被害想定の違いについて
国や地方自治体は想定される地震に対して、どのように建物被害を想定するのでしょうか?
1)地震の震源と強さの設定
まず対象となる地震を選定し、震源の位置・深さと地震エネルギーを設定します。首都直下型地震や元禄関東地震や大正関東地震(関東大震災)などは、実は震源強度に諸説あって確定していないので、自治体によって震源の場所や深さ、強度が異なってきたりします。
2)地盤の固さの分布評価
次に評価する地域・自治体内の地盤の強さの分布図を用意します。これは10〜30mのボーリング調査によって求められるものです。
ここでも新しいボーリング調査の結果を入れるのとそうでないのとでは違いを生じます。
次の例は神奈川県と横浜市の地震被害想定報告書からAVS30という地盤の固さ(揺れにくさ)を表す分布データを横浜市北部について並べて比較したものです。
上が神奈川県の評価、下が横浜市の評価です。両者は色分けが違っていて比べにくいですが、赤線で囲んだ領域は両社で大きく違っています。こういう部分な相違はボーリング調査の違いといえるでしょう。
3)震度分布
震源の位置と震源の強度、地盤の固さから対象地域の地震震度分布が求められます。
次の図は元禄関東地震に関して、国(首都直下地震対策検討WG)の報告書から神奈川県の部分を拡大して抜き出したものと、神奈川県の地震被害想定報告書の震度分布を比較したものです。
上が国の計算結果、下が神奈川県の計算結果ですが、両者はまずまず同じような結果になっています。
lこれは国の報告書がH25年12月に出たのを受けて、神奈川県が同じモデルと手法を使って県の最新のボーリング調査を反映しながら計算したため(報告書はH27年3月)、同じような傾向が出たものの、追加のボーリング調査を受けて、部分的により震度の強いエリアが出たものと考えられます。
一方、神奈川県と横浜市では同じ元禄関東地震の震度分布計算にかなりの違いが出ています。
次の図は神奈川県と横浜市の地震被害想定報告書の中の元禄関東地震に関するものを横浜市北部を拡大して比較したものです。
上が神奈川県による評価、下が横浜市による評価です。神奈川県の図では最上部が川崎市なので形状が少し違うため注意が必要ですが、色分けはほぼ同じです。
神奈川県の評価では元禄関東地震では横浜市の大半が震度6強と想定しているのに対して、横浜市は震度6弱が大半で震度6強のエリアは沿岸と河川沿いに限られています。
全体的に
神奈川県の想定に比べて横浜市の想定は1段階低めになっていると言えます。これは被害想定では非常に大きな違いになります。
この大きな違いは震源位置や深さと強度の違いと考えられます。神奈川県はH25年12月に国の報告書が出てから、それを受けて同じモデル同じ評価手法で被害想定して報告書をH27年3月にまとめたのに対して、横浜市は国より早くH24年10月に報告しているので、地震モデルや手法が異なったためと考えらます。
4)建物の倒壊率など
各地の震度分布は250mメッシュなど細かく区分されたエリアごとに求められます。
これと各エリアの建物の古さ(特に1981年5月以前のものかどうか)の分布と合わせると各エリアの建物の全壊数、半壊数などが出ます。
参考⇒
建物の建築年代と揺れによる倒壊確率
5)被害想定の集計
震源の位置・深さや強度が異なると被害想定には大きな違いが出ます。
次の表は元禄関東地が起きた時の横浜市全体の被害想定の数字を神奈川県と横浜市の地震被害想定報告書で比較したものです。
結果的に神奈川県と横浜市では同じ地震に対して3倍も被害の大きさが違う結果になっています。
6)まとめ
どちらの地震被害想定が正しいかを議論しても、古い地震に関して正確なことは分からないのでらちがあきません。ただ言えることは
想定される最大規模の地震が来た時を「想定」して備えていれば、東日本大震災や阪神淡路大震災、熊本地震の教訓を生かせると言えるでしょう。