群遅延
逆ベッセル多項式
通過域で群遅延が平坦な Besselフィルタは逆ベッセル多項式*1から求められます。なお逆ベッセル多項式は次の漸化式で表せます。
ただし B0 と B1 は
,以降は
Besselフィルタの伝達関数
n次の Bessel フィルタの伝達関数は逆ベッセル多項式を用いて以下のように表せます。
下のグラフは上式から求めた 2?8次の Bessel フィルタの伝達関数に直接 s = jω を代入し求めた周波数特性と群遅延特性です。
上図のように多項式そのままでも特性の確認は可能ですが、実際の回路に適用するために極(pole)を求め 2次以下の要素に分割します。
次数 | Re | Im | fc | Q |
---|---|---|---|---|
2 | -1.5000000000 | ±0.8660254038 | 1.732050808 | 0.577350269 |
3 | -1.8389073227 | ±1.7543809598 | 2.541541401 | 0.691046626 |
-2.3221853546 | 2.322185355 | |||
4 | -2.1037893972 | ±2.6574180419 | 3.389365793 | 0.805538282 |
-2.8962106028 | ±0.8672341289 | 3.023264939 | 0.521934582 | |
5 | -2.3246743032 | ±3.5710229203 | 4.261022801 | 0.916477374 |
-3.3519563992 | ±1.7426614162 | 3.777893661 | 0.563535621 | |
-3.6467385953 | 3.646738595 | |||
6 | -2.5159322478 | ±4.4926729537 | 5.149177152 | 1.023313954 |
-3.7357083563 | ±2.6262723114 | 4.566489152 | 0.611194547 | |
-4.2483593959 | ±0.8675096732 | 4.336027051 | 0.510317825 | |
7 | -2.6856768789 | ±5.4206941307 | 6.04952768 | 1.126257542 |
-4.0701391636 | ±3.5171740477 | 5.379270033 | 0.660821389 | |
-4.7582905282 | ±1.7392860611 | 5.06620615 | 0.532355698 | |
-4.9717868585 | 4.9717868585 | |||
8 | -2.8389839489 | ±6.3539112986 | 6.959311651 | 1.225669425 |
-4.3682892172 | ±4.4144425005 | 6.210414904 | 0.710852074 | |
-5.2048407906 | ±2.6161751526 | 5.825353215 | 0.559609165 | |
-5.5878860433 | ±0.8676144454 | 5.654840869 | 0.505991069 |
Bessel フィルタの PCM DAC 用 Post LPF への応用
まず上の表の Bessel フィルタの Q について見ていくと 2次の Butterworth フィルタの Q = 1/ √2 (= 0.7071) に近い値が 3次と 8次に見つかります。
ここで 3次は fc が 0.91 (= 2.322185355 / 2.541541401) 倍になる 1次LPF との組み合わせになりますが、アナログフィルタの群遅延の LPF とフェーズシフタの群遅延で示したようにフェーズシフタの群遅延は同じ fc の 1次LPF の群遅延の ちょうど 2倍になるので、 2次の Butterworth フィルタを 2段 (4次の Linkwitz-Riley) と 1次のフェーズシフタとの組み合わせで振幅特性と群遅延とが両立できる可能性がありそうです。
具体的にまず 20 kHz のレスポンスを -0.1 dB に抑えることにすると Butterworth フィルタは 2段なので、それぞれの LPF での減衰が -0.05 dB になるよう fc を決定します。 fc は Butterworth LPF の応答の式から逆算し約 61 kHz でよいことが分かります。ちなみに 2次の Butterworth では fc = 51.2 kHz になります。
次にフェーズシフタの構成ですが
上の式より 1次 LPF からレベルを半分に減衰したの元の信号を減算してやればよいことが分かります。ただしゲインは 1/2 になります。
回路は平衡入力 MFBフィルタを二段重ねしたような構成です。 2段目の非反転入力側で 1次 LPF を作り、反転入力側で抵抗分割で入力を 1/2 にしてみました。 下の TINA-TI の回路図の R8, C7 が 1次 LPF に相当し R7, R9 が 1/2 減算部分に相当します。

実際に回路は組んでいませんが、下の TINA-TI のシミュレーション結果をみる限り大丈夫そうです。ただし 20 kHz 近傍の僅かな群遅延の改善が本当に必要かどうか、肯定的な意見はどちらかというと少ないのではないでしょうか。
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