動:おもに枕時計。

動力は重錘式がほとんどで、時代が下がるとゼンマイ式が出てきました。目覚まし機構のみゼンマイを使うものもあります。

材質

総鉄製:カラクリ(機械部・機構部)と筐体・扉板全てが鉄製。ただし、鐘のみ銅合金製。初期の製品に多い。

カラクリ・筐体のみ鉄製で扉板は真鍮板製(まれに銅板製もある):比較的多い。

総真鍮製:カラクリと筐体・扉板の全てが真鍮製。ただしカナと軸は強度と耐久性のため鉄製。後期の製品に多い。

筐体鉄・機械真鍮:カラクリと扉板は真鍮製だが筐体は鉄製。さらにカラクリは、三つ枝金ならば軸が真鍮で枝金が鉄製など、強度が要求される部分が鉄で作られている。極少ない。

時刻表示

剣回り法(時針が回転) :時盤固定(午が12時の位置、ただし例外もあります)。 干支の書き順は右回り、一般的。

干支回り法(文字盤が回転):時針固定(12時の位置)、干支の書き順は左回り。

干支回り法は割駒式がほとんどですが、剣回り法にも少数有ります。

剣回り法で時針は、時輪と一体になった剣付車と一緒に回転しますが、現代時計と同じように時針だけが回転するものも有ります。現存数が少ないこの方式では目覚ましと暦機構が付けられません。

時刻調整

一挺天符:毎日昼夜(明け六ツ・暮れ六ツ)で天符の小重り位置を掛け替え回転速度を変えます。

二挺天符:明け六ツ・暮れ六ツに昼用・夜用天符が自動で切り替わり運針速度が変わります。天符の小重り位置を24節気(約半月)ごとに掛け替えます。

円天符:時盤の回転速度は一定。24節気ごとに時盤の割駒位置を変えます。

自動割駒式:割駒位置を自動調整する、時刻調整の完成形ですが骨董市場ではほとんど見かけません。

時針または時盤の回転速度は、微妙な調整を必要としました。

目覚機構

ネジ式のピンを剣付車のネジ穴に差し込み、任意の時刻に鐘が鳴る目覚まし機構が付いたものが約半数あります。重錘駆動が一般的ですが、江戸後期には香箱に入ったゼンマイ式もあります。

暦日装置

1/3位に暦(カレンダー)が付いています。子の刻に一コマ進む。一窓は十二支、二窓(二重暦)は十二支と十干の文字で暦を表します。

意匠

扉へのタガネによる彫刻、エッチング(腐食法)による文様、象嵌、彫金、琺瑯など。後期の真鍮製時計には四隅へ飾り柱が付いたものが多く有ります。

前扉、背扉+両側扉(上下の蝶番で連結) 蝶番はほとんどがリベット留め。

 前扉と背扉は下端に小突起1〜2個、上部でネジ留め。

 側扉は掛け金を前扉に掛ける方式がほとんどですが、スライド式閂、バネ留めもあります。

四扉独立 飾り柱付き台時計などに多い。

 前扉と背扉は下端に小突起1〜2個、上部でネジ留め。

 側扉は下端に小突起、上部に把手が有り押し込む(摩擦留め)が多い。スライド式閂もあります。

鐘形状

初期の鐘はお椀形で深い。時代が下がるに従い徐々に浅くなり、後期のものは平たいものが多い。

鐘は澄んだ高音で響き、非常に硬い銅合金鋳物で作られています。

床に落とすと割れてしまうので、割れたりヒビの入った物がよく見られます。

運針輪列

時方、運針用の大歯車は3個のものと2個のものがあります。個数が多いほど重錘の降下量は少なくてすみますが重量が必要となります。

時打輪列

打方、時打用の大歯車は4個のものと3個のものがあります。運針用が3個ならば時打用は必ず4個です。

糸車

運針用と時打用の一の輪に糸車が付属しています。取付位置は外外(正面と背面側)が一般的ですが、内外、内内もあります。

地板穴

重錘紐が通過する地板の穴は独立丸穴4個が多く、長方形角穴2個のものもあります。

ガンギ車

行司輪の左側面から見たガンギの向きは上向きがほとんどですが、下向きのものもあります。

雪輪

鐘の回数を制御する雪輪を回転させる歯車は独立外歯車が一般的です。雪輪と一体の内歯車や外歯車もあります。

鐘留金

鐘頂部の留め金具は、櫓時計では芥子の実形(梔子形)が一般的です。掛時計は三枚蕨手と二枚蕨手が多い。台時計は球形の摘みが多い。

飾柱

総真鍮製の台時計には外観四隅に飾り柱が付くことが多い。

下げ鐶

掛時計の天板背側に時計を直接柱に掛けるための鐶が付いているものが多い。

時盤位置

正面から見た時盤(文字盤)の位置はやや上側が多い。次いで中央部、下寄りは少ない。


一挺天符 運針大歯車2
一挺天符 運針大歯車3
二挺天符 運針大歯車2
二挺天符 運針大歯車3


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