長谷川鍼灸院 〜自然の流れに沿った「自然な治療」〜

治療の流れ



実例 (治療の流れ)

ある患者さんのほんの一例です、問診からの治療まで、会話の内容もほぼそのまま載せ
てみました。 



≪60代女性≫
【主訴】
(患者さんの症状、訴え)

患者さん: 「右拇指腱鞘炎」で、何年も前から時々発症するのですが、特にここ1
ヶ月痛くて、病院でブロック注射も打ってもらったのに、もっと腫れて痛
くなってしまったのです。何とか治りませんか?』
長谷川 : 『大分腫れて、痛そうですね。握れますか?』
患者さん: 『ここまでしか(可動域の3割位)曲げられません。』



【随伴症状・既往症】
(他の症状や、身体の過去の病歴)


長谷川 : 『他に気になる症状とか、今までにかかった病気はありますか?』
患者さん: 『腰痛です、これも30年位前から時々痛くなり、足の方まで痛みがきます(坐骨神経痛)。あと、疲れ眼、耳鳴り、口が渇きます。また、高血圧で薬を飲んでいます。以前立ち眩みがあって、「メニエール様症候群」と言われ、薬を飲みました。』

長谷川 : 『色々症状はありますね。これの一つ一つも、身体の反応ですので、その都度身体が訴えていたのですね。では、体を診てみましょう』



【診察】(所見)
(脈診、腹診、手足のツボの反応、局所の状態を診ていきます)


長谷川 : 脈が全体に尖っていますね、これは「弦脉」といって、「肝」に関係し、痛みが強いときや、自律神経失調(交感神経過緊張)のときに現れます。生活上で身体に大きな負担をかけていることの現れですね。
患者さん: 『毎日休むまもなく動いています。動けるので動いてしまうんです、性分ですね(笑)。』
長谷川 : 『お腹を診ますね。(全体をあちこち押さえてみて)
「へその右下のツボ(右中注)」に圧痛が出ています。これは「オ血」といって、古い血が溜まって流れが悪くなっていることを現しています。
患者さん: 『確かにそこを押さえられると痛いですね、自分では気がつきませんでした。』
長谷川 : 『手足のツボの反応を診ます。(両手足で12ヶ所のツボの圧痛を調べて)「右の拇指腹のツボ(右魚際)」にも強い圧痛がありますね。』
患者さん: 『そこが痛いところなんです。』
長谷川 : ここが患部なので特に反応が出ていますが、親指が悪いのではなく、肺の経絡の流れが極端に悪くなり炎症をおこしたものです。
患者さん: 『そうなんですか。』
長谷川 : 『これが身体の信号です。肺の経絡、免疫機能がおかしいよって言っている声が痛みに現れたのですね。』
長谷川 : 『最後に頚スジも診ますね。(頚、肩、頭等のツボを押して反応を診る)「右耳の下やや後のツボ(右天ユウ)」が硬いです。これも肺の弱りから慢性扁桃炎を発症していることを現しているので、やはり今回の症状は、肺に関係があるみたいですね。
患者さん: 『「肺」が関係あるのですか?』
長谷川 : 『「肺」は、一般的に呼吸のみの関与だと考えがちです。レントゲンや血液検査等の異常がないと、問題視されないのですが、東洋医学的には、「気血を調節する作用」と「循環を調節する作用」の意味を持っているので、何らかの反応が出て、呼吸に関係しない所に異常反応として現れる場合が多いのです。西洋医学的な考え方とは違った、各臓器独自の診かたがあります。五行色体表(参照)


「肺」は呼吸する臓器ですが、その入り口である「扁桃」は外部から雑菌にさらされやすい器官なので、防御がしっかりしていないと、風邪や感染症にかかりやすくなってしまうのです。つまり「炎症性疾患等」にかかりやすいということです。
『あと、「肺」は「皮膚」にも関係し、ハリがあって潤いがある皮膚が外敵から身を守る役割を担い、防御機能の要をなしています。もし、カサカサし、潤いのない皮膚になっていると、ちょっとぶつけただけで皮膚が切れたり、炎症をおこしても治りにくい、防御力の低下した状態になってしまいます。

つまり「肺」は内臓の中で一番の免疫に関与する臓器だと言えるのです。この免疫がしっかり働かないと弱い部分に炎症が現れ、今回のような「腱鞘炎」の発症にも繋がるわけです。


【診断】
(診察から得られた今現在の体の情報を元に症状発症の原因を推測)



長谷川 : 『この反応から診ても、「もっと休んでくれーっ」と訴えているので
す。
つまり、毎日の疲労がストレスとなり
    
自律神経のバランスを崩し

    
交感神経が緊張

    
免疫力を低下
させ
    
もともと「肺」に弱点
をもっていたので
    
「肺の経絡」の反応点である「魚際」というツボ周辺に炎症
をおこし
たものだと考えられます。』
  
『この「交感神経」というのは、体を活発に働かせる神経ですが、緊張
が続くと、リラックスさせて体を治す神経の「副交感神経」が働きに
くくなってしまうのです。つまり、治す時間が少ないことが、症状の慢性
化に繋がったのですね。つまり、身体にとってメリハリのない生活リズ
ムが、緊張を続けて、修復する暇があまりなかった
事が、症状を長引
かせている要因になっていると思います。』
                   自律神経って?(参照)
患者さん: 『確かに、ゆっくりする暇はありませんね。』
長谷川 : 『では、今日の治療は』
『「交感神経緊張」を抑える為に、緊張している「弦脈」を改善させる「足首とお臍の少し下のツボ」
つまり脈が変われば、身体も変わってきたということに繋がる(反応も変わるという意味)為に必要です。』

『お腹の血流を改善させる、「肘と足首のツボ」
血流改善は、患部の「栄養補給」と「老廃物の排泄」に関わるので、腫れて炎症がおきているわけですから、速やかな血流改善が必要となってくるわけです。』

右手の拇指の反応を取るために、「肺の経絡」の流れをよくする、「右手首のツボ」。
「気の流れ」というのは、「気」が流れると「血」が動き、「血」が流れると、「水」が動く。東洋医学で言う「気・血・水」の循環を整えるのに必要なのです。


『肺の強化のために、「扁桃を強化」させる、「耳の下やや後よりのツボ」。
これは、先ほどの「肺の免疫機能」を強化する目的を持つので、炎症を早く沈静させる為に欠かせません。


『痛みから体の緊張が出ているので、「筋肉の緊張」をやわらげる「脇腹のツボ」
これによって、身体の筋緊張が緩み、しいては、拇指の筋肉の緊張も和らげます。

『以上をポイントに刺鍼治療していきます。』



【治療】
(各所見(診断)に基づき治療を行う)


長谷川 : 「扁桃強化」「脈の改善」、そして「お腹の血流改善」を同時に治療開始)(脈の改善、扁桃の反応消失、お腹の反応消失を確認してから)
『体の感じはどうですか?』
患者さん: 『体が軽くなってきました、お腹も気持ちいいです、拇指も少し痛みが減ってきています。痛いところに鍼を刺していないのに、不思議ですね。』
長谷川 : (鍼を総て抜いてから)
患部である、右拇指の腹部分(右魚際)の反応を取る為、右手首の刺鍼)(右拇指の圧痛がなくなったのを確認して)
    『拇指の痛みはどうでしょうか?』
患者さん: 『大分減ってきました。』
長谷川 : 『今度は、筋肉の緊張をとりますので、座ってください。』
    (座位で、「脇腹の緊張」を取る為、ゆっくり丁寧に時間をかけて刺鍼
    『拇指の痛みはどうですか?』
患者さん: 『もう8割方痛くないです』
長谷川 : (「脇腹の緊張」も取れてきたので、治療を終了)
    (脈をもう一度診て、尖った感じがなくなってきたのを確認し)
脈の状態も良くなってきました。つまり、身体が正常な方向に動き出したということです。全体にどうですか?』
患者さん: 『手がすごく握りやすいです、ぜんぜん楽になっています。腰もすっきりして、痛くないです。』
長谷川 : 『身体の反応も減ってきて、身体自体は大分改善されてきていますよ。今日初めてなので、今日の治療はこのくらいにしましょう。では、3〜4日後にもう一度診ましょうか。』
  『あと、なるべく休息時間を取れるようにしてくださいね。
患者さん: 『わかりました、気をつけます。』



【経過】
(2回目、3日後)


患者さん: 『手のむくみもありませんし、殆ど痛くないです。腰も調子がよく、あれこれやってしまいましたが。』
長谷川 : 『では、身体を診てみましょう。』



【診察】


長谷川 : 『脈は「やや弦脈」、前回より尖り方が緩やかですね、症状が安定している証拠ですよ。』
    
『お腹も診てみましょう。「へそ右下のツボ(右中注)」も反応ありませんね。お腹の血流が良くなってきています。
    『しかし、「へその左側にあるツボ(左天枢)」がやや固いです。これは、肝臓の働きが少し悪いことを現しています。「肝臓」は、一般には、「解毒」「代謝」「排泄」という作用を持ちます。東洋医学的には、「肝」といいますが、「筋肉」とその運動全てに関わってきますので、「腰痛や肩こり」「足つり」「けいれん」「しびれ」「痛み」等の筋肉の症状全般も「肝」の影響が大きいのです。今回の症状の一つにもありました「坐骨神経痛」にも深く関わってきますので、これが本来の反応かもしれませんね。今日はこれもやりましょう。』
五行色体表(参照)
    
『では、手足のツボを診ますね。先日痛みが強かった、「右拇指の腹のツボ(右魚際)」反応ありませんね、症状が改善してきた証拠です。』

『次に頚も診てみましょう。「右耳の下やや後よりのツボ(右天ユウ)」は、やや圧痛がありますね、これは基本的な扁桃の反応は残っているということで、いかに「扁桃(肺)」の影響がでやすい疾患であるかということを物語っているわけです。』

患者さん: 『そうなんですか、気をつけます。』



【診断】


長谷川 : 体の反応が減ってきていることが、症状の改善を現しています。ただし、「右耳の下やや後よりのツボ(右天ユウ)」の反応は、「慢性扁桃炎」を現しています。○○さんの本質にあるものですから、すぐには変わりません。また無理をすると、「扁桃(肺)」に関連した症状が出てきます。これについては、気長な治療が必要です。
    
『あと、「へその左側にあるツボ(左天枢)」に反応が出だしました。これは、前回の治療で、隠れていたものが現れてきたもので、これも○○さんは体質、性格的なものからくるため、「慢性扁桃炎」同様、「肝」も、気長な治療が必要です。』
    
『でも、○○さんは鍼の感受性がよく、治りやすい身体ですので、しっかり治療すれば、大きな症状には至りませんよ。

患者さん: 『痛いところが悪いところではないのですね。』
長谷川 : 『そうですね』病気って何だろう?(参照)



【治療】


長谷川 : (前回の治療の「扁桃強化」「弦脈の改善「筋肉の緊張緩和」を中心に、「肝の調節」を追加し、「右魚際」は反応が無かった為、この治療を省略し治療開始)
  『毎日身体の状態は変わります。同じ病名でもその時々で症状が変わるように、今の身体の反応を診て、今必要な治療を毎回組み立てていくわけです。』
患者さん: 『確かに調子がいいです。この前とお腹が違うって感じます。』
長谷川 : 『こういった反応が変わってくることは、「自然治癒力がうまく働きだした」といえることなのです。』
   (治療後脈の改善、扁桃の反応消失、お腹の反応消失を確認してから)
『体の感じはどうですか?』
患者さん: 『身体は軽い感じです。』
長谷川 : 『今度は、前回と同じように筋肉の緊張をとりますので、座ってください。』
    (座位で、「脇腹の緊張」を取る為じっくり時間をかけて治療しながら)
    『拇指の痛みはどうですか?』
患者さん: 『もうまったく痛くないです。この前の後にムクミも無くなり、いい感じです。』
長谷川 : 『今回の治療で、症状の改善はされてきましたが、また無理をすると、「肺」や「肝」に関するいろいろな症状が現れるかもしれません。時々身体を休ませて、リラックスする時間を作ってあげてください。
    『では、これで治療は終わりですが、次回は何か症状が出てからでいいので、しばらく様子を見てください。』
患者さん: 『気をつけます。』





病気発症の経緯や治療上の重要ポイント



この患者さんの場合、日ごろの生活で、めいっぱい動いてしまう。本人は、さほど気に
はしていないようで、あれもこれもやっても、十分にやれてしまう。たしかにこのよ
うな人は結構多く見受けられますが、「人に頼んで嫌な顔される位なら自分でやっ
たほうがいい」というタイプです。このタイプ
の特徴として、「弦脈」を現してい
る方が多いと感じています。つまり、気持ちは(心は)十分にできると思っているけ
ど、身体がついてこない。心と身体の意見相違の状態
です。

また、「自律神経失調症」というのは、一般的に多く聞かれる病名だと思いますが、現
在皆さんの色々な症状の根底に、ほとんどあるのではないかと考えられます。病気って
何だろう?
 ストレスから病気へ 自律神経って?(参照)

一般にストレスというと、精神的に疲れた状態ととられがちですが、「○○のしすぎ」
つまり、「働きすぎ」「パソコンやりすぎ」「ダラダラしすぎ」「立ちすぎ」「運転し
すぎ」「飲みすぎ」「ダイエットしすぎ」「寝すぎ」「冷えすぎ」「薬の飲みすぎ」
「心配しすぎ」「考えすぎ」「思いすぎ」「怒りすぎ」「悲しすぎ」「笑いすぎ」「楽
しすぎ」なんでもやりすぎると身体がアップアップの状態になり、緊張し、リラッ
クスできずに、自律神経のバランスを崩し、色々な症状を発症してくる
わけです。

東洋医学の基本的な考え方を科学的に証明してくださった、新潟大学医学部大学院教授
の、免疫学権威「安保徹」先生も、著書「免疫革命」他でも、同じ事を言われていま
す。安保先生は、「病気の本当の原因はストレス」だった、「健康も病気も、すべ
ては生き方にかかっている」
と言われています。
 病気というのは、今までの生活に無理があって発症したわけですから、そこを少し変
えていくだけでも、病気の改善に繋がっていくのです。



病気を治すのではなく、病人を全てまるごと考えて、整えていく

これが長野式治療なのです。