正弦波をつくる

方形波のスペクトル

方形波(50%デューティ)には偶数次のスペクトルは含まれないので、一番基本波に近接した第2高調波成分が発生しないというメリットはありますが、次の第3高調波をはじめ基本波に対して 1 / n (n:高調波の次数) のレベルの奇数次のスペクトルを伴います。

画像<sqr_trn.png>
画像<sqr_fft.png>

この方形波にLPFを通してみます。下はLTspiceの E:Voltage dependent voltage source を使ったSallen-key(VCVS)型の 2 / 4 / 6次のButterworth LPFの回路図です。

画像<vcvs_lpf_sch.png>

フィルタ定数は偶数次のButterworth多項式

B n s = k=1 π 2 s 2 - 2 s cos 2 k + n - 1 2 n ϕ + 1

アクティブ・フィルタ/VCVSフィルタとMFBフィルタのVCVS(Sallen-Key)フィルタで求めた式

y u = Z D Z A B + Z D = Z D Z A Z B + Z B Z C + Z C Z A Z C + Z D = Z C Z D Z A + Z B + Z D Z C + Z A Z B

ZA = R1, ZB = R2, ZC = 1 / C1 s, ZD = 1 / C2 s を代入して得られるSallen-Key LPFの伝達関数

H s = 1 C 1 s × 1 C 2 s R 1 + R 2 + 1 C 2 s 1 C 1 s + R 1 R 2 = 1 R 1 R 2 C 1 C 2 s 2 + R 1 + R 2 C 2 s + 1

から求められます。(CR の番号は回路図一番上の2次LPFと同じです。)

下図は上回路図の 2 / 4 / 6次Butterworth LPFの周波数特性です。回路図のV1の設定は PULSE(0 3.3 100u 10n 10n 500u 1m 12) を消し AC 1 にします。またSimulation Commandは .tran 11m を無効にして .ac dec 32 100 100k とします。

画像<sqr2sin_vcvs_frqchr.png>

次は、2 / 4 / 6次Butterworth LPFのtransientシミュレーション結果です。回路図のV1の設定は PULSE(0 3.3 100u 10n 10n 500u 1m 12) です。Simulation Commandは .tran 11m ですが (.ac dec 32 100 100k は無効にします)、表示は波形が観易いように 4 msec 迄にしています。

画像<sqr2sin_vcvs_tran.png>

次はLTspiceのFFTです。1 msec 〜 11 msec のデータにBlackman窓を掛けています。

画像<sqr2sin_vcvs_fft.png>
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第3高調波の相殺を考える

1 / 6 周期位相がずれた3波の方形波を考えます。下図はLTspiceによるシミュレーションのための回路図です。

画像<kill3rdhd_sch.png>

下図の緑の方形波が上回路図の信号源 V1の出力、青の方形波が V2の出力で、赤は抵抗 R1R2により V1V2を合成した波形です。

画像<kill3rdhd_trn.png>

上の赤の波形をFFTした結果が下図です。第3高調波の他 3の倍数の 9, 15, 21の高調波も相殺されています。

画像<kill3rdhd_fft.png>

方形波を生成する際により高い周波数のクロックを分周して所望の周波数の方形波を生成することになるかと思いますが、元のクロックが生成する方形波の周波数の3の倍数でない場合1 / 6周期の遅延はつくり出せません。
そこで2波がだめなら3波ではという訳で、次に位相が1 / 8周期づつずれた3波の方形波の加算を考えてみます。

α cos ω t - ϕ + β cos ω t + α cos ω t + ϕ = 2 α cos ω t cos φ + β cos ω t = 2 α cos ϕ + β cos ω t

3高調波を相殺するため

ϕ = 3 × 2 π 8 = 3 π 4

2 α cos ϕ + β = 0

として

β α = - 2 cos 3 π 4 = - 2 × - 1 2 = 2 51 36 = 1.41666

E-24系列で √2 に一番近い比率となる36 kΩ51 kΩの組み合わせでミキシングしてみます。

画像<kill35hd_sch.png>

下図の黄緑色の方形波が上回路図の信号源V1の出力、青の方形波がV2の出力、赤の方形波がV3の出力で、青緑色は抵抗 R1R2R3によりV1V2V3を合成した波形です。

画像<kill35hd_trn.png>

下図は上図の青緑色の抵抗による合成波形のFFTの結果です。これから第3高調波だけでなく
cos (  / 4 ) = -1 / √2 が成り立つ n ( = 3, 5, 11, 13, 19, 21) の第5, 11, 13, 19, 21高調波なども相殺されていることが分かります。

画像<kill35hd_fft.png>

下図はLTspiceによるシミュレーション用回路図です。まずD-flipflop(A1A2A3)2→4→8とクロックを分周します。次に分周前のクロックによるシフトレジスタ*1で位相が 1/8周期づつずれた 3波の方形波を生成します

画像<cancel3rd5thhd_sch.png>

E1E2E:Voltage dependent voltage source の反転アンプとしての使用例です。ゲインこそ 120 dB (= 1e6 = 1,000,000倍)と有限値ですが、理想OPアンプのあと2つの条件、入力インピーダンス無限大と出力インピーダンス0は満たしています。

下図は上回路図でLTspiceによってトランジェント解析した結果です。緑色の I(R1) + I(R2) + I(R3)R1R2R3 に流れる電流を合成した波形です。青の波形 V(n015)は Voltage dependent voltage source:E1による反転次LPF出力ですが、位相を他の波形と合わせるための反転表示しています。赤の波形 V(n014)はE2による反転2次LPF出力です

画像<cancel3rd5thhd_tran.png>

下図は上の青と赤のE1,E2出力にBlackman窓を掛けてFFTした結果です。

画像<cancel3rd5thhd_fft.png>
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更なる高調波のキャンセル

調子に乗って、第7, 9高調波の相殺も試みます。方形波は16倍の周波数の信号から2分周4回で生成し、それを7段のシフトレジスタに通します。

ϕ = 7 × 2 π 16 = 7 π 8

α β = - 2 cos 7 π 8 = 1.8478

R 1 // R 2 // R 3 = 1 2 51 + 1 36 = 14.927

3組のR1//R2//R3のネットワークに直列にR10,R11(=R10)とR12をつなぎ、第3~13までの奇数次の高調波を一挙に相殺します。

β α = R 1 // R 2 // R 3 + R 10 R 1 // R 2 // R 3 + R 12 - R 1 // R 2 // R 3

R 12 = R 1 // R 2 // R 3 + R 10 β α - R 1 // R 2 // R 3

E-24系列で誤差が小さくなる組み合わせを探ると

R 10 = 33

R 12 = 14.927 + 33 1.8478 - 14.927 = 11.010

下図はLTspiceによるシミュレーションのための回路図です。

画像<cancel3rd5th7th9thhd_sch.png>

下図の緑の階段状の波形はR10R11R12の抵抗に流れる電流の和(符号は負ですが)です。 青の波形は理想OPアンプ(ゲインは120 dB)の Voltage dependent voltage source E1の出力、赤の波形はE2の出力です。

画像<cancel3rd5th7th9thhd_tran.png>

上の青の波形と赤の波形をFFTした結果が下図です。

画像<cancel3rd5th7th9thhd_fft.png>
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