地震防災情報HP

初めての在宅避難訓練体験記


 12月の第3日曜日、かみさんの発案で初めての自宅避難訓練をした。きちんと備蓄しているつもりなら、冬と夏の年に2回はやってみるべきと考えている私も、え〜寒かったらどうしようと躊躇したが、押し切られた。前提条件は電気、都市ガス、水道がストップし、トイレが使えない、というもの。
 電気が使えないので当然エアコンも石油ファンヒーターもこたつも使えない。もちろん、テレビもPCもスマホも使えない(かかってきた電話には出てもよいというルール)。この日の横浜は最低気温が9℃、昼間は陽が出て11℃まで上がる比較的暖かい日で助かった。一階の居間で最高14℃程度まで上がったので、厚着をすれば暖房なしでも十分いける。室内温度が10℃以下の寒い日にはどうなってしまうだろうか?
★停電時の暖房については3つほど方策を見つけたので別の記事に書く。

朝飯:
 通常はパンにとけるチーズとジャムの他、紅茶と目玉焼きとソーセージにトマトという定番。  この日はパンがあったのでトーストしないで食べた。冷蔵庫が使えないはずだが、卵も使ってカセットコンロで目玉焼きを作った(冬ならいいが夏なら発災から1週間もしたら無理かもしれない)。皿はいつもの皿にラップをかけて水洗わなくて済むように使った。箸もいつも使っているもの。かみさんによると冬は箸もぬぐうだけでよいが、夏は除菌が必要ではないかとのこと。 2Lのお湯をやかんで沸かして紅茶を入れ、残りを800ml、500ml、400mlの保温ポットに移す。500mlのものが登山用のTHERMOSで8時間ほど保温がきく高性能のもの。他はもっと早く冷めてしまうが、それほど困らなかった。もちろんガスの使用量を減らすためには高性能の保温ポットを多く持っておくに越したことはない。
 かみさんによると朝は2Lの水を沸かすのに18分かかったというが、考えてみると、一度に使いきれない量のお湯を沸かす理由はなかったかもしれない。

 テレビもPCもスマホも使えず、ヒマなので歩いて45分ほどのひいきの酒屋に散歩がてら二人で正月用の酒を物色に行く。災害時には店も閉まってしまうので買い物もできない想定だが、年末なので良しとした。ただし、店のトイレは使えないこととした。散歩のお蔭で2時間ほど潰せた。

昼飯:
 そうめん3束茹でて、野菜たっぷりスープ(明治製)の保存期間の長い備蓄食)につけて食べてみる。白湯(ぱいたん)スープとミネストローネ各1袋を試したが、かみさんによると白湯は塩が強めなので麺の塩分と合わさってしょっぱくなってしまうという。ミネストローネはうまかった。野菜たっぷりなので食物繊維も取れて腹持ちもよく、満足度が高い。 そうめんを茹でるためにプロパンガスを10分使用した。5分スープ二袋を加熱したあと、そうめんを1分茹でた。茹でたお湯は夜も温めに使うので捨てずに置く。かみさんによると、うどん、そば、ラーメンよりそうめんの方が茹で時間が短いので備蓄食に向くという。しかし自分は食味が固い冷や麦の方が好きなので、冷や麦の備蓄をお願いした。

トイレ:
 下水管の破断によってトイレは流せない前提なので、非常用トイレセットを使う。大きなビニール袋の中に10g程度の高吸水性ポリマーがあって給水・消臭してくれる。ビニール袋を便座に広げ、用を足して水分が凝固するのを30秒ほど待ってビニールを一度しばり、裏返してもう一度しばってトイレの隅に置いたバケツに入れる。ビニールを二重にすると臭いを遮断する効果があるためだ。これだけのことで難しくはないが、やり方にはあらかじめ慣れておいた方がいい。災害が夜や早朝の真っ暗な中で起きることもあるからで、分かっていないとあたふたするだろう。 下の写真は今回使用した非常用トイレ。いろいろなメーカーがあるが、大きなビニール袋と高吸水性ポリマーという構成は同じ。写真のものは備蓄用でなくお試し用で持っていたもの。

 この日の朝から翌朝起きるまでのトイレの回数は私もかみさんも小4回ずつで大はでなかった。トイレの回数は平均的には1日5回という。下水道が回復するのに10日必要と想定するなら一人50セットは備蓄しておく必要がある。それでは足りない可能性もある。 簡単とはいえ、気分的に気持ちのいいものではないので、この日はできるだけトイレに行きたくない気分になった。避難所では臭いトイレに長時間並びたくないために水分の補給がおろそかになり、エコノミー症候群に陥る人が大勢出るという。臭いもない待ち時間もない清潔な自分の家のトイレですら、自分の糞尿を拾うのが億劫になるのだから、困ったもものだ。山登りではこの非常用トイレセットで自分の糞尿をザックに入れて持ち帰らなければいけないのだから、それを思えばずっとましだと考えるしかない。
 トイレから出て手を洗えないので、除菌ティッシュを使った。これを1日5回家族二人なら10枚使う事になる。これが10日、2週間でも続けるためには除菌ティッシュだけでも100〜150枚程度備えておく必要があることが分かった。

 年末なので、昼間は大掃除。一階の窓拭きをしたが水道の水はだめだというので、風呂の水と少量の食器洗剤を使った。(我が家では非常時に備えて風呂の水は捨てずに置き、風呂を沸かすときに入れ替えている) 3時のお茶に2Lのペットボトル2本目を開けて1L出し、朝の残りのお湯250mlと合わせてお湯を沸かした。ティーバックの紅茶を2杯入れ、備蓄用のビスケットとウェハースを1枚ずつ食べる。その後私は実家の要介護の母の買い物に世話焼きに出かけ、妻は大掃除の続き。と言っても日が落ちるのが早く、4時半を過ぎてカンテラを付けたという。5時半に帰宅するころには家の中は完全に真っ暗。当たり前のようだが、実際に真っ暗な家の中にいると電気のありがたさが実感できる。

情報:
 テレビもPCもスマホもないので、今日何か大事件が起こっていても知る由がない。そこでラジオをつける。が、安いラジオは感度が悪く音も悪かった。とりあえず横浜局か東京局に合わせられてニュースと天気予報は聞き取れた。NHK−FMでクラシック音楽をかけてみると、久しぶりに聴くような曲が多くて面白かった。しかし音が悪い。 ただ本当に首都直下型地震が起こった時には東京湾沿岸の数機の発電所の損傷・停止によって3日間は東電管内は電源ブラックアウトしてしまい情報が得られなくなる可能性が高い。
 スマホの基地局の電源ももって48時間程度で、テレビ局やラジオ局は電力を食う電波発信がすぐにできなくなるだろう。都心南部直下地震によって東京23区と川崎+横浜北半分が被災してしまうと範囲が広いため、基地局に対する電源車など足りるはずがない。(注:人口の多い都市部では携帯電話の基地は0.8〜1.5Km間隔と狭いため)
 最低限地元の区役周辺までには配備すると思われるので区役所に行けばスマホの電波が拾えるかもしれない、と考えてみる。しかし大田区、世田谷区あるいは川崎の中原区、高津区が焼け野原になれば、基地局も多くが焼失することになる。そういう事態では、移動基地車も電源車もそこまで大量に入れないため都心(例えば渋谷のNHKのサーバー)からの携帯電波は横浜北部には来ないことになるかもしれない。基地局そのものが焼失していれば電源車だけでなく移動基地車も大量に必要になるが、焼失したり機能喪失した基地局を全て代替えするほどの数はどの携帯電話会社も揃えられないだろう。
 ここまで考えてみると、常時持ち歩いている小さいバックにスマホを4回フル充電できる重たいバッテリーを入れていたが、1回半しかフル充電できない軽い方のバッテリーを持ち歩くだけでも十分と思い直すことになった。
 うまくいけば4日目ぐらいに少しずつ発電所が動き出すのでAMラジオぐらいが入るようになるかもしれない。しかし気を紛らわせるような音楽は流してもらえないだろう。恐らく多くの地域の完全焼失(燃え尽きるまで消火できない状態)と電気、ガス、水道、下水道、鉄道、交通機関の機能不全情報が伝えられる憂鬱なニュースばかりになりそうだ。ぜひ知りたいローカルな情報、例えば〇?区の電気/ガス/ 水道/下水道はいつ復旧見込み、といった情報はどこから発信されるのか、そのニュースソースとアクセス方法を確認しておく必要がある。(おそらくNHKの地方AM局になると思う)

照明:
 私がパトロールから帰宅してから、山登りに使っている明るい(と思っていた)カンテラを出してつけてみるが、大したことはない。オレンジのテントの中でつるせば1畳半ほどの空間が大変明るくなるのだが、十畳以上の居間では大した明るさではなかった。ただこれは懐中電灯としても使えるのでまだいい。東日本大震災の時大慌てで買った中国製のカンテラは全くだめ。太陽光電池のカンテラも暗い上に持続時間が短かった。 結局いつもカバンに入れている山用品のLEDヘッドライト(単4電池三本)の方が明るく、使い勝手も良かった。トイレに行くには懐中電灯やカンテラでは役に立たない。山小屋と同様ヘッドライトをつけていくのが正解だった。ヘッドライトは家族の人数分あった方がいい。 カンテラに関しては山村氏が講演で推奨していたパナソニックのBF-AL05P-W(ネット販売でおよそ1400円)を購入してみることにする。カンテラはうちにはいっぱいあるからいいやと思っていたが、役に立つものは何もなかった。

 下の写真は今回使用したカンテラ類。唯一良かったのは赤いバンドのLEDヘッドライト。最近のものは真っ暗な中で5〜10m先まで照らせるし、強弱の段階調整もあるので良い。

夕食:

 メニューはレトルトカレー(S&Bホテル・シェフ仕様カレー:保存期間が長い)とレトルトごはん、あとラッキョウとトマト。 昼間そうめんを茹でた鍋の水に250mlほどお湯を加えて湯を沸かして、沸騰まで8分。その後ご飯2つとレトルトカレー2袋をそれぞれ5分ずつ温めて食した。辛口だったが味は良かった。ただし食物繊維が不足なので青汁茶と昆布茶を保温ボトルのお湯で作って飲んだ。さらに口さみしいので非常用ビスケットを一人1枚ずつ追加。
 下の写真は夕食のなかなか旨いレトルトカレーと昼に食べた野菜たっぷりスープの別な味のもの。スープは量があっておかずとしても良い。


暇を持て余す:
 夕食のあと、私は7時から30分ほど町内会の夜間パトロールに出たが、妻は暇を持て余してけん玉をしたりヨガをしたりしていたそうだ。私の帰宅後は聞こえにくいFMのクラシック音楽を聴くぐらいしかすることがない。 テレビもPCもスマホもないと本当に手持無沙汰である。風呂にはもちろん入れない。多少暗くてもできる遊びを用意しておく必要がある。ヘッドランプで本や漫画を読むのもいいかもしれない。意外と乾電池で動くラジカセでCDの音楽をかけられればいいかなと思う。今の若い人にはその存在すら知られていないかもしれないが。 酒を飲みながらトランプをしていたが時間が潰せず、9時には寝てしまった。いつもは妻は10時半、私は12時まで起きているのだが…
 また、我が家の日本酒は全部要冷蔵なのだが、生酒でない常温保存の酒の備蓄も必要だと分かった。

カセットボンベ:
 使いさしのボンベを使っていたが、夕食の準備の途中で空になった。新品のボンベ:350g、空のボンベ:100gこれが分ったので1本をどれだけ使ったか、あとどれだけ残っているかが分かるようになった。 ちなみに妻によるとレトルトカレーの温めに5分使った時に減った重さは15gだったという。これから計算するとガスボンベ1本はおよそ83分持つことになる。ただし強火と中火、弱火でも異なるので、もう少しデータを増やした方がいい。カセットコンロも古いものより新しいものの方が(最大火力時)カロリー出力が高い。およその計算でいうと、この日はガスを38分使ったため、ボンベの45%を消費したと思われる。我が家はカセットボンベを9本ほど備蓄しているので、この日のペースだと18日ぐらい持つことになる。もっと備蓄しておけば、冬は水の消費が少ないので、無洗米ならご飯を何回か炊くこともできるかもしれない。

朝飯:
 冬だったためか水の消費は少なかった。1日で二人分の合計は3リットルで済んだ。これが暑い夏場だったら飲み水は倍は必要になるかもしれない。またエアコンも扇風機もない中で暑さをしのぐための体を拭く水は風呂のため水を使う必要がある。真夏には風呂ではシャワーばかり使うので、浴槽に意識して水貯めをしておく習慣をつけておく必要があると気が付いた。

朝飯:
 今のところおかずは鮭缶とレトルトカレーと野菜スープ類それにふりかけ類ぐらいなのだが、これでは電力喪失が10日間、2週間と続くと飽きて厳しいのは目に見えている。他のおかずも開拓してバラエティを増やさなくてはいけない