自分の歯で特段の支障もなく咀嚼機能が維持できているときは「歯科の重要性」に気づきにくい。しかし、ひとたび残存歯数が少なくなり、義歯等の補綴物を装着する段階になると、「しっかり歯科受診しておけばよかった」、「口腔機能の重要性を実感した」などの声が頻繁に聞かれるようになる。
生涯を通じた健康づくり対策として、切れ目のない歯科保健対策が肝要となるが、その柱のひとつに地域歯科保健対策を上げることが出来る。
日学歯は、学齢期の口腔内状況について「二極化の傾向がある」と指摘。齲蝕本数が非常に多い子供へのサポートも進めていき、児童生徒全体の口腔内の改善を目指していく方針を強調した。
マクロベースでは、12歳児のDMF歯数の平均値が1本を下回るなど、むし歯の罹患状況は着実に改善している。しかし、ごく一部ではあるが、齲蝕本数が非常に多いケースも交じっているため、「今後は100人の子供のうち95人程度のDMFTが良好だからよしとするのではなく、残りの5人、とりわけ口腔内が劣悪な1人までも含めて対策を講じるべき」との意見が上がっている。
こうした状況を踏まえ、日学歯としても対策が必要だとの認識を示したものであり、「歯科検診で(齲蝕本数が多いなど)大きな課題が見つかった子供に対し、歯科治療の必要性などを所見欄に詳しく記載し、保護者や学校関係者に周知していきたい」、「我々としても、学校歯科医の基礎研修や更新研修を通じて情報発信していきたい」と解説した。
東京都歯科医師会は新執行部発足に伴う記者会見を開き、今後の会務執行の基本方針などを説明した。
非常に幅広い事業を行っているため、報告も多岐にわたったが、山崎一男会長は「(都歯の)歯科衛生士学校の募集を停止しており、2年後には在校生がいなくなる」、「今後2年の間に衛生士学校をどうするのか決めていきたい」と発言。今執行部の重要課題として位置付けていく立場を示した。
なお、この対応が難しい背景には、衛生士学校への入学を希望する者が少なくなっている点だけでなく、各歯科医院で衛生士を確保しにくい現状が作用している。そのため、免許を有しているが現在離職中の歯科衛生士の復職支援に取り組む姿勢を強調。
担当の下重理事は「(子育てが一段落した人や他業界で働いている歯科衛生士を対象とした)研修会を本年度は3回行い、復職支援を重視していく」と発言。さらに、離職防止の対策も重視していく方針。
厚労省・厚生科学審議会の「歯科口腔保健の推進に関する専門委員会」は、中間評価報告書において8020達成率の目標値を引き上げるなど、更なる高い目標を目指していく方針を確認した。
現行の目標値は「60歳で24歯以上の自分の歯を有する者の割合を平成34年時点で70%とする」となっているが、この達成率を10ポイント引き上げて80%。同様に、80歳で20本以上の歯を有する者の割合を60%(現行50%)に引き上げる。多くの国民が歯・口腔の重要性を認識し、必要な歯科治療や口腔ケアを歯科医師や医療関係者、行政当局などと連携して行ってきたことにより、当初予測よりも改善のペースが早かったため、実態に即して対策を強化する。
今回の専門委員会では、まず初めに同省歯科保健課が中間評価報告書(案)を提示。これに基づいて議論が交わされた。このうち、6024と8020の達成者の割合を上述のように引き上げることに関しては、特段の反対なく合意。
「全ての都道府県において、3歳児でう蝕がない者の割合を80%以上にする」との目標設定に関しては、平成27年時点で26県に留まっているため、自治体当局には「厳しすぎるのではないか」との見方もあるが、「社会環境の整備という観点からみて、全県での達成を目指すことには意味がある」との指摘があり、全県で達成を目指すことになった。
同様に、「47都道府県全てで12歳児の一人平均う歯数を1.0歯未満にする」との新たな目標案についても、「(現状では28県に留まっているが)全県が目標に向かって頑張っていくことは良い」との意見があり、議論の末に決定。
「中学・高校生における歯肉に炎症所見を有する者の割合を20%にする」との目標に関しては、今後も引き続き慎重な評価が必要だとし、現行の目標を維持することで落ち着いた。
成人期では、既に指摘されている通り、「健診の効率化等の工夫を図りつつ、定期的な歯科健診が普及するような取組みが必要」と指摘するとともに、禁煙対策の推進の視点も含めて歯周病予防対策を進めることになった。
8020推進財団は評議員会を開き、平成30年度も引き続き8020健康長寿社会を目指した住民参加型の運動を展開する方針を確認した。また、本年度は8020運動が発足して30年目の節目に当たるため、対外PR活動の一環として歯科医療をテーマとした映画を製作(本年末公開予定)。堀理事長は「口腔健康管理の重要性を周知するとともに、歯科衛生士や技工士の職業をアピールしていきたいと考えているので、ご支援を賜りたい」と発言。各評議員に協力を求めた。
平成29年度の会務執行状況に関しては、①高齢者の口腔機能向上事業(オーラルフレイルの予防)、②簡易唾液検査による歯周病検査の普及啓発事業、③障害者歯科受診支援事業、④保護者の喫煙による子供のう蝕への影響とその予防対策、など36の事業に対して助成金を交付。
また、公募研究事業では、①口腔内環境と睡眠との関連性に関する大規模コホート研究、②介護予防・自立支援を加速させる口腔ケア支援ツールの開発、③歯周病と認知症の関連に関する研究、など16題について助成した事が報告された。
30年度の事業に関しては、概ね前年度を踏襲し、口腔保健に関する国内外の情報収集や分析、8020運動の普及啓発などを行うが、さらに、10年前から検討されてきた「永久歯の抜歯原因調査」にも着手する。
特定健診の実施状況は各保険者によって大きく異なっている。例えば、共済組合の場合は実施率が70%を超える組合が約8割、単一の健保組合でも同70%を超える組合が7割以上を占めているが、総合の健保組合では約5割、市町村国保に至っては1%にも満たないのが実状である。
言い換えると、相対的に規模が大きい企業の保険組合が健診事業も充実しており、従業員の健康確保対策に力を注いでいるが、相対的に被保険者の収入等が少なめな市町村国保等では健診対策も十分に行われていない傾向がみられる。
こうした状況の下、政府は特定健診や特定保健指導の実施率を勘案した保険者インセンティブ対策を進めている。健診によってメタボリックシンドローム該当者や予備群を減少していくことは、増え続ける医療費の適正化に繋がるだけでなく、被保険者の健康寿命の延伸にも一定の効果を上げられると期待されているため、この強化策に賛同する意見も多い。その一方、「メタボ対策に関する被保険者の意識が十分に高まっていない現状で導入することは如何なものか」との指摘もあり、バランスの採れた制度設計が求められている。