健康長寿社会を実現するため、多くの関係者が日夜努力をしている。疾病を早期発見し、重症化を防ぐため、医師・歯科医師が検診や治療を行うのみならず、衆参両院は必要な法整備を進め、厚労省や地方自治体が具体的な施策を実施している。
大阪大学院・予防歯科学教室の天野敦雄教授は、日歯主催の8020運動30周年記念シンポジウムで講演し、バイオフィルム感染症の病因論を概説した。主な内容は次の通り(敬称略)。
21世紀の歯科は、「削る・詰める・抜く」という治療から、(抜歯リスクを)防ぎ守るという「健口管理」が重要となる。
これを実現するにはペリオ対策が不可欠だが、全ての患者に同じ歯周病治療をすることは望ましくない。症例(バイオフィルムの病原性)に合わせて治療を変えていくことを推進したい。
歯周病の原因は、プラークと歯周組織の均衡が崩壊することにある。歯周組織が弱くなるとともに、高病原性のバイオフィルムが増殖し、悪化していく。
歯磨きを適切に行わないと歯周病の発症リスクが高まるが、これはプラークの高病原化が原因となる。すなわち、口腔内に存在する常在菌から排泄される物質がオルニチンの栄養となってプトレッシンが増え、これによって(やっかいな歯周病菌である)Pジンジバリスが生成される訳だ。
さらに、歯周ポケット内に潰瘍面が形成され出血が始まる。歯周病菌の必須栄養素は鉄なのだが、赤血球ヘモグロビンにはヘミン鉄が含まれているため、この鉄分を栄養にして歯周病菌は増殖する。
こうした状態を発症しないよう、定期プロフェッショナルケアが重要である。
同志社大学・アンチエイジングリサーチセンターの米井嘉一教授は、日歯主催の8020運動30周年記念シンポで「歯科・口腔領域から健康増進を考える」をテーマに講演した。主な内容は次の通り(敬称略)。
百歳以上まで生きている人にはどのような特徴があるのか。アメリカ等で大規模な調査が行われており、日本でも慶應義塾大学の広瀬信義博士(老年内科学)が研究している。
ここで明らかになったことは、「均質な老化」が重要だということである。百寿者は心も身体も均一に老化しており、骨や血管、神経などのバランスが良い。言い換えると、老化の弱点がない。
例えば、骨や筋肉、神経がまだ弱っていない状態のとき、血管が弱くなったとしよう。その場合、弱くなった血管が足を引っ張り、これに伴って筋や骨、神経、ホルモン年齢なども弱くなり、健康長寿から脱落してしまうのである。
このような状態を食い止めるには、通常の健康診断に加え、アンチエイジングドック、すなわち骨や筋、血管などを分析・評価し、治療に繋げていくこと重要だ。
これは歯科に於いても言える。咬合力や摂食嚥下能力、唾液量、歯周病の進行度合い、現在歯数を調べ、その弱点を底上げしたり、悪化を食い止めることにより、病的老化を緩和することに繋がる。
身体の機能年齢が弱くなると、口腔機能年齢も弱くなる。口腔機能年齢が弱くなっても、身体機能年齢が弱くなる。そしてこの連鎖に伴い、老化危険因子が高まる。
健康長寿を実現するのは、医科と歯科が連携し、身体機能と口腔機能の両面から弱点を見つける。そして、この弱点を放置せず、老化の危険因子を正していくことが重要だ。
神奈川県立保健福祉大学の大谷泰夫・理事長は、日歯主催の8020運動30周年記念シンポで講演し、新しい健康観である「未病」と健康リテラシーについて解説した。骨子は次の通り(敬称略)。
これまでは、「健康」であるか、「病気」であるかの2分法の健康観だった。しかし、これからは二者択一ではなく、「未病」という新たな領域を意識した健康観が求められる。
例えば、いま生まれた人(0歳児)は、その半分が100歳まで生きるのではないかと言われている。もちろん、その間、ずっと健康でいられる訳ではない。病気になったとしても、回復して未病となる。この病気と未病を行ったり来たりし、長寿社会が実現する。
この未病を改善するには、①食(栄養やオーラルフレイル)、②運動(身体活動など)、③社会参加(人との交流)の三つの取り組みが重要だ。
いままでの発想は、行政が医療に関する制度を決め、医療の専門家が治療やケアなどを提供し、個々人がそれを受けるという受動的な行動パターンであった。
しかし、未病という新しい政策潮流では、まず「自分はどういう人生を歩みたいのか」を自分自身で決め、これを実現するため、医療専門家が知識を提供し、国・自治体もこれを支援することになる。
これを実現するには、「病気を治す」という呪縛からの解放、健全な健康関連産業の形成とともに、個々人の健康リテラシーの底上げが必要になると考えている。
日学歯のスポーツ外傷防止教育普及委(戸田芳雄委員長)は、今後の同外傷防止教育の普及を目指し、日本高等学校野球連盟(高野連)などと連携した調査結果を取りまとめた。
各種学校に於ける傷害事故は多岐にわたるが、歯・口腔領域は特に多く、例えば高校では全傷害事故の約4割を占めている。そのため、マウスガードの適正使用を推進する目的で実施されたものであり、同報告書の要旨は次の通り。
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歯・口腔の外傷事故が多発している主な競技である「野球」について、幾つかの高校の協力を得て実態調査を行った。
その結果、野球部員等に「スポーツするときには怪我の防止について仲間で話し合うか」などを尋ねたところ、当初は低い認識だったが、マウスガードによる安全教育を推進するにつれ、スポーツ安全に関する意識が高まった。
対象生徒(野球部員)に対し、安全教育を実施した上で、市販の既製品とカスタムメイドの二種のマウスガードを順次提供し、その着用態度、効果の理解度、使用上の不満について調査した。
その結果、既製品よりもカスタムメイドの方が着用態度は良好で、不満も少ない傾向が見られた。カスタムメイドについては、一定期間使用後に個別調整を加えたところ、着用率はさらに向上した。
しかしながら、翌年フォローアップ時には着用率が低下する傾向が認められた。着用の習慣化には、本人の動機付けに加え、指導者の声掛けや保護者への働きかけが重要と思われる。
日本歯科医学会は、評議員会を開き、平成30年度の事業計画や会計収支予算など全議案を賛成多数で可決。
また、同会長賞の授賞式も行われ、宮﨑秀夫・新潟大学院教授(日本口腔衛生学会推薦)、和泉雄一・東医歯大院教授(日本歯周病学会)、森戸光彦・鶴見大名誉教授(日本老年歯科医学会)、俣木志朗・東医歯大院教授(日本歯科医学教育学会)、田中昭男・大歯大副学長、林善彦・長崎大名誉教授(日本歯科保存学会)、緒方克也・福岡県歯会員(日本障害者歯科学会)の7氏が受賞した。
平成30年度の各種事業などを審議するために行われた同評議員会は、まず住友会長が「各評議員の御理解を得ながら、より時代に合った学会にしていきたい」と挨拶。
続いて日歯の柳川副会長が「各学会が作成した医療技術評価の提案が(今次改定で)大いに役立った」と感謝の意を示した上で、「産学官民を上げて魅力ある歯科界づくりに取り組みたい」と語った。
その後、議案審議が行われたが、このうち「専門分科会の助成金配分基準の見直し」では、会員数に応じた配分係数(現行は4区分)を16に細分化する方針が示され、一部から質問が上がったものの、挙手多数により可決確定した。
事業計画は、概ね前年度を踏襲しているが、「歯科学術用語集の改訂」に関しては、準備が整ってきたため、「実際に発行を目指す」となった。第24回日歯学会学術大会(総会)に関しても、具体的な検討に入る事が確認され、井上副会長の挨拶で閉会した。
厚労省は「平成30年4月末時点の医療施設動態調査」を集計。これによると、同時点の医療施設総数は17万9,085件であり、前年同月より29件の微増となった。
主な内訳は、医科病院が8,384件(同51件の減少)、医科・有床診療所が7,095件(331件の減少)、医科・無床は9万4,864件(581件の増加)、歯科診療所が6万8,742件(170件の減少)。歯科は長年にわたり右肩上がりで伸び続けていたが、最近は若干の変化の兆しが見られる。医科病院や有床、無床診療所に関しては、従来通りの傾向。
医科の病床数は、病院が155万3,015床(同10万6,641床の減少)、有床診療所が9万6,856床(4,015床の減)。医療と介護のすみ分けや入院日数の短縮化などを背景として、引き続き減少した。
また、歯科診療所を運営主体別に見ると、個人立は5万3,946件(661件の減少)、医療法人は1万4,190件(493件の増加)、その他(市町村立など)は606件(3件の減少)。従来通り、個人から法人に移行するケースが目立ち、特に注目すべき変化はなかった。
日歯執行部は記者会見を開き、国際戦略の一環としてアジア地区での歯科貢献に取り組む方針を示した。アジア各国からの要望に基づいて対応策を検討。堀会長は「ベトナムに関しては、学校等で用いる口腔衛生関連の書籍を提供しており、さらに高齢者歯科や補綴などの講師を日本から派遣することについても検討してきたい」と語った。
ミャンマーに関しては、健診等の具体的な要請を受け、口腔衛生の支援について準備を進めていく方針。このほか、韓国とも覚書を締結する意向であり、「更なる国際貢献について、関係者とも相談しながら対応していきたい」と解説した。
また、今年は8020運動の30周年となるため、このコンセプトを総括するとともに、「口腔管理の重要性を周知していく」、「オーラルフレイルの考え方を加えた事業展開を模索する」と述べた。
歯科専門医制度に関しては、各学界が独自に専門医を設けている一方、患者・国民からは「それぞれの専門医が歯科医学的にどのような能力を担保しているのか分かりにくい(どの認定資格を信用して受診すればよいのか不透明)」との声も上がっている。
そのため、執行部は「歯科専門医制度の在り方について、作業部会で最終報告書を作成中だが、この制度設計はこれから決めることだ」とし、今後、第三者機構において議論を行う方針を示した。
厚労省は平成28年12月末時点での医師・歯科医師・薬剤師調査の集計結果を取りまとめた。これによると、歯科医師数は10万4,533人であり、前回調査(2年前)よりも561人(0.5%)増加した。昭和40年以降の歯科大学数の増加等を背景として右肩上がりで伸び続けているが、その増加率は鈍化しており、ついに1%を切った。
10年前調査(平成18年)と比較すると、7,335人(7.5%)の増加。20年前調査対比では1万9,015人(22.2%)の増。30年前(昭和61年)との比較では3万7,736人(56.5%)の増加。言い換えると、昭和50年代以降、急速に増加し続けてきた歯科医師数は、平成14年頃から伸び率が鈍化している。
また、平成28年12月末時点での医師数は31万9,480人であり、2年前よりも8,275人(2.7%)増加。以前は歯科医師よりも伸び率が低かったが、平成14年以降は歯科医師よりも高い増加率が続いている。
薬剤師数は、院外処方を行う調剤薬局の需要増などを背景として急激に伸び続けており、今回調査でも30万1,323人、同1万3,172人(4.6%)の増加率を計上した。
歯科の状況をさらに細かく見ると、男性歯科医師は8万189人であり、前回調査よりも355人(0.4%)の減少。一方、女性は2万4,344人、同916人(3.9%)の増加。特に、60歳代と40歳代において女性の増加数が顕著に出現した。
なお、29歳以下の歯科医師数は、男性が3,554人であり、同387人(9.8%)の減少。女性は2,860人であり、同181人(6.0%)の減。この背景には、歯学部の定員削減策による影響のほか、「歯科医師国家試験の合格率低下により、歯科医師免許を取得する時点の年齢と、その人数が減少しているため」との見方が有力。
日本歯科医学会のタイムスタディワーキンググループ(小林隆太郎・座長)は、平成28年度の「歯科診療行為のタイムスタディ調査」の結果を取りまとめた。これによると、診療に要する時間1時間あたりの診療報酬をⅠ群(約3,000円以下)からⅦ群(18,000円)までの7段階に分けたところ、全体の36.1%に当たる280項目が「Ⅰ群」、同18.8%(146項目)が「Ⅱ群」、同12.3%が「Ⅲ群」であり、約3分の2にあたる項目が評価の低いカテゴリーに属していることが明らかとなった。
診療領域別でみると、義歯は86.2%であり、極めて不採算。歯科麻酔も84.6%、保存修復は79.0%、クラウンブリッジは76.0%、歯周治療は72.7%、在宅歯科は71.1%だった。一方、口外は41.0%、歯科矯正は41.2%であり、こちらも不十分ではあるが、相対的には若干堅調な点数水準となった。