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vol 25: 続昔話天の子阿弥陀如来の国編
ここは、黄泉の国の中でもとても大勢の霊が集まる国。
阿弥陀如来の国です。
天の子は阿弥陀如来の国には入れず、
門の前で大勢の住人達や弟子に罵声をあびていました。
「天界と黄泉の国の行き来など許しがたい!
そんな申し出に何が隠されているのかっ!」
「天界が黄泉の国をのみ込む気だ!」
「そうだ!そうだ!」
「ち、違う!ちゃんとアタシの話を聞いて!
天界が間違ってた言うてるねん。
アタシは、黄泉の国に天界の思いを伝えに来たんや!
此処を通してぇや!」
どう話そうと、駄目だ駄目だと言われ話になりません。
住人達は冷やかな目で天の子を見、
天の子に聞こえるように侮辱した言葉を交わします。
「くっ・・・。」
天の子は悔しさと怒りが込み上げました。
ですが、歯を食い縛りぐっと耐えて感情を抑えるのに精一杯です。
このままではこの国の神に会えない。
そんな思いが切なく悲しく感じました。
「何事ですか?阿弥陀如来様の国人達。」
天の子の真後ろで声がしました。
天の子は後を振り返ると、肩までの黒髪の、
濃青の綺麗な着物を着た青年が立っています。
いつの間に現れたのか解らない為、天の子は驚きを隠せません。
それ程、自分は感情に押し流されていたのかとも思いました。
「これは蛇の国の御子息。良く御出で下さいました。」
「蛇の国?」
天の子は蛇の国の主、大神を思い出しました。
その男はゆっくりと歩き天の子の前に立ち、
「門の前なのに、これ程の人。如何なされたのです?」
すると国人達はそれぞれ声を上げます。
「チビ神様!そこにいるのは天の子!」
「我々の国に如何わしい事を申しに来たのです!」
男は薄い唇を開き国人達の物言いに、
「ほう。如何わしい事・・ですか。
それは誰が如何わしいとお決めになられたのでしょう?
阿弥陀様でしょうか?」
弟子達は慌て始めます。
「我々でございます!阿弥陀如来様にご決断いただく事ではございません。」
青年は天の子の小さな手を掴みました。
「この国の大神は阿弥陀如来様。ご決断をするのは神。」
「チビ神様っ!」
「何をなされるのですか!」
皆は驚きました。
そして自分の手を取り、皆に構わず門を歩く青年に天の子も驚いています。
「なりませぬ!」
弟子が止めようと駆け寄り、チビ神は天の子に言いました。
「飛ぶよ。」
天の子の手を離し腕を掴んで背中におぶった瞬間、
チビ神は灰色の大蛇に姿を変えて宙をうねり空気を這い、阿弥陀の居る、
社に向かいました。
空の飛べない弟子は走って社に向かうも、蛇の速さに追い付けません。
「お前・・・大神の蛇か?」
天の子は蛇の背中に跨り問い掛けます。
「大神は私の母。私はチビ神です。」
「チビ神。なんでこんな事。お前も罵声される。」
「・・・そうかもしれません。ですが、私は貴女の力になりたい。」
「大神に言われたん?」
「いいえ。私の想いです。」
山の麓まで来ると阿弥陀如来がいる庭に着き、床に腹をつけました。
天の子が背中から降りると蛇は再び青年に姿を変え、
床に両膝を着け奥に向かって頭を下げます。
「無礼をお許し下さい、阿弥陀如来。」
チビ神が頭を下げる方向から納衣を着た阿弥陀如来が姿を現わしました。
「良く来ました、チビ神よ。」
その声は何とも柔らかく、辛い事や、
怒りすらも流されてしまいそうな音色です。
阿弥陀はチビ神の前に立ち腰を曲げて腕に触れて立たせました。
「チビ神よ、その様な挨拶は無用ですよ?」
優しい笑みを見せ、チビ神に向かって両手を合わせました。
チビ神もまた両手を合わせました。
阿弥陀は隣にいる天の子に顔を向けると深く頭を下げました。
「天の子、良く来てくれましたね。皆の無礼を心から謝ります。
すみません。」
「え?・・・あ、うん。」
天の子は声に聞き惚れているも、謝られると恥ずかしくなり、
頬をポリポリと掻いて誤魔化しました。
「そうですか。良かった。」
そう言って阿弥陀は笑みを見せ二人の手を掴み中に進み、
沢山の花が咲く庭に連れて行きました。
その色とりどりの花に天の子は目を見開き、
「うわぁ~!すっごい!すっごーい!」
その場で足踏みをし今にも駆け回りそうです。
それを見た阿弥陀は二人の手を離しました。
すると天の子は庭に出て花畑を走り回ります。
「アハハハ!キレー!」
その顔は楽しみに満ち、動物たちも天の子の声に驚いて駆け回ります。
鹿やウサギ、孔雀に小鳥達、蝶々。
「何とも愉快な姫君ですね。チビ神。」
クスクスと、そのはしゃぎ様に阿弥陀は心を奪われました。
「釈迦如来の言っていた通り、素直なお人ではありませんか。」
チビ神は阿弥陀の言葉に嬉しくなり微笑みながら小さく頷きました。
しかし、駆け回った後を見た天の子は悲しくなりました。
花が踏まれて潰れてしまっているからです。
「・・・ごめんなさい。コレ、壊れてしもうた。」
自分や動物たちの駆け回った場所の花の様子にシュンと肩を下げました。
阿弥陀はチビ神に行きましょうと声をかけ、天の子に近付きます。
「心配無用ですよ。見なさい。」
阿弥陀が天の子に告げると、天の子は潰れた花を見つめました。
するとどうでしょう。
潰れた花が再び頭を持ち上げて活き活きと咲き始めます。
「な、なんやこれっ!」
「黄泉の国の生き物は不老不死。住人も同じです。
天界も同じでしょう?」
天界を思い浮かべます。
天界は白い塔が多く、花畑などはありません。
木々はあるも、考えたことのなかった天の子は顔をしかめました。
阿弥陀は花畑に腰を下ろしました。
天の子は言います。
「そんなとこ座ったら、また潰れるで?」
阿弥陀は答えます。
「そうです。だから花に申し訳ない気持ちと、
感謝の気持ちを持って座るのです。この者達が再び咲くのは、
座られても踏まれても、それを理解しているからです。
そうでないと、いくら不老不死であっても、感情の世界。
本人が咲く気にならなかったら枯れたままでいるでしょう。」
チビ神は阿弥陀の隣に腰を下ろしました。
天の子は阿弥陀の話を理解する間もなく、二人の前に腰を下ろしました。
「天の子よ。天界の話をしてくれませんか?」
阿弥陀の問いかけに天の子は、天界の状況や自分の思いを話ました。
「いろいろあったと思うし、今さらって思うとおもう。
せやけど、同じ事やってる神同士や。
力を合わせたら、もっと下界を救うこともできる。」
阿弥陀は隣のチビ神に問いかけました。
「チビ神はどう思います?」
チビ神は驚きました。自分に問われるとは思っていなかったからです。
「え!。あ、はい。私は・・・私は初め、皆の噂のみを信じていました。
天の子が言うとおり、今さらとも正直思いました。
ですが、大神と話をする天の子や・・・天の子を見ていると、
皆の噂が、ただの噂だと解り・・・す、すみません、上手く言えないです。」
チビ神は顔を真赤にして俯きました。
天の子は目を丸くしてチビ神を見つめます。
チビ神はますます赤くなり頭から湯気が出ています。
その湯気を天の子は目で追い、阿弥陀はクスクスと笑いました。
「チビ神の言いたいことは解りましたよ。
私も貴女の考えに賛成です。そして、そう望んでいました。
ずっと昔から。」
「ほ、ほんまに!」
天の子は満面の笑みを阿弥陀に向けました。
「ええ。そもそも、今の状態になったのは我ら人の行いのせいなのです。」
「どういう事でしょうか・・・それは。」
チビ神は問い掛けました。
天の子もチビ神と同じ気持ちです。
阿弥陀は笑みを見せ、
「天界の神は偉大なお方と言うことです。
我々以上に我々を大事に愛しておられる人なのです。」
天の子は阿弥陀には、父は誤解されていない事に安心しました。
チビ神は意外な言葉に胸の中が悶々としています。
「なぁ、阿弥陀?」
呼び捨てにする天の子にチビ神は慌てて天の子の手に触れ、
「阿弥陀様!呼び捨てはいけません。」
そんなチビ神に天の子は不思議そうに首を傾げました。
その光景に、阿弥陀は眉尻下げ寂しさを表します。
「チビ神、良いのです。ソナタも呼び捨てにして構わないのですよ?
私は皆と同じ。何ひとつ変わりはないのです。」
「その様な事を。貴方様は皆とは違います。
悟りを開かれた。その大慈悲のお心。皆とは違います。」
チビ神も眉尻下げて阿弥陀に言いました。
そんなやり取りに天の子はチビ神の着物の袖を掴み、くいくいと引き、
「なぁ、ダイジヒって、なん?」
問い掛けにチビ神は溜息を吐き天の子に顔を近づけ、
「大慈悲って言うのはね?言う・・のは・・・。」
大きな瞳でチビ神を見つめる天の子の顔にチビ神は説明を忘れ、
見惚れてしまい言葉が先に進みません。
「おやおや。」
阿弥陀は微笑ましく見つめます。
「はぁー!やっと辿り着いたぜっ!」
その声に3人は声のする方に顔を向けました。
そこには弥勒菩薩が息を切らして阿弥陀の弟子達と居ます。
「弥勒。」
「ハァハァ・・弥勒じゃねーよ。普段ヘタレのくせにやる時やりやがって。」
「弥勒菩薩。良く来ましたね。」
弥勒菩薩は阿弥陀に両手を合わせ目を閉じ挨拶をしました。
両膝を着くべきのところ、阿弥陀が嫌うのを知っているからです。
弟子達は両膝を着き、額を床に触れさせ手を合わせています。
「阿弥陀様、お声もかけず上がってしまい申し訳ございません。
国中が騒いでいます。」
天の子はシュンとなりました。
自分が居るせいで混乱を招いていると思うからです。
阿弥陀とチビ神や弥勒は、天の子の気持ちを察知しました。
阿弥陀は天の子の頭に手のひらを置き、
「天の子よ。本当にお会いしたかった。
この時をどれ程待っていたことか。ありがとう。」
その言葉に、弟子達は頭を上げ口を開きます。
「阿弥陀如来様!騙されてはなりませぬ!」
阿弥陀は細い目を開けて弟子を見つめました。
「騙す?」
「はい。その者の話などお聞きになってはなりませぬ!」
天の子はどの国でも浴びせられる言葉に涙が溢れ、
「アタシは騙してへんっ!」
チビ神は悲しくなり今にも天の子を抱きしめてやりたいと思いました。
弥勒はそんなチビ神を笑みを見せながら面白そうに見つめます。
阿弥陀は天の子の肩を抱き耳に顔を近づけ、
「泣いてはいけない。違うのであれば、この者達の前で泣いてはいけない。」
天の子はぐっと堪え下唇を噛みしめました。
「お前達は、何故、天の子が此処に来たか知っているのか?」
「勿論でございます。この国を混乱させる為。」
阿弥陀は再び目を閉じ顔を上げて、弟子に言いました。
「混乱を招いているのはお前達です。
この者は黄泉の国に大きな力を貸しに来られた。
極楽浄土の手助けをしに来られたのです。
全ての弟子を菩提樹の下に集めなさい。」
「は、はい!」
弟子達は血相を変えて立ち去りました。
阿弥陀は天の子の前に膝ま着き、頭を下げ、
「本当にすまない。」
「阿弥陀?」
「弟子の無礼や皆の無礼は私の責任。
お前を傷つけ幾度も悲しませてしまった。」
「阿弥陀様・・・」
チビ神は膝ま着く阿弥陀に胸が痛く苦しくなりました。
天の子は、阿弥陀の前で膝ま着き、阿弥陀の首に両手回し抱きしめ、
「ええんよ。」
阿弥陀は初めてされる行為に目を見開きました。
「阿弥陀は解ってくれてる。パパの事も。
それだけで、おなかいーっぱいや。」
天の子は父や兄にするように、阿弥陀の鼻先に小さな唇を触れさせました。
「なっ!!」
つい、弥勒とチビ神は驚きの声を上げます。
「悲しい時とかのおまじない。」
阿弥陀はニッコリ笑み立ち上がり、
「本当に貴女は自分よりも私を気遣って・・・。
ありがとう。」
「す、スゲー。」
弥勒は阿弥陀如来がこんなに素の姿を見せている事に、
天の子の偉大さを感じました。
「・・・」
チビ神は無言です。
天の子は俯き始め、小さな声で呟きました。
「なぁ・・・もう泣いてもかまへん?」
小さな胸に押し殺していた悲しみは、はち切れそうです。
阿弥陀は静かに言います。
「良く今まで堪えました。構いません。たくさん泣きなさい。」
「ふぇ・・・うわーん!」
天の子は大粒の涙を流しその場に崩れました。
黄泉の国の空は暗くなり雨が降ります。
天の子の泣き声をこだまするかのように、ザァザァと雨の音が響きました。
チビ神は、目の前で泣き崩れる天の子の前に膝ま着き、
天の子を覆うように抱きしめ、
「君は、君は一人じゃない。これからは私がずっといるから。」
そう言って見上げる天の子の鼻先に自分の唇を触れさせました。
「ぶっ!」
それを見た弥勒は、つい吹き出してしまい、
「弥勒菩薩よ、場を察するのも悟りの内ですよ?」
そう言って、まだ見た気な弥勒の腕を掴みズルズルと屋敷に連れて行き、
チビ神と天の子を二人だけにしました。
「チビ神・・・ずっと?」
「うん。私は君にこれからはついて行く。君だけに、
もうこんな思いはさせない。」
「ええ・・の?石投げられるかもしれんで?」
チビ神は笑みを見せました。
「構わないよ。君の分まで私が石をくらってあげる。
君は私が守る。」
「・・・うん!」
天の子は笑顔を見せてチビ神の首に両手を回して抱きつきました。
天の子の涙が止まると空は晴れ澄み渡っています。
天の子は暫くチビ神に抱きついたまま。
チビ神も天の子を抱きしめ続けました。
「チビ神がよく分からなくなってきたなぁ。
あいつ、男らしいのかヘタレなのか・・・。」
弥勒は椅子に座り悩んでいます。
阿弥陀は暖かいお茶を入れ、
「ふふ。彼は優しすぎる男です。ですが、
けして同情などではないでしょう。」
「恋は盲目・・・か。」
「羨ましいですか?
お前も、もしその様な人が出来た時には、無理に下界に降りなくてもよい。
人を救う以前に、自分が幸せを知らねば、人は救えませんからね。」
弥勒は自分は女よりも仕事ですからと言って、
出された茶を飲みつつも、若干羨ましい気持ちに駆られ頬を赤らめました。
此処は黄泉の国の小さな名のない国です。
此処を治めているのは、下界で成功した者が神として崇められ、
黄泉の国でも自分の国を作った神の国です。
その門の外で皆が罵声叫びながら騒いでいます。
その罵声を浴びているのが、
天の子と、チビ神でした。
「異国の神め!何しに来た!」
「一歩も中に入れさせんぞ!」
皆は小石を手に取り二人に向かって投げつけます。
天の子はチビ神の後で石を回避しています。
チビ神は両手で石を防ぎつつも、眉尻下げ、
「ちょ、隠れてるのずるいよ!」
「なに言うてんねん!アタシの分もくらう言うたやんかぁ~。」
「言ったけどさ、いてて。ちょっとは大丈夫?とかあるじゃないか~。」
「ん~・・・だいじょーぶ!」
天の子は笑顔で言い、チビ神は、
「もう!そういう事じゃない!」
呆れて、灰色の大蛇に姿を変えて天の子を背中に乗せ空に舞います。
「チビ神ぃ、はじめっからこうしたら良かったやん。」
「ハァ・・・ワガママなんだから君わ。」
「え?なんか言うた?」
「別に!」
「釈迦如来、本当に君が言っていた通りの子だった。」
「ハハハ、そうだろう?阿弥陀如来。」
「しかし、黄泉の国全体となると難しいかもしれません。」
「うむ。だが、悩んでいる間もない。二人が頑張っている。
我々も頑張らねば。」
「そうですね。私は他の如来様に会って来ます。」
「では私は皆を集め話をしましょう。」
こうして少なからずも、天の子には、
チビ神・阿弥陀如来・釈迦如来・弥勒菩薩・蛇の大神、
これだけの良き理解者と仲間が増えたのです。
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