医療新聞ダイジェスト(歯科版)

歯科関連の主なデータ

 日本国内に於ける歯科医療の状況は改善傾向が顕著である。平成元年からスタートした8020運動は、徐々に国民の間にも浸透していき、患者と歯科医師、行政当局等の努力によって目覚ましい成果が目に見える形で表れている。
 もっとも、諸課題がすべて解決したわけではない。8020運動に於いても、マクロベースでの達成率は素晴らしいが、個々の患者・国民の口腔内をみると、依然として残存歯数が少なく、適正な補綴物も装着されておらず、咀嚼機能が回復されていないケースも少なくない。
 このページでは、様々なデータをもとに、国民歯科医療を更に改善させるための対策を模索していく。

全般的に伸び悩み(30年6月の国保医療費)

 国保中央会は平成30年6月診療分の国保医療費を集計。これによると、同月の歯科医療費は約638億円であり、前年同月比4.5%の減少となった。超高齢社会の進行に伴い、被保険者数が同4.3%減少しているため、実質的な医療費は概ね横ばいだが、診療実日数が前年同月よりも0.4日ほど伸びたこと等を考慮すると、医科入院外よりも厳しい数値となった。
 なお、同月の市町村分の総医療費は約8,675億円(前年同月比3.9%減少)。内訳は、医科・入院が3,260億円(同1.6%減)、入院外が3,076億円(4.1%減)、歯科が638億円(4.5%減)、調剤が1,483億円(8.8%減)、食事・生活療養が159億円(3.3%減)など。
 1レセ平均の医療費は、医科・入院が55万8,532円(同2.3%増)、入院外が1万4,987円(0.6%増)、歯科は1万3,121円(0.7%減)、そして調剤は1万1,292円であり、前年同月比で5.1%も落ち込んだ。歯科に関しては、1日当たり医療費が同2.2%伸びたが、総日数が6.6%少なかったため、1レセ点数も若干減少した。
 また、後期高齢者医療費は総額1兆3,344億円であり、前年同月よりも1.3%伸びてはいるが、被保険者数が1,730万人(同2.6%増)に伸長したことを考慮すると、実質的にはマイナスの状況。
 この内訳は、医科・入院が6,329億円(同3.1%増)、入院外が3,923億円(0.9%増)、歯科が529億円(3.7%増加)、調剤は2,141億円(4.1%減少)。絶対額は少ないものの、歯科は堅調な伸び率を示した。

「もっと早く歯科治療しておけば」が75%

 公益社団法人日歯が約1万人を対象に行なった「歯科医療に関する生活調査」によると、「もっと早くから歯の健診・治療をしておけばよかったと思う」との回答が75.7%に上っており、治療を先延ばしたことを後悔している人が非常に多いとの結果が示された。
 歯の硬組織は一般的に自然治癒が期待できないため、むし歯や歯周疾患が進行して抜歯した場合、義歯などで対応することになるが、完全に元の咀嚼機能(自分の歯がきちんと残っていたときの状態)にまで戻すことは難しい。
 そのため、歯科医院を定期受診し、必要に応じて治療を受けることが望ましいのだが、やはり、忙しい日常生活を送っている人も多く、「仕事が忙しい」、「子育てが忙しい」などの理由で受診を後回しにしてしまい、歯の悩みが深刻化してから後悔している人も多い実態が浮き彫りとなった。
 なお、今回の調査では、予防の実践状況についても行われており、「現在は治療を受けていないが、定期的にチェックを受けている」との回答も31.3%に達した。20歳代では21.3%に留まっているが、60代は38.2%、70代は39.3%であり、歯の悩みが本格化する年代では「現在治療中」の人も含め、過半数が受診、または定期的な健診を受けていた。
 また、「今後、歯科医師に求めることは何か(複数回答)」を尋ねたところ、最も多かったのは「自分の歯をできるだけ残すような処置をしてくれる」、続いて「治療技術が高い」、「自分の治療に対する希望を聞いてくれる」、「治療費の負担が少ない」、「治療が痛くない」であり、いずれも75%以上が回答者が希望している。

専門分科会の要件整備(日本歯科医学会)

 日本歯科医学会は「臨時評議員会」を開き、平成29年度の会計収支決算など全議案を可決確定した。歯科医学領域の主要学会で構成される同医学会は、幅広い事業を展開しているが、今回は「専門分科会(歯科医学界を代表する21学会)の資格更新」について議論。すべての学会が承認基準を満たしているものの、原著論文の発表件数などで課題を残している学会も一部で見られた。
 専門分科会に所属する学会はいずれも歯科界の各学問領域を代表しており、これまでは更新について議論されることは稀だった。しかし、学会の質が担保されていることを対外的に明らかにするため、資格承認基準を設定。これに基づき、21学会を調査したものであり、まず総論として「21学会すべてが承認基準を満たしている」と判断した。
 但し、①全国組織の会員構成(500名以上)を持つこと、②歯科医師もしくは歯科医学研究者が会員構成の主体となっている、との要件は特段の問題が見られなかったが、③歯科医師の会員は日歯会員であることが望ましい、との要件では、日歯会員比率が過半数に達していたのは4学会に留まっており、課題を残した。
 さらに、④機関誌を年1回以上、定期に刊行しており、原著論文等が原則として年20編以上掲載されていること、との要件に関しては、規定を緩やかに適用したものの、3学会が要件を満たしていなかった。そのため、「2021年3月末までに整備し、再度更新手続きを行っていただきたい」との付帯意見が付けられた。
 なお、29年度の各種事業報告では、まず英文雑誌編集委員会が「本学会の英文機関紙をデータベース化したものがアメリカ国立医学図書館のデータベース(PMC)に収載された。これにより、本誌掲載論文の引用数増加が期待される」と説明。
 歯科学術用語委員会は「厚労省から協力要請のあったICD-11への改訂に向けた対応を日本口腔科学会の協力を得て進めている」と説明。歯科医療協議会からは「平成30年度の診療報酬改定において92件の医療技術評価提案書を提出し、40件の歯科医療技術が保険導入された」と解説。松村副会長の挨拶で閉会した。

後期高齢者交付金が1.2%増

 厚労省は「平成28年度後期高齢者医療制度の財政状況」などに関する速報値を集計。これによると、同年度の「後期高齢者交付金」は5兆9,456億円であり、前年度より680億円、約1.2%の増加。「国庫支出金」も4兆8,234億円、約1.2%(592億円)の増加となり、国税や健保組合などの各保険者の負担額は更に重くなった。
 「都道府県の支出金」も1兆2,104億円、同3.7%(434億円)の増加、「市町村支出金」も1兆1,532億円、同3.4%(378億円)の増加となっており、地方税の投入額も増えた。
 もっとも、前年度対比の増減率をみると、「保険料」が約5.7%(608億円)増加して1兆1,300億円となり、主要項目では最も高い伸び率となった。平成28年度末時点での被保険者数は1,678万人、前年度末対比で3.3%(54万人)ほど増加しているため、1人当たりの保険料負担額は減少しているが、「後期高齢者の負担感は依然として重いのではないか」との指摘も上がっている。
 なお、これらの単年度収入合計は14兆6,990億円、同2.0%(2,812億円)の増加。一方、単年度支出合計は14兆6,253億円、同0.9%(1,349億円)の増加となったため、単年度収支差額は737億円の黒字。ここから国庫支出金精算額などを差し引いた収支差引額は329億円の黒字を計上した。

合格者は798名(歯科技工士国家試験)

 厚労省は平成31年の歯科技工士国家試験の合格者を発表した。今回は839名が受験。このうち、学説試験(80点満点)で48点以上、実地試験(90点満点)で54点以上をとった798名(95.1%)が合格した。
 歯科技工士学校・養成施設の定員割れが顕著になるなど、この職業を希望する学生数が年々減少。これに伴い、国試の合格者数も著しく落ち込んでおり、二年前には1千人を下回った。そして、去年は受験者数も1千人を割り込み、「歯科技工士を希望する人も1千人未満(合格者数も当然それ以下)」。今年は更に落ち込んでおり、減少傾向に歯止めがかからなかった。

6,934名が合格(歯科衛生士国家試験)

 厚労省は30年度の歯科衛生士国家試験の合格者を発表。今回は7,207人が受験し、このうち筆記試験(218点満点)で131点以上を獲得した6,934人(96.2%)が合格した。
 口腔保健活動の重要性が浸透するのに伴い、歯科衛生士の活躍の場が広がっており、需要が高まっているのだが、希望者数が伸び悩んでいるため、合格者数は7千人弱にとどまった。合格率自体は概ね従来通り。

対GDP保健医療支出は若干上位(日医総研)

 日医総研は「医療関連データの国際比較」に関する分析結果を取りまとめた。日本の保険医療支出が諸外国の中でどのような位置づけにあるのかを研究したものであり、まず「各国ごとに医療制度が異なるため、国際比較は単純に行えるものではない」と断ったうえで、「日本の対GDP保健医療支出はOECD加盟国の中では上位ではあるが、アメリカを除くG7各国とはそれほど乖離した水準ではない」と指摘した。
 国家財政の悪化を背景として、財務当局等からは医療費削減論が継続して持ち上がっているが、日本の医療費は概ねG7諸国並みということであり、現状の医療費水準の確保が求められる状況が示唆された。
 また、医療関係職種の従事者数を諸外国と比較したところ、「薬剤師数はOECD加盟国の中で最も多い」と説明。調剤医療費が右肩上がりで伸びているため、将来予測が難しい面はあるものの、今後の薬学部新設を判断する際に参考となる分析となった。

31年度の専門職大学申請

 文科省は、平成31年度開設予定の大学等の申請状況を集計。医療領域の主な学校としては、まず学校法人日本教育財団が東京・新宿区で設置する「東京医療福祉専門職大学」。新たなカテゴリーである専門職大学として、医療福祉学部(定員660人)と看護保健学部(同220人)を申請。このうち医療福祉学部・生命医療学科には、①口腔歯科Ⅰ、②同Ⅱ、③救急救命、④臨床工学Ⅰ、⑤同Ⅱの5コース(いずれも40人)が設けられる予定。
 同財団は、愛知県名古屋市にも「名古屋医療福祉専門職大学」を設置し、生命医療学科において口腔歯科Ⅰ(40人)、同Ⅱ(40人)などを予定。大阪市では「大阪医療福祉専門職大学」を届け出た。
 この他、学校法人小関学院は「東都学院大学(東京都目黒区)」において保健医療学部・理学療法学科(80人)。学校法人敬心学園は、「東京専門職大学(東京都江東区)」で医療福祉学部(合計280人)。学校法人福岡医療学院は、「福岡専門職大学(福岡市)」で保健医療学部(計360人)。仁多学園は「島根県保健福祉専門職大学(島根県仁多郡奥出雲町)」で保健科学部(70人)。本山学園は「岡山医療専門職大学(岡山市)」で健康科学部(119人)。高知学園は「高知リハビリテーション専門職大学(高知県土佐市)」で150人をそれぞれ申請した。
 また、専門職短期大学のカテゴリーでは、学校法人染葉学園の「日本歯科専門職短期大学」の歯科衛生学科(昼間部、夜間部それぞれ40人)の申請が為された。

多職種連携の実状報告(日衛)

 日本歯科衛生士会は、本年度の「歯科衛生推進フォーラム」を開き、各県歯科衛生士会の会長や担当役員が効果的な地域歯科衛生活動を実践すべく議論を深めた。病院や診療所のみならず、介護施設や在宅など幅広い場で口腔衛生活動を行っていく必要があるが、同時に様々な課題も浮き彫りになっており、地域での厳しい実態とともに、これを乗り越えて多職種連携が進められている実状が報告された。
 今回のフォーラムでは、まず厚労省の田口・歯科保健課長が「歯科保健を取り巻く状況」について講演。今後の医療政策を考える際には「人口減少社会にどう取組むのかが重要となる」と指摘した。
 日本の人口は現状1億2千万人台だが、2060年には8,600万人程度まで減少すると推計。しかし、80歳以上は増加傾向であり、例えば90歳以上(現状は約172万人)は600万人弱になると見込まれている。
 すなわち、総人口は減少するが、80歳以上の人口は増え続けるということであり、「この点を踏まえて歯科医療政策も立案、実施していかねばならない」と語った。
 また、患者・国民の口腔内の状況が変化している現状も解説。①(平成元年当時は4本以上もあった)12歳児の平均DMF歯数が直近調査では1本を切っている、②3歳児で「う歯がない人の割合」も80%を超えている、③この35年間に高齢者(65歳以上)で歯科治療を受けている人の比率は約4倍に増加したことなどを踏まえたうえで、「歯科保健医療のパラダイムシフトに対応して諸施策を進めていく」と要旨まとめた。
 札幌市保健福祉局の秋野憲一・歯科保健担当部長は、今次介護報酬改定などを説明した上で、「介護の現場において、看護師や介護職員等よりも一段上の口腔衛生管理を歯科衛生士が行っていくことが重要だ」と指摘。
 長崎リハビリテーション病院に勤務する大石佳奈氏(歯科衛生士)は、「(入院患者などに対して)歯科衛生士だけで出来ることは限られており、多職種が協同して対応していくことが必要だ」と発言。
 京都市歯科医師会の南口腔ケアセンターに所属している岸田文枝氏は、訪問口腔ケア等を実施していく中での様々な困難を指摘。「当初は、医師や看護師に口腔ケアの重要性を認識してもらうことが大変だった」、「そのような中、消化器外科の先生が『胃瘻増設前に口腔ケアを行った患者については予後が相対的に良い』との効果を示され、他病棟からも歯科領域の依頼が増えていった」と要旨解説した。

歯科医業経営調査(日歯総研)

 日本歯科総合研究機構などは、「歯科医業経営実態調査(個人立・法人立)」の結果を集計した。これによると、平成27年度の個人立の平均保険収入(患者負担分含む)は約3,620万4千円、その他の診療収入は589万4千円、その他の医業収入は75万円、そして介護収入(居宅療養管理指導料など)は21万3千円。一方、医業・介護費用の合計は2,902万1千円であり、収支差額は1,327万円だった。
 また、診療所経営をめぐる状況を昨年と比較したところ、患者数に関しては「増加している」が13.6%、「変わらない」が32.9%、「減少している」が51.7%」であり、半数以上の個人立診療所が患者減に直面してる状況が示された。
 歯科衛生士の採用に関しては、「容易になった」が0.2%、「変わらない」が35.2%、「困難になった」が47.0%、無回答が17.5%。以前から就業環境の拡大等を背景に衛生士不足が顕著だったが、今回調査では、この厳しさがさらに増している実態が示唆された。

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