私の蒸気エンジン

 少年時代に大田区蒲田の模型屋で蒸気エンジン工作の魅力を感じ、経済的な余裕と時間的な余裕が出来た定年を機会に工作を開始し、5年程経過しました。 蒸気エンジンにはアカデミックな知識も参考資料も持ち合わせていませんが、蒸気エンジンを自作したいという当時の思いから、旋盤等の工作機械を購入、工作のワクワク感とドキドキ感を推進力にここまで来ました。 蒸気エンジン#10が完成したことで、これまで製作してた団塊工房風蒸気エンジンの構成を整理してみました。  

 首振りエンジンとも称され、構造的には給排気の特別なバルブ制御の仕掛けが無い単純な構成です。 給排気の為にシリンダーそのものがフレーム板上を揺動することで蒸気の弁機能を果たしますが、摺動面から漏れる蒸気ロスと機械的なロスが問題となります。 給排気制御が回転軸にリンクしているシリンダーが弁そのものとなる単純な構造であり、部品点数も少なく、調整も容易な為、エンジン工作の入門として適当と言えます。 なお、私は蒸気ロスと機械的ロスの方式的な限界から、固定シリンダー方式でピストンバルブを基本としてエンジン構成を展開しています。

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 ワットの蒸気機関として知られているビームエンジンです。 ビームエンジンでは垂直におかれたピストンと回転軸がビーム(梁)を介して接続されています。 ビームの先端は支点を中心とした円弧運動となる為、この円弧運動をピストンの直線運動に変換する「ワットの平行四辺形の運動機構」の実現が工作のポイントとなります。 平行四辺形機構実現には部品点数が多く、工作にも苦労しましたが私の作成したエンジンの中でも、#10エンジンとともに最大級の高トルクエンジンを実現出来ました。図11に平行四辺形の動きを示します。

蒸気エンジン#9の詳細はこちらをクリックしてください

 一般的なクランク機構ではピストンと直角の方向に生ずる機械損失を軽減する為にコンロッドが長く(クランク半径の4〜5倍)なる傾向があります。 この問題を抑えるリンク機構のひとつがスコッチヨーク機構です。動きは図10に示すように、クランクピンが回転に応じて、ヨークの中を左右にスライドしつつヨーク自身が上下運動することでエンジンの高さ方向の運動を抑えることが出来ます。工作面のポイントとしては、ヨークの上下軸とピストンの上下軸が一致する必要があり、ヨークのガイド軸とスリーブの遊びを考慮しますが、私の工作精度の問題からスムーズな動きが実現できず満足な結果が生れなかったことを付け加えておきます。

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・複式機関/単式機関(*複式機関については今後、試行予定)

  排気蒸気を他のシリンダーに給気蒸気として再利用する方式(複式機関)

1)蒸気機関方式

・複動式機関/単動式機関

  ピストンの下降時と上昇時に蒸気を供給する方式(複動式機関)

135mm
70mm
76mm
ボイラー一体型船外機 単気筒蒸気エンジン#5 ・・・ボートにそのまま実装

ワット平行四辺形機構

#7エンジンにこの部分を追加

 ビームエンジン#9でワットの平行四辺形リンク機構の効果を体感しました。 それではということで、一般的な蒸気エンジンである#7のエンジンヘッドにワットの平行四辺形のリンク機構を実装してコンパクトで高パワーなエンジンをめざしたものです。工作性に関してはコンパクト性にこだわってムリをして実装した為、平行四辺形の実装と調整に苦労しました。トルクに関しては予想通りの結果が得られ、これまで製作した蒸気エンジンの中でも最大級の性能を有しています

蒸気エンジン#10の詳細はこちらをクリックしてください。

ビーム

ワット平行四辺形機構 ビーム蒸気エンジン#9 ・・平行四辺形機構で高トルク

給気

バルブピストン
パワーピストン
T型クランク

ロスヨーク機構 蒸気エンジン#4 ・・・・ コンパクトな高性能エンジン

オシレーティングエンジン 蒸気エンジン#1 ・・・・ 自作エンジン事始め

・単気筒/複数気筒

 私の模型エンジンの設計にアカデミックな根拠はありませんが、Webで得られた情報と知識を基にあれこれ構造を考えています。これまで製作してきた#1〜#10までのエンジンでは性能にインパクトを与える下記要素を実装して、工作性とその効果を体感してきました。 これから蒸気エンジン工作を始める方への参考となるよう、実現してきたポイントを以下に整理します。

・平行四辺形機構方式
図16 小型アルコールボイラー #2 外観図
107mm

アルコールバーナ

    タンク
図15 ボイラー分離型船外機 蒸気エンジン#8 外観図
160mm
図13 蒸気エンジン#10に実装した平行四辺形機構
図11 平行四辺形機構の動き
190mm
10 スコッチヨーク構成と動きイメージ
クランクピン
図8 ロス機構における T型クランクの動き

図6 2気筒複動式蒸気エンジン#3 外観図

100mm
図5 単気筒複動式蒸気エンジン#7 外観図
80mm
図4 オシレーティングエンジン#1

これまで製作した作品

 通常クランクを使用した一般的な単気筒複動式エンジン2つを90度の位相差で接続した構造です。2気筒エンジンでは回転軸をクランクシャフトで接続する必要がありますが、回転軸の両端の芯を一致させるクランクシャフトの工作精度が最大のポイントとなります。また工作の点からは、クランクアームとピストン軸との接続調整やスムーズな回転調整は必須となる為、組立てと分解が容易に行える考慮が重要になります。2気筒エンジンでは単気筒エンジンの倍のパワーが得られることを期待しますが、消費する蒸気量も2倍必要であることから、ボイラーも十分な蒸気供給能力が前提となる為、期待したようなパワーは発揮できませんでした。

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2)シリンダー構成

支点A

150mm

ワット平行四辺形機構

排気

パワーピストン

スコッチヨーク機構 蒸気エンジン#6 ・・・・ コンパクな蒸気エンジン

下死点ピン位置
パワーピストンストローク

 通常クランクを使ったエンジンではピストン往復運動の直角方向にかかる力が問題となりますが、ロスヨーク機構はこの横方向にかかる力を取り除こうとするもので、機械的損失の軽減が最大課題であるスターリングエンジンでよく利用されている仕組です。 ロス機構は図8に示すように、T型クランクと動きを抑制するヨークアームから構成され、回転に応じてピストン軸が直線運動をするように作用します。また、 ロス機構ではパワーピストンはバルブピストンより位相が90度先行するので、通常クランク機構に必要な偏芯カムが不要となることも大きなメリットと言えます。T型クランクとヨークアームは複雑な動きで面倒な気がしますが、コンパクトで高性能エンジンにはお勧めのエンジン構成です。

蒸気エンジン#4の詳細はこちらをクリックしてください。
87mm
3)バルブ(弁)制御方式

 旋盤を扱うことからはじめたエンジン自作も台数を重ねてくると、トルクの向上、回転数の向上、コンパクト化へといろいろ欲が出てくるもので、いつの間にか図1〜図3に掲載するように作品数が増えてきました。 これまで、オシレーティングエンジン#1からワット平行四辺形機構実装エンジンの#10まで、少しでもパワーの出る構造を試行し、また、模型としての実用性より動きが面白そうな船外蒸気エンジンを作成してきました。5年程の期間でこれらの作品を作りあげたことは我ながらビックリです。工作機械に高額な投資となりましたが、工作を充分楽しんできた感があり、投資も十分回収したと思っています。

ボイラー分離型船外機 単気筒蒸気エンジン#8 ・・・RCボート船外エンジン

ピストンは直線運動動

ヨーク支点はビーム支柱に固定

・通常クランク方式
ロスヨーク機構方式
スコッチヨーク機構方式
・ビームエンジンと平行四辺形機構方式

 ピストンの直線運動と出力軸の回転運動の変換において、一般的なクランク機構ではシリンダーに垂直な方向に発生する摩擦力が往復運動の妨げとなる。この対策とコンパクト化の面から種々のリンク機構が考えられている。実装したリンク機構は下記。

・ボイラー性能とのバランスからシリンダー構成を考慮

・シリンダボア(内径)、ピストンストローク(工程) トルク、回転数に関連

117mm
ボイラー本体

 蒸気エンジン能力を左右する大きな要素はボイラーの蒸気供給能力です。 ボイラーとしては熱源とバーナ構造、熱を効率良く蒸気に変換出来るボイラー構造、蒸気安全バルブが主要要素となります。 また、蒸気は温度が低下すると水に戻り、蒸気圧力が低下する性質から実際の蒸気機関では発生蒸気を加熱(スーパーヒータ)してエンジンに供給していますが、私のエンジンではハンダ付けを使用している為に蒸気を200度以上に加熱するわけにはいきません。 ボイラー構造は小型ということでアルコールを燃料として、バーナは気化させて燃焼する形で、工作力の面から煙管式で下から炙る形となっています。 また、ボイラー本体は銀ロウ付けが必須となりますが、蒸気圧による変形対策と銀ロウ付けの熱による変形と作業が容易化を考慮して、厚めの真鍮パイプをボイラー本体の材料として使用しています。 図16に作成した小型アルコールボイラー#2を示しています。

最初に作成したボイラー#1の詳細はこちらをクリックしてください。

電気式ボイラーの詳細はこちらをクリックしてください。

小型アルコールボイラーの詳細はこちらをクリックしてください。

ボイラー構造はアルコール焚きの煙管式
117mm
135mm

 模型RCボートに搭載することを想定した蒸気エンジンです。 船外エンジン#5ではボイラーが一体の為、重心が高くなり、バランスをとる重りでボートの総重量が増加したことを問題と考え、#8ではボイラー別置きにして船外エンジンの重心を下げて総重量を軽減しようとするものです。 なお、今回のエンジン構成では通常のリンク機構を使用し、バルブ制御は蒸気機関車と同様なリンク機構を試してみました。 また、接続するボイラーはRCボート搭載を意識した後述の小型アルコール式ボイラー#2を接続することを想定しています(RCボートへの搭載は今後の予定)。
 

船外蒸気エンジン#8の詳細はこちらをクリックしてください。
小型アルコール式ボイラー#2の詳細はこちらをクリックしてください

図14 ボイラー一体型船外機 蒸気エンジン#5 外観図
134mm
ボイラー
バーナー

回転運動

クランクピン

支点B

近似直線運動

図12 平行四辺形機構を使用した蒸気エンジン#10 外観図
75mm

平行四辺形機構をコンパクトに実装 蒸気エンジン10 コンパクトで高トルク

クランクピン

クランクディスク

下死点位置

ヨーク支点

上死点位置

図10 平行四辺形機構を使用したビーム蒸気エンジン#9 外観図
115mm
クランクディスク
ヨークが上下方向にスライド 
ヨーク
ヨークが上下方向にスライド 
バルブ制御偏芯カム
図9 スコッチヨーク機構を使用した蒸気エンジン#6 外観図
66mm
97mm
バルブピストン
上死点ピン位置
ヨークアーム
ヨークアーム支点
バルブピストンストローク
図7 ロスヨーク機構 単気筒複動式蒸気エンジン#4 外観図
100mm
120mm
113mm

2気筒通常クランク機構 蒸気エンジン#3 ・・・高パワーを期待したエンジン

120mm 

 通常のクランク機構を使ったエンジンは市販模型エンジンの中でも一般的な構造です。通常クランクを使用しているエンジンではコンロッドとピストン軸の接続点に往復運動に対して直角方向に摩擦力(サイドスラスト)が生じることが問題となります。 また、直角方向にかかる力を軽減する為にはクランクとつながるコンロッドが長い方が有利となることから、どうしてもエンジンが高くなる傾向になります。この方式が模型エンジンとして一般的であることから、模型の実用面からこの摩擦力は大きな問題とならないということでしょう。構造も比較的シンプルで、工作性もそれほど難しくない為、蒸気エンジンを自作する方にお勧め構成と考えます。

蒸気エンジン#7の詳細はこちらをクリックしてください。

蒸気エンジン#2の詳細はこちらをクリックしてください。

一般的なクランク機構 蒸気エンジン#2、#7・・一般的な模型エンジン構造

57mm
(4)直線運動と回転運動の変換機構

・ピストンバルブ方式

  蒸気の給気と排気の制御にピストンを弁として使用。

・首振り式機関(オシレーティングエンジン)

  ピストンの往復運動とともにシリンダーも動き、給排気の弁制御が無い単純方式

蒸気エンジンの構成要素

図3. アルコールボイラー#1(左奥) 電気式ボイラー#2(右奥) 

   小型アルコールボイラー#2(中前)

図2. ボイラ一体型船外エンジン#5(右側)とボイラー分離型船外エンジン

   #8(左側)

図1. 蒸気エンジン単体#1〜#10

 模型RCボートに搭載することを想定した蒸気エンジンです。 エンジン本体にはボイラー、バーナ、燃料タンクまで実装する為に重心が高くなるという問題がある為、エンジン方式はパワーシリンダーとバルブシリンダーが水面に対して同じ面で構成出来、バルブ制御の偏芯カムが不要で部品点数が少なく重量的にも有利なことから、ロスヨーク機構エンジンを採用しました。 実際にボートに搭載した結果、想像した通り重心は高くなり、バランスをとる為の重りで結構な重量となり、船の走りとしては十分な結果は得られませんでした。 ただ、今回プロペラは直径30mmと小さめなものにしましたが、エンジンにはまだ余裕がある為、プロペラを一回り大きくすることで走りは改善できると考えています。

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ビーム先端が円弧運動

蒸気

小型蒸気エンジンの構成要素
135mm