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群遅延


群遅延の数式化

ディジタル・ディレーのような単なる遅延を『むだ時間』といいます。むだ時間 t の伝達関数(ラプラス変換)は H(s) = e -ts ですが、周波数特性を得るため s = jω として

H(jω)=e-jωt=cosωt-jsinωt

位相をϕとすると

ϕ=tan-1(-sinωtcosωt)=tan-1(-tanωt)=tan-1(tan(-ωt))=-ωt

ちなみに群遅延(group delay)は位相の角周波数による微分

-dϕdω

で定義されています。マイナス符号は遅延(delay)を意味します。なお、むだ時間 e-ts の群遅延は当然ですが t になります。

下のグラフはカットオフ周波数10 kHz2次LPFのQを変化させたときの位相と群遅延を表わしていますが、このようにX軸の周波数を対数ではなくリニアで表示すると、位相特性の傾きが群遅延であるということがよく分かります。

伝達関数をH(s)
s = jω から

H(jω)=g(ω)+jh(ω)

とおき

tanϕ=h(ω)g(ω)

これをωで微分すると

dϕdω=(ddϕtanϕ)=ddω(h(ω)g(ω))

上式の右辺は

ddω(hωgω)=h(ω)g(ω)-h(ω)g(ω)g2(ω)=h(ω)g(ω)-h(ω)g(ω)g2(ω)

左辺は

ddϕtanϕ=ddϕ(sinϕcosϕ)=sin2ϕ+cos2ϕcos2ϕ=1+tan2ϕ=1+h2(ω)g2(ω)

よって群遅延(group delay)は以下の式で表わせます。

-dϕdω=g(ω)h(ω)-g(ω)h(ω)g2(ω)+h2(ω)

LPFとフェーズシフタの群遅延

一次ローパス・フィルタの伝達関数は

HLPF(s)=ωcs+ωc

s = jω として周波数応答を求めます。

HLPF(jω)=ωCωC+jω=ωC(ωC-jω)ω2C+ω2

ここで

g(ω)=ωC,h(ω)=-ω

とおくと

ここで

g(ω)=0,h(ω)=-1

一次ローパス・フィルタの群遅延は

-dϕdω=g(ω)h(ω)-g(ω)h(ω)g2(ω)+h2(ω)=ωCωC2+ω2

次にフェーズ・シフタの伝達関数は

HPS(s)=ωC-ss+ωC

同様に s = jω として周波数応答を求めます。

HPS(jω)=ωC-jωωC+jω=(ωC-jω)2ωC2+ω2=ωC2-ω2-j2ωCωωC2+ω2

ここで

g(ω)=ωC2-ω2,h(ω)=-2ωCω

とおくと

g(ω)=-2ω,h(ω)=-2ωC

フェーズ・シフタの群遅延は

-dϕdω=g(ω)h(ω)-g(ω)h(ω)g2(ω)+h2(ω)=4ωCω2+2ωC(ωC2-ω2)(ωC2-ω2)2+4ωC2ω2=2ωCωC2+ω2

フェーズシフタの群遅延は同じfcの一次ローパス・フィルタの群遅延のちょうど2倍になります。

ただし、単に群遅延が2倍ということだけであれば ωC - jωωC - jω )2 の比較でド・モアブルの定理から位相がちょうど2倍なので、群遅延も2倍になることはすぐに分かります。