初めて見る夫のあられもない姿に、桔梗は見入っていた。
つねには凛然として、どんな荒馬をも乗りこなす。
騎射にも優れ、豪胆な従兄。
いつも彼の周囲には人がいた。
下衆にたいしてさえもったいぶらず磊落な口を利く。
どんな男や女からも好かれていた。
だから、ときどき桔梗は意地悪をしないではいられない。
もっと小次郎を苛めてやる方法はないかしら。
そればかり考えている。
だが、こうして力なく横たわる小次郎を見るのは本意ではない。
そんな気がする。
小次郎の怒った顔も、不満そうに口元を歪めるあの癖も、それから桔梗の理不尽な仕打ちを受けたときの困ったような泣きそうな……。
(あの小次郎が泣くことは、子供のころから決してなかったことなのだが……)
あの奇妙な表情。