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火縄銃使用についての一考察


ここ十年ほど、祭礼等で砲術演武を行う鉄砲隊が急増しています。轟音を発する演武に観客は喜び、演武者も楽しい祭りのひとときを過ごしていることは、長年演武してきた一人として理解できます。

インターネットで調べたところ約50前後の鉄砲隊が各地に存在し、一隊に10〜15人居るとすると射撃を行う隊員および火縄銃の数は500〜750人(挺)位と予想されます。

私が危機感を持っているのは、使用されている火縄銃の安全性です。現在の骨董市場で流通している火縄銃に良質なものは少なく、安心して射撃に使える銃は極限られます。

日本ライフル射撃協会傘下の日本前装銃射撃連盟は実弾射撃が行える国内唯一の団体で、使用する火縄銃はそれなりに点検・整備されています。

問題なのは雨後の竹の子のように設立された前装連メンバーの居ない鉄砲隊の銃が、専門技術者(出来れば機械エンジニア)の目でしっかりと点検・整備されているかです。

昔工藝では古美術品としての火縄銃修理を長年行ってきましたが、空砲あるいは実弾射撃に使用する目的での修理は行っておりません。日本で唯一の某「古式銃販売・修理専門店」は惜しまれて数年前に閉店してしまいました。表に出ない職人は居るのでしょうが、インターネットで探しても火縄銃修理の専門家はほとんど見いだせません。

現代銃砲店の一部には修理工房を持ち、古式銃の修理も行っている所があるようですが、火縄銃に関する知識(古美術品としての保存姿勢)がどの程度有るかは判りません。たぶん、このようなところで修理されたと思われる銃を何挺も見てきましたが、使えるようにするのが目的で、保存の考え方が見られません。尾栓などは現代ネジに置き換わっていて嘆かわしい状態です。

そのような現状なので、砲術演武で再び大きな事故が起こらないか危惧しています。


火縄銃の安全性

1)銃としての機械的性能 ・・・ 強度・巣・内部腐食・銃口内荒さ・尾栓の緩み・部品精度等

2)銃の操作方法 ・・・ 操作手順・火薬の使用量・不発時の対応等

上記2)は鉄砲隊の訓練で習得していくものですが、1)に関し考えてみたいと思います。


どのような事故が想定されるか

1.銃身破裂 ・・・ 一枚の板を丸めただけのうどん貼り銃身で接合部(鍛接)内部に元から巣が有った場合、年月の経過で腐食が進み隙間が生じてくると破裂する可能性が生じます。巻張の銃身は肉が厚く破裂の確率が大きく下がると予想されます。

2.火皿の吹き飛び ・・・ 銃身側面のほとんどの火皿は銃身に蟻溝を掘り嵌入・沸かし付けされています。なお、銃身に付く他の部品(元目当・先目当・筌サシ)は、蟻溝に入れてカシメて有るだけで、構造的に沸かし付けは難しく、鑞付けも行われていません。

別ピースである銃身と火皿の間に隙間があると、長年の使用により内外から腐食してきます。外観は大丈夫でも安心できません。内部腐食は工業用レントゲン装置などを使わないと検査できません。火皿がぐらついたり根元に穴があいた重傷のものを見かけますが、もちろん危険で使用できません。火が噴き出し火皿が吹き飛ぶ可能性が大きい銃です。火皿部の銃口内は、黒色火薬の爆発力が最も大きく作用する場所であり、また、銃口内の腐食が最も深い場所です。銃口内をリーマで研磨しても、最後まで錆を取り切れず残ってしまいます。火皿根本の穴をいい加減な方法で修理し、見かけだけが綺麗になった状態が最も恐ろしいと思います。火皿・火穴拡大の修理は安易に行うものではありません。

3.上記二つに比べ、雨覆いとその楔、火蓋とその篭棒、火挟みとカラクリなどは良好に動作するように整備しなければなりませんが、危険性からは一歩遠ざかります。ただし、カラクリの「徒落ち」は誤発砲に繋がります。徒落ちは「平カラクリ」などの蟹ノ目式が最も多く、しかも最も調整が難しいカラクリです。幾ら部品点数が少なく造りやすいからといって、このような欠陥を持つ平カラクリが多年広く使われ続けてきたのは理解に苦しみます。


火縄銃を安全に使用するには

A) 銃身・火皿に少なくとも外観上大きな傷や腐食、クラックや隙間が無いこと。火皿の火穴は拡大していないこと。

B) 銃口内は綺麗に研磨してあること。たとえ空包射撃でも研磨は必要で、デコボコだと清掃性が悪い。

C) 尾栓がキッチリ閉まり隙間が無いこと。腐食痩せで緩くなっている尾栓が多い。

D) 火蓋と火皿の間に隙間が無く、開閉がスムースなこと。ブラブラして勝手に開閉しないこと。

E) 火挟みは火穴に確実に落ちること。火挟みのグラツキが無いこと。

F) カラクリが確実に動作し、徒落ちしないこと。空包射撃では引き金は固めにしておく。

G) 外れやすい雨覆いと楔はセロテープで固定しておくとよい。

H) 不発の原因は色々あるが、中でも火縄の性能に負うことが多い。良質な火縄を使うべきです。


手入れ法

使用後、当日中に清掃・手入れをしなければなりません。

鉄砲隊のHPを見るとバケツで洗っているのを見かけますが十分な洗浄が出来ないので、浴室での洗浄が必須です。

尾栓を外し、丸ブラシに洗剤を付け銃口内を洗浄します。外側と尾栓もタワシで洗浄します。黒い水が出なくなるまで、熱い湯で内外を十分に濯ぎます。まだ熱い内に内外をウエスで拭い、穴には紙コヨリを入れ水分を吸い取ります。

電気掃除機のホースを銃口に当て、内部に空気を通します。逆の元口にも当て、銃身が十分冷えてくるまで行います。

一日尾栓を外したまま放置し、その後にKURE3−36等で内外を防錆します。ウエスで軽く油を拭き取ります。数日後、再度銃口内にウエスを通し防錆します。

火縄銃が演武者の個人所有か、鉄砲隊の共同所有かによって、手入れに差が生じるかもしれません。

事故のない砲術演武が続くことを祈ります。


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