突然の衝撃に将門は、うめき声をあげた。
尻のあたりに熱いものが落されている。
「何をするかっ、この淫売のカス女」
四つん這いのまま将門は叫んだ。蔦が絡みついて身動きもできないのだ。
「ナニって、蝋燭ちょっと垂らしてみたんだけど。この時代だから低温蝋燭とかないし……やっぱり熱かったですか?」
背後で、傀儡の女が言う。
まさか本当に蝋を垂らしたのか。
接吻だのなんだのと言うから、この将門を誑し込もうとしているのかと思えば、普通に拷問だろう。それは!!
怒りに血が頭に昇る。
「気にするな。小次郎の面の皮は千枚張りじゃ。尻とて似たようなもの」
「誰のツラが千枚だ。ええい、離せ。離さぬとその素っ首叩き落としてくれる!!!」
蔦に繋がれたまま将門は、怒鳴り散らした。
だが、今の姿で凄んだところでしょせんは、負け犬の遠吠えにすぎない。
桔梗は、滲んだ紅を指先で拭いながら、小さく声をたてて笑った。
「して、なんとするか。杏珠よ」
「う〜ん。今のでちょっと縮んじゃいましたね。この状況に興奮してるくせに痛みには弱いみたいです」
「なんと根性のないことよ」
根性で蝋燭の熱さに耐えろというのか。
それも、何の必要性があって耐えねばならんのか、わけが判らん。
「馬鹿か。貴様ら!!」
ここまでくると怒りも頂点を過ぎる。
将門は、肩で大きく息を繰り返した。
「貴様らって……。とうとうお姫さままで、馬鹿扱いですよ」
杏珠の声は、ほとんど面白がっているようだが、桔梗は違っていた。
「己が立場を判っとらんようだ。杏珠よ。鞭をくれてやれ」
「ダメですってば、馬の鞭なんかでぶったら死んじゃいますよ」
「死なれては困るな」
馬の轡だの鞭だの……こいつらの頭の中が理解できん。
このままでは、本気で殺されかねない。
「桔梗の前、鞭と飴です。今度は飴といきましょう」
「飴だと?」
いかにも不服そうに桔梗は、眉間に皺をよせる。
「えっとね……そうだな。胸の先っぽでも弄っちゃいましょうか」
「先っぽと?」
「ほら、あれ」
後ろで、杏珠が呼んだらしい。
将門の正面にいた桔梗が、衣擦れの音を立てて横へ回る。四つん這いになっている将門の腕の下を覗き込んで、感嘆の声を上げた。
「おお、男のくせに小次郎、立派な乳ではないか」
大の男が乳を褒められて嬉しいと思うか。乳母を探してるんじゃないんだぞ。
「けっこう鍛えておられるようですね。筋肉がムッキムキじゃないですか」
「固い。固いぞ」
桔梗が指で、大胸筋あたりを指でつつきまくっている。
揶揄しているのではなく、おそらく桔梗は本気でそう言っているらしい。……こいつは天然だ。
「桔梗の前。そこんトコを揉みしだいてください」
「固いばっかりで、つかむこともできんぞ」
「ナイ乳を揉むんです」
「無茶を言うでないわ」
杏珠の言葉に、桔梗が反論する。聞いている将門のほうが、それもそうだ、と妙に納得する。男の乳なんぞ揉んでどうするというのか。
乳房というのは、女の柔らかい肉を揉むからこそ心地よいのだ。
「でも、それだって桔梗の前のものですよ? いいんですか? 他の女に揉まれちゃっても」
「ならん。これはわらわのものじゃ!!」
大切な玩具を取り上げられそうな子供のように桔梗は、あわてて将門の胸に取りすがってきた。
馬鹿に見えて、奇妙に杏珠という女は、桔梗をうまく操る。まさに傀儡子だ。
胸の中へ桔梗がもぐりこんでくる。
顔をこすりつけるようにして将門の胸をまさぐるのが、まるで稚い童女のようだ。
蔦に絡め取られていなければ、このまま抱きしめてやりたい気持ちに駆られる。ふいに桔梗のほうが抱きついてきた。薄い単衣を通して桔梗の胸のふくらみが腹に当たる。
将門は、息を呑んだ。
前言を撤回する。こいつは、もう童女ではない。
「おっ、小次郎さま。純情ですね。また復活した!」
背後から余計な講釈を入れる傀儡子が邪魔だ……。
舌うちしたい気分だったが、いきなり将門は呻いた。
桔梗が胸の先端へ歯をたてたからだ。
甘噛みしたかと思えば、吸いついてくる。ただ、それだけの刺激に身体中が火照り始めた。
「グッジョブです。桔梗の前!!」
あの傀儡子……。殺す。絶対に殺してやる。
将門は、胸からくる甘い痛みに耐えながら、歯を食いしばっていた。
飽きもせず桔梗は、男の乳首を口に含み、舌先で転がす。
その間にも、鼠蹊部に伸びた蔦が臀部の間に入り込んでくる。
突然、尾てい骨から脳天まで痺れるような感覚が突き抜けた。
「あ……やっぱり、ローションとか滑るものがないと入らないな。えい、えい」
間の抜けた声が気に入らない。
男の尻に今、何をしたのか……判っているのか。この傀儡子がっ!
「何をって……浣腸とか?」
やはり淫売ゆえに、何をやらかすかまったく予想もつかない。
背後の傀儡子は、将門の尻の孔に蔦の先を突き入れようとしている。馬鹿なのか。こいつ。本気で馬鹿か?
衆道といえば天武天皇の孫の時代からあるとは聞いたが、まさか己がこんな真似をされるとは思いもしなかった。あんなものは、女に触れられぬ寺の坊主の愉しみだろうが。
「心配いらぬぞ。杏珠。小次郎には今朝から一服盛ったからな」
「さすがですね。桔梗の前」
「抜かりはないぞ。小次郎を仕留めるためには手段は選ばぬ」
仕留めるだと?
獲物か。俺はすでに追い詰められた獲物なのか?
そういえば朝餉の汁が、いつもと違った味がしたようだった。案の定、腹を下したのだが、これもそれも、こやつらのたくらみか。
「阿呆どもが、これを解かんか。俺は売色の稚児ではないわ!!」
「そんな可愛いものか。小次郎よ」
将門の胸の下で、桔梗が言う。
「可愛くないなら、さっさと解け。桔梗!!!」
怒りのあまり声が裏返った。
蔦さえなければ、この細腰を押さえつけて、思い知らせてやるものを!
「なるほど……。蔦さえなければ、桔梗の前の着物の裾をめくって、バックからがっつんがつんしてやるとか、考えてますね。最低ですね〜」
「バックとはなんじゃ。杏珠?」
桔梗は、ごそごそと将門の胸の下から這い出てくる。
「黙れ。売女!」
上擦った声で将門が怒鳴る。今すぐこの女の口を閉じさせてやりたい。太刀をつっこんでやろうか。
「小次郎は、今の自分と同じ格好にして、桔梗の前と子づくりしたいそうです」
「なんと穢らわしいことを考えるのじゃ。小次郎よ!」
単衣の袂で口元を隠しながら桔梗が叫ぶ。
将門は脱力した。
お前が俺にしている仕打ちは穢らわしくないとでも言うのか……。
「まあまあ、桔梗の前。小次郎はこういうのがお好きみたいだから、さっそく」
杏珠の声がわずかに高くなった。
何をしでかすつもりか。
大腿に絡む蔦が、まるで意思でもあるように尻たぶを押し開く。
思わず将門は、腹に力を込めた。自然と尻も力んでしまう。括約筋も閉まるのが、後ろにいる女にも見えるのだろう。
「桔梗の前。こっち、こっち見てください。ひくひくしてる!」
あきらかに面白がっている杏珠に、将門は屈辱のあまり目の前が白くなりそうだ。
「おお、まことじゃ。して、こっちのこの黒々としたものは、なんとする?」
「そっちは、こうしますよ!」
楽しげな杏珠の声に蔦が一気に伸びてきた。それまで放っておかれた将門の中心に細い蔦のまきひげが絡みつく。
冷たいまきひげの先端が吸盤になって付着する。
このまま根付くつもりか……と戦慄したのもつかの間だった。
巻きつくというより、まるで握りこまれたような感覚。
はりつめた亀頭を撫でるように、擦りあげる。
「くうっ、あっ……ん!」
「やだぁ。小次郎さま……女の子みたいな声出しちゃってるぅ!!」
「そんなことは……つぅ!!」
「何やら気に入らんな……。小次郎のくせに」
蔑んだような桔梗の声音。
幼い従妹の前で曝け出される己の惨めな姿に愕然とするも、絡みつく快楽から逃れられない。
馬鹿な。
こんな外法……。ただの目くらましではないか。
固く目を閉じたとたん、肉茎の先端を強く締め上げられる。
「う……うぅっ……!」
「見てください。桔梗の前。こんなに大きくなって、血管が浮いて!!」
もどかしい刺激に将門は呻く。
羞恥よりも、この理不尽な行いに対する怒りよりも、もはや小次郎はさらなる刺激を求めて、腰をせり出していた。
妖物と女たちの視線に嬲られながら。
竿を弄ぶ巻きひげ。小さな吸盤が尿道口を吸い上げる。
「こ、こんな奴に…」
「こんな奴って誰ですかぁ〜」
間抜けた傀儡子が何か言っているが、もはや将門には聞こえなかった。
「っ……うっ………く!」