『冷たい熱帯魚』をめぐって
映画通信」:(ケイケイさん)
ヤマ(管理人)


  ケイケイさんの掲示板にて
投稿日:投稿日:2011年 8月26日(金)08時12分
ヤマ(管理人)
 ケイケイさん、こんにちは。
 いやぁ、目次頁では、もはや最下段に来ちゃってるんですね。僕が観たのも既に一ヶ月前ですが(たは)、なかなか強烈な作品でした。

(ケイケイさん)
 もう観て半年なんですね〜。私も強烈だったので、結構まだ覚えています。

ヤマ(管理人)
 もっとも、先にアンチ・クライストを観ちゃったもんだから、唖然度では少々観劣りがしましたけどね(笑)。

(ケイケイさん)
 私はこっちのほうが先でした。『アンチ・クライスト』はそれほど唖然とはしなかったんですよ。トリアーも弱気になったものよの〜という感じで(笑)。

ヤマ(管理人)
 あれで、弱気ですか(笑)。
 ま、グレース(ドッグヴィル)のマシンガンと比べれば、ハサミは凶器として大人しいですな。また、大きな鉄輪の足枷よりも、研磨機は確かに小さかった(笑)。だけど、ドリルで穴を開けられて直接取り付けられた足枷は、めちゃ痛そうだったけど。

(ケイケイさん)
 何というか、女性が怖いという印象を受けたんですよ。
 一般的な「女って怖いね〜」じゃなくて、恐れみたいな感じ。私は“恐れ”でしたが、“女性嫌い”と感じた人も多かったみたい。

ヤマ(管理人)
 なるほど。弱気というのは、表現的な話ではなく、トリアー自身の心境なんですね。確かに、言うなれば、怯えてる感じはあったかも。園子温には、それはなさそうですね、なにせ“熱帯魚”に変えてるくらいですから(笑)。
 そうそう唖然度で言えば、つい最近観た『トスカーナの贋作』も相当なものでしたが、ケイケイさんはご覧になってないようですね。

(ケイケイさん)
 これ観たかったんですが、タイミングが合わず。ヤマさん、もう一つだったみたいですね。

ヤマ(管理人)
 呆れました(笑)。やっぱ辿り着いてもらわないと(あは)。

(ケイケイさん)
 お茶屋さんも、あかんみたいでしたね(笑)。
 はっきり二人は夫婦で、倦怠期脱出のゲームのつもりだったと書かれた感想も読みました。夫婦を演じている他人だけど、やっぱり謎という人が一番多いみたいですね。

ヤマ(管理人)
 息子との遣り取りがなければ、僕も夫婦間のプレイだと解するところですよ。
 っていうか、それ以外には、あんなふうに熱を入れる理由はない気がしますもん。少々の芝居っ気じゃ、適う問題じゃない気がします。


-------黒沢あすか、喜多嶋舞、そして神楽坂恵へのまなざし-------

ヤマ(管理人)
 さて『冷たい熱帯魚』。
 僕は、犬を熱帯魚に変えた脚色の素晴らしさに感心しましたが、ケイケイさんにおいては、何といっても黒沢あすか! という感じですね。

(ケイケイさん)
 そうです! 本当に感動しましたよ。これくらいやって、女優だよと。
 以前『人が人を〜』のお話をしている時、同じ過激な役をやっても、喜多嶋舞は、自分の人生を全てさらけ出して、黒沢あすかは、微塵も私生活を感じさせずとお話しましたが、そのあたり感じて下さいましたでしょうか?(^。^)。

ヤマ(管理人)
 確かにその対照は、くっきりしていましたね。
 人が人を愛することのどうしようもなさでは、名美が女優として別人格を演じることも作用してか、いずれの女性にも共通して描かれる過激な性描写に一貫している肉体の持ち主としての喜多嶋舞その人が強く意識される形になっていたために、観ている側として“名美”よりも“舞”を感じてしまうようなところがありましたが、黒沢あすかの演じた愛子には、そのような混濁がなく、いかに濃厚に過激に、筒井と交わろうとも“愛子”として映り、“あすか”を意識させる感じがなかったような気がしますねー。

(ケイケイさん)
 そうなんです、そうなんです。
 私はそこに本当に感動してね。自分をさらけ出すのも感動なんですが、痛々しさも付きまといますよね。その点、黒沢あすかのお芝居は、本当に単純に上手いなぁ〜と楽しめる。これぞプロだなと思いました。

ヤマ(管理人)
 痛々しさが伴っちゃ、同性としては少々いたたまれない気にもなりますよね。僕は、ひたすら圧倒され、その気合と迫力に打たれましたが。

(ケイケイさん)
 喜多嶋舞の場合は、いたたまれない想いを超えた、彼女の決意や気合を感じましたから、私も本当に居住い正して見させてもらいました。

ヤマ(管理人)
 あの映画の舞さんを居住い正して観た方は、そうそう多くはなく、男では皆無ではなかろうかと思いますが、流石はケイケイさんです(敬服)。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。殿方はやっぱり、エロ目的が多かったみたいですね(笑)。

ヤマ(管理人)
 ええ、まぁ、そりゃあ…(しおしお)。

(ケイケイさん)
 しおしおなさらずに(笑)。男の人は、いつまでも色気を捨てないほうがいいですよ。

ヤマ(管理人)
 性愛王どころか、性欲大魔神とまで言われちゃってますよ(笑)。

(ケイケイさん)
 いやいやいや、デイサービスのおばあちゃんたちが、この前猥談めいたお話してらしたんですよ。曰く「男60やったら、週一回はやらんとあかんわな」ですと(笑)。ヤマさんはまだ60よりずっとお若いので、性欲大魔神でも、全然無問題(笑)。

ヤマ(管理人)
 還暦も、でも「ずっと」とまでは言えない射程に来ちゃってる感じではありますが(たは)。だがしかし、心技体の活力は、昨日の今日、今日の明日の地続きにこそ有り!ですよ。って、なんのワザや?(笑)などということは、さておき、“愛子”を演じた黒沢あすかには、確かにそういう痛々しさはなかったですね。むしろ六月の蛇のときに、そっち方面のものがあったような気がします(あは)。

(ケイケイさん)
 やっぱりさらけ出すを超えて、初めて女優になれるもんなんですねぇ。

ヤマ(管理人)
 喜多嶋舞にも、その日が来るといいけど、引退しちゃったのかな?(惜)

(ケイケイさん)
 半引退状態みたいですね。再婚して子供を得て、所謂「女の幸せ」を満喫しているんなら、喜んであげてもいいのかも?

ヤマ(管理人)
 そうですね。
 また、ケイケイさんは、神楽坂恵の演じた妙子への眼差しも優しくて一見受け身のようですが、これが彼女たちには相手の愛を確かめる方法なのでしょう。とあって、瞠目。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。

ヤマ(管理人)
 江戸川乱歩の陰獣では情事の最中にこういう事口走る女は危ないと言ってたのにね〜(笑)。

(ケイケイさん)
 あはは、そうですね(笑)。妙子の「ぶって」には、哀しみがこもってますから。

ヤマ(管理人)
 確かに(笑)。危なさの分かれ目は、愉悦と哀しみにあるわけね。

(ケイケイさん)
 そうそう(笑)。

ヤマ(管理人)
 でも、それで言えば『アンチクライスト』の彼女にも、哀しみはあったんじゃありませんか?

(ケイケイさん)
 それはそうですね。でも「狂気」が混じると、また別の感覚かなぁ。

ヤマ(管理人)
 なるほどね。

(ケイケイさん)
 トリアーは狂気を優先させていたでしょう? 単純に哀しいほうが共感できるみたい。

ヤマ(管理人)
 哀しみは、言うなれば“受け止め”で、狂気は“逸脱”だからでしょうかね。逸脱せざるを得ないのは、受け止めた証ではあるのですが。

(ケイケイさん)
 そうなんですか?
 私は妻の悲しみや苦しみを、夫が受け止めきれなかったため、狂気に走ったと感じたんですが。

ヤマ(管理人)
 受け止めも逸脱も、僕は本人のものを前提に話していたのですが、夫との関係性のなかでの話として見てみると、『アンチクライスト』の夫も妙子の夫たる社本も、どちらも受け止めきれてなかったんじゃないですか?

(ケイケイさん)
 なるほど、受け止めを本人のものとしてのお話なら、それで了解です。私もそう思います。


-------怪物? 村田-------

ヤマ(管理人)
 村田という男は他人には鬼畜でも、家族には最愛の人との視点に感心しました。

(ケイケイさん)
 頼り甲斐あったと思いますよ(笑)。

ヤマ(管理人)
 崔洋一のではなく、梁石日の血と骨の金俊平のような怪物イメージなんでしょうか。

(ケイケイさん)
 違いますね。金俊平は、家族を守る人ではないですから。自分が一番大事なのは、自他共に認めていたと思います。

ヤマ(管理人)
 確かにね。でも、清子には優しかったじゃありませんか。世話してたし。

(ケイケイさん)
 あれじゃ妻が悪いから、従順な妾に走って、本来の彼の人間性を引き出したみたいでしょ? 原作では病が進む清子を持て余し、金が殺しちゃうんですよ。私はそのほうが、説明しきれない金という男の屈託や業が表せていたと思い、映画の金の造形は、彼を曖昧に見せていたと思います。

ヤマ(管理人)
 そーか、原作の俊平は世話するどころか始末しちゃうんですね(苦笑)。あえて崔洋一のではなく、梁石日の『血と骨』のと言っておきながら、とんだ下手をうっちゃいましたね〜(詫)。原作未読のままなんで、失敗だったなー。

(ケイケイさん)
 いやいや、ヤマさんのせいじゃありません。みーんな作り手のせい(笑)。映画と原作は別物ですから、仕方ないかもですが、世話すると殺すじゃ、全然違うでしょう?

ヤマ(管理人)
 正反対ですやん(笑)。
 それで、ケイケイさんから見て、村田に匹敵する怪物イメージの男って、どんなキャラかな。うーん、『華麗なる一族』の万俵大介とか?(笑) ちゃいますよねぇ、もっといかがわしいし。

(ケイケイさん)
 うん、もっといかがわしい(笑)。誰ですかねぇ〜、『復讐するは我にあり』の榎津巌は?

ヤマ(管理人)
 緒形拳の殺人鬼か、なるほどね。でも、あの作品では、あんまり野獣っぽくなかった気が…。

(ケイケイさん)
 うん、レクター博士ほどではないけど、もっと賢そうでしたね。それに色っぽかった。

ヤマ(管理人)
 意外と出てきませんねぇ、村田(笑)。レクター博士は知的やもんなぁ。
 そうしてみると、この『冷たい熱帯魚』、実はなかなか大した作品だったのかな?(笑)

(ケイケイさん)
 何より大きい違いは、金俊平は妻と一緒には死ねない人ですよ。村田は愛子に他人と寝てこいとは言っても、救おうともするはずだし、一緒に死ねる人だと思います。

ヤマ(管理人)
 確信犯ですからねー、村田は。

(ケイケイさん)
 それに死体処理の大事な相棒でしょう?(笑) あれを平気で出来る女なんて、そうそういませんから。いろんな意味で、自分には得難い女だと思っていたんじゃないでしょうか?

ヤマ(管理人)
 うんうん、そんな感じはありましたね。

(ケイケイさん)
 ですよね(^。^)。

ヤマ(管理人)
 パートナーシップみたいなとこでもっと言うと、村田たちのような人殺しの死体処理の相棒でなくても、たいがいの組み合わせにおいて、最初リードしていたはずの男がいつのまにやら女のほうに引っ張られるというか、主導権を握られるというのが、古今東西における生物的真理のように思えるのですが、そんな感じが、あの村田と愛子の間にもあったような気がしますね(笑)。もはや愛子にとっては、村田も筒井も社本も、さしたる違いはなかったのかも(恐)。

(ケイケイさん)
 多分。とにかく自分の価値観の中の「一番強い男」で良かったと思います。だから本当に愛することは、知らない女性なんですね。

ヤマ(管理人)
 求めていたのが“力”なら、愛じゃないですね。
 そういう意味で、前述の妙子への眼差しをケイケイさんから引き出したのも、この村田の力のようですね。小山田六郎であれ寒川であれ、江戸川乱歩の陰獣の男たちと村田では、男としてのタマが違っていたということなんでしょうね。

(ケイケイさん)
 うん、それはあると思います。自分を開放してくれる男だと、妙子は思ったんじゃないですか?
 『陰獣』では、男たちは、ただの快楽の道具ですし。

ヤマ(管理人)
 ふーむ、なるほど。
 単なるタマでの開放は快楽道具に過ぎず(笑)、それ以上のものを与えられる予感がないと、タマが違うってことにはならないわけですね。深いなぁ。難題やなぁ。

(ケイケイさん)
 快楽のほうは、男性が思っているほど、女性には重大じゃないような気がしますが(笑)。やっぱりセックスは心でするもんですから!

ヤマ(管理人)
 タマじゃないよ、心だよ!ってことなんですね。


-------二人の女性の名は「愛の妙味」を意味していたのかも-------

ヤマ(管理人)
 映画日記にお書きのように村田は妻 愛子を人生の大事なパートナーとして、彼なりの論理で、がっちり守っているからこそ、ってことなんでしょう。妙子は、それを素早く見抜いていたということなんですよね?

(ケイケイさん)
 そうです、そうです。

ヤマ(管理人)
 こういうとこでの女性の嗅覚というのは侮れませんね(苦笑)。

(ケイケイさん)
 でも絆は強そうでも、結局は人を踏み台にした歪な愛なんですよね。だから夫よりもっと強い男が現れると、一瞬にして寝返っちゃう。

ヤマ(管理人)
 それは妙子の話ではなくて、愛子ですよね。

(ケイケイさん)
 すみません、先走って書いてしまいました(詫)。

ヤマ(管理人)
 妙子が素早く見抜き、愛子も運命共同体的に絆を固めて共犯の同志となっていた村田がいても、筒井との逢瀬に愛子が耽っていたのは、筒井が村田より強い男だったからなんですか?

(ケイケイさん)
 いや、あれは村田が愛子を差し向けたんじゃないですかね? ビジネスパートナーとして、つなぎとめるため、嘘つかせて。

ヤマ(管理人)
 はい。僕もそのように受け止めていたので、そう伺って納得です。でも、瓢箪から出た駒というか、けっこう相性が好くて、嘘でもなくなってた部分もあったかと(笑)。

(ケイケイさん)
 うんうん、楽しんでたと思いますね(笑)。でも体が優先するほど、柔な女じゃないと思います、愛子は。

ヤマ(管理人)
 そこが『陰獣』の小山田静との大きな違いとな。なるほどね。愉悦に浸っているだけじゃなく、修羅場もくぐってるんだからってことですね。捜査に及んできた警察の躱し方にも、したたかさが窺えましたしね。

(ケイケイさん)
 死体と血みどろでまみえても、裸になっても、泣き落ししても(笑)、何やってもとことん魅惑的だったですよね。今年の助演女優賞は、絶対黒沢あすか!

ヤマ(管理人)
 えらい惚れ込みようやなぁ(感心)。
 つまりは、妙子が社本に愛想を尽かしながらも思いを残しつつ、村田を相手に「もっと」とねだり媚びるように、愛子も村田との共犯における運命共同体を維持しつつ、筒井に惹かれていたとの解釈なんですね。

(ケイケイさん)
 いいえ、それは違いますねぇ。でも筒井とのセックスは、それなりに楽しんでいたと思います。愛子は好き者オーラがすごかったですし(笑)。だから村田の要求に応えられたと思います。それだけです。惹かれていたわけじゃないと思います。

ヤマ(管理人)
 じゃあ、さっきの「心だよ!」ってものばかりでもない部分も、あるにはあるってこと?(笑)。筒井には、心で惹かれる部分は「いいえ」で、セックスは楽しんでたというふうに御覧になったということは。

(ケイケイさん)
 そうですね。

ヤマ(管理人)
 事は、そう単純ではないってことですねー(笑)。
 そして、村田と愛子の絆が強いように見えて脆いのは、歪な愛だったからだというわけですね。さすれば、社本と妙子の間にあったものは、どのようにご覧になってますか?

(ケイケイさん)
 普通の夫婦の愛情ですかね? 文句言いつつ別れたい訳ではないという。

ヤマ(管理人)
 村田と愛子と同じように、歪な愛? それとも強いように見えて脆いのとはちょうど反対に、社本と妙子の間にあったものは、弱いように見えて強かったと映りましたか?

(ケイケイさん)
 社本と妙子も、強いようには見えませんでした。ただ別れにくいとは感じました。やはり普通の夫婦ですね(笑)。

ヤマ(管理人)
 なるほど。ものすご〜く、よくわかりますよ(笑)。ある意味、いつもおっしゃってますもんねー。


-------追求してもらいたかった愛頼りでないことの強かさ-------

ヤマ(管理人)
 ま、人生に立ち向かう力というものを問い直すという視点もあったろうとは思いますし、力に翻弄される人間のサガみたいなものもあったんでしょうが、僕には、愛子と妙子の対照というものが最も興味深く映ってきましたねぇ。

(ケイケイさん)
 私も思いました。感想にも書きましたが、似ている二人だと思います。

ヤマ(管理人)
 一見受け身のようですが、これが彼女たちには相手の愛を確かめる方法なのでしょう。二人の違いは、たまたま選んだ男の違いと書いておいでですもんね。
 だから、僕も拙日誌にてこの二人を“非日常を日常として生きている人物”にしてしまうのは、主題的観点からすると少々安易な造形の仕方だという気がしたなどと文句を付けてます(たは)。

(ケイケイさん)
 安易だけれど、だから見易くなったのかも? いやそれでも普通の人は見易くはないか(笑)。

ヤマ(管理人)
 うん。中途退場する女性客も少なからずいたという話も聞きましたしね(笑)。でも、ご指摘のように図式的にはすごく分かりやすくなってましたよね。

(ケイケイさん)
 画は刺激満載ですけど、中身は解りやすかったと思います。
 バラバラになった村田の横で、血だらけで「あんた、あんた」と囁く愛子は、まるで幼児だったのに比べて、夫の異変にたまらなくなって駆け寄った妙子は、とても慈悲深く感じました。そういう対比だったように思います。

ヤマ(管理人)
 すると、筒井に「ぶって」などとは言ってなかった愛子よりも、村田に「ぶって」と口走っていた妙子のほうが、実は危なくなかったわけですよね(笑)。うーむ、深い、深い。面白いですねー、男と女の交わりというのは。

(ケイケイさん)
 そうみたい(笑)。

ヤマ(管理人)
 このへんのところ、実は本作のメインテーマだったのではないかと思ってます。

(ケイケイさん)
 村田と社本というのもありますしね。

ヤマ(管理人)
 はいな。ですから僕は、拙日誌にも綴ったように村田を継承し、凌駕していく社本を描くことには躊躇いがあったなどと感じさせないパワフルな展開を貫いてほしかったんですよ。

(ケイケイさん)
 うんうん、私も終盤は尻すぼみだなぁと思いました。

ヤマ(管理人)
 衆目の一致するところだったか、やはり(笑)。いろいろ触発していただける、とても興味深い映画日記でしたよ。

(ケイケイさん)
 ありがとうございます。


-------園子温のテーマたる父性ないし男性性の問題について-------

ヤマ(管理人)
 あと、ケイケイさんの映画日記を読んで目を引いたのがこの作品のテーマの一つは、「父性」なんじゃないですかね?というとこでした。

(ケイケイさん)
 私は園監督、初めてだったんでね、そう感じました。他の作品の感想を読んで回っていたら、監督のメインテーマみたいですね。

ヤマ(管理人)
 そうなんですよ。でも、僕はちゃんと伝えるで決着つけたのかと思ってました(たは)。これって、『アンチクライスト』のトリアーなんぞには、いささかも垣間見えない部分ですよね(笑)。

(ケイケイさん)
 父親は蚊帳の外ですもんね(笑)。それは出自に複雑だったトリアーの感情が現れているかもです。

ヤマ(管理人)
 どういう出自を負ってるんですか、彼は?

(ケイケイさん)
 両親のうち、父親が義理だったらしいです。それも優生学的に優秀な子を産みたかった母が、自分の上司に「種つけ」してもらって、そのまま育ての父の子として、出産したのかな?

ヤマ(管理人)
 これはちょっと凄いなぁ。『ガープの世界』以上やな(笑)。

(ケイケイさん)
 血統にこだわったみたいですね。

ヤマ(管理人)
 これは、アカンわな〜。

(ケイケイさん)
 その点ガープのママは、「私の子」が欲しかったんですから、純粋ですよ〜。
 両親も変わった価値観の人で、放任主義?(単純そうではないですが)的な子育てだったらしく、のちに自分の出自の事を聞き、実父に会いにいくも、粘着質的な問答に閉口した実父が、会う事を拒否したらしいです。”フォン”と間に入るのも、本名ではなく、ドイツの貴族階級を真似たとか。これを知って、彼の作風の謎解きめいた気が、少ししました。

ヤマ(管理人)
 けどね、『ガープの世界』にしたって、今日観てきたキッズ・オールライトにしたって、出自が全てじゃないって気はしますよね。ま、育ちのほうの影響は相当大きいでしょうが。

(ケイケイさん)
 出自も出発点が違うんじゃないですか?
 「ガープ」や「キッズ」は、「私」や「私たち」の子供が欲しかったわけですよね。トリアーママの場合は、「優秀な子」が欲しかったんだと思います。

ヤマ(管理人)
 なるほど。この差は大きいですよねー。

(ケイケイさん)
 前者は自分の優劣に関係なく母の愛を享受できますけど、後者は自分で壁を作ってしまいませんかね? この違いは子供にとって大きいですよ。

ヤマ(管理人)
 ええ。それを僕は「育ちのほうの影響は相当大きいでしょうが」と書いたのでした。

(ケイケイさん)
 了解しました。私は親の育て方と解釈していました。
 ただしトリアーが真実を知ったのは、大人になってかららしいですが。

ヤマ(管理人)
 それですらってことになりましょうか(笑)。

(ケイケイさん)
 何かおかしいとは、ずっと感じてたんじゃないですかね? それがようやく目の前に現れて、あぁやっぱりと激しく落ち込む人と、却って納得する人といると思うんです。トリアーは前者だったんでしょうね。

ヤマ(管理人)
 なるほどね。
 さて、園子温に話を戻すと、僕は、そこんとこを取って付けて打ち出したように感じられたラストに不満だったのですが、監督は今の自分の気持ちを正直に映画に託したんだと思います。父性に対して、まだ自分の中で迷いがあるのでしょうね。とお書きなのを再読して、子供に対する父性であれ、妻に対する男性であれ、力や強さを発揮することの難儀について、先ごろ観たばかりのツリー・オブ・ライフで想起させられたばかりだったので、とても興味深く思いましたよ。“一見受身のようですが”というスタイルで臨める女性は、やっぱ得なのかもって思ったり(笑)。

(ケイケイさん)
 うんうん、我が家庭においても、断然夫のほうが損してますから(笑)。

ヤマ(管理人)
 そーでしょう、そうでしょう(笑)。

(ケイケイさん)
 でもそれも長い年月を経てから感じることで、若いときは男性のほうが楽な時もあったと思います。社本にしてもブラピにしても、中年期以降ですよね。男性と女性の老い方というか、年齢の重ね方にもよりませんか?

ヤマ(管理人)
 若かろうが、中年期以降だろうが、楽なのはやっぱ男だろうと思うんですよ。でも、確実に身の処し方で損してるという感じは、ありますよ。でもって、そのツケが老年期に一挙に出てくるというか、翁は媼に比べて、随分と哀れなもんだという気がしますね。

(ケイケイさん)
 これね、男性は「遊ばなかった人生」を送る人が多いからじゃないですか?
 男性というと、「飲む・打つ・買う」が王道で、それ以外趣味がない人が多いでしょう?

ヤマ(管理人)
 そうですね、それこそが遊びだと思われてる感じ、ありますね。最近の若い子は違うように思うけど。

(ケイケイさん)
 そうですね。でもそこがオジサン上司たちは、気に入らないみたいですよ(笑)。
 その「飲む・打つ・買う」は、ストレス発散にはなっても、副産物的に自分に残るものは少ないでしょ?

ヤマ(管理人)
 取り組み方次第でしょ、それは(笑)。

(ケイケイさん)
 では、具体的にどういう風に取り組むか、ご教授下さいませ(笑)。

ヤマ(管理人)
 そうですねぇ、まぁ、吉行淳之介とかイメージしてみてくださいな。ほら、飲む打つ買うで、芸にしてたでしょ(笑)。

(ケイケイさん)
 吉行淳之介! 憧れてましたよ、思春期の頃。私らしいでしょう?(笑)

ヤマ(管理人)
 うん。インテリで優柔不断の優男やもんね〜(笑)。ボンボンっぽいし。

(ケイケイさん)
 あの頃なら、インテリ崩れみたいなヤクザもんに、すぐ騙されたでしょうね。出会わなくて良かった(笑)。
 確かにエッセイ、乙女にも面白かったです。芸人ではなく物書きの身も救うんですね、「飲む打つ買う」(笑)。

ヤマ(管理人)
 っつうか、壊すのは家庭だけではないかと(笑)。

(ケイケイさん)
 確かに(笑)。でも己れの身の破滅というのもありますよ。
 この人、正妻はいたけど、公的なパートナーは最後まで宮城まり子でしょう? 一見すっごく不釣合いですやん? 根は真面目の、証明みたいな気がするんですが。

ヤマ(管理人)
 いま出会っても危なそうやないですか!(笑)

(ケイケイさん)
 ワタクシ、今も昔も男性の趣味は変わっておりませんので。だからヤマさんのファンなんじゃないですか〜、おほほー。

ヤマ(管理人)
 おぉ〜、嬉しいやないですかー(有頂天)。けど「飲む打つ買う」で芸を磨く甲斐性はなかったんだけどな(笑)。若かりし頃、打つは結構やってましたけどね。

(ケイケイさん)
 そない言ってはりましたね。意外でした。

ヤマ(管理人)
 んで、優男って風情はなさげに思ってますが、優柔不断はあるかも。ちょびインテリってとこは、あるんでしょうね。

(ケイケイさん)
 うんうん。インテリはちょっとじゃなくて、だいぶ(笑)。

ヤマ(管理人)
 けど、それより、吉行みたいに「桃膝三年尻八年」とか言うてみたいな〜(笑)。

(ケイケイさん)
 これは年季が要りますよ。やっぱり若いときに女遊びしてないと難しいでしょ?
 結婚が早かったヤマさんは、ちと厳しいかな?

ヤマ(管理人)
 結婚早くても遊べる人は遊ぶんじゃないの?(笑)

(ケイケイさん)
 ヤマさんは、そんな不誠実な事はできないでしょう?(^ω^)
 でもって、下手するとそれもなく、仕事しか知らない人も多い。

ヤマ(管理人)
 ええ、ええ。

(ケイケイさん)
 映画や文学、芸術に親しんだり、スポーツやアウトドアなど、人生において継続してライフワーク的なものを持っている人は、男性より女性が多い気がするんですが。

ヤマ(管理人)
 女性でも子育てが終了すると、退職男性と同様の虚ろに見舞われる人が少なからず居るのでは?

(ケイケイさん)
 いますね。でも割合は男性よりぐっと減るんじゃないかなぁ。何せ今まで楽してませんから(笑)。私にみたいに、子供が大きくなったらと、虎視眈々の人が多いと思いますよ。
 おまけに女性は趣味がなくても、女縁というか、コミュニケーション能力が高いので、地域で居場所も作っちゃうしね。

ヤマ(管理人)
 それはそうですねー。

(ケイケイさん)
 楽した分、後でつけが回ってくるんですかね? ヤマさんは大丈夫そうですけどね(笑)。

ヤマ(管理人)
 道楽者ですからねー(笑)。

(ケイケイさん)
 ヤマさんの道楽は、人生を豊かにするものですから、すごく良いと思いますよ。

ヤマ(管理人)
 ありがとー。道楽人生もそれなりに年季を積んできたんで、そう言ってもらえると嬉しいです。

(ケイケイさん)
 では、どうぞ奥様にも労いのお言葉を送って下さい(笑)。

ヤマ(管理人)
 わかりました。
 それはそうと、男性性(あるいは父性)についてつらつら考えてみるに、やっぱりキーワードは、“囚われ”だと思います。

(ケイケイさん)
 これは仕事に囚われたという意味ですか? それとも自分から囚われに行った、ということですか? それとも「〜でなければいけない」という、男性性に対する呪縛ですか?

ヤマ(管理人)
 仕事や男性性(あるいは父性)といった役割に対する囚われですね。阪急電車 片道15分の奇跡』の遣り取りでミノさんにも言ったことですが、女性がコミュニケーションの生き物なら、男ってのは役割遂行の生き物ですからねー。

(ケイケイさん)
 なるほど。これはすごく納得。役割がないと、居場所もないんですね。

ヤマ(管理人)
 そうなんですよ、多くの男はね。

(ケイケイさん)
 だから子供が大きくなって、もうあくせく稼がなくて良い頃と定年が重なって、濡れ落ち葉になるのかぁ〜。至近に、というか、家に見本があるのでよく理解できます(笑)。

ヤマ(管理人)
 そういう方は、役に就いているときは活き活きしてるでしょ(笑)。お家のなかでも、よいポストに付けてあげると業績伸ばすはずよん。

(ケイケイさん)
 うんうん、某スポーツ団体の理事をしている時は、一番活き活きしてましたね。

ヤマ(管理人)
 ほらねー。

(ケイケイさん)
 もう二度とは来ない日々ですが(笑)、こういう思い出とか記憶が、夫婦を持続させる力にはなりますよね。仕事も時々休んで、家庭もほっぱらかしでやってましたから、私には暗黒の思い出ですが(-_-;)。でもねぇ、『インシディアス』の感想にも書いたんですが、私と子供三人を背負っていた時、表面はお気楽そうでも、責任感でいっぱいだったんだろうなぁと、何気ないシーンで思い起こしました。

ヤマ(管理人)
 それは、好い作品を御覧になりましたね。
 未見作なんで日記のほうの拝読は見送ってますが、読める日が来るといいな〜。

(ケイケイさん)
 ほんとに何気ないシーンでね、そんなこと感じたのは、多分私くらいだろうと思います。年齢がいって得をしているなと感じるのは、そういう何気ないシーンに心が感じる時ですね。


-------感受性と感性-------

ヤマ(管理人)
 きちんと刺激を与えていれば、年とともに感性は豊かになるというのが僕の持論。感受性は落ちるかもしれないけれども、感性は耕されますもん。

(ケイケイさん)
 なるほど。感受性と感性は混同してしまいがちですが、別々ですもんね。私も感性は若いときより、今のほうが鋭いかも? 生きてきた経験も加味されていますし。

ヤマ(管理人)
 でしょ(笑)。その感性を耕すものこそが、カルチャーですからねー。

(ケイケイさん)
 私なんか教養が薄いので、もっと絵画とか音楽とか親しみたいなと思っています。そのほうがより映画が楽しめますやん?

ヤマ(管理人)
 それは間違いないですよね〜。音楽、ロックとか詳しいやないですか。

(ケイケイさん)
 あれは若い時の蓄積やもん。今の歌はほとんど知りませんね。

ヤマ(管理人)
 あと映画でもうビョーキかっちゅうくらい、めちゃめちゃ耕してますし(笑)。

(ケイケイさん)
 うんうん、これは一生もんの趣味ですから(#^.^#)。
 喜怒哀楽って、年齢が行くと実人生では案外刺激されませんよね。映画だと、それ全部感じるうえに知識も得るんですから、すごいと思います。

ヤマ(管理人)
 カルチャーっていう言葉自体がラテン語の「耕す」という意味の言葉から来てるんですよ。

(ケイケイさん)
 そうなんですか。一つ賢くなりました。ありがとうございます(礼)。

by ヤマ(編集採録)



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