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対策遅れる「公助」


何のための地被害想定なのか?
 「大地震の被害想定」の章で見たように、国をはじめ県、あるいは市など自治体はH25年前後には大変立派な大地震に対する被害想定を行っています。それから5年以上たっているのですから、すでに「想定」に対して「対策」はできていると、税金を払っている住民は当然期待しているでしょう。 
 甚大な被害をもたらした東日本大震災の時、「想定外」であったために対応できなかった事象がいくつもありました。
・岩手県宮古市田老町では、津波は高さ10m全長2600m
 の世界一の防潮堤を軽々と乗り越え、破壊して町を
 襲いました。 
 参考)画像で見る岩手県田老町の悲劇と防潮堤の破損【東日本大震災】 
・福島原発では5m以上の津波が襲う事可能性がある
 という指摘は経営会議まで上げられていましたが、
 東電経営陣が無視した結果、海水面レベル以下に
 あった非常用電源は機能せず、原子炉をシャット
 ダウンできませんでした。非常用電源を喪失した
 ため、鉄もコンクリートを溶かしてしまう高温の燃料
 を自分の冷却システムで冷却することができなくなり
 、さらに内部にたまったガスをベントできず、
 水素爆発で建屋も、建屋内の危機配管類まで破壊
 することになって今いました。
 

「想定外」をなくすということは、考えられる一番ひどい状況を「想定」して、それにも対応できるように「対策」するという事です。  
「対策」しなければ何をどんなに立派に「想定」をしても意味はありません

大地震に必要な「対策」は本当にできているのでしょうか?

令和元年の台風15号で露見したこと
護岸の老朽化、なされていない津波対策
 横浜市金沢区の先浦地区、福浦地区の高さ約1.2m護岸壁は台風通過時の推定2〜2.5mの高潮で無残に破壊され、両地区の約400の企業の約700棟の工場、施設が破壊されました。(下の注参照)   
つまり横浜市は2〜2.5mに対する津波対策はできていなかったということです。
老朽化した護岸を放置したために市民の財産に決定的損害を与えた、と言えるでしょう。


(写真はANNnews動画より)
注)気象庁の潮位データ(観測でなく天文計算値)に
  よると、横浜港の台風通過前後の潮位は9月9日
  (月)AM3時〜AM9時で123〜72cmと時間がたつ
  毎に低くなる状況。
  最高潮位は198cmなので海沿いの道路は潮位
  200pで水が来ない高さに設定していると考えら
  れる。すると1.2mの護岸壁を破壊した高波の高さ
  は2〜2.5m程度と推定できる。
  横浜沖にあった時の台風は975hPa程度なので高潮
  としては予想外に思えるが、18年9月の台風21号
  の時(気圧はおよそ955hPa)大阪港で実際に観測
  された高潮は瞬間的に3.3mを記録しているので、
  台風中心に近づいた短い時間だけ急激に上昇した
  、という事はあり得るかもしれない。
  次図は2018年9月7日Yahooニューズ(気象予報士・
  饒村曜氏による解説)からの図

 高潮の川崎〜三浦半島への影響については皮肉なことに、神奈川県の19年4月の資料「高潮浸水想定区域図について」で解説されていて、これまでの高潮の記録は2頁に出ています。これまで最も高い高潮の記録は60年前の伊勢湾台風で3.9m、ついで18年9月の台風21号(大阪湾)です。 
 
津波と高潮は原因は異なっても現象は同じ 
 たかが1mの高さの水の「波」ではなく、数km以上の厚みを持った水の「圧力」なので、とんでもない破壊力があります。さらに言えば、津波は海底の泥まで巻き上げてくるので粘度が高く、ただの海水よりはるかに破壊力が増すといいます(津波の専門家の東北大学・今村教授による) 

電力会社のインフラの老朽化と保守費用削減  
 台風15号が通過す津東側になった千葉県では、全県的な広い範囲で強風による被害が出ました。
特に目を引いたのは君津市で、30mの高さのある送電線の鉄塔が2基へし折れて倒壊しました。折れた2基は1972年ごろに建てたという事で、建ててからすでに50年近くたっており、更新時期を過ぎていた可能性があります。


(9月14日の日経新聞電子版「老朽インフラ、日本の岐路 台風で停電、復旧あと2週間」からの引用)
 東日本大震災以降、ほとんどの原子力発電所が停止し石油化学燃料の価格上昇もあり、ほとんどの電力会社は儲からなくなっています。
 利益を出すためにメンテナンスコストを抑える目的で、老朽化した送電線の鉄塔や電柱を更新を大幅に抑えています。このままでは地震や台風の度にこういう事態がどこでも起こってしまう事になります。
 今回の千葉県で大量に電柱が倒壊したのは老朽化していたことと、樹木の倒壊による倒壊、損壊もあったようです。東電は被害の全貌を1週間では把握できず、2週間たってようやく完全復旧のめどが立ちました。
テレビのニュースを見ると、電柱の復旧作業をしているのは東京電力のマークが入った作業車ではありません。東北電力、北海道電力、中部電力、関西電力、九州電力!? なぜでしょうか?
 東京電力は福島原発事故の補償などでいったん潰れてしまったため、メンテナンス部門が大変手薄なのです。
 東京電力の協力会社はほとんどないので、ほかの電力会社の協力会社に依頼しているわけです。
自分の会社でないので統制も取れず、被害状況の集計さえ出てこない始末です。 
こういう状態でも、あなたは都心南部直下地震や相模トラフ地震が起きた時、停電が1週間で解消できると期待できますか? 
・電力がないとポンプ場が動かないので水道管の
 破裂が解消されても水は来ません 
・電力がないと下水処理場も運転できず、下水管が
 復旧できてもトイレは流せません
・電力がないと中継基地が電波を中継できず、
 スマホや携帯電話は使えません
・電力がないと商店でが売れません。 
大地震が来た時、あなたは1週間の備蓄で大丈夫
 だと思いますか?

電柱の本数の試算
 台風15号で倒壊した電柱の数は最終集計がまだ出てきていない時点で、4000〜6000本と言われています。
筆者の住んでいる横浜市内の電柱の数はおよその推計で17万本です。東京23区では23万本程度でしょう(地中化率を考慮して)。合わせて40万本です。
 南関東地震(都心南部直下地震または相模トラフ地震)では東京23区と横浜市の大半が震度6強という強い揺れになると想定されています。老朽化した電柱は倒壊しやすいでしょう。犬のおしっこがかかり続けるともろくなるという説もあります。強い液状化が起こる地域では地盤ごとひっくり返ります。仮に1割倒壊したら4万本です。 台風15号の4000〜6000本で2週間だったとして、南関東地震ではどうなるのでしょうか? 
 倒壊が1%に収まれば2週間で復旧できると言えますが、2%だったら?3%だったら? 

県は被害状況把握できず自衛隊の出動要請も遅れる
 同じ台風15号の被害でも土砂崩れで線路が埋まったり、切通し(きりとおし)の道がふさがった鎌倉市は迅速に3日目には自衛隊に出動要請しました。
 しかし、千葉県は動けませんでした。各市町村と結んでいるネットワークのケーブルが切断され、電話が通じないと被害状況が把握できなかったのです。停電に備えて各市町村の非常用電源は3日分はあったはずですし衛星電話もあったはずですが、県への被害報告には使われなかったようです。 何が悪かったのでしょうか?
 「市町村役場自体が情報を収集するのに時間を要していて、日々の報告ができなかったため」という見方もありましたが、全てを把握できない前提で、たとえ夜中になっても日々報告を上げるのが非常時の役場の仕事です。職務怠慢です。
 県知事は「市町村から報告がなかったから、何もできなかった」という訳の分からない言い訳をしていました。何も報告が上がってこないほど深刻な事態なら、全職員を使ってでも現場の被害状況を取りに行くべきでしょう。これも職務怠慢です。
 結果、給水車や電力会社の電力車、携帯会社の電波中継車が入るのが送れたのです。

 こんな意識の低い体制で、南関東地震や南海トラフ地震が来たらどうなるのでしょうか?

 市区町村は災害時にどう行動するかマニュアルを作ってしまっておくだけでなく、自分たちが非常時対応するための訓練はしているのでしょうか? まず、この人たちを教育・訓練しなくてはならないのではないでしょうか?

老朽化インフラは更新を急げ
 東京湾に限らず南関東地震、南海トラフ地震の津波の影響のある護岸、護岸壁、堤防、取水口・排水溝のゲート、水門などの湾岸施設は津波に耐えられるのか?老朽化の影響を含め、見直し、急いでインフラを更新する要があります
 海水に接している鉄筋コンクリート、鉄板などはそうでないものより劣化が早く進みます。それを40年も放置していた方がおかしいのです。今時、丘の上の団地やマンションでも40年以上のものは耐震補強していますよね?

 予算がないから後回しにしましたというなら、老朽化した護岸を放置したことで発生した経済的損失を賠償してくれんでしょうか? 
 中小企業約400社が半年〜1年操業できず、設備を更新しなければいけない経済損失を全て市が保証できるのでなき限り、横浜市は老朽化施設を補強しなければいけなかったのです。インフラを更新するか、経済的損失を残額保証するか、どちらが安く済むか、誰にでもわかりますよね。
 今回の件は先浦・福浦地区の中小企業が市を相手取って集団訴訟すると良いと思います。そうすれば全ての自治体が目を覚ますかもしれません。自治体がそのために余分な借金をする受け皿は国がすでに用意しています。
《国土強靭化》とかいう名目で、いくらでも地方港税を出してくれるでしょう。そうしないと老朽化したインフラは更新していかないのです。海水に浸ったり海水を浴びたりしているコンクリートの鉄筋はもろくなっていきますから、40年も経てばもろくなって津波や高潮で簡単に破壊されるのは目に見えています。次の世代に借金を先送りするのではありません。公共インフラが破壊されれば今の世代の再建コストは余計に膨らみますし、仮に30年毎に更新するのであれば、次の世代も利益を享受できるのです。
 沿岸部分だけでなく、道路、鉄道、橋脚、水道管、下水道管、水門、港湾、護岸、鉄塔、電柱といったあらゆる公共インフラは更新しなければならない時期に来ています。全てのインフラは70年第80年代の高度成長期に多く作られたものです。現在ではそれから40年以上経過しています。全部同時にできなくても、災害リスクの高い沿岸部、河川部から優先順位を決めてどんどん更新しなければいけない時代なのです。
 昨年の西日本豪雨では治水ダムが水害の原因となりました(愛媛県伊予市野村街)。治水ダムは本来河川の増水を抑えるためのものです。しかし河川から水が流れ込むダムは河川に含まれる土砂も溜めてしまうため、現実的に全国の多くのダムで貯水できる量が大きく減少しています。だから2,3日の大雨ですぐにあふれてしまうのです。全国どこでも同じ事情です。ダムにたまった土砂を取り除くには大きなコストがかかり、各自治体はそのコストを負担できていません。これもインフラの経年劣化の一例です。 
参考)NHKクローズアップ現代『豪雨被害を拡大!『あなたの町のダムは安全か』

現行法の問題点
病院等公的機関の非常用電源用燃料の備蓄の問題
 阪神淡路大震災以降、中越地震、東日本大震災、熊本地震、北海道胆振東部地震と次々に深刻な地震が発生しており、その度に停電と断水が発生しています。近年では豪雨による水害も多発しています。
 現在の消防法では病院など公的機関でも非常用電源の燃料は3日分しか備蓄を認められていないため、肝心な時に拠点病院が機能しなくなってしまう事態に陥っています。
 南海トラフ地震や南関東地震が起きた時どうなるでしょうか?南海トラフ地震のような広域災害になると停電も広域になるので、「3日たったら病院をよその病院に送ればいいや」では済まされません。首都直下型地震や相模湾トラフ地震でも人口密集地の病院が機能しなくなっても、その大量の病人を受け入れられるキャパシティはどこにも余っていません。
 病院、浄水場、ポンプ場、下水処理場などの公的サービス機関の非常用電源の燃料は最低1週間、安全対策が可能なら2週間分の備蓄を認めるべきです。
緊急時の被害情報収集用のドローンの許可
 津波研究専門の東北大学の今村教授は「津波がどのように迫ってくるか、どこまで達したかを各自治体が津波到着前、到着後に把握することが極めて重要で、ドローンを複数飛ばすことで可能になるが、現在は認められていないので防災に生かせない」と述べています。
 市区町村ごとの消防署がドローンの正しい運転訓練を受けて、発災時に沿岸の津波到達状況、河川の増水状況、市区町村内の建物・橋梁・道路・電柱等の被害状況、出火状況、土砂崩れ状況等を空から情報収集できる体制を整えるべきではないでしょうか ?