「安全レベルの向上」と「安全管理の効率化」を両立させるために

安全確保の原理・原則を考えるホームページ


メニュー Top page はじめに ホームページの方針 What’s new? 確定的安全と確率的安全 ヒューマンファクター
安全確保の考え方 しくみ事例集 確定的FTA リスクアセスメント
連絡先 プロフィール

社会心理学より見たヒューマンファクター

 私は製造業の安全スタッフとしてヒューマンエラー対策に取り組みましたが、さまざまな災害に直面するうちに、労働の現場に役立つとして説明されているヒューマンエラーの分類や防止対策に疑問を持つようになりました。

(1) ヒューマンファクターは管理できるのか
  管理不在で各要因の起きやすい状態が常時存在する職場は別として、それなりに努力し管理された職場において起こった災害を見てみると、悪要因が起こる可能性は通常ほとんどないのに、たまたまの偶然が重なって災害に至ったケースが数多くあります。それなのに文献や講習会などではm-SHELモデルやJ.リーズンのスイスチーズモデルを持ち出して「どのチーズ(安全防護策)でもよいから穴(欠陥)をなくす努力をすればよい」と説明するだけです。現場に必要なのは「チーズは沢山あるが、このチーズだと具体的にこうすれば確実に穴をゼロにすることができますよ」という説明・提案です。
  重点指向できる具体的な対策を提案できないような論理やモデルは学問の域を出ていません。論理やモデルを重点指向できる具体的な方策として現場に提案するのが安全スタッフの仕事であり、学者の抽象的なモデルを振り回したり、ハインリッヒの法則を拡大解釈して、あれも大事これも大事と安全の仕事を増やして現場を疲弊させるのは、安全スタッフとしての本当の仕事ではないと考えます。(という私もご多分にもれず、学者の抽象的なモデルをそのまま受け入れたり、ハインリッヒの法則を拡大解釈して現場の仕事を増やしていた一人ですが・・・

  規定した通りに作業が行われずに発生した災害の原因はヒューマンエラー、また、ヒューマンエラーを引き起こすすべての人間要因はヒューマンファクターと言われますが、このヒューマンファクターは多種多様です。
  不安全行為を「スリップ」「ラプス」「ミステイク」「規則違反」などに分類してそれぞれに対する対策をとったとしても、ヒューマンファクターは個人のその日その日の精神的・肉体的状況および日々の現場の変化に左右されるものであり、人が誤りを犯すこと(ヒューマンエラー)をゼロにすることは不可能です。「教育して管理を強化すればヒューマンエラーの発生確率を一定の状態に保つことができる」といったものではありません。また、仮にヒューマンエラーをゼロにできたとしても、安全装置が故障して設備が急に暴走した場合の災害は防ぎようがありません。

  さまざまな災害に直面して安全はどうやって確保できるのだろうと思案した結果、「設備的に対応しなくても作業管理などヒューマンエラー対策で災害ゼロが維持できる」というのは非論理的な楽観論であり、“機械は故障するし、人は誤りを犯す”ということを前提とした安全対策をとらずに、指差呼称をはじめ、さまざまなヒューマンエラー対策に精を出しているのは的外れ、間違っている、という結論に達しました。

(2) ヒューマンエラーを引き起こす最大の要因はなにか
  もう一つ疑問を持つようになったのは、ヒューマンエラーを引き起こす各要因の影響力に関してです。
  災害を起こした人は、普段は標準・手順を守っているのに、なにかその時だけ本人の意思とは別の力に支配されたように、止めるべき機械を止めずに手を出して災害に遭っている、ということです。このような災害は「ルール遵守違反」として起こした本人の不注意に帰せられますが、本当にそれで正しいのでしょうか。
  平均的に見て管理された職場においては、守りにくいかもしれないが「守れない作業標準」を定めていることはありません。守らなければルール違反で罰せられるし、被災すれば自分や仲間がつらい目に会います。このように自分が損をすることが分かっていながら、なぜ守ろうとしないのでしょうか。
「分かっていながらルールを破らせるほどの強い影響力を持つ要因が存在する」、これが長年安全にたずさわってきて私が感じたことです。

  要因は何だろうと模索していた時に、ある社会心理学の実験を知り、これこそ「ルールを破らせるほどの強い影響力を持つ要因」であり、組織に所属する総ての人に強烈な影響力を及ぼすもの、そして安全の根幹をなすものである、と確信しました。その要因とは、「トップ(権威者)の真の意志とそのことを示す行動」です。これが安全だけでなく組織としてさまざまな問題を発生させている最大の原因である、というのが私の結論です。

  安全成績の悪い組織のリーダー(社長を含む)の話を聞くとこのことがよく分かります。彼らは「『安全第一』と口すっぱく話しているので、いちいち行動で示さなくても部下は理解してやってくれる」と言います。でもジーッと彼らの行動を観察すると、口では確かに「安全第一」と言っているのですが、その行動は暗黙裡に「生産第一」を指示しているのです。

  上記の(1)(2)を踏まえて自分なりに考察したのがトップページに記載した「安全確保の原理・原則」です。また、上記内容を下記のタイトルで (社)日本損害保険協会の予防時報203号に投稿しました。ご一読いただければと思います。

v生産現場において人はなぜルールを無視するのか
社会心理学より見たヒューマンファクター