シリンダー側穴Bが、吸気口Cに重なると蒸気が入り、ピストンを押し下げる

ベース側に蒸気排気口Aと吸気口Cが配置、シリンダー側には排気と吸気穴を兼ねるBがあり、首振り軸を中心に振れ、BはCあるいはAと重なる。

蒸気エンジン #1 構想

 ボイラー構造は、とりあえずは実装を考慮せず、工作の容易さを優先して、縦型の煙管式ボイラーとします。 煙管式は、ボイラーの胴内の水中に複数の管を配置し、管の中に、燃焼ガスを通して水を加熱し、蒸気を発生させる方式です。 バーナー部分についてはアルコールを燃料としますが、火力を高める為に、綿芯を使ったアルコールランプ方式ではなく、熱でアルコールを気化し、気化したアルコールを燃焼させる方式とします。 なお、下記のつくりについては、まったくの自己流で、最適な方式を示すものではありません。

 はじめての蒸気エンジン挑戦にあたって、目標をものづくりの過程を楽しむとともに、工作のノウハウの習得とを蒸気エンジンのつくりを知り、その改善に向けての課題を把握することとします。 なお、作ったエンジンを何に利用するかということについては、次のステップとし、まずは「ものづくり」体感することを目標の第一とします。 ということで、エンジン部分を置き換えることで、複雑なエンジンシステムに発展できることを念頭にシステムを構成、はじめての作品#1 は、構造的にシンプルな単気筒のオッシレーティングエンジンを選定しました。 作成するシステムの全体構成を図1に, エンジン構成を図2に、システム全体写真を図3に示します。

ピストンが最下点にくると、フライホイールの惰力でピストンは押し上げられ、穴Bは、排気口Aに重なり、蒸気が排出される。

 今回、蒸気エンジン工作はもとより、旋盤を使った金属工作も、初めての挑戦であった。工作にあたっては、蒸気エンジンに関する情報と知識はインターネットから、工作技術については 久島諦造著(誠文堂新光社)「ミニ旋盤を使いこなす本」から吸収することで、作品#1を完成することができた。 これから同様な金属工作を開始する方の参考として、初心者として感じたポイントを整理してみた。

ダイスホルダと旋盤のチャックを手で回すハンドルを冶具として作成。 図のように旋盤に設定し、ダイスホルダーを片手でつかみ、片手でモータ部分を回すことで、ねじの軸がずれることなく、ネジを切ることが出来る。 なお、冶具の作製の詳細は、久島諦造著(誠文堂新光社)「ミニ旋盤を使いこなす本」参照のこと。

ダイスホルダ

 今回の工作上の最大の難しさは、ボイラーとバーナ部分の銀ロウ付けが挙げられる。一般用の銀ロウの作業温度は745℃とされているが、当初、800〜1300℃の小型ガストーチを購入、実際作業してみると熱容量が全く足らないことが分かり、1800〜2000℃の強力パワートーチを購入した。 このトーチは炎が大きいことと熱容量がまだ不足の為、結果的には町工場の支援を受けることとなった。 銀ロウ付けは高温の為、材料(銅、真鍮)が変形したり溶けたりする為、テクニックを必要とし修行が必要である。 なお、トーチとしては、今回、購入しなかったが、3000℃を発する「小型酸素溶接バーナ」が良いかもしれない。 また、ボイラーとバーナ部分以外のエンジン等は「はんだ付け」としたが、初心者でも容易に扱うことが出来、強度的、機能的にも問題はなかった。

技術の難関は「銀ロウ付け」

性能アップの第一は工作精度の向上

 ものづくりを志向している者にとっては、性能アップ、機能アップを目標としたいところであるが、実際に工作をしてみて性能アップは「工作精度」の向上であることが、最重要であることをつくづく感した。 また、工作精度の向上は理論的な話ではなく、経験を積むしかないというも体感した。

工作のわくわく感は,ああでもないこうでもないと、アイデアを練る時から始まる

 素材から切り出すスクラッチビルドにおいて、仕組み、工作手順などアイデアを練る時間が最大のわくわくする時間である。 今回の工作において、ボイラーのバーナ部分の仕組みをどうするかが、ひとつのポイントとして挙げられる。当初はアルコールランプ方式(綿芯)で試作したが充分な火力が得られない為、熱でアルコールを気化させ燃焼させる方式を試行、結果として満足する火力が得えられた。今後はコンパクト化の工夫を考えている。

給油器の仕組みは、潤滑油が入った円筒をスチームパイプが貫いており、そのパイプには小さな穴があいている。 この穴から給油器内に漏れ出た蒸気は凝結して水になり、油より重い水は給油器の底に沈み油面を押し上げるので、潤滑油は小穴からスチームパイプに入り、シリンダーへと送られる。

燃焼トレー

「石油ストーブ}と同様な構造とした。タンクをトレーにセットすると、蓋があきアルコールがトレーに注がれる。 トレーはバーナー部とつながっており、アルコールの消費に応じ、常に一定量トレーに供給される。

mm銅パイプにスチールウールを詰め、毛細管現象でアルコールを吸い上げ、銅パイプ上部を加熱することでアルコールを気化させる。 点火後は炎で加熱され燃焼が継続する。

6ミリねじ切り(オネジ)に苦労

タンクと蓋の構造

「石油ストーブ」と同様な構造。タンクをトレーにセットすると、タンクの蓋があきアルコールがトレーに注がれる仕掛けとなっている。 トレーはバーナー部とつながっており、アルコールの消費量に応じ、常に一定量トレーに供給される仕組み。

燃焼状況

蒸気調整バルブ

給油器

給油器は、ピストンの潤滑と気密性を保つ為に、蒸気と潤滑油を混ぜる働きをする。 この給油器は、置換式給油器(ロスコー式)と呼ばれるもので構造は単純である(下記)。

シリンダー側に開けられた

蒸気(吸入/排気)口位置B

フライホイール

バーナ部

スチールウール

mm銅パイプ

78mm真鍮パイプの中に8mm銅パイプ9本を配置、銅パイプの内部を燃焼ガスが通る。上下は銅板で塞ぎ、上部には、安全弁、水注入口/蒸気口、圧力計のブッシングを銀ロウ付けする。

燃焼系

283mm

煙突

ボイラー部

ボイラ内部

潤滑油が混合された排気蒸気は、ドレーンタンクにてオイル分を取り除き、蒸気のみ煙突に導く。

ドレーンタンク

給油器を上部より見た(内部)

オッシレーティングエンジン

ベース

排気口Aと重なる

吸気口Cと重なる

吸気口

排気口

シリンダー

   首振り軸

シリンダー側穴位置

蒸気吸気口/排気口

オシレーティングエンジンのしくみ

気化したアルコールを燃焼することで、強力な火力が得られた。

熱により、燃焼トレイ内のアルコールが加熱され圧力が高まる為、気化したガスを逃す為のパイプを組み込み、バーナとしても利用。

mm銅パイプにスチールウールを詰め、毛細管現象でアルコールを吸い上げ、銅パイプ上部を加熱し、アルコールを気化する(構造図参照)。 このようなバーナが4本設置。 点火時はライター

でパイプ上部を加熱し点火する。 点火後は炎で加熱され燃焼が継続する。

バーナー部

ボイラー本体部(内部)

78mm真鍮パイプの中に8mm銅パイプ9本を配置、銅パイプの内部を燃焼ガスが通る。上下は銅板で塞ぎ、上部には、安全弁、水注入口/蒸気口、圧力計のブッシングを銀ロウ付けする。

ステンレス球をバ

ネで押しつける

燃焼口(0.8mmの穴をあける)

mm銅パイプ(リング状)

バーナー部

蒸気

ボイラー本体部

タンク蓋

アルコール

アルコールタンク

燃料注入口

蒸気

安全弁

燃料(アルコール)タンク

ボイラー部

蒸気調整弁

ドレーンタンク

圧力計

安全弁

給油器

105mm

98mm

単気筒

オッシレーティングエンジン

バーナ部

燃料タンク(アルコール)部
蒸気圧力計
図2 単気筒オッシレーティングエンジン

タンクをトレーからはずすとバネで蓋がしまり、トレーにセットすると蓋が開きアルコールが注がれる。

手回しハンドル

 ボイラーに接続する安全弁、注入口、蒸気口などのブッシングに6ミリのおねじを切る必要がある。 当初、単にダイスを使用すれば苦もなく、ねじを切ることが出来ると考えていた。 しかし、実際にやってみると初心者には難しく、ネジ山が傾くなど、まともなネジを切ることができなかった。 後で、Webで調べてたところ、ダイスホルダー等の冶具を作成し、旋盤を利用してねじを切る方法を知りなんとかクリヤすることが出来た。

図1 蒸気エンジンシステム 全体構成

工作を終えて 

エンジンに送出する蒸気量を調整する弁でエンジンの回転数を制御する。なお、蒸気量が抑えられ、ボイラの蒸気圧が上がると安全弁から蒸気は排出される。

フライホイール軸

シリンダー首振り軸

 オシレーティングエンジンは、首振りエンジンとも呼ばれ、ピストンの往復運動とともにシリンダーそのものも振れる構造です。 ピストンと一緒にシリンダーまで動く為、効率は悪いのですが構造が単純なことから、はじめてのエンジン作りには最適と考えました。

エンジン構造

蒸気の再加熱

煙管の熱を利用して蒸気を加熱。この程度では、スーパヒータの効果のほどは無いと思われるが、とりあえず組み込んでみた。

アルコール蒸気を逃がすパイプ

ボイラー構造
図3 蒸気エンジンシステム #1 全体写真

単気筒オッシレーティングエンジン

バーナー部
85mm