業務を終了しました。本章と節の記載は業務受付中の古い内容ですのでご注意ください。なお、ご質問等の相談はお受け致します。
昔工藝では、広範囲の骨董・古美術品の修理を長年行っております。品物によっては得手不得手も有り、有る特定分野に絞った修理屋に比べると技術の底が若干浅いこともありますが、多くの方に喜んで頂いております。技術・知識もさることながら、広範囲の骨董品を外注依頼無しでこなす修理屋は他に無いと自負しています(ただしインターネット上での調べ)。
修理と骨董品としての価値
いい加減な素人修理は骨董品としての価値を下げます。少々傷みがあってもあまり手を加えないことが基本です。
手を加え価値が向上する場合のみ修理を行うべきです。
安価な品物は修理代が相対的に高くなり、さらに送料などの手数料が加わり、修理による価値の向上が困難となります。
修理の種類
文化財や博物館での修理
保存・展示を目的とし、将来の新材料による再修理が可能な修理です。
必要最小限の修理にとどめます(破損や劣化がこれ以上進まないよう現状維持を重視します)。
土器や陶磁器などの欠損修復部分に古色を付けないことがあります(石膏の白色のままとするなど)。
強度はあまり求めません。
修理箇所の経年変化に注意を払います。
一流の修理師に依頼します。
国宝などは材料・手間に費用を掛けます。
なるべく元と同じ材料を使います(国宝修理には国産漆を使うなど)。
なお、発掘鉄製品は錆の進行防止のため脱塩樹脂処理されます。そのため質感が変わって見えます。
骨董品としての修理(主に昔工藝での修理)
強度と実用性を持ち、かつ観賞性も求められる修理です。
修理箇所は必ず時代付けを行います。
短期間で修理します。
安価に修理します。
飾り物としての修理
修理の技法によっては、強度が無く実用に耐えないものがあります。水・熱に耐えない物もあります。
共直しされた陶磁器などは置物として観賞します。
修理の種類
古くからの破損品を修理する(自然劣化も含む)。
最近破損したものを修理する:市場での破損、業者やコレクターが購入後に壊したなど。
過去に修理された物の再修理:古い時代の修理、最近の修理、素人修理、下手な修理。
欠落:和時計部品の欠落部品を製作するなど。
欠損:仏像の指・手・つま先などの欠損部を製作するなど。
ヘコみ:青銅品・銀製品・錫製品などの凹みを打ち出して元に戻すか、パテ埋めするなど。
ヒビ割れ:木製品のヒビを接着・パテ埋めする。陶磁器のヒビ割れを接着・金直しなどを行うなど。
腐食・穴あき:木製品の腐り、青銅器の腐食、鎧の鉄部品など。
風化:木製品・布製品などがボロボロになっている。
虫食い・鼠囓り:木箱・古文書など。
塗装剥げ:漆器・能面など。
退色:骨董品全般。
捻れ・反り・変形:木製品・金属製品。
接着剤劣化:木箱などの木製品に使われている膠・続飯などが劣化しバラバラになっている。
錆:刀剣の鉄錆など。
なお、上記以外にも修理とは言えない下記のような色々な依頼があります。
古色付け:時代を古く見せるために行います。
桐箱・杉箱の寸法直し・字消し:いわゆる合せ箱。
飾りなどの追加・削除・銘消し
改造:用途を変える。硯屏→小刀掛け。
改造戻し:定時法に改造された和時計を不定時法に戻すなど。
見た目改善:元々が下手な製作だったものを、綺麗に修正するなど。
新規製作:木台・アクリル台・木箱など。
組合せ:別物同士を組み合わせて一つの品物を完成させます。
分割:飾り物などを分割し独立した品物に仕立てる。片方はゴミとなるケースが多い。
贋作作り:いわゆる偽物作りで御法度。
刀剣:登録証と実物が合っていないのを合わせる。長さ・目釘穴数。違法行為で御法度。
古式銃:レプリカ品を実弾が発射できる様に改造するなど。違法行為で御法度。
修理の理念
○素人による下手な修理は文化財の破壊です。修理専門家に任せましょう。
○骨董・古美術品は人から人に代々伝わっていくものです。
ある人の手元に有るのは長い歴史の中でのほんの一時です。
上手な修理をして次の世代に伝えていくのが使命かと思います。
○保存程度の良い物は、最小限の修理にとどめ、現状の維持をはかります。
全面的な塗り直しなどを行うと、時代感が失われ新物のようになってしまう恐れがあります。
○破損が激しくそのままでは鑑賞・使用・販売に耐えない物は、修理を加え原形に復します。
○時代考証に基づき、可能な限りオリジナルの姿に近づけます。
欠損・欠落箇所を全て修復するかはケースバイケースで判断します。
○材料は、なるべく同質の物を使用しますが、修理費を考慮して造りやすい材料を使う場合もあります。
例えば青銅仏の欠損した腕を造る場合、黄銅で造るとかなり高価となります。
芯金を埋め、回りをエポキシパテで造形すると安価に仕上がり、時代付け後の違いは変わりません。
これもケースバイケースで事前相談させてもらいます。
○時代付け(古色仕上げ)を行い、周りと色・艶をなるべく合わせます。
この時代付けが上手くできるかどうかが、素人修理と大きく違うところです。
物によっては修理時間の半分くらいかかることもあります。
○修理は、なるべく実用的な強度が得られる方法を用います。
修理に出す前に
どんな品物も修理に出せばいいものではありません。
@思い出の品物で、修理代に関係なく直したいもの・・・修理に出してください。
A博物館や美術館でよい状態で展示したい・・・予算の許す範囲内で修理に出してください。
現実には壊れたままのひどい状態で展示されているのを多く見かけます。
また、美しくない飾り方(甲冑のだらしない組み立て方)も多く見かけるのが残念です。
B商品価値を高めるために修理に出す・・・この判断が難しい。
日常的に修理を利用している骨董商は、市場で品物を仕入れるとき修理可能か適切に判断しています。
一方、修理に出す経験が少ない骨董商は、幾ら修理代がかかるかを心配して、思い切った仕入れが出来ません。
修理代がたとえ高額でも、それ以上に商品価値が高まり商売としての利益が出る品物があります。
一方、修理しても価値が高まらず、修理してもしょうがない物も多くあります。
修理したことによりかえって醜くなり価値を下げてしまった物を市場でよく見かけます。
修理の考え方
昔工藝では、修理箇所は可能な限り修理跡が判らないよう仕上げています。いわゆる焼き物の世界で言う「共直し」で、この考え方を骨董品修理の基本としています。
一方、時代付け(古色付け)をしない修理を良しとする考え方もあります。例:古式銃を射撃目的に修理する一部の業者や依頼主にこの考え方があり、部品はピカピカに磨き上げた状態とします。機能が戻ればよく、修理した箇所も明白なので良いとの考え方で、骨董屋の世界と価値観が異なります。多くの修理品は時代付けに時間がかかりノウハウも多く、これが旨く出来なければ骨董品修理屋を名乗れません。
昔工藝では、材料や製作法はできる限り効率的な先端技術を採用することを旨としています。その方が早く安く仕上げることが出来ます。一方、昔の製作法にこだわる考え方もあります。例:火縄銃の部品を板材を鑞付けして形作るのでなく、ブロックから削り出して作ったり、鋳造して仕上げたりする製作法で、そうでなければ駄目なんだとの考え方。しかし、昔でも様々な作り方が有り、鑞付け法でも強度・見た目で遜色なく仕上げられ問題ないと昔工藝では考えています。
旧式の工具にこだわる考え方があります。例:穴開けに手回しドリルを用いるなど。手回しドリルは電動工具が普及する直前に使われていた物で、江戸期のドリル(舞錐)と同じではありません。中途半端な時代の旧式工具にこだわる意味は無いと昔工藝では考えています。
修理品(骨董品)を見る目
骨董品を修理するときの品物の見方は様々です。
@骨董品が好きなコレクターとしての目(形や色・価格や来歴・鑑定書や希少性・本物か傷直しがあるかどうかなど)。
A技術屋としての興味の目(メカニズム・材質・強度や寿命・作り方など)。
B歴史好きとしての目(製作年代・作った職人や製作地・経歴など)。
C修理屋としての目(どこが壊れているか・オリジナル部品か・過去の修理箇所・直し方など)。
同じ品物でも視点が変わると別な見方が出来ます。修理屋としては総合的な見方が出来なければなりません。そのためには多くの品物を見、修理を数多く経験しノウハウを蓄積していなければなりません。
骨董品に限りませんが、品物を見る目はその人の経験に左右されます。経験には
@自らの物作りを通し身につけた知識(職人など)
A品物や文献を多数見て、あるいは研究して身につけた知識(コレクター・鑑定家・学者など)。
@は師匠の教えや参考書を頼りにすることもありますが、失敗や試行錯誤を積み重ねた結果得られた知識で、広くはありませんが深い知識が得られます。職人の技量で見る目に差が付きます。単に物を作るだけか、作りながら調査研究を行うかでも差が付きます。
Aは一級の品物を多く見てきたかにより差が付きます。
問題なのは文献や書籍・ネット情報などで得られた知識の真贋です。多くの人は一次資料(原資料)に接することはありません。二次・三次はおろか遙か次元を経た資料しか目にすることは出来ません。書き写しの誤字脱字を初めとし、勝手な解釈や歪曲が混じり歴史が作られていきます。現代でもマスコミが流す情報が全て真実とは限らず、意図的な世論操作や都合の良いところだけの抜粋かも知れません。幼稚園生が描いたと変わらない抽象画が高く評価されたり、小汚い飯茶碗が重要文化財になるなど、見方によってはおかしな現象ですが、一度固定化された価値観は中々壊せません(これはあくまでも昔工藝の見解です)。価値観とは歴史の中で人間が作りだしたもので、骨董品評価も例外ではありません。
修理を通じ目が肥えてくると、一流コレクターや骨董商以上の鑑定眼が生まれてきます。ある分野で一流とされる人の書いた文章でも、製作や修理技術に関しては的外れな事があり、技術に関して過大評価したり過小評価したりすることがあります。