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停電時の冷暖房対策


基本的な考え方

 震災や風水害被害によって停電が長期間続いた場合、猛暑の夏にはエアコンも扇風機も使えなず、冬にはエアコンもファンヒーターも使えなくなります。そういう事態に対処してどう備えられるかについて考えてみました。高齢者や小さいお子さんのいる家庭では暑さも寒さは命の危機に関わる可能性があります。19年の台風15号で千葉県の広い範囲で停電になった際には、千葉では熱中症でなくなった高齢者が3人もいらっしゃいました。1週間のうちに病院に搬送された人数も全国最多でした。搬送先の病院でもエアコンが動かない危険な状態です。災害に備えるのであれば、高齢者や小さいお子さんのいる家庭では冷暖房のバックアップ対策が不可欠です。

 基本的な考え方は『2Way、3Wayの異なったエネルギー源を予備として確保しておく』という事です。「〇〇があるからウチは大丈夫」と高を括っていると、その系統が損傷・故障・水没した時、あるいは燃料の供給が途絶えた時に何のバックアップもなくなってしまいます。この考え方は非常に重要で、ある防災セミナーで先進的な取り組みを取っている地域医療にかかわる会社の社長さんに教わった考え方です。その会社では被災者救命に関わる社用車をガソリンでも電気でもLPガスでも運航できるよう改造していて、熊本地震の時に要請を受けて、1200kmはなれた岩手から途中給油なしで駆けつけて救命活動されたそうです。

1)最も理想的な対策
 プラグインハイブリッド車PHVや電気自動車EVによってV2H(Viehcle to Home)つまり自動車から家に給電する方法が現時点では最も理想的な方法です。プリウスPHVやリーフだと満充電状態で丸4日間分の一般家庭の平均的な電力を給電することができ、三菱PHEVアウトランダーだと最大10日分の平均的な家庭の電力を賄えるようです。冷蔵庫と一部のエアコンだけ使うことにすれば、1週間以上冷房、暖房と冷蔵庫を維持することができるでしょう。 ただし投資も必要で、下図のV2H機器の設置に40万〜200万円程度の費用がかかるようです。

 また、これがあれば大丈夫だとは考えない方がいいと思います。災害時には肝心のV2H給電装置(またはV2H機器)が横転したり落下物によって損傷してしまう事もあり得ますし、自動車自体が故障したり水没したり火災を起こすこともないわけではありません。ですので、V2Hについて対策済みの方も次の2)または3)の方法もバックアップとして備えることをお勧めします。
 なお、通常のガソリン車でもシガーソケットから電気を取ることができますが、12Vでしかもヒューズが15A程度と小さい電力です。スマホの充電はできますが、ファンヒーターやエアコンを動かす電力は取れません。また、ヒューズを回避するため仮にバッテリーから直接電力を取って12V⇒100Vのコンバーターを用いたとしても300W〜500W程度の電力なので、ファンヒーターやエアコンは動かせないでしょう。 この辺の事情については安藤りすさんが記事にしているので以下も参照してください。
クルマから電気を得る方法災 害時に備えたクルマ選びを

 なお、災害時支援を謳っているあるコンビニでは、自動車のバッテリーからの電力のコンバーターを備えていて、いざ停電という時に、車の電力でレジと照明だけは稼働できる体制をとっているところがあるそうです。冷蔵庫の電力は無理でも、最低限商品がある間だけでもお店を開けてもらえたら、帰宅困難者などは助かりますね。

2)発電機を用いる方法
 V2H給電装置なんて貧乏人は手が出ないじゃないか、ということで次善の方策を検討してみました。 次に考えられる手段は発電機です。比較的普及しているホンダのポータブル発電機Honda EU9iはメーカーによるとガソリン2.1Lで約7.1時間運転できます。1500W程度発電できるので、ガソリン20Lを非常時用に保管して置けば、1日7時間運転として10日間程度ファンヒーターなどの暖房などに使うことができます。ネットで検索すると最安値で8万9千円前後です。
Honda EU9i 

 ただ、発電機には騒音の問題があります。78〜86dBという音量は住宅街では近所迷惑になります。そこで防音装置が必要になりますが、これは木の箱を作ってしまったぐらいでどうなるものではありません。ネットで探してみると発電機用防音パネルとしてミノリ・サイレンサー製発電機用パネルがありました。こちらの価格は7〜8万円程。発電機と防音パネルを合わせると、V2H給電装置よりは安いですが、少なくない投資になります。また、中低音で70dB以上と防音も完全とはいえないので、隣近所に気兼ねは必要になるでしょう。住宅密集地で夏に長期的な停電になれば、寝苦しい夏は多くの住宅が窓を開けて寝るようになるので、夜中に騒音を発するわけにはいかないでしょう。予算があるなら防音パネルを2重にすれば防音性能を高められるかもしれません。

 また発電機の出力は100Vなので、普通の扇風機を運転するには問題ありませんが、エアコンを運転するためには200Vに変換するコンバーターが必要となります。100Vから単相200Vに変換するトランスは1万円台でありますが、お使いのエアコンが3相200Vの場合、配線は専門業者にやってもらった方がいいでしょう。

3)もっと庶民的な対策
(1)風呂の水貯め
 残念ながら、エアコン、扇風機に代替えする夏の猛暑をしのぐ器機はありません。それでも高齢者や小さい子供には暑さ対策が必要です。うちわであおぐ手段はもちろんありますが、よりお勧めなのは風呂の水貯めです。
 夏場はシャワーしか使わないという方も、敢えて災害に備えて風呂桶に水を張っておくのです。その水をタオルに湿らせて体を拭くことで体温の上昇を抑えることができます。特に熱中症対策としては首筋を冷やすことが重要です。氷や保冷剤があるならそれを首に当てるのが最善ですが、水で冷やすことでも脳の温度を下げる十分な効果があります。わきの下を冷やすのも体温の上昇を抑えます。停電時、高齢者や小さいお子さんのいる家庭ではこれを忘れないでいただきたいと思います。
 放置した水は汚いから嫌だという方は1週間に一度、あるいは3日に一度水を入れ替えればいいだけです。


 台風対策というだけなら台風が接近してくるときだけ備えればよいようなものですが、地震はいつどこで起こるか分かりません。夏場には夏場の備えをしていただきたいと思います。  最近風呂の水貯めは危険、不衛生という議論がありますが、それに対する反論やデータを『ライフハック集の風呂の水貯めについて』にも書いています。ご参考ください。
 風呂の水貯めは消火の2次的手段として、夏場の体温調節手段として代替えのない備えです。

(2)石油ストーブ
 乾電池で着火するファンヒーター(強制循環式)でない自然対流式の石油ストーブは停電時に有効です。
[コロナ] 石油ストーブ 3.7L
(木造6畳まで/コンクリート8畳まで)
 RX-22YA(HD)
 価格は8千円台から

ファンヒーターに比べれば燃費は悪く灯油は余計に消費しますが、20L の灯油タンク1本あると、真冬でも1週間ぐらいは一部屋を暖められると思います。
 また、ファンヒーターと違い着火時に臭いにおいもしますが、機密性の高い住宅では換気に気を付ける必要があります。
 災害はいつ起こるか分からないのでできれば冬場には灯油を20L余計に備蓄しておきたいものです。ただ寒暖差で灯油タンクの内側に水滴ができて灯油に混じると劣化してしまうので、備蓄の灯油もその冬に使い切る必要があります。現在石油ファンヒーターを使っている家庭ではあまり問題ないですが、エアコンだけで生活している家庭では非常時対策のために毎冬灯油ストーブも一定期間使う必要が出てくるのがこの対策の難点です。灯油を買いに行くのが面倒くさいのに、結局灯油を毎年一回は買いに行かなければいけない、というわけです。逆にそこが災害への備えのひと手間です。

(3)ガスストーブ
 カチッとスイッチをひねると火打石の火花で着火するファンヒーターでない自然対流式のガスストーブもまだ現役であります。
プロパンガス用 R-852PMS3(C) 赤外線ガスストーブ
暖房の目安:木造11畳まで コンクリート造15畳まで
価格 2万5千円前後

 都市ガスが使えないことを想定すると、LPガス(プロパンガス)を地元のガス屋さんで契約して8Kgのボンベを設置して居間などに配管しておけば、いざという時に活用することができます。これがあればカセットコンロの料理にも使えます。 ガスボンベ本体は調整機と合わせると8Kgで1万5〜7千円程度ですが、中身のガス料金はガス屋さんによって異なるようです。

 LPガスボンベは2口で30時間持つのでストーブだけに使った場合約60時間持つと考えられます。1日8時間使ったとしても1週間、節約しながら1日6時間ずつ使うと10日間もつので、有力な対策の一つといえます。

 LPガスの強みはガソリンや灯油より停電に強いという事です。ガソリンスタンドは停電で稼働できなくなりますが、ガスのボンベへの充填は電気を必要としないものだからです。ただ、それも運搬車のガソリンがなくなるとボンベの運搬ができなくなるので予備のガソリン自体も10Lだけでも備蓄しておくおくべきでしょう。非常時の運搬距離のことを考えるとできるだけ自分の住所に近いガス屋さんと契約する方がいいかもしれません。

(4)豆炭こたつ
 筆者は以前中山間のお寺(の庫裏)に住んだことがあります。当初アンペア数が足りなくて電気ごたつが使えず、勧められて豆炭こたつを使っていました。電気ごたつ以前の世代の暖房器具です。豆炭は5pほどの下の写真のような石油由来の固形燃料で、朝一番で豆炭3つ4つを網の上などで焼いて火をつけたあと、燃焼器に入れてその燃焼器ごとこたつの金属網のケーシングに入れておくと、夜までぬくぬくと温かいこたつになります。下の写真は一つの豆炭です。手で直接つかむと炭と油が付くので火鉢でもちます。


豆炭こたつミツウロコ700K 70cm角
価格 33,550円 (税込、楽天調べ)
 次の写真の左下は燃焼器の中に豆炭を並べたもの、下中央はその燃焼器の外観です。


 豆炭は10時間ほど緩やかに燃焼して熱を放出するので燃え終わる前に次の豆炭を追加して火を移すと火を切らさずにずっと温かい状態を保つことができます。
 朝の7時、夕方4時、夜の11時といったサイクルで追加していくと最初の一回だけガスコンロを使うだけで何日でも火を保つことができるでしょう。 燃えカスは白い灰になるので、豆炭を追加するときに白い灰を捨てていく必要があります。白い灰を捨てる時にまだ燃えている豆炭の断片が混じるので、いきなりビニール袋に捨てるのは危険で、熱に強い火鉢や陶器性の花用の鉢(底の穴を石などでふさいだもの)などに捨てて、灰を完全に冷ますようにしてください。
 豆炭自体は12kg1袋(約200個入り)で1400〜2000円程度と安価で、ホームセンターでも購入できます。1袋あれば1日8個消費したとしても20日以上も持つので燃料切れの心配はありません。それよりは上手に火を絶やさないように追加し続けることでカセットコンロのガスの使用量を抑える方が重要でしょう。
 ただし、機密性の高い住宅では一酸化炭素をある程度逃がすよう換気する必要があるので注意が必要です。

ネットで探してみると、電気こたつを豆炭こたつに替えるセットがありました。
豆炭コタツ 燃焼器セット ミツウロコ製
1万5千円前後 (楽天調べ)

 個人的に懐かしくもあり、もっとも庶民的な解決策なので、上のセットを買って電気ごたつをひとつ豆炭ごたつに替えて試してみようと思っています。
 こたつは部屋全体を温めるものではありませんが、厚着をしてこたつに腰から下をを入れていれば、関東以西の標高の低い都会では真冬でも十分にしのぐ寒さをことができると思われます。本当に寒い時には家の中でもダウンジャケットを着ればいいことですから。

(5)豆炭あんか
 田舎では以前は布団の足元に入れる豆炭のこたつというのもあったのですが、今でも湯たんぽの形をした豆炭あんかというものがあるようです。寝る前にこれを布団に入れておくと暖かい布団で寝られるでしょう。湯たんぽ同様直接足で触れ続けると低温やけどするので、人が布団に入った後は、足の届かないところにずらして寝てください。
豆炭あんか ミツウロコ製 
5000千円前後(楽天調べ)
 豆炭ごたつをやるなら、夕方火を移した豆炭を一つあんかに移してお布団を温めるのに使えば一石二鳥になりますね。



蛇足)衣類で防寒する手段
 蛇足ですが、筆者は山登りをしていたので、冬山登山での知見が多少あります。ヒートテックなどの下着は暖かいとされていますが、運動した時の汗を熱に変えるので、じっとしている状態では普通の下着以上に暖かくはありません。山登りする人がマイナス20度にもなる冬山で使う温かい下着や靴下、手袋(一番下に履くもの)はメリノウールのものです。値が張りますが、高齢者のいる家庭などではもしもの時に備えておくといいかもしれません。
 またテントの中で履く履物にはもこもこのダウンジャケットを吐きものにしたようなのものがあり、重宝しました。